時代の異端者たち

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309249964

感想・レビュー・書評

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  • 『時代の異端者たち』とは、なんとスリリングな表題なんだろ! そうかあ~と新たな視点にうなりながら、痛烈な皮肉に笑う。
    『時代の抵抗者たち』の続編で、切れ味するどいジャーナリストの青木理さんと対談する各界の9名。これまた臆せず、ひるまず、すごいなぁ!

    ***
    2018年まで沖縄県知事をつとめた故「翁長雄志さん」を筆頭に、歌手・俳優の「美輪明宏さん」、弁護士・元判事の「木谷明さん」、ライターの「武田砂鉄さん」、看護師の「白川優子さん」、政治家の「河野洋平さん」、ジャーナリストの「北丸雄二さん」、防衛ジャーナリストの「半田滋さん」、そして大学院教授・元総務省官僚の「平嶋彰英さん」。

    のっけから頭の下がる沖縄県知事の翁長氏。その粉骨砕身の活動に驚き、日本に駐留する米軍基地の7割以上の負担を強いられている沖縄の惨状にため息がもれる。県民投票などの地元の強い反対を一顧だにせず、あらたに建設をすすめている米軍の辺野古基地は、さらに県民を苦しめ続けて泥沼化している。先の大戦で地上戦となった沖縄では、12万人以上の県民が亡くなっている。報道によれば、いまだに彼らの遺骨(80年近くたつ今でも遺骨の収集が続いている)が埋まっている南部の土砂を、この基地の埋め立てに使うという計画に唖然とする。建設地周辺の多様で希少な生き物やサンゴ礁を破壊していて、知れば知るほど不条理だ。

    また北丸雄二さんの語るLGBTQ問題はわかりやすい。80年代、アメリカで蔓延したエイズで不当な差別をうけて死んでいったゲイの人々が、「公的な領域」へと踏み出し、さらに90年代にはアメリカ各州で同性婚やパートナーシップを求める裁判が起こった。それから30年を経た日本でも、LGBTQへの意識の高まりがおこっている。
    ただ北丸さんの指摘は厳しく鋭い。たとえば日本の映画を見ると、問題意識が萌しているのはわかるものの、あくまでも私的な領域に矮小化され、まわりの善意による回収(収束)で終わってしまっているという。たしかに諸外国ではすでに私的な領域を超え、公的なそれへと広がり、さらにグローバル化している。
    それこそパートナーのケガや病気の際の入院手続や保証人は? 末期のケアや立ち合いや様々な手続? 保険は? 相続? 賃貸借契約は? 住宅ローン? それらの優遇税制は? 北丸さんの現実的な問いに直面してみると、確かに私的な領域の善意だけではどうにもならず、これまであたりまえだと思っていたことが決してそうではなく、それゆえにただ静観するだけではすまないことに気づかされる。そしてこの問題の「根本」は、差別やジェンダーや選択的夫婦別姓の議論にも絡んできそうだ。

    さて国境なき医師団に参加している看護師白川優子さん。その語り口は、とても優しく素朴で切ない。日本に帰国して、開かれる花火大会にどうしても耐えられず、実家へ逃れたという。花火の大音響は戦地の爆撃や爆発音を想起させるからだ。そんな生きることさえままならない世界と、平和な花火大会のギャップに打ちのめされる。それも遠い火星のできごとではない。アジアのミャンマーであり、香港であり、ウイグルであり、故中村哲さんがあれほど心血をそそいだアフガニスタンだったりする。

    異端とは「その時代の大多数の人々から、正当と認められているものから外れているか、それに反対する立場であること」(大辞林)。

    ではその大多数の判断はつねに正しく妥当なのだろうか? はたして大多数ではない人々の判断に理はないのか? これまであたりまえだと信じて疑ってもみなかったことは、ほんとうに正しいのか? これを読みながら、そんなことをつらつら考えさせられた。
    青木理さんのリードや合の手は絶妙で、解説も端的でわかりやすい。対談の分量はちょうどよくて読みやすいので、それぞれの分野で気になる人はぜひ手に取ってほしいな♪(2021.9.18)。

    ***
    「……求道がないところに異端がないのは当然かもしれないが、精神の働きのないところにも異端は育ちえないという事実を、私たちはあまりにもなおざりにしてきたのではなかったか」(須賀敦子『ユルスナールの靴』)

  • マジョリティはまごうことなき正論なのか?異議を唱え続けるマイノリティは軽視してもよい異端なのか?蹉跌をきたさぬよう良い社会へと向かう道程が、青木理によってインタビューされる人びとの言葉に託されている。それは日常生活に不都合な事柄かもしれない…しかし、それこそ民主主義の出発点なのだ。違和感と真摯に向き合える姿勢こそ大切であり、違和感を排除して、居心地の良さや聞き分けの良さばかり求めていたら、いつの間にか権力者の隷属となっている。それでいいのか。いいわけがない。

  • 翁長雄志をはじめマスコミで植え付けられたイメージとは異なる人物の言動を掘り下げた本。青木さんはいいな

  • 前書きでタイトルに込められた想いを読み「異端者」こそが正常で歪んでいるのは権力者の方だとの指摘にうなずく。
    9人のうちの半数は知らなかった人だがさすがの選択だ。
    菅をはじめとする自民党の酷さは安物のヤクザ映画さながら。こんな人たちに権力を握らせていることは、私たちこそ大いに反省しなければならないだろう。
    青木理さんはもちろんだが河出書房新社への信頼も高まった。

  • イージスアショア撤回
     代替案なし 元は政治主導のアメリカからの高額兵器購入
    デビッドバーガー兵力デザイン2030
     敵前上陸や海軍の船で近づいたら餌食になるだけ
    辺野古の軟弱地盤
    国民が求めるのは災害救助の次に国防  (半田滋)

    日本は文化面の先進国 私的な領域として
     AIDSで公的なムーブメントへ
     知能がある程度発達した動物は同性愛的な行動をする 性のグラデーション
     家制度、宗教がなければ自由に?
     ブロマンス
     個人的な善意 で回収されてしまう日本 (北丸雄二)
     

  • 財政破綻を信じる罪深き老害ジャーナリストが9人の話を聞く。翁長前知事。辺野古移転阻止。本土が知らない基地建設の実情。重い遺言。国境なき看護師、白川優子氏。同じ人間として放っておけない。死んでも自分の意志だが自己責任論は怖い。河野元自民党総裁、古きよき政治を語る。野党にも配慮。昔は度量が大きかった。長男には何を思うか。無罪判決30件以上木谷元判事。悪人には死をの単純な世論。少数の側に立ってこそ司法。由緒正しき芸能者、美和明宏。今や少数となった戦前生まれ。指示した国民も責任者、徴兵制は言い出した方こそ前線へ。

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著者プロフィール

1966年長野県生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクション作家。慶應義塾大学卒業後、共同通信に入社。社会部、外信部、ソウル特派員などを経て、2006年に退社しフリーに。テレビ・ラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『日本の公安警察』(講談社現代新書)、『絞首刑』(講談社文庫)、『トラオ―徳田虎雄 不随の病院王―』(小学館文庫)、『増補版 国策捜査―暴走する特捜検察と餌食にされた人たち』(角川文庫)、『誘蛾灯―鳥取連続不審死事件―』『抵抗の拠点から 朝日新聞「慰安婦報道」の核心』(講談社)、『青木理の抵抗の視線』(トランスビュー)などがある。

「2015年 『ルポ 国家権力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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