デカメロン

  • 河出書房新社
4.07
  • (4)
  • (8)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 252
感想 : 17
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (769ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309206042

作品紹介・あらすじ

ペストが猖獗を極めた十四世紀イタリア。恐怖が蔓延するフィレンツェから郊外に逃れた若い男女十人が、おもしろおかしい話で迫りくる死の影を追い払おうと、十日のあいだ交互に語りあう百の物語。人生の諸相、男女の悲喜劇を大らかに描く物語文学の最高傑作が、典雅かつ軽やかな名訳で、いまふたたび躍動する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ダンテより半世紀ほど後進の同郷フィレンツェのジョバンニ・ボッカッチョ少年(1313年~1375年)は、「神曲」に傾倒し、大いにインスパイアされたようです。
    商人となったボッカッチョ青年でしたが、文学にめざめ、商貿易で培った広い視野で物語を書きはじめます。「デカメロン」には、頻繁に「神曲」のくだりが引用されています。面白おかしくパロディにしたり、揶揄してみたり……ボッカッチョは、ダンテを私淑しながら密かにライバル意識を燃やしていたのかもしれません。

    物語の設定は1348年。実際、この年、ヨーロッパでペストが大流行し、フィレンツェでは人口の3分の2が犠牲となる大災厄だったようです(人口約9万人⇒3万人にまで減少。凄まじい死亡率)。都市によっては、ほぼ壊滅した所もあったようです。

    医療技術が進歩した現代でさえ、根絶しがたいエボラ熱の流行で次々に犠牲者が出てしまいますと、世界中の人々は震撼し、その感染と死の恐怖にひどくナーバスになってしまいます。疫病や苦しみというものは、人間が描いた国境線なんてお構いなしに飛び越えてきます。当時、ヨーロッパで猛威を振るったペストは、家族や近しい人を次々に襲い、人々はパニックになり、悄然とし、生きるよすがを失っただろうな……と容易に想像することができます。

    「デカメロン」のタイトルを訳すると、「デカ」はギリシャ語で10、「メロン」は果物ではなくて、日を意味するようです。総じて「10日物語」。
    フィレンツェ市内の寺院で葬儀に参列した7名の妙齢な淑女と3名の紳士が、ペストの難を避けるため、田舎の瀟洒な別荘に集うことになったのです。
    ――はて、何をするのかな?
    どきどきしながら読み進めていきますと、1日1人1話ずつ、延べ10日にわたって、それぞれ自慢の小話を披露するという趣向(ちなみに怪談話ではないです。乱交・乱痴気騒ぎも一切なし)。

    ということで、圧巻の短編100話。すべて世俗物語です。「神曲」のように少々神経質な宗教論はなく、笑える可笑しな話がぎっしり詰まっています。金と女にしか興味のない聖職者の痛い話、零落した貴族の滑稽な話、したたかな商人や活き活きとした庶民の生活、奔放すぎる男女の肉の愛も闊達に描かれています。

    「デカメロン」で披露される小話には、毎日「テーマ」が与えられます。例えば、
    ――散々な目に遭いながら予想外のめでたい結末を迎えた話
    ――恋する人に起きた荒々しい不幸な事件の後にめでたく終わる話
    ――女たちが夫にやらかした悪さの数々
    ――愛について……。

    この作品を通してみますと、まさに、生の歓喜、生の輝き、生の横溢!(「生」が「性」になるときもあり…汗)。
    おふざけが過ぎる、猥雑だ、神や教会への冒涜、といった社会的権威者らの批判や罵声をもろともせず、痛烈な皮肉や風刺を織り交ぜて、沈淪した悲劇的な世情をあえて人間喜劇で笑いとばそうとしたボッカッチョの豪胆さに感服いたします。
    あわせて、当時のフィレンツェという都市国家の芸術・文化・表現の自由のレベルの高さにも感心しました。さすがルネサンス発祥の地なのだと。

    1話が3~5頁と短いものですし、好きなものだけ読んでもいいと思います(100話すべてに要約付きの目次がついています)。
    平川氏の平明な訳と訳注は秀逸です。また、末尾の解説は、別冊でガイダンス本にしてもいいほど充実したものですし、装丁は、コミカルで意味深長なボッティチェリの絵画(^^♪

  •  イタリアのボッカッチョという人が書いた短編集とでも言えばいいかな。
     感染症関連の本をいろいろ探していたら,ある本に『デカメロン』=『十日物語』のことが紹介されていた。なぜだかこの本のタイトルは知っていたが,この本が,感染症(ペスト)と関係があったとは全く知らなかった。

     ペストが蔓延している都市フィレンツェを離れておよそ2哩の小さな丘に立っている御殿で7名の淑女と3名の紳士が集います。そして,1人1日1話ずつ10日間,お話をするのです。それをボッカッチョが記録したという想定になっています。だから,ここには,前後の解説などの他に,10人が10日間で語った100話もの「男女にかかわるお話」が出てきます。男女の話と言えば,2人の間の生業が話題になるのは仕方がないでしょう。ここには,そういうエロスが満載です。禁断の話もあるし,牧師も大変! 人殺しもふつうだし。
     当時は,その内容故に賛否両論を呼んだらしいです。

     わたしが読んだのは,最初から,4日めの第6話までです。途中で,だんだん面倒くさくなってきたんです(そのうち図書館に返す時間となったんだな(^^;)。
     田辺聖子(『ときがたりデカメロン』という文章があるらしい)のように,本書にどんな人間模様が描かれているのかと興味津々に読んでいるならいざ知らず,ただ,単に,男女関係の短編集を読んでいるだけだと,それを100話も読み進めるのは大変です。話の内容自体はおもしろいのですが。

     半分ほど読んだ感想ですが,本書の訳文はとっても読みやすいです。たとえば「ついに望月の欠けたること無き至福の境涯に入れたと思った者が,豈はからんや,…」(p.125)なんていう表現があったりして,もう日本の文章を読んでいるようですよ。それも中世あたりの。
     他には,脚注がとても親切です。単なる語句の説明だけではなく,なぜそういう風に訳したのかとか,ダンテの『神曲』のパロディだとか,田辺聖子はこう言っているなどという話題も出てきて,興味深いです。

     また時間があれば,もう一度借りて読むかな。後ろの解説(これだけでも60ページある。しかも2段組)も読みたいし。それとも,田辺聖子の『ときがたりデカメロン』の方がおもしろいかもな。

     とにかく時間がないと読めませんので,またコロナで自粛になったときに続きを読むとしようかな。 

  • 順番間違えた(先に『神曲』読むべきだった)気もするけど、全体的に大満足。少し前に読んだ『カンタベリー物語』なんかも、けっこうこれからネタ引っ張ってきてるのかと(そう考えるとこれも順番間違えた…)。注釈・解説も含めて、多少お値段高くてもそれだけの価値はある。

  • 筆者が心の清らかな若い女性のために書いたとあった通り、恋愛と猥談がてんこ盛りの淑女のための小話集。
    貴婦人達が猥談を読んで「オホホ」と軽く手を口に添え、頻りに品よく笑っている光景が目に浮かぶようです。 

  • NDC(9版) 973 : 小説.物語

  • EU企画展2022「Ciao!イタリア」で展示していた図書です。

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BB10419252

  • 2021年7月期展示本です。
    最新の所在はOPACを確認してください。

    TEA-OPACへのリンクはこちら↓
    https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00500039

  • 学生の頃世界史で習ったボッカチオのデカメロン。こんな世俗的な内容とはつゆ知らず、読みやすい現代訳のためかとても面白かった。ダンテの神曲から影響を受けており、のちにペトラルカやチョーサーなどにも影響を与えたとのこと。中世の世界観が面白く、現代の感覚からは突っ込み所が多くもあるが、スコットランドからアレクサンドリアに至るなど、グローバルな視点に驚かされる。すぐに恋に落ちる貴族たち、ありえない作り話にすぐに騙される人、不倫しといて逆ギレする夫人・・繰り返し感も出てくるが10人が10話を語る短編集なので飽きさせない

  • 10日(デカ)間のいくつかのテーマによる短編集。今昔物語集に比せられるほど、幅広い社会階層の話を拾っている。単にキリスト教会批判と思ったが、建前でなく生きる人々をリアルに描いている。メインは男女間の恋愛駆け引き。西鶴の好色物に似る。大坂とフィレンチェの共通する権威にしばられない空気、女性の性欲も肯定している。

  • <閲覧スタッフより>

    --------------------------------------
    所在記号:973||ホツ
    資料番号:10216565
    --------------------------------------

全17件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1313年イタリア生まれ。ルネサンス期を代表する文学者。著書に『フィローコロ』『フィアンメッタ夫人の哀歌』『コルバッチョ』など。

「2017年 『デカメロン 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ボッカッチョの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×