時間のかかる読書―横光利一『機械』を巡る素晴らしきぐずぐず

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 148
感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309019444

作品紹介・あらすじ

わずか1時間ほどで読み終わる短篇小説を、11年余の歳月を費やして読み解きながら、「読むことの停滞」を味わう文学エッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • シティ・ボーイズのコントが好きなので、著者の独特のエッセイは何冊か読んでいる。そして横光利一全集を所有している私にとって、本書はたいへん興味深い「コラボ」である。

    エッセイは著書が独自の目線で日常の出来事や人々の行動を深読みしているが、本書はその独自の目線を1本の短編小説に向けてみたという、味わい深い(?)1冊だ。
    こうした読み方もあるのか、と勉強になった(著者は本書を読んで読者に勉強してもらうつもりは毛頭なさそうだが)。

    横光利一は、作品によって印象がかなり異なる作家だ。というより作品のテーマによって文体等を変える器用な作家だ。
    「梯子」という短編があるが、これは現代のひきこもり息子とその母親だし、「笑はれた子」などはほのぼのと残酷だ。「睡蓮」などは短編らしい短編だが、やはり油断できない。
    「機械」同様改行が極端に少ない「時間」という短編は、宿の借金を踏み倒して逃げる男女数人による逃避行の話だが、酷寒の夜の空き家に隠れた彼らが「眠ったら死ぬ」とばかりにポカスカ殴り合いを始めるシーンなどは、もうコントみたいで失笑を禁じえない。疲れ切った人々の殴り合いはなぜか笑いを誘う。

    そして同じように「機械」の殴り合いのシーンもシティ・ボーイズのコントみたいで笑ってしまったのだが、宮沢氏の演出で「機械」をステージでやってほしい。
    配役は、「私」役はきたろうさん、「屋敷」は大竹さん、「軽部」は中村ゆうじさん、そして金を持たすと落としてしまう「主人」は斉木しげるさんだ。

    ああ、観てみたい。

  • 速読があれば、「遅読」があってもいいじゃないか!?
    という面白い趣向ですが、正確には「時間をかけた読書」です。朝日新聞に月一回の連載ゆえに、132回で11年という時間をかけて「機械」横光利一著を読み倒すという企画モノです。連載開始するも、やっと4回目くらいから本書の内容に触れ始めるわけですから、著者は意識的に読書時間をかける気満々のようです。また、毎回脱線というか話が縦横無尽にとんでいて楽しめます。さらに、掲載月の主要な出来事(例えば、1997年12月東京湾アクアライン開通など)が付記されているので、これだけ読んでも懐かしめます。
    では、「遅読」の効用って何でしょうか?1つは、速読では得られない思考の熟成が期待できること、さらにいえば、作者が紡ぎだす1つ1つの言葉をじっくり吟味できるという点でしょうか。著者もまえがきで触れていますが、中原中也の詩を速読する無意味さを映画の早送りに例えています。あらすじがわかれば、その作品を理解したことになるのか?というもっともな疑問です。
    本書(単行本)は、横光利一「機械」が1ページ3段組という非常識なほど小さな文字で全文紹介されている点も乙でした。
    最後に、作者プロフィールです。
    1956年静岡県生まれ。劇作家・演出家・作家・早稲田大学文学学術院教授。90年、演劇ユニット「遊園地再生事業団」を結成し、1993年戯曲『ヒネミ』(白水社)で岸田國士戯曲賞を受賞、2010年『時間のかかる読書』(河出文庫)で伊藤整文学賞(評論部門)を受賞。著書に『牛への道』『わからなくなってきました』(新潮文庫)、『ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集』(新潮社)、『長くなるのでまたにする。 』(幻冬舎)、『東京大学「80年代地下文化論」講義 決定版』(河出書房新社)など多数。

  • 0121
    2019/06/21読了
    短編をじっくり読んだの初めて。
    さらっと過ぎたところも作者の読み込み方でみると、確かにひっかかるところだったり。
    国語の授業をじっくりじりじり受けてるような感じだった。
    設定も時間経過も謎が多い…。

  • 2019/10/6読了。

  • twitterの呟きを見て気になった。

    癖でついつい1〜2時間で読んでしまったけれど、11年も掛けて短編を読み込んだ著者のように・・・とまではいかなくとも、じっくりコトコト煮込むかのように読み込むべきだと思った。

    「省略」とは「劇的なる」ものだ。

    という言葉の深さを手繰るべし。

  • 横光利一の「機械」をまず読まねばと思い、よく見たら掲載されていて助かりました。「機械」自体も大変興味深い短編で、古めいていてしかも最新型という雰囲気にゲルニカの『改造への躍動』を思い出しました。表題のとおり「機械」に対する短い論評が延々と11年間にわたり繰り広げられる姿は圧巻です。論評毎にその時点での社会の出来事が提示されることにより、論評の詳細さ、執着度合い、精読しようとする態度が強調されて感じられます。そのことが「機械」自体の奇妙さと相まって不思議な効果をあげており感心しました。「時間のかかる読書」をしてみたくなりました。

  • 一つの小説を考えて考えて考えぬいた限りない読書の歓び

    (文学部:4年生)

  • 超乱読派の僕ですが、遅読系の本は結構好きです。ただ、この本は行き過ぎていて、ほんの少しの小説をなんと11年もかけて読む、しかもそれを連載していたという、なかなかすごい内容。

    読書にかこつけた、日記でもあり、妄想でもあり、自己表現でもあるのですが、一冊の本、いやそれに満たない文章だとしても、噛めば噛んだだけ、何か出てくる、いや、自分で出す、のだ。上辺だけなめて味がわかったような気になっちゃいけないな〜。

  • 1時間で読める短編小説を、なぜか11年もかけて読んだ本。小説の内容や語句から連想された、とりとめもない話題をふらふらする様が素敵。

  • 50ページくらいの小説『機械』を、
    著者の宮沢さんが、11年かけて読んだ記録。
    朝日新聞に月連載してたらしく、その月のトピックもそえてある。

    第十六回/一九九八年八月■アップルコンピュータがiMacを発売

    とか、
    なにしろ11年である。
    一回の読書は、せいぜい五行。
    読書してる様子を読書する書。
    とにかく「変な感じ」になります。

    こんどは、この本をを100年かけて読もうか。

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著者プロフィール

1956年静岡県生まれ。劇作家・演出家・作家・早稲田大学文学学術院教授。90年、演劇ユニット「遊園地再生事業団」を結成し、1993年戯曲『ヒネミ』(白水社)で岸田國士戯曲賞を受賞、2010年『時間のかかる読書』(河出文庫)で伊藤整文学賞(評論部門)を受賞。著書に『牛への道』『わからなくなってきました』(新潮文庫)、『ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集』(新潮社)、『長くなるのでまたにする。 』(幻冬舎)、『東京大学「80年代地下文化論」講義 決定版』(河出書房新社)など多数。

「2017年 『笛を吹く人がいる 素晴らしきテクの世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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