ロングウォーク: 爆発物処理班のイラク戦争とその後

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309206363

感想・レビュー・書評

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  • 文章になってない、ことが戦争ということ?

  • 【由来】


    【期待したもの】


    【要約】


    【ノート】

  • 戦争から戻って来た兵士たちは、戦場体験と平時の日常生活の
    ギャップをどうやって埋めているのだろうかと思う。

    幸いにして私は戦争体験はない。書籍や映画、ドキュメンタリー番組
    で知るだけだ。それでも戦場の過酷さは伝わって来る。

    『帰還兵はなぜ自殺するのか』(デイヴィッド・フィンケル 亜紀書房)は
    心的外傷後ストレス障害を抱えて生きて行く元兵士たちを取り上げた
    ノンフィクションだった。

    本書も同じ系列に属するのだろう。著者はイラク戦争時にイラク・キル
    クークを中心に爆発物処理班の兵士として派兵された。物語は現地
    での様子と、帰国後に襲った狂気の中での日常が交互に織り込まれて
    いる。

    他国への軍事介入が何を引き起こしているのかを理解するにもいい。
    どれだけ爆発物の処理をしてもイラク人から感謝されることがないど
    ころか、憎しみや反感を増加させるだけなのだもの。

    それは最前線にいる兵士のせいではなく、安全なところにいて指揮を
    執っている最高責任者の政治的判断のせいなのだけれどね。

    無限とも感じられるほどに仕掛けられた爆発物。規制線の向こう側から
    現場を取り囲む群衆の中に自爆犯がいるのではないかと神経を尖らせ
    る日々。平常心を保てという方が無理であろう。著者も現場でイラク人
    少年に対し、ライフルの照準を合わせた経験を綴っている。引き金を
    引くことはなかったが。

    「戦争に行った男はみんな死ぬのよ、死にかたはいろいろだけどね。
    あっちで死んでくれたほうが、いっそあんたのためには幸せだよ。
    生きて戻ってきたら、わが家で戦争に殺されるんだからね。あんたも
    道連れにして」

    著者のイラク派兵が決まった時、奥様がおばあ様に相談した時の、
    おばあ様の言葉だ。

    現実は正にこのおばあ様の言葉通りだった。アメリカへの帰国後2年
    して、著者は徐々に狂気に囚われて行く。心的外傷後ストレス障害に
    加え、爆風による外傷性脳損傷と診断される。そして、家庭は崩壊
    に向かう。

    戦争は、それに関わった人々の人生を狂わせる。戦死ではなくとも
    兵士たちの心を殺す。その兵士たちの家族さえ、心を殺されるのだ。

    仲間を、心を、家族を。いろいろなものを失った著者の哀しみと怒り
    が凝縮された作品だった。

  • 悲しい。
    文章はとんでもなく上手で、読むスピードが上がる。突然で頻繁な場面転換はまるでカット割りを多用する映画のようで、けれどそれは実際に著者の頭の中で起こっていることだと説明されると、そのスピードをオモシロイと思ってしまった自分が情けなくなる。

  • 戦争によって脳損傷を受け、
    精神的にも大きなストレスを受けた著者の
    イラクでの活動内容と、帰国後の困難な日常生活を
    交差させつつ描く。

    著者の辛さが非常によく伝わり、
    いたたまれない気持ちにさせられる。
    日中戦争の従軍記にも通じるものを感じたが、
    やはり今昔問わず戦争という特殊な環境は
    人をひどく傷つけるものなのだと感じた。

  • 狂っている。
    イラク帰還兵のブライアン・キャストナーは自分をそう感じている。あるいは、昔の自分はイラクで死んだと。

    スーパーのレジの列で待たされ怒る同僚とは違いブライアンは怒りはしない。しかしクーポンの使い方を聞こうとしながら列を詰まらせる老人を見ながらこう思う。どうしてだれも、ここで時間を無駄にしていることに気がつかないのか。そう怒るビルはえらいと思う。ブライアンはスーパーの列に並んでうんざりしてくると勝手に計画を立て始めてしまう。周囲に立っている人々を殺して、この店を出て行くにはどうすればいいか。

    空港のターミナルで傭兵らしきチームを見つけ、あの仕事に戻ろうかと思い浮かぶ。「安全で気楽で快適な世界が手招きしている。戻ろうか。人生に意味があり、得意なことのできる場所へ。」今日はだめだ、間もなく飛行機の出発時間だ。そこでふっと気がつく。「危険だ、私はひとりきりで、見方から切り離され、人込みに囲まれて窒息しかけている。」「私はライフルをつかむ。いつも肩にかかって出番を待っているのだ。」そして次々ターゲットを見つけ殺す順番を考える。そして、我にかえる。妻に電話をかけいきなり話しだす。「またやってる。また殺す相手を選んでいる。」

    運転するミニヴァンのコンソールに拳銃を固定する方法を思いついた。装填するマガジンの置き場所も決め運転しながら交換する方法も練習済みだ。「拳銃を用意しておかなくてはならないのだ。私は好みにヴァンをしょっちゅう運転している。」

    「私はいま我が家の二階、階段のてっぺんに座っている。」生まれたての子供を守るためにライフルを手にして待っている。一晩中。「だれにも息子を殺させはしない。」

    ブライアンの妻が電話で懇願する「お願い、家にいない間に浮気をして。お願いだからそうして。そしたらあなたと別れても気が咎めずに済むから。私と子供たちを解放して。もうあなたに引きずられて、こんな暗い毎日を送るのはいや」帰国してからブライアンは笑えなくなった。しかし、怖くて離婚もできない。

    ブライアンは爆弾処理班としてイラクへ派遣され、PTSDと度重なる爆風が原因の外傷性脳損傷を煩った。装備や救急医療の発達で命は助かったが、衝撃波は見えない所で脳にダメージを与え、イラクの経験はPTSDとして残った。イラク戦争での米軍の死者数は4400名ほどで重軽傷者合計で3万人強。全参加国軍を合わせて即席爆発装置(IED)による死者数は1770名で約40%にあたる。対する爆発物処理班(EOD)はテロの最初のターゲットでもありIEDが発見されたらそれ自体がブービートラップだったりする。映画「ハート・ロッカーで有名になったEODだが警護班に守られながら銃弾の飛び交う戦場で爆発物の処理をする。

    携帯電話を使った起爆装置に対するのは妨害電波発信器だがこれも十分でない。現場には野次馬も集まり携帯を持った子供もテロリストに見えてくる。こちらを向いて携帯を触っているだけで撃つべきターゲットかどうか判断しなければならない。爆発物処理は先ずは遠隔操作のロボットで爆発物を見つけること。よく使われる自動車爆弾などの無害化はいちいち分解したりはせず、特殊な爆弾bootbangerを使ってバラバラにする。処理用爆弾の上に湾曲したカーブをつけその上に水タンクをつけると爆風は一点に集中し水が一方向に吹き出し回りに影響を与えず爆弾を解体する。マスター・キートンにも出ていたモンロー/ノイマン効果だ。一方でテロリストは同じ効果を鉛合金で行う。軍用自動車を狙った爆弾では爆風によって生まれた金属片が車の中を暴れまわる。

    ロボットが使えない時には耐爆服に身を包みEODが直接処理をする。ひとりで歩いてIEDに近づいていくのは最後の手段「ロングウォーク」だ。爆発力が大きければ耐爆服は何の役にも立たない。耐爆服は一人では着られない。EODの兄弟が着せてやらなければならない。それでもロングウォークを引き受けるのは他の誰かがやらずに済むからだ。この道にやってくる次の兵士、EOD、地元の商店主やタクシー運転手や子供達が危険にさらされないように。兄弟から兄弟への愛、それがロングウォークを引き受けると言うことだ。アイスホッケーの試合に息子を送り出すため防具をつけさせようとしてブライアンは人前で泣く。「私はたったいま、7才の息子に耐爆服を着せ、ロングウォークに送り出そうとしているのだ。」

    車で移動中に人込みにはまって動けなくなると自分が狙われているように感じる。こいつらを撃ち殺してでも無事に基地に戻る。爆発現場では女子供が泣き叫んでいる。こいつらを黙らせろ。手にはライフルを握っている。自動車の中には撃たれた男が乗っているが降りてこようとしない。助手席には何かあるように見えるがわからない。男はどうせ助からない、そしてブートバンガーを使っても車はバラバラにはなったが爆発はしなかった。本当に自動車爆弾だったのか?爆発現場で段ボールにバラバラになった足が詰め込まれていたのがいつの間にか未来の自分の姿に思えてくる。爆弾が爆発しても足は残るので識別表はブーツにつけているのだ。「足は箱に入っている」こういう日々の繰り返しでブライアンの無垢な部分は死んでしまった。

    ある時フセインの対空砲団の不発弾を処理し収穫前の小麦畑を全て燃やしつくした。怒った住民は手近の警察を襲って警官を殺して死体を吊るした。そして米軍は住民の自警団を全滅させ村を取り返した。この後この道にはIEDがずっと仕掛けられるようになった。これがテロ戦争なのか?

    ブライアンの物語はフラッシュバックのように過去と現在が行き来する。ブライアンにとっては同時に起こっているのでこうした書き方になったというが映画を見ているようにくらくらする。狂気の記述が痛々しい。しかし、イラクから見れば米軍そのものが狂った集団に見えるだろう。

  • イラク戦争を、爆発物処理班として戦った兵士の戦場経験と現在。
    戦争は、人間を破壊する。生きて帰ってきたとしても、以前の自分と同じではいられない。
    一兵士は、決して駒ではなく、リアルな存在であり、生涯傷を抱え続けることになる。
    リアルに語られることの少ない、一兵士と戦争との関わりが、詳細に語られる。

    「戦争に行った男はみんな死ぬのよ、死にかたはいろいろだけどね。あっちで死んでくれた方が、いっそあんたのためには幸せだよ。生きて戻ってきたら、我が家で戦争に殺されるんだからね。あんたも道連れにして」

    第2次大戦時に兵士の妻となった祖母の言葉は、過去も現在も、戦争が兵士の心に深い傷を与えるものだということを物語っている。
    現代の大義を見出しにくい戦争は、より兵士たちに深い傷を与えるのだろうか。
    肉体的には死ににくくなっている現代の戦争において、爆風が脳を壊すなど、現代の戦争が、肉体に与える影響についても、知らないことがたくさんあり、勉強になる。

  •  EOD-爆発物処理班(Explosive Ordnance Disposal)の将校としてイラクのキルクークで勤務した筆者の当時の回想と現在の状況を描いたもので、描写が頻繁にしかも突然切り替わるので、最初は読みにくかったが、次第にこの内容に相応しい書き方と思えるようになった。
     イラクでは怪しい物が見つかったと連絡があると処理にでかけ、まちぶせの罠かもしれないところで無害化し、あるいは爆発後の現場に急行し、泣き喚く女子供、あるいは怒鳴ったり睨みつける群衆の中で、汚物や血の海の中を爆発物の証拠や犠牲者の遺体を収集するのである。数百メートルも飛び散るような爆発では、ろくなものは残っていない。現場の第一線にいる個人の視線から見た現代の戦闘様相、すなわちIED(即席爆発装置)を用いた戦場の状況がよくわかる。
     このような過酷で命も危ない仕事は、無事帰国できても後遺症が残る。爆風の衝撃波を何回も受けて脳にダメージが出るらしい。筆者も帰国後2年して、狂気と呼ぶ妄想、悪夢、心身疲労などに取りつかれた。戦争に行った人は帰って来ない、命あって帰って来ても別人だ、というのはこういうことなのだ。
     

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著者プロフィール

空軍士官としてイラクに三期従軍。そのうち二期を爆発物処理班(EOD)として携わる。

「2013年 『ロング・ウォーク』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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