短歌の友人 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309410654

感想・レビュー・書評

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  • 短歌教室通いのための予習。
    いつものエッセイとはだいぶ趣が違っていて、じっくり読まないといけない内容。
    今まで読んだことのない短歌、味わい方に触れることができ初心者にとってはありがたい。

    逃げてゆく君の背中に雪つぶて 冷たいかけら わたしだからね 田中槐
    きっときみがぼくのまぶたであったのだ 海岸線に降りだす小雨 正岡豊
    こなごなの夏の終わりのはじまりの、ひかり、ひかり、ひかり、ひかり、ひかり 早坂類
    怒りつつ洗うお茶わんことごとく割れてさびしい ごめんさびしい 東直子
    洗濯機のレンジのビデオデッキのデジタルの時間少しずつずれてる もりまりこ

  • 穂村さんの短歌の評論をまとめたもの。つまりは短歌の評論集なのであるが、現代における「創作」の表現評論として読んでもとても面白かった。
    「一人称の文芸」である短歌の特異さ、およびその<詠み>と<読み>について、穂村さんはじっくりと、しかし鋭く評論を重ねていく。

    特に、現代の若い世代=現時点で30代以下? くらいの歌人の歌への評論は、その身体感覚……というか、世界認識感覚、を見事に言い表していると感じた。

    私は現在24歳である。つまりはこの本で言われる現代の若い世代と同年代だ。しかし、この評論集に引用された「棒立ちの感情」の歌たちを読むと、そのあまりの絶望感に、私もぞっとしてしまった。

    あの青い電車にもしもぶつかればはね飛ばされたりするんだろうな   永井祐
    たすけて枝毛姉さんたすけて西川毛布のタグたすけて夜中になで回す顔   飯田有子
    牛乳のパックの口を開けたもう死んでもいいというくらい完璧に   中澤系

    どうしてこんなにさびしいのだろう。それに増して、どうしてこれらの歌をこんなにも「怖い」と思うのだろう。

    これらの歌に共通する感覚を、穂村さんは
    「「うた」としての過剰な棒立ち感」
    「自己意識そのもののフラット化」
    「「今」を生き延びるための武装解除」
    などと言った言葉で読み解いていく。ああ、そうなのかぁ、というよりは、ああ、そうなんですそうなんです、と思ったあたり、私も「彼ら」と同じなのかなぁ、とも思う。

    そしてこの評論集を読んでもう一つ強く感じたことは、短歌という文芸における「戦後」というものの大きさ、である。
    短歌を読む際、私はいわゆる戦争(あるいは「戦後」)を読んだ「戦争短歌」について全く感想が書けず、むしろ書きたくないとさえ思ってしまうことにひどい戸惑いを覚えていた。それはさらに短歌や短歌の評論集を読むうちに、短歌が持つ文芸としての特異性(「一人称の文芸」というのはとてもしっくりきた)に関係があるからなのか、な? という考えがけっこう納得できたので、ちょっと落ち着いたのだが、それだけではないみたいだな、と穂村さんの評を読んで思った。
    それは<背景>なのかな、と私は思っていたのだ。つまり、短歌とそれを読む歌人にとって、戦争(あるいは戦後)というのは、その人のバックボーンになっているものなのかな、と。
    しかしどうも、違ったようだ、と私は思ったのである。どうやら戦争というのは、そして戦後というのは、<時間>のことらしいのである。

    その時代を生きた、のではなく、その<時間>を生きた、ということが、私にはわからない。それが個人にとって、その時のその人そのものであったということが、わからない。その重さが、真実味が、わからない。
    だから私はこれからも、戦争および戦後短歌に、戸惑い続けるんだろうなぁ、と思う。

  • 穂村弘さんの短歌の解説本。穂村さんなりの解釈としていますが、歌人として大切な定型やそれを崩す型が見事にまとめられています。文語から口語に至る過程、寺山修司、岡井隆、塚本邦雄の歌人三羽烏から、現代の前衛的な短歌の未来について考えさせられる一冊です。これから俳句や短歌を始めたいなら、難しいけれど、面白いと思います。

  • 短歌の読み方(理解の仕方)が丁寧に解説されている。歌人と歌人以外の歌の違いについての話が、心に残っている。。

  • 著者らしくなく(失礼)短歌の分析、解析に真剣に取り組まれた超力作。短歌の流れを近代・戦後・現代に見立て、近代から"私"の発見から、"私"の肥大まで、他のサブカルチャーなどでも起こっていた現象が短歌の世界でも確実に起きていたということが理解できました。
    穂村さんがあちこちの媒体で書かれた文章をまとめたものなので、当然ながら全体としての一体感にはかけますが、各章とても読みごたえがあります。

  • 歌人、穂村弘さんの短歌論。

    隙間時間に、穂村弘さんのご本を何か一冊買い求めようと本屋に立ち寄り、背表紙を見比べて最初の数ページを読んで、このご本に決めた。

    与謝野晶子の時代から現代の短歌まで、彼自身の心に強く残っているものを挙げながら、感想や比較など様々な切り口で語られている。

    後半になるにつれてやや込み入った内容と文章になってはいるが、全体的にはエッセイのように軽妙な文なので、短歌に興味がある人にもない人にも、読みやすい一冊になっていると感じた。

    歌人が他者の歌をどう評価しているのか、歌を詠む際のコツが書かれている部分が興味深かった。

  • 堅い歌論集というよりエッセイに近い軽さと短い文章を集めた本。その性質から引用されている短歌や趣旨がダブるものがおおい。選んだ短歌の説明や技術を分かりやすく説明してくれる。また文芸評論の入門書だと思う。各論考が短く参照する作品そのもの(短歌だから可能なこと)が全文引用されていて、作品をつかって自分の言いたいことを表現されていくのはスリリングだ。作品だけではなくて作品が生み出される時代性と変化を語る。ハッと思うところがいくつもあった。あまり馴染みがない現代短歌の名作?が収められていてまとめて読めるのはいい。

  • 短歌、なんとなく読んでなんとなく良いなと思うものもあるけど、ここまで深く読むことができるのか。
    穂村弘さんはエッセイが抜群に面白いちょっと変な人という印象なのに、めちゃくちゃ真剣に、とんでもなく深く短歌について思考を巡らせていて、歌人とはすごいもんだなと思った。

  • 911-H
    詩歌・古典コーナー

  • 短歌をミテ、「あーなんとなく分かるー」って気持ちが、穂村さんによって「そう!それを感じてたの!……たぶん。いや絶対そう!……だと思う。いやそれ以外に考えられない(個人による)」ってなるのすごい。

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著者プロフィール

穂村 弘(ほむら・ひろし):1962年北海道生まれ。歌人。1990年に歌集『シンジケート』でデビュー。短歌にとどまることなく、エッセイや評論、絵本、翻訳など広く活躍中。著書に『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』、『ラインマーカーズ』、『世界音痴』『もうおうちへかえりましょう』『絶叫委員会』『にょっ記』『野良猫を尊敬した日』『短歌のガチャポン』など多数。2008年、短歌評論集『短歌の友人』で伊藤整文学賞、2017年、エッセイ集『鳥肌が』で講談社エッセイ賞、2018年、歌集『水中翼船炎上中』で若山牧水賞を受賞。

「2023年 『彗星交叉点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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