- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309027968
感想・レビュー・書評
-
「アメリカの風景」「暗闇を見る」「ストレンジャー」の三部作。
それぞれ別々のエピソードかもしれないし、つながりがあるのかもしれない、くらいの気持ちで読みはじめた。NYのある男の家で話をしている。男とは、ポートレート写真のシリーズで出会い、あるイメージというか夢をはじまりとして回想を話しているようだーーぼんやりした認識とともに、回想のなかと話をし過ごしている家とを行き来する。那覇、沖縄の小さな島、開放地、大阪、NY。小さなループがあり、終わりの方で大きなループを感じた。
鉤括弧も説明もなく人が話しシーンが切り替わっていくのが、とても自然で気持ちいい。僕、J、ジャックの視線で描かれる場面や人物の仕草、ずっとあとでその視線のなかにあった人物がその人物の視点で話したり思ったりして、また別の場面が描き出される。一つ一つは短く小さな場面だ。いつのまにかそれが読んでいる私の記憶になり、既視感をおぼえる場面にであったりする。微細に揺れ動くこころと淡い期待や失敗、体の造形を追う視線に感じる、見るもの見られるものの体温。
音楽、映画、美術作品、飲み物、食べ物もよく描かれる。カンパリのビール割り、「くら」をアイスレモンティーで割ったもの...回想する中、特に飲み物はいつも片手にある。
いちばん食べてみたくなったのは、つまみとお酒でお腹がすいてきた頃に、ニルスが作ってくれる、「レモン果汁とニンニクだけのシンプルなパスタ」だった。
2章、NYでの経験のあと帰ってきた東京の彼は、少し疲れ、揺れ続けている。最後に描かれる、NYで確かに歩んだエピソードをもって。
まわりの人のさりげない気遣いや、やり取り。写真家として歩いていく前・それが生活になっていくさまを、いくつもレイヤーが重なるように描かれた、青春小説。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
きっかけは森美術館の「ワールド・クラスルーム」展で見たミヤギフトシによる映像作品の「オーシャン・ビュー・リゾート」を観たこと。静かな風景の映像とベートーベンの音楽を支えに過去が繊細に積み重ねられ、ふわりと感覚が広がる瞬間を経験できる、すばらしい作品だった、と思う。すでに私の記憶はあいまいになっている。
小説は、作者自身とのつながりを感じさせる主人公が、沖縄、大阪、ニューヨークと移動しながら、他人とのかかわりの中で自分の輪郭を探っていくような、そんな物語だった。
ずっと他人とのかかわりについて語っているのに、会話に「」が存在しない。会話を示す改行もない。主人公「僕」の視点で短めの文が淡々と重ねられていく。さらに、時に説明もなく自然に新しい人物が登場する。時間もゆらりゆらりと前後しつつ進んでいく。なので、主人公が自分を探るのと同じように、私も物語の現在地を探るような気分になった。それが心地いい。現在地といっても地点の問題ではなく、探っているのは自分の感覚のありかだ。
3章に分かれているが、最初の2つは一人称「僕」視点で語られ、最後の章は三人称で主人公「ジャック」について語られる。視点の移動のせいで、さらに私の感覚が迷子になる。ここで新たに読者として、自分の感覚を整えていくことが、主人公の渡米経験と重なる気もした。
物語のところどころに登場する実在のアーティスト名やゲームタイトルがふわふわした感覚をつなぎとめる目印のように機能していると思った。 -
沖縄やNYの空気、光、匂い。
目の前にあるかのように感じられる。
美しくて、苦しい。 -
湿度と青い海と基地のある沖縄、ビルと人が交差する大阪、様々な人種のうずまくNY、そしてその隙間...全く違う場所でもどこか心のどこかで繋がって移り変わり、そして流れていく。
風景や人物たちの心がとても丁寧で繊細にそしてたんたんと綴られている。読んでいくうちに日々流してしまう小さな欠片のような感情を、ふといくつも思い出した。
まるでそよ風がそっと肺に吹き込んできて、息の仕方を思い出させるようなわずかな気づきで、
その欠片たちは私自身にとって本当は大事なものだったことも思い出させてくれた。
写真家で現代芸術家のミヤギフトシさんはparasophiaという国際アートイベントで『American Boyfriend』という映像作品を出品されていた。それがミヤギさんの作品との出会いでした。そこで言葉の綴り方が素敵だなと思っていたので、この小説を読むことができてとてもうれしい。 -
めちゃくちゃリアルでめちゃくちゃセンチメンタル!
小説作品だけれど、作者の体験も入ってるんだろうな。記憶や思い出をこんなふうに表現できたら良いよね〜。