ヒトはなぜ「がん」になるのか; 進化が生んだ怪物

  • 河出書房新社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309291598

感想・レビュー・書評

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  • 勝間和代さんの推薦本です。

    友人のお母様が一昨年の年末にがんがみつかり、年明けにすぐ手術されましたが、既に手遅れで全身に転移されていたそうで、昨年の9月にはご逝去されてしまい、あまりのはやさにショックを受けていました。

    それで、勝間さんの推薦本の中でこの本が気になり読みました。

    はじめにで著者は『がんは、だれの身にもふりかかる病気だ。がんの診断を告げられたとき、「わかりました。がんとのつき合い方なら知っています」とだれもが答えられるようなそんな日が来ることを私は願っている』ー
    とありますが、この本を全部読んでもがんから逃れたり、がんになってもよくなる方法が書いてある訳ではありませんでした。

    タイトルが『ヒトはなぜ「がん」になるのか』だったので、ではならないにはどうするのかその方法はと続くのかと思って読んでいたら、そういう展開にはなりませんでした。

    ただ、がんの歴史、がんとはどういうものかについて科学的に書かれている本でした。
    私は治療法などを期待して読んだので選書ミスだったと思いました。
    がんという病気の進化論が書かれている本です。

    • 夜型さん
      治療法の話なら、津川友介先生の『最高のがん治療』がベストチョイスだと思います。

      知識面では、『がん 4000年の歴史』と、『おしゃべりなが...
      治療法の話なら、津川友介先生の『最高のがん治療』がベストチョイスだと思います。

      知識面では、『がん 4000年の歴史』と、『おしゃべりながん図鑑』『ウイルスは悪者か』がベストです。

      がん関係の図書は駄本悪書があまりにも多いですね。
      2022/01/17
    • まことさん
      夜型さん。
      コメントありがとうございます。
      この本は、勝間和代さんが、推薦されている本から、何かとりあえず読んでみようと思って読んだら自分の...
      夜型さん。
      コメントありがとうございます。
      この本は、勝間和代さんが、推薦されている本から、何かとりあえず読んでみようと思って読んだら自分の期待とは、違っていたという感じです。
      まだ、誰か身近に、がん患者が出た訳ではないので、読むかどうかは未定ですが、津川友介先生の本は、一応、本棚登録させていただきます。
      ありがとうございました。
      2022/01/17
  • 「がんについての話ではない。生物にについての話だ」という前文が印象的だ。病気としてのがんは手強い相手で、もちろんぼくらはどうすればがんにならずに済むのか、がんになったらどうすれば治るのか知りたいわけだが、そのためにはなぜがんになるのかを理解しなければならない。
    知らなかったことも多く、面白かった。人間の体を細胞が暮らす環境ととらえ、その中でがんが発生し、大きくなるさまを、がんが環境に適応し増えていく進化と捉える、という見方はたしかにありだな、と思った。がん治療は、たとえば蚊とかゴキブリなどの害虫を撲滅しようとするようなもので、簡単ではないということもよくわかった。
    とはいえ、やはりがんは治るようになってほしい。まだまだ時間がかかりそうなのは残念だけれど。

  • 日本人の3人に1人がガンで亡くなっている。ガン以外で死に難くなっているという事でもある。仕方ないもの、漠然とは不安なもの。もっと知っておきたいと思った。本著はそれに対して最適な本だった。理論と実用性のバランスが良い。また、周辺の話も面白い。

    ウイルスや発ガン性物質、慢性炎症や伝染病のように感性するガンもあるらしい。馴染みがあるのは、ストレスによりガンになるという話だろうか。しかし、近親者の死別や離婚といったつよいストレスのかかる出来事ががんの発生率を高めるという関連性は確認されていない。社会的弱者が肥満、喫煙、飲酒、食生活によってガンになると思われがちだが、これで全てを語ることもできない。血中濃度の測定により、慢性炎症と関連し、ストレスにより増大する物質が関係していることがわかっているが、これらは30歳から急上昇し中年でピークに達する。老化による炎症の影響は避けられない。慢性炎症には経済的不安定さ、不安定な睡眠や睡眠時間の短さなどが関係する。

    煙突掃除の未成年たちが陰嚢ガンに。毛を剃り落としたマウスに煤を原料とした絵の具を塗ると腫瘍ができたという話。ウマノスズクサ科の雑草が生えている畑の小麦にもアリストロキア酸が含まれる場合がある。ワタオウサギの角の原因となったショープパピローマウイルス。ガンを含む組織の異常増殖にウイルスが影響している事の手掛かりに。ウイルスはガンの原因の10分の1らしい。

    大半のガンが最初にできる場所は管の内壁。乳腺や前立腺、肺の気管支、腸管などがそれにあたる。反対に細胞が隙間なく詰め込まれている脳や膵臓でのガン発生率は低い。心臓には幹細胞がごくわずかしかなく、増殖能が限定的。そのため心臓がのリスクはほぼゼロだが、心臓発作を起こしたときに修復をすることができない。

    糖質制限でガンを飢えさせようとする方法は、有害。食料を求めて移住し全身に広がりやすくなる。ガンと戦うのに必要なエネルギーを奪うことにもつながる。他方、カロリー制限をすると体内環境を良好に保てるというのは正しい。マイクロバイオームと呼ばれる体の内外に住む無数の微生物が果たす役割も無視できない。体内時計とがんの関係についても研究が進められている。それぞれの細胞に1日のうちどの時間帯に増殖や修復をするのがベストか指示している。体内時計の乱れがガンのリスクに関係しないはずがない。

    今すぐ出来そうな事というと、慢性炎症を避ける事。生活リズムと適度な睡眠だろうな。ストレスで生活を乱さぬ事、か。

  •  英国がん研究機関「キャンサー・リサーチ・UK」に勤務経験のあるサイエンス・ライターが、進化論の見地からがんの本質を再検討し、がん治療従事者、製薬会社、そして患者らに対しがん治療に対する観点の抜本的見直しを迫る。奥深い内容ながら、文章にはディストラクティングなところがなく、何より訳が自然で読みやすい。翻訳物のポピュラー・サイエンスとしては最上の部類に属すると思う。

     著者によれば、がんはわれわれ哺乳類などの多細胞生物と同様、体内環境による選択圧を受けながら漸進的に進化し、日々その生態を変化させている。この「動態的ながん」という視座なくては、正しい対処は覚束ないどころか却ってその勢いを増幅することにもなりかねない、とする。

     本書はまず、「がん=野放図な無法者」というステロタイプを放逐する試みから始まる。がんは単に無秩序な増殖能と浸潤能を獲得した変異細胞などではない。それは、分化と協調を旨とする多細胞生物の一部が、体内の環境変化に適応して周囲の細胞よりも強い増殖能を獲得して利己的な単細胞生物に「先祖返り」したものだという。つまり、がんは特定の異常な細胞などによって引き起こされるのではなく、ごくありきたりに我々の身体を構成する正常細胞が、染色体コピーを繰り返す中でなんらかの「ドライバー遺伝子変異」を拾い、さらに老化や慢性炎症などの環境変化に適応して周囲の細胞よりも強い増殖能を獲得した時、がんのスイッチがオンになるのだ。がんは「適者生存」の原理に従っているのである。

     このような考えかたには決定論的なニュアンスが伴うのは確かだ。がんが進化論的に「合理的」なものだとするロジックは、「がんになるのは必然、または運次第」というニヒリスティックな結論を導きかねない。確かにがんの最も重要な外的リスクファクターは加齢でありこれは避けようもない。そのようなリスク環境下では単細胞生物はスピードを重視するあまり精度の低い遺伝子修復機能を用いるという賭けに出るため、無秩序な増殖が加速する。変異はますます加速を得て多様化し、特定の改変可能な遺伝子変異をターゲットとする「標的療法」は無力化する。開発容易なキナーゼ阻害剤に偏重する現在の治療薬開発はいずれ行き詰まってしまう。

     しかし本書の真骨頂はここから。著者は読者に視座の転換を要請する。それはがん周囲のミクロ環境を整えることで、がんの増殖を望ましいかたちにコントロールしようというものだ。

     がん細胞が他の生物同様に淘汰圧を受けるなら、人間がウイルスや細菌に対して行ってきたのと同様の対処が可能ではないか?確かにがんも治療薬に対する耐性を示す。しかし耐性を持つということは通常の生命維持に加え薬に対処するためのツールを別に備えねばならない負担を抱えるということであり、他の非耐性がんに対し相対的に競争劣位となることを意味する。そうであるならば、逆手を取って進化を味方につけ、耐性がんが生じない程度にまで抗がん剤の用量を低め、薬剤が有効な非耐性がんに耐性がんを抑制させる。非耐性がんが優位になりすぎたら抗がん剤を追加し、耐性がんが頭をもたげたらまた用量を落とす。このように、がんを周囲のミクロ環境も含めた一体として把握し、その環境全体をコントロールするという「適応療法」が、アメリカのがん研究会で提唱されているというのだ。

     がんは適者生存の原理に従う。この根本原理に立ち向かうことはできないが、「宿主を殺して次は一からやり直し」というがんのアドホックな戦略に対しては、人間は長期的な研究成果を統合することで適切に対応することができる、と著者はいう。目下のところがんの根治は難しくとも、がんの性質を正しく理解すればコントロールは可能なのだ。
     なお、主に原始生物やマウスに対する基礎実験をもとに「人間の寿命はいくらでも延長可能」と主張するベストセラー「LIFESPANー老いなき世界(デビッド・A・シンクレア著)」を想起したが、本書の方が臨床データに基づく記述が多く現実的な立脚点を持っており、少なくとも短期的には信頼できる点が相対的に多いとの印象を持った(がんのような原理上加齢とともに発生する病理に対し、多産のため若年で寿命を迎えるマウスを治験に用いることの無意味さは本書内でも指摘されるところだ)。

  • ふむ

  • 訳者後書きを先に読めば良かったかもしれない。「癌は進化する」「適応療法」「がんより長生きする」

  • 第1章 地球に生命が生まれたところから話は始まる
    がんは現代病なのか?
    先史時代・古代のヒトのがん
    古代がん研究の可能性と課題
    すべての生き物はがんになる
    がんになりやすい動物、なりにくい動物
    サイズは関係する?
    生き物たちのがん防衛戦略
    がんにならない動物
    ところで、現代の暮らしは関係あるのか?

    第2章 がんは生きるための代償である
    裏切者のアメーバ
    ルール破りという問題
    共同生活のメリットとデメリット
    やっぱり自由になりたい
    裏切者は排除できない

    第3章 がんはどこからやってくる?
    細胞の中をのぞき見る
    遺伝子は突然変異する
    塩基配列を読む
    遺伝子の損傷は特徴的なパターンを残す
    ウイルス由来のがん

    第4章 すべての遺伝子を探せ
    化学物質発がんとウイルス発がんが出合う
    染色体異常発がんが加わる
    家族性のがんもある
    がん遺伝子とがん抑制遺伝子
    変異のパッチワーク
    正常とは何だろう?
    危険な変異があっても、がんになるわけではない
    がんは、いつからがんになるのか?

    第5章 いい細胞が悪い細胞になるとき
    環境に最も適応した細胞が生き残る
    加齢は環境を変える
    炎症も環境を変える
    環境次第で細胞のふるまいは変わる
    子どもでもがんになるのはなぜ?
    がんができやすい臓器、できにくい臓器
    予防について考えてみよう
    いつまでも若くありたいけれど

    第6章 利己的な怪物たち
    がんの進化系統樹を描く
    ダーウィンの慧眼
    樹の幹か枝か、それが問題だ
    線形モデルから分岐モデルへ
    進化のるつぼ
    染色体の大爆発
    起死回生の賭けに出る
    がんが向かう最終目的地を知る
    目的地に至るルートはそう多くない

    第7章 がんの生態系を探索する
    腫瘍内部の景色を見る
    がんの居住地を進行形で理解する
    環境が病気をつくり、病気が環境をつくる
    新しい血管をつくる
    がん細胞は新天地をめざす
    還元論から全体論へと視野を広げる

    第8章 世にもけったいながんの話
    がん細胞がセックスする?
    二つの細胞が融合して娘細胞を産む
    タスマニアデビルのがん
    がんが個体間を飛び移る
    イヌのがん
    二枚貝からハムスターまで

    第9章 薬が効かない
    プレシジョン・メディシンへの過剰な期待
    新薬は従来の薬よりどれだけいいのか?
    どこまで経済的合理性があるのか?
    複数の薬をカクテルする
    先端テクノロジーを投入する
    ジョッシュの症例
    がんゲノムをまるごと眺める
    ゲノムの損傷パターンから治療法を探す
    進化から学ぶときが来た

    第10章 進化を味方につけてゲームをする
    全部を殺さず、少し残す
    がんを手なずける
    今後の課題は?
    おとり薬、二重拘束、良性ブースター
    種の絶滅から学ぶ
    ゲーム理論に学ぶ
    死を無駄にしないために

    第11章 がんとのつき合い方
    流れを変えよう
    心の持ち方を変えよう

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000055647

  • 【蔵書検索詳細へのリンク】*所在・請求記号はこちらから確認できます
     https://opac.hama-med.ac.jp/opac/volume/462524

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著者プロフィール

サイエンス・ライター。ケンブリッジ大学で発生遺伝学の博士号を取得。『ワイアード』『BBCオンライン』『ネイチャー』などのメディアに寄稿。著書に『ビジュアルで見る 遺伝子・DNAのすべて』など。

「2021年 『ヒトはなぜ「がん」になるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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