「百人斬り競争」と南京事件: 史実の解明から歴史対話へ

著者 :
  • 大月書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784272520800

作品紹介・あらすじ

「百人斬り競争」を"賞賛"した時代があった。軍人はなぜ日本刀を携行したのか。「百人斬り」は可能か。「百人斬り競争」は創作記事か。文献史料を徹底的に検証し、歴史学の立場から「論争」に終止符を打つ。

感想・レビュー・書評

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  • 「百人切り競争」というのは、日本軍の南京攻略の過程で向井少尉と野田少尉との間に繰り広げられた人斬り競争である。この事件は東京裁判で、二人の被告が死刑になったことで一般には知られていたが、それが近年クローズアップされたのは、日本刀は人を何人も切れるものではないとか、その事件を報道した新聞記事が根拠のないものだということで、二人の少尉の遺族たちが裁判を起こしたことからである。裁判は、遺族たちの敗訴に終わったが、最高裁の判決理由の中に、武器としての日本刀に対する疑義、新聞記事の事実についての疑義が含まれていた。被告側はそれで自分たちの非を認めようとしていないようだが、本書を読めばそれが無駄な抵抗であることがわかる。本書ではまず、日本刀が中国での戦闘で威力を発揮したこと、よい刀は切る箇所さえ選べばかなりの人数を切れることを多くの新聞記事や、戦地における刀の研ぎ師の存在から証明している。かつ、二人の競争が、新聞記事と異なるとしても、そうした英雄伝が当時もてはやされ、みんなが競ってやったことを、これまた多くの、とりわけ地方の新聞記事から実証している。向井の場合はそのことで嫁を迎えることができたともいう。そもそも、百人切りといっても、宮本武蔵の戦いではない。その多くは、戦意をなくした敗残兵や捕虜、そして一般農民、市民である。そんな人たちを斬ってよろこぶ兵隊も兵隊だが、それをもてはやした一般国民も同罪だ。それに、向井、野田少尉以外にも、そうした人々を殺すことを競う兵士がたくさんいたのである。当時それほどもてはやし、戦後になってそんなことはなかったはないだろう。本書では、人を何人斬ったと自慢する新聞記事が大量に引用されているが、斬られた側のことを考えると気持ちが悪くなるほどだ。

  • ふむ

  •  
    ── 笠原 十九司《「百人斬り競争」と南京事件 ~ 史実の解明から
    歴史対話へ 20080601 大月書店》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4272520806
     
     Kasahara, Tokusi 歴史学 1944‥‥ 群馬 /都留文科大学名誉教授
     
    (20220702)
     

  • 掲載]2008年8月10日朝日新聞
    [評者]赤澤史朗(立命館大学教授・日本近現代史)
    ■メディア・国民の喝采で英雄視

     「百人斬(ぎ)り競争」とは、南京攻略戦の途上で日本軍の将校2人が、どちらが先に中国兵100人を軍刀で斬り殺すかを競った事件をさしている。南京事件を否定する人たちは、これを報道した新聞記者の創作だったと主張し、2人の将校の遺族は、この事件を改めて紹介した本多勝一らを名誉棄損で訴えた。

     06年12月、裁判は原告側の最高裁での敗訴で終わる。確定した判決は「百人斬り競争」について、新聞報道には誇張があったかも知れないが、決してでっち上げではなく、斬殺競争の事実が存在したことは否定できないと認定した。この裁判で被告側を支援して史実を検証したのが著者であり、本書はその裁判での成果をまとめたものだ。

     本書によればこの2人の将校に限らず、日本軍将兵が1人で数十人の中国兵を軍刀で斬り殺したという話は、日中戦争期には数多く見られ、将兵の出身地の地方紙上で報道されていた。だがそれは実際には、敗残兵や捕虜など無抵抗の中国人を斬った場合が多いと推測されるという。

     衝撃的なのは、その当時こうした斬殺を、将兵の家族を含む地域社会が称賛し、彼らを郷土の英雄扱いしていたことだ。事件を裏で支えていたのは、マスメディアも含む国民の喝采だったことを、本書は明らかにしたのだった。

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著者プロフィール

1944年、群馬県生まれ。東京教育大学大学院文学研究科修士課程東洋史学専攻中退。学術博士(東京大学)。都留文科大学名誉教授。専門は中国近現代史、日中関係史、東アジア近現代史。主著に『南京事件』(岩波新書)、『第一次世界大戦期の中国民族運動』(汲古書院)、『日本軍の治安戦』(岩波書店)、『憲法九条と幣原喜重郎』(大月書店)、『日中戦争全史(上・下)』『通州事件』(以上、高文研)、『海軍の日中戦争』(平凡社)、『増補 南京事件論争史』(平凡社ライブラリー)などがある。

「2023年 『憲法九条論争 幣原喜重郎発案の証明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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