大英帝国は大食らい: イギリスとその帝国による植民地経営は、いかにして世界各地の食事をつくりあげたか

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309227597

感想・レビュー・書評

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  • かつてイギリスが世界中に植民地を持っていた大英帝国の時代から近代までの、食にまつわるお話。植民地支配を、食の観点から描写します。
    植民地支配は奴隷制やら不均衡な関係の貿易から成り立っていました。抑圧的な支配で搾取を続けられると、食べたいものを食べられず、食べられるものを食べるしかありません。伝統的で多様な食文化は消滅し、新しく画一的な作物による同質的な料理が生まれました。結果、世界中で同じような料理を食べるようになりました〜。
    食って根源的なところにありながら?あるからこそ?大きな歴史の流れからは省かれがちで。でも市井の人の生活の変遷に触れれば、大きく変化してそうな時代の中で、自分にどんなことが起きるか考えられそうで。ものを考えるきっかけって、いろんなところに隠れています。

  • 食べ物を通じて、イギリスの帝国主義がイギリス国内と世界にもたらした影響を論じる本。
    食べ物というテーマ設定が良い。各章の冒頭で各時代・地域の食事シーンをレシピ込みで登場させ、その背景を俯瞰していく。日常の関心事でありながら、取引されるモノであり、工業製品であり、文化でもある。
    取り上げられている地域は、インド、東アフリカ、西アフリカ、アメリカ、オーストラリアと幅広い。かつての大英帝国の活動範囲はこんなにに広かったのかと思う。第2章でアイルランドも登場。自分の頭ではアイルランド=だいたい英国、ぐらいのいい加減な認識だったが、17世紀のアイルランドはイングランド人にとって他の植民地と同じくらい異境の地だったようだ。
    色々と興味深い知識が出てくるが、大きく3つに分けてみる。
    1つ目は、食品の取引が、その生産や流通において与えた影響。たとえば大量の食品加工は、分業化されシステマティックに管理されることで、その後の産業革命に繋がった。農作物の生産は奴隷労働と結びついていたが、奴隷を使うことが難しくなると中国等からの安い労働者によって支えられた。
    2つめは、植民地側に与えた影響。帝国側は、自分たちの食文化を植民地に根付かせることを文明と考えていた。その結果、土地に合った作物や食文化が破壊されたり、栄養に偏りのある状態が生じた。逆に、アメリカでは先住民の栽培法や料理を取り入れたり、アフリカにおけるトウモロコシのように持ち込まれた作物自体が現地の伝統料理として根付く等の影響もあった。
    3つめは、イギリス側が受けた影響。一番典型的なのが紅茶の存在。伝統的に飲まれていたエールには栄養源としての価値があったが、紅茶は栄養的にはあまり価値がない。しかし自分で料理できないほど貧しい層にとっては、熱く甘い紅茶が必須だった。
    現在イギリスの料理はあまり美味しくないとされがちだが、食料を植民地に依存してきた歴史も関係しているのかもしれない。

  • ”「帝国主義がどこにあるかわからないというのか? ……目の前の皿を見てみろ!」”――P.350

    "~ヒトラーは富と繁栄、そして何よりも自治を実現するために、ドイツにも帝国が必要だと確信していたのだ。『我が闘争』の(出版されることのなかった)続編、一九二八年に書かれたいわゆる「第二の書」の中で、ヒトラーはドイツ人が十分な「レーベンスラウム(生存圏)」を確保できる場所としてウクライナとロシアの肥沃な黒土の平原を特定している。イギリス人には、土地を取り上げられた先住民族に対する暴力的な抑圧を覆い隠す傾向があった。だが道徳的なためらいに縛られない分析によって、ヒトラーはイギリスやアメリカの前例からヒントを得た。彼はアメリカがネイティブアメリカンを撲滅したやり方を称賛し、「ここ東欧でも、アメリカでの征服と同様の過程が繰り返されるのだ」と記した。アイルランド人をシャノン川より西側へ移したエリザベス女王時代の政策を気味が悪いほどに反映し、ナチスの東方植民省の役人たちはスラヴ民族をソヴィエトの北極帯へと追放し、ヨーロッパ系ユダヤ人たちとともに死ぬまで労働させる計画を立てていた。"――P.382

    フラットな感情で読めているあいだは未知を既知とする楽しみにふけっていられた。
    輸送や冷凍技術の発達による大英帝国圏の発展と維持は、Civ4の技術ツリーを眺めているようで興味深い。特に電気を用いずにオーストラリアから英国まで輸送し得た冷凍方法については初見でもあり、ひどく感心してしまった。
    缶詰についても同様である。ナポレオン戦争時代に登場し、開ける道具がなくて食べるときは破壊するのがデフォだったとか、腐敗してありえんくらい缶が膨張したとかいう逸話は聞いたことがあったとしても、植民地や戦地、果ては本国を維持するエピソードは聞いたことがなかった。

    英国人が著した大英帝国を扱った書籍を読んだことはあまりないが、数少ない経験の中から想起される思い出といえば、ダブスタとレイシズムである。本書もそれを免れておらず、時折それが顔を出す。スパイス程度ではあるが、舌先に残る味なので無視できない。
    具体的には、大英帝国がしでかしたことに対しては甘めに、あるいは言い訳がましく記し、そして似たような行為をなした他者、おもに極東に対してはさりげなく悪印象を添加する。大英帝国圏内あるいはヨーロッパがやることはOK、極東はNGという塩梅だ。
    こんな記述を目にしてしまえばフラットな感情では読み進められない。気を取り直したかのように、終盤では自国あるいは自国が有していた圏内への批判も辛辣さを深めているが、総量としてイーブンではない。

    とか思っいもしたが、巻末の解説が冷ましてくれた。
    植民地主義の頃から現在に至るまで続いている欧米の"教導"は、少なくとも農業において、欧米が現地に対して無知であったがゆえの野蛮であったとして後世には語られることになるかもしれないと感じたことを思い出させてくれた。

    以下、読中の雑感。

    ・野蛮について
     視覚(振るまいや姿格好など)、嗅覚(本人または住環境をはじめとする)、聴覚(むやみやたらとうるさいとか)に基づいて野蛮は判定されると認識していた(そして、ある程度その判定を批判的に見ていた)が、味覚においても可能だと、あたりまえなのだが気づいていなかった。
     味覚において野蛮であること(わらを用いる伝統的な濾過装置を用いて濾過した牛乳に、藁屑が混じっていたなど)は、斟酌の余地はないかもしれないとも思ってしまった。

    ・英国人と紅茶について
     甘味すなわち砂糖を摂取するために言い訳無用で飲めたから広まったとする説。モルトを多めに含んだ英国の当時のビールは甘かったはずであり、砂糖をたっぷりいれた紅茶が好まれる下地はあったという。
     植民地からの供給過剰により嗜好品から日常品になった。物価の上昇により、自家製よりも市販品を買うことが安くつき、よりやすくカロリーの高い食品をとるよりも、砂糖の錯覚でも即効性のパワーが得られる感が好まれた。当時の識者の一部は、貧者が砂糖をたっぷりいれた紅茶を喫することを貧乏人のくせにけしからんとみたようだが、別の識者は貧しいからこそ一杯の幸せを求めたのだと見ている。

    ・アヘンは悪く書かれすぎているという主張
     紅茶とアヘンをともに「嗜好品」として同列に扱っている。こういう主張は『大英帝国の歴史』でも見かけた。イギリス人らしいやり方、ということか。

    ・帝国とイギリスを分離する定義
     帝国とは貿易網を指しブリテンのことではないという記述がある。定義や学説として存在するのか、著者の主張であるかは不明。

    ・1875~1914年のインドにおいて英国由来の施策で餓死者1600万人
     この数字は知らなかった。ヒトラー(とかスターリンとか毛沢東)を非難できるものではない。

  • 233.05||Co

  • タラや砂糖、肉など、イギリスはこういう風に植民地を支配して自国民を養ってきたのか、と目からウロコの見方で非常に興味深く読んだ。ちょっと専門書っぽいところは一気に読む、というより少しずつ読み進めるのがいいかも。食から帝国主義を見るというこれまで考えたことのなかった視点で、甘い紅茶の話は個人的に衝撃だった。視点を変えると見方が変わるいい例かも。

  • 大英帝国時代の食にフォーカスを当てたというよりも食目線で当時の人々の生活を描いた生活史的なものという方が良いかも

    解説から引用すると,この本からわかることは食文化の伝搬.食文化の攪拌,大英帝国の変化,それらを促すための犠牲となった植民地や奴隷たち

    出てくる食べ物,肉,炭水化物,脂肪,砂糖がほとんど
    あまり健康的で無いように見える...
    現代って食の選択肢の自由は極まっていてその点この時代に生まれたということは幸福なんだなあと感じる
    当時は腹一杯食べることがまず第一で健康的かどうかは二の次だったしその知見もなかっただろうから仕方ないことだけど

    それでも,この頃のイングランド人は食卓に並ぶ食糧のバリエーションが増える時期でもあったしその前線に立って新天地で砂糖やタバコなどの生産,牧畜業を成功させた人は一財産を築く機会でもあったわけだ.
    当時,砂糖の価値に気づき,そこに投資をする余力を持ち,何よりも行動した人(+その競争で運も込みで生き残れた人)が報われた.
    これって時代が変われば砂糖が工業製品,情報通信機器やインターネット上のコンテンツに変わるだけでいつの時代も変わらない普遍的なことなんだろう.

    奴隷という労働力を買い叩いてそのビジネスのオーナー(土地やビジネスモデルや労働力を所有している人たち)が懐をどんどん膨らませていった.複利効果で奴隷を増やしてビジネスを拡大できたらしい(人権を無視して労働力を絞れるだけ絞っていたからそりゃそうか)

    大航海時代,植民地開拓,農工業の発達(専門化,効率化,交易)や二次産業の発達(燃料としての石炭需要etc)を推し進めたことは産業革命への礎だったことは間違いない.

    ビジネス書のように読み流すのは難しい.
    だけどこういう本をじっくり読んで話のネタにできることが教養の一種だろうなあと思う
    じっくり読みたかったけど借り物だったし詰み本がかなり溜まっていたので途中でリタイア
    どこかでじっくり読み返したいね

  • 帝国の植民地とはかくも大変なものか。イギリスの本だからこれがまた別の国だといろいろありそうだ。

  • イギリスがアイランドを始めとする世界各地の植民地で本国用食料を作り、現代の食に影響を与えた。

  • 大英帝国の発展・拡大を食の面から読み解く、ユニークな大著。ハードカバーで本文400ページ。なかなか読み終わらないが、ギリギリ冗長ではない。大英帝国におけるグローバリズムとは本国に対する食料の供給が軸となっており、それを支えるために様々な産業が発展した。本国での砂糖、紅茶、牛肉の需要拡大。そして植民地でのトウモロコシ普及。アフリカで伝統料理がトウモロコシに置き換わった歴史。文明国が未開国の農業を指導すると称し、結局は本国収奪でしかない仕組み。食にからんでいるからか、大著の割には空きがこない。幕間に当時のレシピが入っていて、想像するとちょうどいい箸休めになった。

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著者プロフィール

ウォリック大学のアソシエイト・フェロー、ケンブリッジ大学ロイヤル・リテラリー・ファンド(王立文学財団)フェローを務める。著書に『インドカレー伝』、『戦争と飢餓』(いずれも小社刊)。

「2019年 『大英帝国は大食らい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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