- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309206578
作品紹介・あらすじ
クソったれのボケってなもんだ。神はどうして私にこんなことしたの?暴力・痛み・性・死…サノバビッチとジャンキーまみれのファックライフ!村上春樹『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』でもおなじみ、トム・ジョーンズの作品をあの舞城王太郎が初翻訳。解説:柴田元幸。
感想・レビュー・書評
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2年くらい前にネットで「舞城王太郎さん訳のトム・ジョーンズ短篇集が発売されるらしい」というのを目にして以来、楽しみに待っていたんだけど、なかなか発売される気配もなく、「出る出る詐欺」なんじゃないかと思っていた。そんな矢先の夏休み発売。ちょうど休暇中だったこともあって、ダッシュで買いに走った。もう、装丁からしてソー・クール!路線は少々違うのだが、『ルパンⅢ世』のサブタイトルが和文タイプで打たれる瞬間のようなカッコよさがある。
岸本佐知子さん訳の短編集『拳闘士の休息』中の『蚊』に代表されるような、「修羅場の現場で腕を振るってきた、素行にいささか問題ありの医師」を主役に据えた作品が多い。舞城さんのデビュー作『煙か土か食い物』から登場する、スーパーブレード・シローナツカワの帰還を見るような嬉しさがそこにある。っていうか、このあたりが明らかにモデル。キャラ設定だけではなく、ニヒルさと甘さで落としにかかる結末までもが、どれも舞城さんがやりそうなテイストなので、チャールズ・ユウ/円城塔訳『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』を読んでいたときのように、「訳者設定で実はペンネーム」的にも思えるほど、シンクロ感がすごい。献辞と謝辞はもちろんトム・ジョーンズが書いているんだけど、どこでどう勘違いしたのか、舞城さんが書いたものだと、3日間ほど思ったままだった。「舞城さんにはジェニファーさんというお嬢さんがいらっしゃるのか、しかもアメリカの出版関係者と太いパイプがあるのか(実際にあるのかもしれないけど)!」と、勝手に感動しておりましたよ。
すさんだ生活を送りつつも、心がマッチョな男性主人公ものが多い中、『ロケットファイア・レッド』が意外にも、毅然としたガール小説でかっこいい。『私を愛する男が欲しい』については、メイン登場人物が2人の3人称小説なのに、1人称小説が2パートで切り替わるような感じで、すごくないか、これ。っていうか、語り手は誰なの?とページをぱらぱらめくり返してしまう。偶然か作為なのか、ものすごい技巧を感じる。この2作が個人的に同率1位。
ほかに気に入っているのは、人はいいがあるスキルを決定的に欠いている上官と、その元部下のちょっといい話かと思いきや、からりと残酷な兵隊物語の『ポットシャック』。『ダイナマイトハンズ』はこのタイトルと、それを本文へ投入するタイミングが見事で、締めにはふさわしい1編。
私はもともと舞城作品のライトノベル的な要素のファンではなくて、舞城作品にあふれる(と思われる)、海外文学ダダ漏れ感が大好きなのだというのを再確認した短編集だった。読んでいるとそこで、わけもなくテンションが上がってしまう。そしてそのマシンガン文体を、舞城王太郎≒菊地成孔だと思っていたが、ちょっと読みが甘かった。トム・ジョーンズ≒舞城王太郎≒菊地成孔じゃん、これって。
柴田元幸さんの解説を読んで思ったことだが、村上春樹の築いた「スター翻訳家」性は別として、円城塔さんや舞城さん、松田青子さんら、自分の作品で余裕で勝負できる小説家さんが、ガチで翻訳を手がけられるケースが急に目立ってきたことで、文芸翻訳に求められる要素のハードルが5段くらい上がった気がする。漠然と文芸翻訳を志望していらっしゃるかたは、後頭部に上段の蹴りを入れられるような衝撃を覚悟して、でも必ずお読みになったほうがいいと思う。
私は同一作品を訳者で読み比べることにはそんなに意味がないと思っているんだけれど、『ピックポケット(Pickpocket)』だけは、柴田訳『スリ』とどれだけ趣きがかわるのか、アレンジ違いの音楽を聞くつもりでこれから読みたいと思う。
それにしても舞城さん、ピンチョンの訳をおやりになればいいのに。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
村上春樹の『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』で知りましたトム・ジョーンズ。チャールズ・ブコウスキーばりのクソったれ小説をイメージしたんですが、ちょっと違ったかな。クソとかファックとかサックとかマザーファックとか乱暴な言葉は並ぶんですけどねぇ、それほどクソったれじゃない。
とかいって驚いちゃったのは、今日の朝っぱら夢を見たんですが、それがどっか謎の食堂のキッチン? 違う、はっきりと洗い場で、むんむんと熱蒸気が蒸れ蒸れで、汚い残飯にまみれて皿を洗うっていう酷いお話で、なかなかにクソったれな夢だぜって思ったところ、この本のなかの『ポットシャック』(鍋の洗い場)そのものだと気づきました。やられたぁ。
にしてもなんか訳がなぁ。『?』とか『!』が頻出する小説なんですが、その後を1字あけるっていうのはルールじゃないんかな? 最近ときどき見かけますが、詰められると読みにくい。 -
舞城王太郎が翻訳してるから、期待していたが……確かに舞城と親和性の高い内容で、酒!ヤク!セックス!汚言雑言のオンパレード!って感じだが、短編集でこんな内容だとTwitterか???ってクソレベルにしか思えなくて無理だった。短編集なのに、長さがそれぞれまちまちなところも腹が立つし、短編集に求められる起承転結の美しさが皆無で、長編の一部分を抜き出しただけのように思えるのが、つまんなさを助長してる。確かに、自分はメタクソな小説が大好きだが、これはちゃんとしたメタクソ小説ではなくて、表出してるのが短いからメタクソになっちゃった♥という風にしか捉えられなかった。
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ボクシング、マザーファッカー、ドラッグレース、ベトナム戦争、ドラッグ、糖尿病、てんかん、アフリカ
前作『拳闘士の休息』と似たような、でもさらに勢いが増しているのは(わたしの好みは前作)訳者の色かな。
円城塔訳『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』チャールズ・ユウ、本書を読んだから、松田青子訳『狼少女たちの聖ルーシー寮』カレン・ラッセルも読まなきゃ。 -
とてもおもしろかったです。ここの感想の欄に、「ぜひ、トム・ジョーンズの第三作品集も訳して欲しいです。」と書こうとしていたら、柴田元幸さんの解説で、第三作品集も舞城王太郎さんが訳すとおっしゃっており、嬉しさのあまり、「えー、マジで!」と言ってしまいました。
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これがこのまま受け入れられるってことになれば、カルチャーよりもマインドが近くなっていると言える。世界はほんとに狭くなってるって、実感する読後感。
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訳者の舞城氏は知らないのだが作家らしい。有名なのかもしれないが、表紙にこの人の名前が一番大きく書いてあるのは、ちょっとないだろう、トム・ジョーンズなのに。
この訳者の癖が前面に出ているようで特徴的なトーン。多分、この”ワイルド系”がジョーンズにあっているので悪くはないが、舞城ファンでもないので過剰。
内容は、ドラッグ、酒、暴力、どん詰まり人生のリアリティが迫りつつも乾いたユーモアがあって小気味よく読める。力強いヴォイスを持った作家だ。 -
帯の『サノバビッチとジャンキーまみれのファックライフ!』がマジだった。気取らず連発されるマザファカ&ファック。カジュアルな地獄。
しかしこの世界ってこんなにタフな現実だったっけ…アフリカの描写がガンガン頭に響く。 -
口を開けばファックだのマザファッカだのと汚い罵り言葉がわんさか出てくる野郎どもの饗宴。
ロクデナシのクズたち(社会的に)が素っ裸のノーガードで殴り合ってるような。能弁インファイト。
トム・ジョーンズ+舞城についてこれたら、これがむき出しの魂だ、とでも言うのだろうか。ハードなエネルギーに満ちている。
私は途中で置いてけぼりをくらったが。 -
まったくこの世界は酷いったらねぇ、と言いながら、自分を見つめる誰か――それは自殺未遂をした妹だったりひどい躁鬱病の息子だったり、アフリカで激務を送る女医だったり、あるいはちっぽけな毒蜘蛛だったりするのだが――に気がつくと、おい見ろよ天使が俺に微笑んでるぜ、って言っちゃうそんな感じの短編集である。
刹那的でありながら肯定的で、一瞬一瞬が力強さと無力感の連続のよう。登場人物はボロボロになっている人か、今すでにボロボロで、これからさらにボロボロになる人ばかり。人生はどうしようもなく、しかし世界は美しい。激しくも優しいそれぞれの「生」が、スピーディな舞城訳で語られる。
やはり舞城文体の疾走感が生きている、一人称の短編がよかった。三人称も悪くはないのだろうが、やはり体感速度が違いすぎる……というのが正直な感想。他の人の訳だと、どんな感じなのだろう。舞城訳を読んだあとだと、ちょっと想像できない。