アジア主義 西郷隆盛から石原莞爾へ (潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (603ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784267020889

作品紹介・あらすじ

竹内好はアジア主義に何を見たのか/西郷隆盛と征韓論/金玉均という存在/頭山満、動き出す/樽井藤吉の「大東合邦論」/天佑侠と日清戦争/三国干渉と閔妃暗殺/宮崎滔天と孫文/岡倉天心「アジアは一つ」の真意/韓国併合への道/大川周明の理想/田中智学から石原莞爾へ/日中戦争から「大東亜戦争」へ 他

感想・レビュー・書評

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  • 戦争に負けてからこの方、右翼思想はあまり省みられなくなった。大川周明とか北一輝とか、何を言っていたのか現代教育だけでは殆ど知り得ない。だからこそ、近代右翼思想史を「アジア主義」と銘打ってまとめあげたこの本は価値がある。しかし、「アジア主義」という思想体系は実在せず、筆者の中島の頭の中にしかないものだろうと私は思う。

    左翼思想の背景にはマルクスという聖典があるが、右翼思想に聖典はなく、あるのはナショナリズムという沸々たる思いである。近代日本のナショナリズムの発現について語るならば、西郷隆盛だけでなくまず尊王攘夷運動から見た方が良いだろう。黒船、開国という出来事が世界と日本という国意識の発見となり、熱い論争と血なまぐさい闘争を経て明治維新に結実すると、驚いたことに革命政府は西洋型の近代国家を志向する。やがて明治政府内の政争に敗れた側が士族反乱を起こし、これが鎮圧されると今度は自由民権運動が起こる。板垣が民主的だから自由民権運動の旗手になったのではない。西郷・板垣が政争に勝利していれば、伊藤・山縣が自由民権運動を担っていたのだろう。

    自由民権運動が憲法・議会という形で結実すると、目端の効く者は議員・政治家に収まり、まだなお胸の炎消し切れぬ者が今度は朝鮮・中国眼を向ける。李氏朝鮮と清朝は古色蒼然とした専制政治を続けており、近代化を目指す現地の志士達を支援しアジアの連帯を構築しようという訳だ。

    ここに至り、近代日本ナショナリズムが汎アジア主義に転化する兆しを見せる。しかしそれは、兆しに過ぎない。アジア主義という思想とか理論的バックボーンがある訳ではなく、熱き者達の思いは政治家に利用されるだけだ。日東合邦論を利用した初代朝鮮統監の伊藤博文しかり、中国革命の支援者に満州というエサをぶら下げた孫文しかり。

    そして中島はアジア主義を帝国主義に悪用したとして石原完爾を批判する。中島のいうアジア主義の源流はナショナリズムとなるが、そもそも19~20世紀初頭の世界においてナショナリズムと帝国主義を区別できない。ドイツ帝国の版図はどこまで?とかスコットランドは独立すべき?という問いに正解は無い。国は勝利や繁栄により正当化される、とは言えそうだけれども。

    石原完爾はアジア主義という夢想家ではなく、日本が列強に対抗するには中国の資源を取り込むしかないと考えていた帝国主義者てリアリストである。昭和陸軍を作った一人ではあるが、東京や京都に居座って大東亜共栄圏を正当化する言辞を吐いていた連中に比べればかなりまともだ。日本の支配に対する反応は国により様々だったのだろうけど、少なくとも彼らがアジア主義という思想や感情を共有していた事実はない。

    そして現代、欧州には欧州イズムのようなものがある。中華主義のようなものも存在するが、覇権主義と表裏一体であることは皆がわかっている。パクスアメリカーナとて、批判と変容を繰り返しながら今日に至っている。こうして並べてみると、戦前日本のアジア主義とは支配される側を省みない中華主義に近いもの、と考えれば良いだろう。

  • アジア主義について、初めて読んだ本。
    アウトラインの把握には役立ったけど、
    登場人物が多くて、ベースとなる知識がないと
    途中で迷子になりそうになる。

    半ば無理やり最後まで読んで、
    それから興味を持ったポイントを深堀りしていくのがいいと思った。
    初心者にはちょっと難易度が高かった…。

  • やっと通読できた。この本をたたき台に、それぞれの思想家の軌跡を追っていきたい。

  • 近代日本における「アジア主義」の思想とその政治的実践の諸相について、たいへんわかりやすいことばでおおまかなアウトラインをえがき出している解説書です。

    アジア主義の入門的解説書としては、井上寿一の『アジア主義を問いなおす』(2006年、ちくま新書)が、政治思想としての側面にかなり深く立ち入って論じています。これに対して本書は、日本近代史のおおまかな流れをわかりやすく解説しつつも、竹内好や橋川文三らの「アジア主義」理解を参照しながら、「アジア主義」という思想的運動のもっていた意義と問題性を著者自身の観点から整理しています。

    ただし著者自身の考える「アジア主義」の思想的なポテンシャルがどのようなものであるのかということについては、あまり踏み込んだ議論はなされておらず、本書を読んだだけでは明瞭な像を結んできませんでした。いちおう「方法としてのアジア主義」を掲げた竹内好を批判し、「近代の誤謬を乗り越える重要な存在論・認識論」が含まれていると述べられているので、あるいは三木清や京都学派のグループによって議論されたような、「バラバラでいっしょ」「いっしょでバラバラ」な連帯のありかたに、いっそう掘り下げて考察するべき豊かな可能性があると考えているのかもしれません。

  • 孫文が漢民族ナショナリズムから満蒙を日本に譲るって言ってた、ってのは知らんかった。満州も内モンゴルも中国の一部になってる今の時代から見ると切り離す方が無茶言うてる気がするけど、今の目と当時の目が同じとは限らないのね。あと、反ユダヤ主義が日本で紹介された時に、バカバカしいからほっといたら広まってしまい、公開討論で叩きのめしたにもかかわらずさらに広まってしまった、ってのは在日特権だかなんだかいつの世も変わらんのやなぁ、と思うとごっかりしたり。

  • て何度となくアジアとして王道を歩む機会があったにもかかわらず覇道を選択した歴史は残念ながら繰り返されている。西郷隆盛から石原莞爾に至るアジア主義を標榜した面々。頭山満・大川周明・北一輝らの主張に触れてみたい気になる著作であった。

  • 東2法経図・開架 311.2A/N34a//K

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著者プロフィール

1975年大阪生まれ。大阪外国語大学卒業。京都大学大学院博士課程修了。北海道大学大学院准教授を経て、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。2005年、『中村屋のボース』で大佛次郎論壇賞、アジア・太平洋賞大賞受賞。著書に『思いがけず利他』『パール判事』『朝日平吾の鬱屈』『保守のヒント』『秋葉原事件』『「リベラル保守」宣言』『血盟団事件』『岩波茂雄』『アジア主義』『保守と立憲』『親鸞と日本主義』、共著に『料理と利他』『現代の超克』などがある。

「2022年 『ええかげん論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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