- Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309414966
感想・レビュー・書評
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三代目澤村田之助を主人公にした時代小説。
中公文庫、集英社文庫と2度に渡り文庫化されているが(単行本は中央公論社刊)、暫く品切れ状態だったようで、このたび、河出文庫から復刊された。
手元にあるのは確か中公文庫版だったと思うのだが、初めて読んだ時と同様、読んでいると田之助を始めとする登場人物の『業』にぞくぞくする。視点が付き人というのもいい。
カバーの絵は随分とモダンになったが、これはこれで好きだ。 -
絢爛と酸鼻。
この両極端をここまで描出できる作家。見事としか言いようがない。
豪華な錦糸を縦横に編み込んだような文章からは、腐臭すら漂う。
実在した歌舞伎役者澤村田之助の存在感の、なんと艶やかで無残なこと。
傲慢で鼻持ちならない言動ながら、まさに「役者」の業を煮出して全身に染め抜いた、天賦の才。
田之助はその美貌すら、狂って感じられる。
三すじの、淡々としながら、けれどほのかに覗く残酷がなんともリアル。
全編に漂う淫猥さが、あまりに惨い田之助の悲劇すら彩ってしまう。
この激しい生き様そのものが、豪華な芝居だったのではないか……
夜明けに見た悪い夢のよう。美しい。 -
皆川博子先生の性癖どストライクなんだろうな、三代目澤村田之助…。
実在の人物の一代記、というていだからか全速前進な皆川節でないように感じた。
いや、時代小説で初期長編小説だからかもだけども。 -
恍惚
見せ物と芸術は何が違う? -
実在の名女形、三代目澤村田之助。脱疽で四肢を失いながらも舞台に立ち続けた彼の生きざまが、幼少期から見つめ、のちには弟子として傍らから離れなかった三すじの視点で語られます。文字の間に芝居の艶やかな仕草がひらりひらりと見えてくる言葉の選びの見事なこと。一緒に舞台を楽しみながら三すじとなって田之助に寄り添い、後半は一緒に痛みを感じながら壮絶な人生を見届けました。一見必要のなさそうなプロローグとエピローグが読後とても響いてきて、皆川さんらしくてとても好きです。まさしく花と闇、皆川さんだからこその一冊だと思います。
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以前、恋紅を読んだ時に出てきた澤村田之助。「次はあれをやろうこれをやろう」と舞台について話す様子を読みながら、芝居馬鹿はいつの時代も変わらない馬鹿なのだなと思ったりした。全盛期の田之助は傲慢で、子供で、さっぱり惹かれないけれど、心まで腐らせてしまった、最期の田之助は何とも魅力的だと感じた。
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四肢を失いながらも舞台に立ち続けたという、三代目澤村田之助。
幕末から明治にかけて生きたその俳優の存在を、不勉強ながら初めて知った。
実在の人物でありながら、その生き様があまりにドラマティック過ぎて、ともすれば描写が陳腐になりがちな題材だと思うが、皆川博子氏の筆さばきにそのような心配は無用で、本当に田之助や三すじ、権之助たちが自分の身近にいるかのように、この上なくリアルに感じられる。
幼少時より妖しさを以て放たれる艶やかな美貌、傑出した芸を持ちながらもどこか一部が欠落し傲岸不遜な人格、病を患い周囲の空気が徐々に変貌していくにつれて崩れ始める心身の均衡…。
それを傍で冷徹とも言える眼差しで見つめ、支え続けた三すじの存在。
さらには、他の高名な大立者たちや大部屋俳優らが息づく、芝居小屋の糜爛した熱気。
すべてが生き生きと、確かな実在感を持って迫りくる。
それと同時に、すべてが幻、虚無なのではないか、という相反する感覚を強迫観念のように捻じ込んでくるところもまた皆川節であり、人という生き物の業を上手く描き切っていると思う。
時代が下った場面をプロローグとエピローグに配し、本筋を挟み込む入れ子構造は言うなればありがちな構成ではあるが、それがここまで効果を発揮することは少ないのではないだろうか。
終章に入り、結びに向けて急速に高まる緊張感は尋常ではない。
これぞ小説家の技術の粋というものか。 -
幕末から明治にかけて実在した歌舞伎役者澤村田之助の生涯を、付き人である市川三すじなる人物の視点から描く時代小説。
美貌をうたわれ、芸もあり、矜持も高く、立女形として一世を風靡するも、美しく咲く花が腐り枯れ落ちていくように、脱疽によって腐敗していく身体と、それでも舞台の上に立ち続けようとする役者たる自負との対比が妖しく美しいんだけど、如何せん時代小説読み慣れてないので説明不足すぎて江戸感に浸りきれなかった読者の力量を問われた気分です……() -
実在の人物、歌舞伎役者の澤村田之助を描いた作品。美貌の天才女形が壊疽により四肢を切断し尚、舞台に立ち続け、狂死する、という実話がベース。
四肢を切断しても田之助の歌舞伎にかける情熱がいささかも衰えず、あらん限りの知恵と工夫を重ねて舞台に立ち続ける様子に驚愕した。これだけの才能がありながら、さぞ無念だったことだろう…。
序章を読んで、どんな恐ろしい事になるのかと読み終えるのが怖かったが、さすが皆川先生、きれいに終わらせてくれた。ホッとした~。