クリュセの魚 (河出文庫 あ 20-5)

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309414737

感想・レビュー・書評

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  • 内容もさることながら、巻末の飛先生の解説が素晴らしすぎてうなりまくった。好きなテーマの作品なので楽しく読めたが、東先生の「弱いつながり」を読んでから読むと、更に理解が深まるしにやっとさせられる気がする。
    必然という言葉は私はちょっと怖いので、苦しく感じる箇所もあったけど、人間の魂や意識について、民族離散や国家について、幅広いテーマで語られる火星SFで面白かった。

  • ---------------------------------------------------------------
    地球歴の2445年には火星の開発がかなり進んでいる。
    テラフォーミングがなされ、人が住むことができるようになり、都市ができた。
    さらに、火星の技術力は地球を超えるまでになっている。

    しかし、地球と火星間の移動には片道4日~1カ月を要し、それが交易の壁となっていた。
    そのため、地球の国家の支配を受けることもなく、火星は地球の国際法上は国家として認められていないものの、独立した存在となっていた。

    ところが、異星文明のワームホールゲートが発見された。
    地球から火星に瞬時に移動が可能となるこのゲートを、地球と火星それぞれに設置する計画が持ち上がった。
    火星の人々は危惧した。
    地球人が火星に押し寄せ、火星の資源が奪われるのではないか?
    そのため、抗議活動や独立運動が起こるようになった。

    そんな時代に、11歳の葦船彰人は火星の開星記念堂で16歳の大島麻理沙と出会い、恋に落ちる。
    それから何度か逢瀬を重ねていくが、麻理沙は謎めいた部分が多く、どこか神聖な存在だった。

    16歳になった彰人は火星軌道エレベーターでボランティアを行っており、そこに麻理沙を誘う。
    中継基地に接近する、火星の衛星であるフォボスを見るためだ。
    このときも麻理沙は不可解な言動が多く、個人認証には偽名が表示されていた。
    彰人はそれらから目をそらして、麻理沙と手をつなぎ、基地内の自分の居住区へと向かう。
    「彰人くんが選ぶなら、それが運命だったんだよ―わたしたちの」
    そうつぶやく麻理沙を抱き、朝を迎える。
    彰人に背を向ける麻理沙は、窓から火星の赤い大地を見下ろす。
    横顔は太陽にうっすらと照らされ、彰人にはその肩甲骨が羽をもぎとられた痕のように映る。
    そして、麻理沙は「きっと戦争になるね」と呟く。
    ---------------------------------------------------------------


    この軌道エレベーターのシーンがたまらなくいい。
    麻理沙のミステリアスな部分と、美しさと、「これから世界はどうなってしまうんだ!」っていうSFの壮大さが全部ぎゅっと押し込められていて、どきどきした。
    2人の出会いのクリュセの魚のシーンも情緒があって、印象的なシーンをつくるのがうまい。

    それだけに、ラストはもう少し感情的に仕上げてもよかったように思う。
    盛り上がりに欠けるとまでは言わないが、どこか静かだった。
    終盤にかけてSF用語が頻出するので、文章を読む流れが変わったことも影響しているかもしれない。

    最終的な彰人の選択には脱帽だった。
    てっきり、あの提案を受け入れるものだと思っていた。
    これこそが、本来人間がもつべき力だと感じた。

  • テラフォーム化の進んだ火星で出会う
    今はない日本の、その末裔の2人は恋に落ち
    良くも悪くも動きの緩慢になった世界の歴史を
    動かしていく


    最終的に印象に残ったのはやはり
    ただひとつの小さな家
    その家がなんだかとても懐かしい

  • 読みやすく世界観に浸れるところもあり、緻密な設定から説明っぽい流れの文章にちょっと疲れてしまうところもあって気持ち良く読み進められなかったけど「このわたし」まで読んで、あぁ、これが読みたかったのだ!と思った。あと彰人が麻理砂を「麻理砂さん」と呼ぶのがなんか好き。

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著者プロフィール

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』など。

「2023年 『ゲンロン15』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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