少女小説から世界が見える

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309204598

作品紹介・あらすじ

ジョー、ペリーヌ、セーラ、アン、ジュディ、いつの時代も女の子は懸命に生きていた。若草物語、家なき娘、小公女、赤毛のアン、あしながおじさん…世界中の少女たちに100年以上読みつがれてきた"少女小説"を今、歴史のなかにおきなおすと、未知の物語が見えてくる!!あの頃夢中になった物語に隠された真実とは?"少女小説"の系譜をたどりなおす、新たな試み。

感想・レビュー・書評

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  • 児童小説というくくりではなくYAでもない「少女小説」を、歴史の中に置きなおしてみようという試み。取りあげられたのは、書かれた年代順に「若草物語(米)」「家なき娘(仏)」「小公女(英)」「赤毛のアン(カナダ)」「あしながおじさん(米)」の5作品が中心。
    子供の頃に読んだ名作が、また違う角度から考察されていて非常に興味深い。
    牧歌的イメージの強い少女小説の主人公たちが、実はその時々の社会情勢の中で必死に生きる道を模索していたことを知ることになった。
    そこには現代にも通じるテーマがいくつもある。

    「家なき娘」だけが英語圏内ではなく、かつ男性作家によるものだが、少女小説の流れの中では大切な位置づけなのでとりあげてみたとのこと。
    それでサブタイトルが「ペリーヌはなぜ英語が話せたか」となっている。
    (家なき娘の主人公は、ペリーヌなのですよ)

    これらの作品の共通点は、主人公が何らかの形で孤児であったり、孤児に近い存在だったり、ジェンダー的に曖昧だったりする。
    そして傍らに必ず、その変りぶりを引き立てるかのような「女らしい」友人や家族がいること。
    主人公たちが既成概念に挑戦していくときに一様に持つのが「ことばの力」であるということ。 読む少女。書く少女。語る少女。
    既読の皆さんは今「ああ、そう言えば!」って気が付かれたかも。

    著者はまず作者自身の人生をとりあげ、その時代背景での作品の位置づけをする。
    次に物語のあらすじ。要点をおさえた書き方でとても分かりやすい。
    それから社会的コンテクストへと話がうつっていくが、ここが大変面白い。
    「若草物語」が英国へのライバル意識を克明に語っていたり、「家なき娘」の作者が実は良心的企業家による社会改革を書きたかったこと、仏印のハーフであるペリーヌが英語を話せるのは、英国による植民地化がもたらした必然であるとか。
    日本版アニメとの相違点も書かれている。(セーラはすごい癇癪持ちだったらしい)
    「続あしながおじさん」と「ジェーン・エア」との共通点の多さは驚愕ものだ。

    少女たちは様々な経験と葛藤の末、枠にはまるように成長していくのだが、
    「赤毛のアン」だけは他の作品とひと味違うという指摘もぬかりない。

    「野心を持つってわくわくするわ。私には目指す野心がたくさんあって嬉しいわ。
    野心には終わりがないもの。ひとつの野心を達成すると、すぐにまた別の野心がもっと高いところで輝いている。これだから人生は面白いわ。」

    奨学金を受けて大学に行く可能性が出てきた時のアンの言葉だ。
    こんなことを言うヒロインが、少女小説にいただろうか?
    もちろん野心とは、より学びたい知りたいという自己拡大の夢のことだ。
    結果として大学は諦めたが、アンの野心はステージを変えただけのこと。
    これだから私は、「赤毛のアン」が好きでたまらないのだ。

    かつて読まれた方、あるいはお子たちがちょうどその作品を読む年齢にさしかかったという方、それとも、もう一度読みたいという方、これはお薦め。
    新しい視点が加わることで、物語が一層面白くなることと思われる。

    「少女小説というと、いつかは読むのを卒業してしまわねばならない時間限定のジャンルだという暗黙の認識があるような気がする。
    しかし、わたしはそうは思わない。本書によって、さまざまに可能な読みのうちの、ひとつの例を読者に提供することができたら、と願っている。」

    • しずくさん
      是非読みたい本ですね!
      是非読みたい本ですね!
      2020/06/20
    • nejidonさん
      goya626さん、コメントをふたつ入れてくださるんですね!
      ありがとうございます!(ちょっと考えてしまいました・笑)
      今日再度検索しま...
      goya626さん、コメントをふたつ入れてくださるんですね!
      ありがとうございます!(ちょっと考えてしまいました・笑)
      今日再度検索しましたが、いつも行く二か所の図書館にはありませんでした。
      でもいずれ手に入れて読みたい本です。もう二回も読まれたなんて!
      その分手に入ったとき嬉しいですけどね。
      いつも楽しくてハイペースな更新、ありがとうございます。
      2020/06/20
    • nejidonさん
      しずくさん、うわぁ!ありがとうございます!
      読みたいと言ってくださるのが一番嬉しいです。
      そちらの図書館にも置いてありますように。
      そ...
      しずくさん、うわぁ!ありがとうございます!
      読みたいと言ってくださるのが一番嬉しいです。
      そちらの図書館にも置いてありますように。
      そして、楽しんで読まれますように。
      2020/06/20
  •  二〇〇六年の本。若草物語、家なき娘、小公女、赤毛のアン、あしながおじさん、の五作をメインとして取り上げているが、関連作品も数多く言及されている。
     序章では、少女小説概論ということで、大まかな歴史や、国ごとの発展の事情、共通項についての考察。続く五章は一章一作品の形で論が進められるが、それぞれ作者の生涯と、作品あらすじが簡単にだが数ページ割いて説明されており、刊行年などデータも決まった様式で書かれていてる。「みんな知ってるでしょ」で済ませずにきちんと書いてくれているところが地味に嬉しい。コラムも「アニメになった少女小説」「花と少女」「赤毛の系譜」などとっつきやすいテーマで、初心者にも優しい。終章は「第一次世界大戦と少女小説」というテーマで四作品、一九九〇年代の作品まで射程範囲広く取り上げていた。
     批評としてドキッとしたのは、小公女のセーラが、インドやフランスの要素を持つ風変わりな王女様であったのが、最後にはイギリスの良き娘に収まってしまうという話。家なき娘のペリーヌも、仏印混血という特性が徐々に抹消されていくとの指摘が。また、私は読んでいないが『ジェイン・エア』と『続あしながおじさん』そしてジーン・ウェブスターの実人生の類似の指摘なども、ちょっと恐ろしかった。
     読んでみたくなったのは、モンゴメリのエミリー三部作。以前他の何かでも紹介されていて前から気になってはいたが、改めて。エミリー、ディーン、テディの三角関係が、オペラ座の怪人のクリスティーヌ、怪人、ラウルのそれに似ているとの解釈に興味を惹かれた。

  • 「若草物語」「家なき娘(ペリーヌ物語)」「小公女」「赤毛のアン」「あしながおじさん」を中心に、少女小説から当時の社会を読み解く。

    私は芯が強くて頭の回転の速い、心優しい女の子が好きなのですが、多分それは小学生の時に読んだ「家なき娘」のペリーヌの影響。
    アンよりジョーよりペリーヌが好きです。
    だからこの本の副題「ペリーヌはなぜ英語が話せたか」に狂喜乱舞してしまいました。

    物語として、この5つの作品はそれぞれ面白いのですが、子どもの時には気づかなかった、社会とのかかわり。

    「若草物語」が南北戦争の戦時下の、中流階級の家庭を描いたものであることはわかっていましたし、「家なき娘」や「小公女」がインドを植民地としていたヨーロッパを舞台にしていたことも、アンの子どもが第一次世界大戦で戦死したことも読んでいましたが、子どもの頃、それはただの物語の背景でした。

    確かにそれは背景なのですが、そこには同じ白人と言ってもアングロサクソン以外の人への差別や貧困、インドに対する偏見、孤児が多くいた時代、女性の社会進出など、その背景から読み取るべきことは、たくさんありました。

    子どもがそれを読み取るのは無理としても、大人はやはり、知っておくべきことなのかもしれません。
    例えフィクションでも、宙に浮いたまま人や社会とつながりを持たない物語は、ただの消耗品に成り下がってしまうと思うのです。

    子どもの頃から大好きで、何度も何度も読んだ作品を、新しい切り口で読み解くこの本は、とても刺激的で面白いものでした。
    いつか自分の読解力だけでここまで読みこめるようになりたいものですが…。

  • 児童文学のレポート用

  • 古書で購入。
    少女小説における主人公の大まかな特性や、物語の流れを紐解いて時代考察を交えた本。
    とても有名な作品が多いので実際に読破したことがない作品でも何となくわかるのが良い。興味が湧いた作品もいくつかあって読んでみたいと思う。

    小説と作家の人生についてセットで書かれてあることから、、社会における女性に対する史実としても興味深く読めたのが勉強になった。

    少女小説はディティールが大事という部分は心に残った。
    洋服やお料理、小物や部屋の描写など。
    それは女だから男だからとかいうのとは違って純粋に「女性性」を満たしてくれるキラキラした要素が少女小説をまず支えているんだなと思ったから。(これが好きな人は男女ともにいると思う)

  • 第一次世界大戦頃の少女小説から世界を見る、という本、とてもおもしろかったです。

    「若草物語」「小公女」「家なき娘」「赤毛のアン」「あしながおじさん」この5つの少女小説を中心に、ジェイン・エアやフランバーズ屋敷の人びとなどたくさんの少女小説が取り上げられています。

    ペリーヌやセーラは多文化性を持ち、祖国の文化や常識をしらない「文化的孤児」であったからこそ、既存価値観の批判者でいられた。

  • 19世紀から20世紀初めの欧米少女小説を考察した本。ピグマリオン幻想とシンデレラ幻想の共依存説が興味深い。ならば、単純にロマンチックに流されるのではなく、隷属の危険性を重々理解していながら、あえて自分から飛び込んでいくような、危ういヒロインも見てみたたいなぁ、とか思ったり。

  • 2009年読了。2010年6月に再読。

  • 若草物語、赤毛のアン、小公女・・・
    おなじみの少女が主人公の小説をとりあげて、その時の社会事情をとりあげてておもしろかった。

  • 「若草物語」から「あしながおじさん」まで少女小説の名作を歴史的な観点から女性の立場などを論じてます。って書くと難しそうだけど楽しく読めました。これらの作品もう一度読みたくなりました。

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著者プロフィール

京都市生まれ。関西学院大学大学院博士課程後期満期退学。英国ローハンプトン大学にてPhD取得。日本女子大学家政学部児童学科教授。専門は英語圏の児童文学、イギリス文化。著書に『ヴィクトリア朝の女性キャリア 写真家ジュリア・マーガレット・キャメロン』『ヴィクトリア朝の女性キャリア 庭園家 ガートルード・ジーキル』『児童文学の教科書』(以上、玉川大学出版部)、『少女小説から世界が見える』(河出書房新社)、共著に『子どもの本と〈食〉』『映画になった児童文学』(以上、玉川大学出版部)など。

「2021年 『小説家 フランシス・ホジソン・バーネット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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