あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309253527

感想・レビュー・書評

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  • 原題は"10% Human"。邦題も原題もなかなか衝撃的なタイトルだが、ひと言付け加えるなら、これは重量比や体積比ではなく、細胞としての個数比である。人体には、ヒト細胞1個あたり、おおよそ微生物9個が存在することを意味する。細菌はヒト細胞より遥かに小さいため、個数としては1桁多くても、重量が宿主のものを上回ることはない。一般的に、ヒトに住む細菌は重量にして1.5kg~2kg程度と見なされている。

    本書では主に、腸内細菌を扱う。人体には、このほか、皮膚常在細菌・口腔細菌なども見られるが、腸内細菌は量が格段に多い。そしてこれらは、ヒトと外界との関わりの中で、非常に大きな役割を果たしていることが判明しつつある。
    腸内細菌が担っているのは、どうやら「お通じ」だけではないようなのだ。

    21世紀、医療は昔に比較して格段に進歩しつつあるが、その一方で、以前よりも増えつつある病気がある。アレルギー、自己免疫疾患、糖尿病などである。自閉症を初めとする精神障害も増えている。また、病気とは言い切れないが、肥満や過体重は、特に先進国で多くの人に見られるようになってきている。
    現代医学では、疾患と遺伝子を結びつける研究が盛んだ。確かに遺伝子の変異が主因になっている病気はある。しかし、現代増えつつある病気が、遺伝子のせいとは考えにくい。
    著者はこれらの疾患や異常の一端が、乱された腸内細菌叢(=マイクロバイオータ)にあるのではないかと述べている。抗生物質や過度の清潔志向に起因する撹乱である。
    何でもかんでも腸内細菌、というわけではなく、なるべく「科学的」な観点から、なるべく「慎重に」、確からしいこと、可能性があることが整理されているため、ある意味、判断は読者に委ねられる。
    個人的にはとてもおもしろく読んだ。「21世紀病」と著者が呼ぶ疾患には、腸内細菌以外にも要因はあるだろうが、腸内細菌「も」一因となっているという見方は、かなり説得力があるように思われる。

    わかりやすいところから行こう。
    肥満。多くの人がダイエットを試みながらなかなかうまくいかないという経験をしているのではないだろうか。カロリーコントロールをしているはずなのになぜうまくいかないのか。あるいは同じものを同じ程度食べていても、太る人と太らない人がいるのはなぜか。
    私たちが食べているものは、ヒト「だけ」が食べているのではなく、腸内細菌の食糧でもある。痩せたマウスの腸内に太ったマウスのマイクロバイオータを移植するとそのマウスが太るという実験結果が知られている。ヒトの場合にも、痩せ型のヒトに多い細菌種、肥満型のヒトに多い細菌種がある。摂取カロリーは食べた量で決まるのではなく、腸が吸収した量で決まる。腸内細菌の種類はこの吸収量を左右している。自らが吸収したいものを分解し、残ったもの(細菌が「食べきれなかった」もの)は宿主に吸収される。ドーナツなどの甘いものを分解するのが得意な細菌もいれば、食物繊維が豊富な野菜などを分解するのが得意な細菌もいる。
    ざっくり言って、肥満型のヒトの腸内には、脂肪好きの細菌が多い傾向があると見られる。但し、腸内細菌は全体としてバランスを保っているので、では脂肪好きの細菌を取り除けばよいかといえば、ことはそう単純ではない。
    最適な腸内細菌「カクテル」はおそらく、1人1人異なる。

    アレルギーや自己免疫疾患に関しては、環境が清潔になりすぎたため、免疫系が攻撃するものを失って暴走しているという説が広く受け入れられてきた。いわゆる「衛生仮説」である。著者が紹介するのは、「旧友仮説」である。腸内細菌は古くから宿主と共生してきた。こうした細菌は、宿主の免疫系に「自分は敵ではないですよ」「攻撃しなくてもよいですよ」とメッセージを送り続けているというのだ。何を攻撃すべきで何を攻撃すべきでないか、ヒトの免疫系に指示しているのは、どうやらマイクロバイオータらしいことがわかってきた。
    近年、幼少時から抗生物質を投与される例が多い。ちょっとした風邪、発熱、中耳炎。幼児期にまったく抗生物質を投与されなかった人を捜す方が困難である。重度の全身炎症など、抗生物質が本当に必要な事例はある。抗生物質のおかげで、以前なら必ず命を落としていたような場合でも、助かる例が増えてきた。しかし、抗生物質が投与されれば、一度細菌叢は一掃される。腸内に再び細菌が戻ってきても、往々にして以前より多様性が失われる。
    こうした撹乱が、免疫系発達中の大切な時期に起こったとしたら。自己免疫の一因になる可能性はある。

    自閉症などの精神疾患が腸内細菌と関わりがあるかも、と言うと、いかにも眉唾な印象を受けるが、自閉症の児童に抗生物質を投与して、症状の改善が見られた例はあるという。因果関係は不明だが、自閉症児で慢性的な下痢・便秘がしばしば見られるという報告もある。腸と脳には神経の連絡もあり、幼少期のマイクロバイオータの乱れが幼い脳に影響を与える可能性は荒唐無稽ではないかもしれない。

    結論としてエピローグに挙げられる事柄は、比較的、当たり前の印象を受ける。
    食事については、(多くの微生物を養っている意識を持ちつつ)食物繊維を多く含むなど適切な食糧をふさわしい量で取る。
    抗生物質はリスクとメリットをよく見極め、慎重に使う。
    自然分娩は帝王切開より望ましい。帝王切開がやむを得ない場合でも、母体の細菌を子供に塗布するなど、何らかの手段を講じることが望ましいと思われる。母乳も推奨される。
    ヨーグルトは悪くはないが、過度の期待はしない方がよい。詳細は本書で確認されたし。
    「悪玉」細菌が原因の難治性腸疾患に罹ってしまった場合は、健康な人の糞便移植が功を奏するかもしれない。

    上記に挙げた以外も、新たな研究成果やその萌芽が多く紹介され、この方面に興味を持つ人であればスリリングな読書となるだろう。

  • 細菌がこんなにも人間の役に立っているとは知りませんでした。
    食べ物、抗生物質、出産、授乳など、これだけ多くのものが健康に関わっている事実に感動すら覚えました。まずは食生活から見直したいです。

  • 人体の中に生きる微生物について。その機能と人間の健康に果たす役割について。
    腸の中だけでも100兆個ほどいると言われる微生物、人間の体を作る細胞の数と比べると、9:1で圧倒的に微生物に支配されている!
    人間の細胞数は37兆といわれているので、微生物の量は半端ないことがまず分かった。

    そして、細菌たちはただ単体でとらえるものではなく、その生態系をマイクロバイオームとしてとらえ、その働きがいかなるものか、私たちの受ける心身の病、その症状に当関係しているのか、を解き明かそうとする。

    多くはまだ推定の部分も多いことが分かったけれど、体内の微生物に対する意識を高めることで、今後より効果的に健康な心身を維持できるということが分かった。

    生まれるときにそのマイクロバイオームの一部を母親から受け取り、以後自分の体内で発展させてきている。この微生物生態系について知ることは、私が生まれる以前から私の体の一部は生きていて、その命と生態系を私が受け継いでいる、という、普段はあまり想定していない状況について理解する機会でもあった。

  • この本を手にとるきっかけになったのは黄色いキャラクター『ミニオンズ』なのです。主婦友が我が子にミニオンのコスプレをさせて写真を撮っているので「ミニオンって何なの?」と聞くと、「…菌?」と返事が返ってきました。まさか、そんなサイエンスに関係する話だったとは…!

    そしてこの本を読むと「腸にも脳がある」と知り驚きました。また、ある抗生物質を一度も飲んだことのない方の排泄物には薬以上の効果がある可能性や、体重を自由に着替える鳥もいるなど興味深い内容が盛りだくさんです。

    後追いしたくなる断片だらけでとても楽しいサイエンス本でした。

  • 科学書で久しぶりに感動した。
    食物繊維取ろう。

  • 人間の肥満も、アレルギーも、うつ病も、微生物の問題だった!?
    自分のカラダの中に百兆もの生き物が棲んでいて
    それらが、私たちの誕生から成長、体格、性格、病気にまで
    大きく影響し、見方によってはすべてを支配する「共生」の世界をまとめた書です。

  • 先日読んだ「心を操る寄生生物」といい、本書といい、体の中にいる他者(共生、寄生のどちらも)の影響は想像以上に大きいのかもしれない。最初は疑似科学のたぐいなんじゃないかと眉につばして読んでいたが、糞便移植という言葉は聞いたことがあるし、体内細菌群(=マイクロバイオーム)のバランスを取り戻すことで、病気が治ったり症状が軽くなったりする例が数多くあるという。それも下痢や感染症ばかりではなく、多発性硬化症みたいな難病や免疫性疾患、肥満にも関係があるらしい。
    自閉症、うつ病といった精神疾患との関係はもう1段の飛躍が必要でにわかには信じがたいが、これらの症状も脳という器官の不調と捉えればありうる話だ。
    虫垂がマイクロバイオームのストック器官なのではないかという説にはびっくり。

    ぼくらは体内に棲んでいる細菌が大切なものだとは思っていない。どっちかといえばいないほうがいいんじゃないかと思っているし、せいぜい、乳酸菌とか、ビフィズス菌とかを飲んでも飲まなくてもいいサプリメント扱いしている程度だ。
    でも牛は食べた葉っぱを共生菌の助けを借りて消化しているし、シロアリは共生菌なくしてはシロアリをやっていけない。彼らにとっては共生菌は必須の相棒であって、いなかったら生きていけない。だとすれば人間も体内細菌に依存していたとしても不思議ではない。だいたいみんながみんな、腹の中に1.5kgの微生物を飼っているのに元気にしている、ということ自体が、連中がいることになんらかのメリットがある可能性を証明しているとも言える。

    マイクロバイオームがそれほど大切なものだとすれば、敵味方関係なく体内の細菌群をなぎ倒す抗生物質はかなり危険な両刃の剣だ。変なものばっかり喰っていたら細菌も困るだろうし、行き過ぎた清潔志向もヤバそうだ。

    この分野の研究は始まったばかりだ。現在はマイクロバイオームのバランスと、いろいろな健康の指標に相関関係があるらしい、ということがわかってきている段階だ。今後の研究で、マイクロバイオームが「どのようにして」健康に影響を与えるのかがわかってくるかもしれない。その過程で、アレルギーや自己免疫疾患、ガン、精神疾患などの、感染症ではない病気の本当の原因が解き明かされることになるのかもしれない。

    見届けないとな。

  • 腸活がいいといわれるので、なにがいいのか理解しようと思って手に取った。
    ざっくり、健康には腸内細菌のバランスを保つことが大切で、そのためには食物繊維を摂取することが重要になってくる。
    「あなたはあなたの食べたものでできている。」
    当たり前のことだけど、この言葉の深さを理解して、
    日々の食事を大事にしていきたい。
    自分自身、ヒトの仕組みについてわかるのはおもしろい。
    専門用語なども多いので、また読み返して、次読む時はもっと知識を吸収していきたい。

  • ・エネルギーをどう吸収するか
    ・腸と脳はつながっている
    は、身に覚えのある内容でなるほどと思った。
    自分のためにも、子どものためにも、私たちの微生物のためにも、食事には気をつかい、食物繊維も忘れずにバランスよく摂取していきたい。

  • 要は食物繊維を多めに取るといいよ!ということらしい。

    肥満は生活習慣病というより、エネルギー貯蔵システム機能障害といった方が良さそう。
    ニワムシクイ効果。

    マイクロバイオータ。腸内微生物が人間を操っているの?腸と脳の関係は良く言われているけれど。
    食生活の違いが腸内マイクロバイオータを変える。

    フィルミクテス門は肥満に関連。バクテロイデーテス門は痩せた人の腸に多い。微生物の喜ぶ食物繊維を摂ること。

    あなたはあなたの食べたのものでできている→あなたはあなたの微生物が食べたものでできている。

    抗生物質を使い過ぎるていること、食物繊維の摂取が少ないこと、赤ん坊のマイクロバイオータの植えつけ方と育て方が変わってしまったことにより、微生物との関係が脅かされている。21世紀病。

    マイクロバイオータには440万個の遺伝子がある。親から受け継いだものもあれば、後から獲得したものもある。人間よりも多くの遺伝子たち。人間は10%に過ぎない。上手く手を取り合って生きていく。
    植物性の食品を食べて有益な微生物の組成比を増やす事は健康絵への第一歩。自分のマイクロバイオータが適応できるよう、ゆっくり時間をかけて移行するとよい。

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著者プロフィール

イギリスのサイエンスライター。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンおよびロンドン動物学協会で進化生物学の博士号を取得。『サンデー・タイムズ・マガジン』誌などに寄稿している。TV・ラジオ番組にも多数出演。

「2020年 『あなたの体は9割が細菌』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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