フランドルの四季暦

  • 河出書房新社
4.08
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本棚登録 : 83
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309206936

感想・レビュー・書評

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  • フランス文学周辺を眺めていた時、タイトルとカバーのかわいらしい佇まいが目を惹いた。開いてみれば写実にして装飾の挿画の豊かさにあっという間に好きになってしまった。
    こんな本が出ていたとは知らなかった。わりと最近の本なのにもう新刊では手に入らない……。

    ベルギーのフランドル地方における四季を12カ月の章で描く詩的散文集。植物を中心に、天体や気象、動物や人間の営みを眼前に瑞々しく描き出す、まるで妖精を見る目を養えそうな1冊。
    ひと月ずつ読んでいくにつれて、そのミクロなひと月を包むマクロな世界をも同時に読んでいることに気づく。それは受け継がれていく文化的な自然観であったり、誰かが語り記した言葉であったり、それぞれに人生を歩んで世代を重ねていく家族であったり、あるいは皆に理解されるおとぎ話であったりする。自然の描写だけでも、人の描写だけでも成り立たないこれは、本来最も身近で親しみやすい円環構造なのかもしれない。
    著者はベルギー仏語文学を代表する作家の一人であるとのこと。もっと読んでみたい。けど現状、これが唯一の邦訳のよう。今後何か出ないだろうか。

  • 完全な風景を思い浮かべることは、よそ者の私にはできないけれど

  • ベルギーはフランドル地方。そこに住む作者が季節のあらわれ、うつろいの極めて微細で繊細な様子を汲み取って、1月から順に12ヶ月分、一文一文ぬかりのない珠玉の修辞で描いていた。

    それは擬人といった類ではない。そこでは草木は草木として、川は川として、雨風は雨風として生きていた。
    例えば4月、雪解けを迎えて、川の支流は春の兆しをめいっぱい抱えうきうきと本流に向かう。池の中で発芽した睡蓮は、はやく茎を伸ばし水面に顔を出して、きたる5月にみずからの開花を捧げたい。あるいは吝嗇家のキイチゴは、舞う雹のありったけをくすね、人目を忍ぶように葉の裏にこそっと隠しこむ。などなど…

    その万物の豊かな生の営みを、筆者は余さず汲み取って描写していた。驚くほど細かい。でもメモを取ろうとしたら追いつかないくらい、ほとんどすべての文章が興味深く心に沁み渡った。

    ときにはその地方で生活している人々の人生、日常の一景を織り交ぜ描くことで、その季節の色をさらにこちらの心に印象付ける。鮮やかな手腕にため息が尽きなかった。
    挿絵も細やかでかわいくて豪華な一冊。

  • 4/65
    内容(「BOOK」データベースより)
    『園芸家、自然愛好家のバイブルといわれる幻の名著、日本初紹介。大野八生(ガーデナー&イラストレーター)の描き下ろし植物画約70点収録』


    冒頭
    『このあたりは緯度が高いわりに気候が穏やかです。
    空気が湿り気を帯びるのも、水面と雲が反射し合うのも、雲と地表のあいだでいつも霧をやりとりしているのも、そして風向きがしじゅう変わるのも、畑や、牧場や、木立の緑が眩しくて、おいしそうに見えるのも、たっぷり水を吸った庭の涼しさが、あたり一面に降り注ぐのも、思いつくかぎりの恩恵はそのほとんどがメキシコ湾流に由来します。』


    原書名:『Plaisir des météores: Ou le livre des douze mois』
    著者:マリ・ゲヴェルス (Marie Gevers)
    訳者:宮林 寛
    出版社 ‏: ‎河出書房新社
    単行本 ‏: ‎230ページ

  • 2018.07.23 朝活読書サロンで紹介される。

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著者プロフィール

1883~1975。ベルギー仏語文学を代表する作家の一人。著書『堤防監視人の娘』『大潮』『生命線』『田園のやすらぎ』『グルデントップ』『マダム・オルファ、あるいは五月の夜想曲』『スヘルデ川の旅』など。

「2015年 『フランドルの四季暦』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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