- Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309414164
感想・レビュー・書評
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死刑存置派と死刑廃止派の二人が手加減なしで語り合う。
お互いの主張を聞き、同意するところは同意し、反論するところは反論する。当たり前のことだけど、これができない人が横行している世の中で、この二人のやりとりは貴重だと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
論点が明確だからか、対談本にしては筋ははっきりしている。ただし、というかだからこそ二人の主張は交わらない。
藤井は、自ら行った多くの被害者遺族とのインタビューの後に、死刑存置に自らの意見を傾けることになったという。それは非常にアクチュアルな判断なのだと思う。しかしながら、死刑の存続の主張を、被害者遺族の応報によって立つ限り、被害者遺族がいなかった場合に死刑は必要なのかという根本的な問いに答えることができない。この点については森からも強く指摘されながらも藤井は答えを返すことができていないでいる(と少なくとも私には見える)。
死刑が統計的に犯罪抑止に貢献していない以上(これについては両者とも同意している)、死刑存続に関する根拠が薄れていっているように思える。
ノルウェイでの銃乱射事件で世論がそれでも死刑をよしとせず反対を固辞するという事例は、これもまた一面しか切り取っていないのかもしれないが、衝撃的である。これとは違う意見をノルウェイでも持つものはいると思うが、公人たる法相の意見として語られ、かつメディアがそれをよしとして報道することは何がしかの日本とは異なるコンセンサスが形成されていると言わざるをえない。
また、話は裁判員制度におよび、死刑を含めた量刑判断を負わせることに対する批判と、二審、三審では裁判員裁判が導入されないという矛盾にも言及される。そして、死刑制度の大きな問題でもある冤罪にも当然のことながら触れられる。
この本においては、藤井よりも森の方が明らかに論理的である。自分も多くの点で森の方に賛意する。それでは割り切れないところこそが死刑存続に関する議論なのだろう。