硬きこと水のごとし

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309207360

感想・レビュー・書評

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  • 文化大革命を舞台に、革命を目指す男女が不倫の恋に落ち……と書くとしっとりシリアスな悲劇になりそうだけど、その真逆。
    騒々しくて馬鹿馬鹿しくて滑稽。
    トンネルとか拷問部屋とかもう笑っちゃうんだけど、主人公も周囲も至って真剣。
    でも滑稽であるほど浮かび上がる残酷さや悲哀があり、とにかく上手かった。
    満腹です。

  • 途中飛ばしながら読んだ。
    常に革命の凱歌を反芻させながら自分を、もとい奪った女を鼓舞する主人公が姦通罪及び殺人罪によって殺されるまでを描いた作品。
    かつて失策続きで党内での権威を弱めた毛沢東が、権力闘争の奇手として行使した文化大革命によって、多くの無知な若者が暴徒化し、文化財を、その歴史的背景を理解せず(できるだけの教養がない)旧態依然とした破壊すべき秩序の象徴物とみなしては破壊した。本小説ではそうした文革の悪しき一面を基底として、革命という大義名分によって人間がいかに残虐な行いをしやすくなるかを描いている。
    同士を鼓舞する毛沢東の詩を、カットの旅にヒロポンを腕に打ち込む映画監督のように摂取し続けては、破壊・暴力行為を革命の一手として読み替えていく主人公の振る舞いを通して、革命という行為が意味もなく駆動する生産性のない行為に見えてくる。作者はこれを描きたかったのだろうか。よくわからないまま言葉の大盤振る舞いを浴び続けて読了。

  • 2021.7 文革のデフォルメパロディ小説?パロディではないか‥エロいと書いてあるが全然です。革命の名のもとに繰り広げられる狂気な展開に圧倒されました。

  • 文化大革命とは、中国で1966年から、およそ10年も続いた革命運動である。正確には「無産階級文化大革命」といい、旧来の思想、文化、風俗、習慣を打破することで、新しいそれを打ち立てようとした社会運動であった。ただ、その実態は、産業改革「大躍進政策」に行き詰まって失脚した毛沢東の、名誉回復を狙った政治的な宣伝、プロパガンダであった。氏は自らの失敗を、旧来の思想、文化、風俗、習慣に責任転嫁したのである。つまり、文化大革命とは、先進的な階級闘争などではなく、ただの内向的な権力闘争であった。しかし、一度火のついた革命は、氏の手の内を離れて、中国全土、そして世界全体に広がった。数えきれないほどの文化財、宗教施設が破壊され、計り知れないほどの虐殺と弾圧が行われたとされる。いったい、その被害と、犠牲とは、今もってなお、その全容を知れるところではない。

    さて、本書はそんな時代にあって、やはり革命を邁進した男の、最後処刑台から語る独白である。旧態依然の閉鎖的な村に生まれ、膨れあがる自意識を耐え難くしていた男の、これもまた才能を持て余し、旧家の令室に甘んじていた女と辿る、「エロ、革命、血笑記」。本書の殊勝であるのは、これがべつに革命の懺悔でもなければ、恋愛の礼賛でもないところにある。革命における理想と現実、恋愛における嘘と誠のような葛藤は微塵もない。むしろそれらは徹頭徹尾、渾然一体のものであり、ただのありのまま生として、そして、ただのあっけない死としてある。そう、たしかに、その生真面目さ、もとい滑稽さにこそ、文化大革命の真実があったかも知れないのである。

    「そそりたつ乳房、震える乳首、秘密の三角地帯……革命の歌に乗って二人の欲望が炸裂する。」

    筆者は、実際に中国の貧しい農村に生まれ、文化大革命を目の当たりにした当事者。生活苦から中国人民解放軍に入隊し、その創作を始めた。本作に先んじて邦訳第一作となった『人民に奉仕する』(『為人民服務』2005)は、その過激な内容から、中国本土では発禁処分となった。本作(『堅硬如水』2001)も発表当初は発禁を免れたものの、現在は増刷も、再版も許されていないという。とはいえ、その後も精力的に活動中。おそらく日本では、本作より『炸裂志』(『炸裂志』2013)のよく知られるところだろう。

    「文化大革命の嵐が吹き荒れるなか、血気盛んな人民解放軍の若者・高愛軍は、故郷の貧村・程崗鎮に復員し、美しき人妻・夏紅梅とともに革命を志す。中国古来の価値観が残る村は、対日抗戦の殊勲者たる名家の人々が支配していたが、現状に不満を抱く若者たちを煽動して革命委員会を樹立し、村幹部を追放し実権を掌握していく。アメリカ帝国主義、ソ連修正主義に囲まれ、世界的な反中国の逆流のなか、マルクス、レーニン、スターリン、毛沢東ら、革命の聖人たちを奉じ、愛情の力で邁進する二人。やがて二人は愛軍が掘った「愛のトンネル」を通って夜な夜な逢瀬を重ねることとなる。近年ノーベル文学賞の候補と目される最重要作家による、セックスと革命、血と涙と笑いが交錯するドタバタ狂想讃歌!! 」

  • 文化大革命を舞台にしたマジックリアリズム小説。政治と性との関わりという点では少し大江健三郎を思い出すかも?
    官能的でかつ楽しい。比喩や詩の引用の嵐はそれとしてゆっくり味わうことができるだろうが、勢いとリズムでさくさくと読み進めることもでき、作品世界の中の高揚感がこちらに伝わってくるよう。大げさな表現が、恋愛の官能的な情感と革命の高揚をそれとして伝えてこちらを揺さぶってくると同時に、どこか筆致にユーモラスなところがあり一歩引いた目線でも面白がれる。二重の立場から楽しむことができ、結果として充実した読書体験。
    スリルはありつつ、余計な憂鬱はなく、疾走感がある。

  • 文章の密度が常軌を逸している。ものすごい熱量。すごく分厚い本に上下二段組で、改行のない段落が長々と続く。
    革命に夢中になりすぎる一農民の姿を描いていて、その革命への熱意が性欲と連動している。毛沢東の引用や漢詩のようなものがよくでてくるが、言いたいことは正直よくわからない。どうやら、このどたばたしてよくわからない感じが、文化大革命の混乱そのものを表現しているらしい。
    評価をつけることが難しいが、何だかすごいものを読んだなという感じはする。

  • 相変わらずすげーな。いざコトに及ばんとした時に元気がなくなっちゃった兄ちゃんが革命歌聞いたら元気ビンビンになるとか何で発禁にならなかったのか、中共の言論統制も大したコトなくね?と思わせるハチャメチャ感。ノーベル賞候補とも言われてた気がするけど、莫言まではギリセーフでもこれはさすがにマズかないか。いや、ノーベル賞なんかもらえなくても好きですけどね。

  • 書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記は控えさせていただきます。

    http://www.rockfield.net/wordpress/?p=11126

  • 「エロ・革命・血笑記!!!」
    革命と(性)愛 バカバカしくも美しい「赤くて(革命的で)黄色い(猥褻な)」小説。
    ん〜、エロいっ!!!

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著者プロフィール

1958年中国河南省生まれ。80年代から小説を発表。2003年『愉楽』で老舎文学賞受賞。その後、本書を含め多数の作品が発禁扱いとなる。14年フランツ・カフカ賞受賞。ノーベル賞の有力候補と目されている。

「2022年 『太陽が死んだ日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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