「強い円」はどこへ行ったのか (日経プレミアシリーズ)

著者 :
  • 日経BP 日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784296115068

作品紹介・あらすじ

緊急出版!
        はっきりしているのは
    「もう円高には戻らない!」ということだ。
     市場が放つメッセージの真相を解説する。


 急速に進んだ円安。
 「国内外の金利差が原因だ(米国の利上げによるドル高の裏返しだ)」
 「日本が売られているのだ」
 「今回は悪い円安だ!」
 「やがて日本国債も暴落する!」
 さまざまな議論が交錯するなか、2022年5月には20年ぶりに1ドル=130円台をつける。その後も軟調気味に一進一退を続け、まさに「弱い日本の弱い円」状態である。

 果たして今回の円安はなぜ起こったのか?
 円安の何が悪いのたか?
 なぜこれほどまでに円は売られるのか?
 つまるところ「円安は日本売り」であり、「経済低迷に根本的な手を打たない日本政府に対する市場からの警鐘」である。現状の為替の動きは「日本回避」の兆候であり、まさに「買い負け」は今の日本を的確に表現している。日本(円)経済が岐路に立たされていることを象徴しているということだ。
 そして、円安で得をするのは、輸出や海外投資の還流に近いグローバル大企業だけで、内需主導型の中小企業や家計部門にはデメリットが圧倒的に大きく、結局、円安は両者の格差を拡大する。言い換えれば、今回の円安は、日本における優勝劣敗を徹底する相場現象と認識すべきかもしれないのだ。

 本書は定評あるアナリストが、今回の円安の構造的要因を冷静に分析しながら、将来に向けて捉えるべき課題をコンパクトに整理。為替を軸にみた日本経済の置かれた現状を解説する緊急出版。

感想・レビュー・書評

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  •  現在の日本を金融の側から分析した本で、とても良かった。黒田総裁の遅すぎた円安誘導から植田総裁の遅すぎた引締で、誰も円を買わなくなってしまうリスクが増加した。

  • 円安と今後の円の動向を知るために読んで以下のことを学んだ。
    ・以前から謎だった日銀が円安がいいと言う理由
    ・現在が成熟した債権国から債権取り崩し国への変換点の可能性がある。
    ・今の円安の主因は貿易赤字と内外金利差である。
    ・家計の貯蓄から投資への進展は更なる円安を招く。
    ・金融政策だけでは円安を解消できない。

  • 現在円安が進んでいます、私の世代の人間は20世紀末に同様の円安を経験してから円高を経験しているので、いずれ元に戻ることを期待している人もいるかもしれませんが、今回の円安は前回の時と状況が異なっている様です。

    この本を書かれた方の本を読むのは初めてでしたが、私が思っていた20年ぶりではなく、50年ぶりの円安が示唆している原因について解説してくれています。もうお亡くなりになった堺屋太一氏の予測小説「平成30年」に予測されていたことが、少し遅れて進行している様です。

    円高と低金利、低価格にこの30年間、慣れてしまった日本、これからが正念場の様ですね。

    以下は気になったポイントです。

    ・2020-2022の累積成長率において、ドイツよりも日本の低下が大きいのが目立つ、ドイツは戦争の当事国であるが、それよりも日本の落ち込みが大きいのが特筆すべき事実である(p21)

    ・日本の次に冴えないのがドイツ、イタリアである、この3カ国は原子力発電所の稼働を忌避し天然ガスを筆頭とする資源価格上昇の影響を被りやすいという共通点がある(p22)

    ・2012年以降、貿易黒字を稼げなくなったことが、その後に際立った円高・ドル安が起きていないことと無関係とはどうしても思えない(p29)

    ・2012年以降10年間の大きな変化といえば、日本から海外への直接投資が増えて、2021年末では約半分が直接投資残高となっている、それまでは証券投資残高(米国債、米国株)であった、これは日本企業の海外企業の買収の結果である(p35)直接投資の比率が増えたのは、縮小し続ける国内市場に投資するより、海外企業の買収や出資を通じて時間や市場を買う方が、中長期的な成長に繋がりやすいと判断した結果である(p40)

    ・2022年3月に見られた円安狂騒曲は、もともとあった円の需給構造変化が資源高で一段と可視化された上に、成長率や金利で出遅れ感が目立つ日本経済の状況も相まって円売り安心感が強まったことが背景にあるように思われる(p49)

    ・円安のメリット(財サービスの拡大、円建て輸出企業の収益増加・円建て所得収支の増大)よりも、デメリット(輸入コスト上昇による収益悪化)が大きくなっている(p51)

    ・円安が進んでいるのに、鉱物性燃料の輸入量を抑えるべく原発再稼働を求める声は大きくならなかった、円安を生かして観光目的の外国人受け入れの声も高まらなかった(p67)

    ・円安が進んでいるのに、鉱物性燃料の輸入量を抑えるべく原発再稼働を求める声は大きくならなかった、円安を生かして観光目的の外国人受け入れの声も高まらなかった(p67)訪日外国人のピークは2019年の1日8.8万人(p96)

    ・名目GDP成長率➖GDPでフレーたー=実質GDP成長率である、言い換えると「付加価値1単位を生産することにより得られる所得金額」の概念である(p102)デフレの原因は少々ラフに総括すれば「資源や円安主導のインフレ」ということになる(p108)

    ・2022年3月末で日本の家計金融資産は、2005兆円と、2000年3月末対比で600兆円増えているが、増分の半分以上は円建て現預金である、株式・出資金や10%前後で20年間以上ほとんど変わっていない(p115)為替にしても金利にしても、家計部門の抱える莫大な金融資産が貯蓄(保守的な運用)に回されているからこそ、日本経済の秩序が保たれている(p134)

    ・パンデミック下での日本で本当に懸念されるのは、自ら成長を放棄するような各種政策(過剰な防疫政策、タブー視される原発再稼働)が、ほぼ無批判に採用され、実行されていることだったように思う(p165)

    ・1990-2019年の30年間で(具体的には2012年頃)日本の貿易黒字はほぼ消滅したが、ドイツは3−4倍になっており世界最大の貿易黒字国となった、世界貿易におけるシェアも、中国16%、ドイツ10%に対して、日本は5%程度(p171)

    2022年9月19日作成

  • 為替は難しい。勉強になりました。

  • 長期的な視点から足元の円安を評価する取り組み。
    著者自身、書籍という陳腐化しやすい媒体であるものの腐りにくい議論に努めたとあるように主に2013年からの黒田日銀体制前後にフォーカスしつつ構造的な通貨の立ち位置を論じる。
    総括すれば円安となれば外貨に依拠するほかない、と思えるがそれもまた今後の流れで見るしかないのだろう。

  • テレビの経済ニュースでの唐鎌さんのデータに基づく分析を好意的に見ていましたので、本書を読んでみようと思いました。
    基本的な日本の立ち位置に対する認識は同じであったが、インバウンド需要や貯蓄から投資への意味に関する考察は、今の状況理解を深めてくれました。
    私自身は投資もする理系博士研究者ですが、本書で指摘している政府のコロナ対応の不味さには同意するものの、執筆時でも懸念があり、結果的にアメリカで統計レベルで平均寿命が大きく減るような死者や、400万人にも及ぶとされる後遺症による労働困難者が経済に及ぼす影響に一切触れずに、日本のマイナス面だけを指摘するのは片手落ちだと思う。

  • 現在の異常な円安の原因を、できるだけ賞味期限の長い要因を考えて分析した本、という位置付け。

    円安の要因としては日米の金利差が重点的に議論されやすいけど、ここではそれに加え、成長率と需給も大きな要因としている。コロナ禍の政府の動きが成長率などの差に直結したことする説明もあり、読んでみればなるほどと思った。

    ただ、日本の政策が本当に失敗だったのか判断するのは、もう少し時間が必要ですね。

  • 日本は貿易で稼げなくなったあたりから円買いが抑制されている可能性があるとの視点は新鮮だった。円安で喘ぐ中インバウンドの門前払いを行ったり、資源価格高に喘ぐ中原発の再稼働を行わなかったりすることによって、成長の芽を自ら摘んでしまい諸外国と対照的に低成長に悩む日本に投資する国がないというのも頷ける。原発についてはなかなか難しい問題だと思うが。幸い現在は訪日外国人の数も戻りつつあるので、今や安くなったサービス価格を全面に押し出して円買いの機運を高めていくことが重要だろう。

  • 2023/07/27

  • 通貨高は先進国の悩み、通貨安は途上国の悩み。
    為替の説明変数は多数ある。成長率、金利、需給の3つが基本的なところ。
    成長率は、コロナの緊縮度で日本が出遅れている。
    金利は日本だけ低い。スイスでもマイナス金利を終了。
    需給は、対外純資産国だったため、安全資産として円が買われた。しかし、国際収支の悪化=貿易収支の赤字+所得収支の黒字へ転換。
    成熟した債権国へ移行している=所得収支は現地で再投資されるため、需給に表れにくい。
    対外純資産は日本がドイツに追いつかれつつある。
    日銀は総合的には円安にはメリットが多いと考えているが、各論ではマイナスが多い。
    過剰なコロナ対策が、円安の遠因。

    REER=実質実効為替レートとNEER(名目実効為替レート)。2020年以降は名目よりも実質で円が下落している=名目レートはかわらなくても、世界では物価上昇+賃金上昇が起きた。=外国の所得から見ると日本は安くなった。

    名目GDP成長率ーGDPデフレーター=実質GDPデフレーター。名目のほうが実質より大きいのが普通=GDPデフレーターはプラスが普通。
    GDPデフレーター=名目/実質=名目所得(GDI)/実質GDP(三面等価の原則から)
    GDPデフレータの推移でみると、2020年ごろからマイナスで、大きな要因は輸入デフレーター=輸入額が増えた。
    国内財の上昇でGDPデフレーターが上昇するのが良いインフレ。
    交易条件=輸出デフレーター/輸入デフレーター。輸入が増えれば悪化する。輸入材の価格が上昇すると企業が吸収している間はCPIは上がらない。GDPデフレーターのほうが日本の実体を表している。
    日本のデフレは、資源価格のインフレや円安による交易条件の悪化による。
    対外直接投資は、円安要因。
    国際分業の結果であり、黒字が善で赤字が悪、ではない。
    怖いのは家計金融資産の数%が外貨へ動くこと。かなりの円安になる。円の価値低下が認識されると雪崩を打って外貨に代わる可能性がある。ギリシャやロシアで起こった。
    成長を放棄すると、世界の多くに投資機会がある中、日本の株式を買う理由はなくなる。
    貯蓄から投資へ、が本当に機能すると国際暴落住宅ローン金利上昇につながらないか。家計部門が貯蓄優先保守的運用だからこそ、低金利が成り立っていた。

    黒田総裁の「家計が値上げを受け入れている」発言は、2022年4月に実施された渡辺務によるアンケートによるもの。受け入れているのではなく諦めているが実態。

    リフレ政策は、未達だったからこそリフレ政策の支持が集まった。
    悲惨指数=インフレ率(CPI上昇率)+失業率を足した数値。
    日本では上がらない物価、海外では上がらない株価がデフレの定義。
    中央銀行の財務健全性は、通貨の信任と同義ではない。日銀の評価損が膨らんでも、通貨が信任されなくなるわけではない。スイス国立銀行は、ユーロ安スイスフラン高をユーロ買い支えで抵抗したが、抵抗しきれずやめた。そのときユーロは下落して為替差損が生じて債務超過になったが、スイスフランの信任は揺るがなかった。ユーロ導入前の分ですバンクもマルク高になって外貨準備が減少し債務超過になった。
    ベネズエラ、アルゼンチン、ジャマイカは、中央銀行が債務超過になり、高率のインフレになった。
    通貨高を通貨安にすることは可能なので、通貨高による債務超過は心配されない。債務超過自体に決定的な意味があるわけではない。
    しかし、債務超過がテーマ視されれば別。

    日本とドイツの違い。
    ドイツは安いユーロの恩恵を受けて大幅黒字。日本は円高との戦いだったが、海外直接投資によって円安基調になった。ドイツは安いユーロのため、工場が外に出ていかない。日本は、国際収支の発展段階でいえば普通の変遷を経て成熟国に変化した。ドイツは永遠の割安通貨を得た。貿易黒字は3~4倍。
    ドイツと日本は似ていない。

    IMFの外貨準備の構成通貨データ(COFER)カレンシーコンポジションオブオフィシャルふぉれいんエクスチェンジリザーブス)ではドルのプレゼンスが低下している。
    ロシアはSWIFT抜きの世界を構築しつつある。

    リーマンショック後の世界の協調路線は、2010年のg20での近隣窮乏化対策=通貨安競争を戒める内容だった。
    2022年はアメリカもユーロ圏もインフレ抑制のための自国通貨高を歓迎している。
    日本は、白川総裁のころまでは、世界の潮流に逆らって緩和を渋っている国だった。今は、世界の潮流に逆らって低金利を続けている国。

    為替参加者の意識は「長期的に正しくても短期的に間違っていれば命運は尽きる」。そのため一方向に流れやすい。

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著者プロフィール

みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト
1980年東京都出身。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、JETRO入構。2006年、日本経済研究センター出向。07年から欧州委員会経済金融総局に出向し、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わる。08年10月、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)入行。

「2022年 『「強い円」はどこへ行ったのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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