池澤夏樹の世界文学リミックス (河出文庫 い 35-1)

著者 :
  • 河出書房新社
3.73
  • (3)
  • (11)
  • (7)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 160
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (369ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309414096

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み

  • 植民地は、社会の階層や人種ゆえの人間関係が錯綜していて、とてもおもしろい文学の舞台になる。
     で、疑問。日本文学はなぜ台湾や満州や内南洋を舞台にした傑作を生めなかったのか?
    サガン『悲しみよ こんにちは』/ デュラス『太平洋の防波堤』『愛人 ラマン』より

    人種という概念そのものが差別感の産物で、科学的にはあまり根拠がないのだが。
    ウルフ『灯台へ』/ リース『サルガッソーの広い海』より

     混血であるのが典型というのがメキシコなんだ。国民の六割までは混血。これがどういう意味か、アメリカと比べるといい。アメリカは多民族国家だけれど、先住民(つまりインディアン)と白人の混血はほとんどいない。
    (中略)
    アメリカでは殺した。メキシコでは犯した。
    チャトウィン『パタゴニア』/ フエンテス『老いぼれグリンゴ』より

    ぼくは昔アテネで観光ガイドをしていたから、スニオンには何度も行った。
    カプシチンスキ『黒檀』/ 石牟礼道子『苦海浄土』より


    池澤夏樹さんが個人編集された世界文学全集に関するコラム149回分が収録されています。いわゆるダイジェスト版のようなもの。全集の最後の3巻は連載の都合で載せられなかったそうです。
    世界と国内の全集の編集を一人でやるという、あまり類を見ない偉業。そもそも作家で、書評も書くし、筆も早く作品数も多い印象。海外での講演や選考委員など、語学も堪能で、アテネでガイドしてたは普通に笑ってしまいました。密かに彼をキュレーターとして見ている人は少なくないかもしれません。

    全集の作品を最初に取り上げ、作家繋ぎ、類似作品や作品背景の深掘りなど、臨機応変なリレーを見せられているようで楽しく読めました。大半は読んでいない作品なのですが、それでも知った気になれる、読んでみようかな、という気持ちにさせるのはやはり文章がうまいのでしょう。何より作者自身、学究者と呼んでもいいくらいの読書家。
    掲載媒体の都合上のくだけた口調は、? となりましたが、最近面白い本を読んだんだけど、と勧めるような、という狙いはかなっているようにも思えます。

    個人的にはピンチョン作品がメドレーのように各作品のエッセイになっていたのが嬉しかったです。あとは『名誉の戦場』にも興味を持ちました。どマイナーな作家の名前も出てくるぐらいたくさんの作家、作品がずらりと並んでおり、国籍、時代背景、様々な視座と怨念めいた文学の洞を覗いているかのようでした。
    コラムとは言っても切れ味鋭い評もあり満足です。古典を読みたいけど何からと迷ったらこんなガイドがあるといいかもしれません。


     古びないのが古典だから。
    ニザン『アデン、アラビア』/ルオー『名誉の戦場』
    より


  • 祝文庫化!って2015年だけど。。。
    「完全版」を買おうか迷っていたのですが、どちらの文庫化?


    池澤夏樹の世界文学リミックス :池澤夏樹|河出書房新社
    http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309414096/

  • ガッツリ熱量込めて絶賛推薦!っていうタイプの書評集じゃなく、サラッと内容に触れて、ひとことふたことで感想やら魅力やらを伝える、みたいな体裁。それもあって、これを読んだからといって、是非読みたくなるような作品はそんなにない。それはそうと、どれも読んでみたいような心境にさせられるのは、作家の筆力による部分が大きいのかも。

  • 本の本

  • 2015-10-3

  • 池澤夏樹個人編集の「世界文学全集」に添った解説・補足エッセイのような感じでしょうか。口調がくだけすぎているのがちょっと気になったんですが、あとがき読んだら夕刊フジで連載されたものだったそうで「芸能界のゴシップや半裸のお姉さんたちの写真の間に載るのだから、硬い文体では浮いてしまう」というので苦心された模様(笑)なるほど、そういう事情があったんですね。

    内容は各全集に添っているのでおおよその国ごと、内容ごとにまとまっていて読み易かったです。読んだことのある作品については「ふむふむ、なるほどそういう視点で読めば面白かったのか」と感心したり、未読の作品についても「ほうほう、これは是非読んでみたい」と興味を持ったり、まあ全集を揃えるほどリッチではないので個別にあたることにはなりますが、読書ガイドとしてのお役立ち度は高かったです。

  • 10/29 読了。

  • 単行本で既読。

全10件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

池澤夏樹の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×