死刑のある国ニッポン (河出文庫 も 8-1)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309414164

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  • 死刑存置派と死刑廃止派の二人が手加減なしで語り合う。
    お互いの主張を聞き、同意するところは同意し、反論するところは反論する。当たり前のことだけど、これができない人が横行している世の中で、この二人のやりとりは貴重だと思う。

  • 論点が明確だからか、対談本にしては筋ははっきりしている。ただし、というかだからこそ二人の主張は交わらない。

    藤井は、自ら行った多くの被害者遺族とのインタビューの後に、死刑存置に自らの意見を傾けることになったという。それは非常にアクチュアルな判断なのだと思う。しかしながら、死刑の存続の主張を、被害者遺族の応報によって立つ限り、被害者遺族がいなかった場合に死刑は必要なのかという根本的な問いに答えることができない。この点については森からも強く指摘されながらも藤井は答えを返すことができていないでいる(と少なくとも私には見える)。
    死刑が統計的に犯罪抑止に貢献していない以上(これについては両者とも同意している)、死刑存続に関する根拠が薄れていっているように思える。

    ノルウェイでの銃乱射事件で世論がそれでも死刑をよしとせず反対を固辞するという事例は、これもまた一面しか切り取っていないのかもしれないが、衝撃的である。これとは違う意見をノルウェイでも持つものはいると思うが、公人たる法相の意見として語られ、かつメディアがそれをよしとして報道することは何がしかの日本とは異なるコンセンサスが形成されていると言わざるをえない。

    また、話は裁判員制度におよび、死刑を含めた量刑判断を負わせることに対する批判と、二審、三審では裁判員裁判が導入されないという矛盾にも言及される。そして、死刑制度の大きな問題でもある冤罪にも当然のことながら触れられる。

    この本においては、藤井よりも森の方が明らかに論理的である。自分も多くの点で森の方に賛意する。それでは割り切れないところこそが死刑存続に関する議論なのだろう。

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著者プロフィール

森 達也(もり・たつや)
1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。テレビ番組制作会社を経て独立。98年、オウム真理教を描いたドキュメンタリー映画『A』を公開。2001年、続編『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。佐村河内守のゴーストライター問題を追った16年の映画『FAKE』、東京新聞の記者・望月衣塑子を密着取材した19年の映画『i-新聞記者ドキュメント-』が話題に。10年に刊行した『A3』で講談社ノンフィクション賞。著書に、『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『ご臨終メディア』(集英社)、『死刑』(朝日出版社)、『東京スタンピード』(毎日新聞社)、『マジョガリガリ』(エフエム東京)、『神さまってなに?』(河出書房新社)、『虐殺のスイッチ』(出版芸術社)、『フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ』(ミツイパブリッシング)、『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面』(講談社現代新書)、『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)、『増補版 悪役レスラーは笑う』(岩波現代文庫)など多数。

「2023年 『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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