ガガーリン ----世界初の宇宙飛行士、伝説の裏側で

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  • Amazon.co.jp ・本 (364ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309206264

作品紹介・あらすじ

1961年4月12日、ユーリー・ガガーリンは人類として初めて地球の大気圏を離れ、宇宙飛行に成功した。だが、20世紀を代表する人物となりながら、その後の彼は、みずからが危うい人生を送る一方、ソヴィエト国家に対しては脅威をもたらすような存在になっていく。そして34歳の若さで、訓練中の飛行機により事故死したのだった。本書はKGBの未公開ファイルや、旧ソ連当局の宇宙開発における機密文書、ガガーリンの友人や同僚へのインタビューなどをもとに、この初の宇宙飛行士の-政治的圧力に引き裂かれ、アルコール依存症と闘い、無慈悲な全体主義体制に反抗した男の-真実の姿を明らかにするものである。

感想・レビュー・書評

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  • ガガーリンが、人類初の宇宙飛行を実現させた人物として名をはせ、そして34歳という短い生涯を終えるまでを、存命の関係人物に直接インタビューするなどして、取材されまとめられた本作。実際は20年ほど前に書かれたものらしいが、邦訳されたのは10年近く前。

    宇宙飛行士というと、現代の私たちは超エリートとイメージするが、ガガーリンは、明るくて真面目が取り柄の田舎の青年というのがしっくりくる人物だったらしい。
    それが、戦闘機のパイロットから宇宙飛行士として訓練を受け、実際に搭乗する人物として選ばれ、そして世界に名を残した英雄として祭り上げられ周囲から過剰視されていく中で、少しずつ明るく素直な人物が影をひそめ鬱屈していくさまが描き出されている。

    人類が誰も経験したことのない宇宙飛行という偉業を成し遂げた彼の決意、勇気、もちろん訓練など数多くの苦難には敬意を表さねばならない。
    現代からはおよそ想像もつかないほどお粗末で危険な訓練はそれこそ命がけであったはずだ。
    現に、あまり公言されていないようだが、ソ連でもアメリカでも、訓練や準備段階での事故で、(ちゃんと計算していないがざっと読むに)200人ほどの技術者や宇宙飛行士候補者が亡くなっているらしい。
    多くの才能ある若者が、冷戦の時代、国と国との争いに翻弄され、ソ連という体制に命を無駄に使い捨てにされたよう見える。
    そして、その頂点に祭り上げられたガガーリンもまた、英雄という名誉と引き換えに、多くのものを奪い取られた不幸な青年であったと思えてならない。

    そんな中、それでも救いだと思えるのは、こんな都合の悪い裏事情や、多くの尊い犠牲のもとにこんにちの宇宙事業があるという事実を、私たちが今知ることができるようになったということだろう。当時のソ連体制を思えば、恐ろしく進歩している。

    そしてひとつ疑問が。
    ガガーリンといえば「地球は青かった」の名言だと思うのだが、本作では、彼がそう発言したというくだりは一切ない。唯一「地球はとても美しかった」と言ったのがそれらしいといえばそれらしいか。
    誰かの創作文言なの?

  • その人は祖国のみならず世界中が注目する英雄となった。人類
    初の宇宙飛行を成し遂げ、無事に地球へ堕ちで来た男・ユーリー・
    ガガーリン。

    栄光の宇宙飛行士第一号は農民の息子であり、戦闘機乗りの
    パイロットだった。ある日、ソ連全軍のパイロットから選抜
    された20人のなかに入った。

    さまざまな医療的な検査や精神的な実験を受け、1961年4月12日、
    最終候補であるふたりが宇宙服を着せられてボストークの発射台
    へと向かった。未知の世界である宇宙への挑戦権を手に入れた
    ガガーリンはいくつかのトラブルに見舞われながらも地球への
    帰還を果たした。

    人類初の有人宇宙飛行を成し遂げた男。それだけしか知らなかった。
    そんなガガーリンの生い立ちから死までを綿密に綴ったのが本書
    である。

    ソ連崩壊後の不安定な時期に、ガガーリンの家族、宇宙飛行士仲間、
    開発関係者等に話を聞き、鉄のカーテンの向こう側に厳重に隠されて
    いたガガーリンの姿を描いている。

    茶目っ気があり、人好きのする青年はそのままでも有数な戦闘機
    パイロットとして成長したのだろう。だが、運命は彼に宇宙へ
    飛び立つチケットを用意していた。

    生きて帰還できる保証もなかった有人宇宙飛行を成功させた時
    から彼を取り巻く環境は大きく変化した。

    フルシチョフ政権下でのガガーリンは祖国の偉大なる英雄である
    と同時に、ソ連の政治的プロパガンダにとっても重要な人物と
    なった。

    しかし、ソ連共産党の広告塔としての役割は徐々にガガーリンの
    精神を蝕んでいく。本人は再度、宇宙へとの希望を持っていた。
    だが、偉大なる英雄を死と隣り合わせにはできない。

    宇宙へ行くどころか、本来の仕事であった戦闘機に乗ることさえ
    も禁じられた。海外へ行き、会見をし、途切れることなく舞い込む
    手紙に目を通し、政治家たちと共に国民の前に姿を見せる。

    以前の生活へ戻りたいと、どれほど願ったことだろう。空を飛ぶ
    こと。それがガガーリンの唯一の願いだったのではないだろうか。

    フルシチョフ失脚後、ブレジネフが国のトップに立ったことで
    ガガーリンを取り巻く環境も変わった。政敵であったフルシチョフ
    に寵愛されたガガーリンを、ブレジネフは敬遠した。

    皮肉なものでこのときやっと、彼は本体の戦闘機乗りに戻ること
    ができるようになった。それなのに、彼と教官が乗った訓練機は
    森林地帯の地面に激突し、青い地球を見た瞳は、再び地球を宇宙
    から見る機会を永遠に失った。

    このガガーリンの死について、いくつもの説があったことを
    知らなかった。本書では何人かの証言を検証しているが、どれが
    正しいかの判断は下していない。ただ、それぞれの証言の瑕疵を
    しているだけ。

    それが余計に著者のガガーリンへの愛を感じさせる。34歳で
    帰らぬ人となったガガーリンの生涯のみならず、ソ連・アメリカ
    の宇宙開発競争の合間に起きた事故等についても詳細に描かれて
    いる。

    しかし、ソ連の管制システムの酷さったらないわぁ。当時は極秘
    事項だったのだけれど、今じゃこうしてその拙さが暴露されちゃう
    んだものな。

    本書で一番興味をそそったのはガガーリンのバックアップだった
    第二の宇宙飛行士だったゲルマン・チトフの証言が得られている
    ことだ。第二の男の哀しさ・虚しさ・口惜しさもあるのだろうが、
    やはり一緒に訓練を受けたガガーリンへの尊敬と愛情を感じた。

  • 人類史上初めて宇宙に行ったガガーリン。明るい田舎出身の青年が如何に宇宙飛行士になったのか、そして国家のプロパガンダに使われるようになっていったのか。冷戦時代のアメリカとソ連のライバル関係もよく分かる。

  • 今冬公開される映画で話題のガガーリン。それをきっかけに読んだのだが,彼の生涯だけでなく,ソ連の宇宙開発全般に関する情報が良い点悪い点含めて描き出されている好著だった。
    同僚の宇宙飛行士(特に2番手のチトフ)との競争と友情,実験台として使われた無名のテスターたち,偉大な技師長コロリョフ,党上層部からの無理難題とそれのもたらした悲惨な事故(ニジェーリンの大惨事・コマロフの墜死),人類初の宇宙飛行を終えた後のストレス・飲酒・女性関係のごたごた,34歳で命を散らすことになった墜落の謎など,偉業の裏にあった諸事実に圧倒される。そしてあの社会主義体制下にあっても,人間はやはり人間的に生きてきたことにも気づかせてくれる。
    分厚いベールの奥に隠されてきたガガーリンの実像を,ソ連崩壊後に綿密な取材によって明らかにしたのが原書の初版本。それが十数年の時を経て増補改訂され,ようやく邦訳されたのが本書である。
    関係者への取材は,90年代後半にBBCのドキュメンタリー映画用に行われている。ソ連もKGBもなくなったとはいえ,歴史の慣性か人々の口は重く,話を聞くのに苦労は絶えなかったそうだ。分量の問題で映画には盛り込めなかった内容も収録。

  • クラスの男子が登校中に落下した再突入カプセルから宇宙食を盗んできて女子にも分けてくれた、ていう証言が良かった。どの人物も人間味溢れる。

  • ガガーリンが飛行機事故で死んだなんて知らなかった。
    多くの人々の証言で、ガガーリンの人間性に迫っていて、とても面白かった。
    ちなみに、地球は青かったという台詞は一度も登場しない。

  • ガガーリンが世界で初めて、ロケットに乗って地球を回ったということは誰でも知っているが、彼の人生のその他の部分というのは考えたこともなかった。
    宇宙に行ったことが彼の頂点であることは言うまでもないが、その後の彼の人生と早すぎる死をみると、それが良かったことなのかどうか、悩ましい。
    それでも、宇宙に行く人生と行かない人生を比べたら、宇宙に行くんだろうな。

  • ガガーリンの生涯を綴る伝記。
    数多くの人々に対するインタビューや関連資料をもとに記載されており、
    ガガーリン自身の思惑や意思が語られるというよりは、
    関係者がガガーリンを振り返るような書かれ方になっているが、
    それでも臨場感、当時の雰囲気、
    そしてガガーリンを知るのには申し分ない一冊。
    特に宇宙飛行直前直後のチトフとのやりとりは、
    チトフのインタビューに対する素直な回答もあって、
    非常に読み応えがある。
    ソ連にとって最初の宇宙飛行はあくまで政治的な儀式であり、
    そうとは知らずその主役に挑み、抜擢され、
    翻弄され続けた1人の青年の表情に、少しは近づけた気がした。

  • 「地球は青かった」の名言を残した世界初の宇宙飛行士ガガーリンの伝記。

    言葉は悪いが、明るい性格と小柄な体型だけで彼が宇宙飛行士に選ばれたような気がする。事故が多発していた1960年代のソ連宇宙開発において、失っても惜しくない人材だったのだ。だから「世界初」の後、ガガーリンは宇宙研究にも飛行パイロットとしても期待されることなく、ただソ連のマスコットとして扱われる。

    ガガーリンもそれに気付いたのだろう。さらに女性関係のトラブル、妻との不和、親友パイロットであるコマロフの事故死、後ろ盾のフルシチョフ失脚などで、彼の精神はボロボロだった。32歳での事故死は必然というか、彼にとっては最良の選択だったのでは?

  • ユーリ・ガガーリンと言えば、世界初の宇宙飛行士で、若くして飛行機事故で亡くなったことしか知らなかった。この本では彼の生涯と、当時のソ連の宇宙開発の経緯が紹介されている。
    ガガーリンもアメリカの宇宙飛行士達と同様に、前向きな性格、冷静さ、判断力、忍耐力に優れており、また周りを引きこむような魅力のある容貌を持ち、発言は場の雰囲気を察して機転が効くなど、当時の英雄に求められる資質があった。ライバルのチトフも優秀だったが、ガガーリンのほうがオープンで、誰に対しても分け隔てなく話せることが、当時の共産党幹部に支持され、初の宇宙飛行士という栄誉を受けることになる。
    人類で初めて宇宙を飛行として帰還、フルシチョフ政権時代は国民的英雄として順調だった彼のキャリアも、ブレジネフ政権時代になって厳しい状況に追い込まれる。不遇の時代を過ごし、再度、新しい有人宇宙船ソユーズへの搭乗を目指していたが、これは多くの問題を抱えた欠陥宇宙船で、彼の代わりに犠牲になったのは友人のコマロフだっ た。ガガーリンは無人飛行でも失敗したこの宇宙船の飛行停止に向けて幹部へ談判したが聞き入れられなかったという。
    これ以外にも、国家のメンツのために犠牲になった関係者の話も多く、このあたりは読んでいて悲しい気分になった。
    ガガーリンも結局2度目の飛行へ向けての訓練中に墜死するが、事故の原因は明らかにされず筆者が謎解きを行っている。
    もしこれがソ連という国でなければ、リンドバーグやアームストロングのような航空宇宙の世界での英雄として、様々なメディアや本で取り上げられ、若くして墜死することも無かったかもしれない。多くの関係者の証言による構成で、この本は謎が多い初期のソ連宇宙開発史としても読むことができる。
    冷酷な米ソの宇宙開発競争の時代に比べると、近年の日本の宇宙開発は何となくホノボノとした暖かさを感じる。日本では、有人飛行は失敗すると大変な事になってしまうので、ロケットに乗せるなら人間型ロボットで充分です。

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