感情と看護―人とのかかわりを職業とすることの意味 (シリーズ ケアをひらく)

著者 :
  • 医学書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784260331173

感想・レビュー・書評

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  • 非常に面白く一気に読んだ

    普段うっすらと感じていたことが鮮やかに表現されていてスッキリした
    ジェンダーやファンタジー上の看護婦にも触れ、幅広く看護師について書かれていると思う
    この著者は一体結びにどんな言葉を持ってくるのだろうとワクワクしながら読み進めた
    キーツの負の能力「不確かさ、不思議さ、疑いのなかにあって、早く事実や理由を掴もうとせず、そこに居続けられる能力」が希望に繋がっているという指摘が目から鱗でこの本と出会えて良かったと思った
    読めそうな文献は読んでみたい

  •  段々と病院のお世話になりそうな年齢になってきて、医療関係の本に関心が向いてきた。そんな訳で「シリーズ ケアをひらく」の本を何冊か読んできて、本書もそんな一冊。

     本書は、主として患者との関係になるが、他人の中に感謝の念や安心感など何らかの感情変化を起こさなければならない、対人関係が重要である看護師の仕事を感情労働と位置付け、看護師がどのような気持ちで、どのように悩み苦しみながら仕事をしているのか、現場の実例や心理学、看護学に関する論述に依拠しつつ明らかにするとともに、具体的な解決策を考えていく。

     もちろん個人のレベルだけでどうなるというものではない問題も多々あるだろうが、問題があるということが多くの人に可視化されることによって、何らかの糸口となる可能性があると思う。

     自分がお世話になるときに、どういった患者になるだろうか。病気次第で自分が今考えているようにならない可能性があるのが、病気の恐いところだ。

  • 看護の始まりから終わりまでを考察する為の研究の参考図書に読みました。

    看護師って優しくあって当たり前、むしろ優しく無い看護師はよくないと思って罪悪感に浸りがちになる。
    武井麻子先生はそこを感情労働なんだから、むしろそのあるべき論というより「優しくして疲れた」気持ちを否定すべきではないと書いていて、なるほどなとまず感じたのを憶えています。

    最近は昔よりSNSが発達したり、武井先生の考え方が広まってきて「仕事で優しくする」気持ちが肯定されつつあり、また逆に仕事中にあるべき姿、理想像を演じやすくなったように思います。オンとオフというやつです。本当は演ずるのも看護師としてはどうなんだろうとはなるのですが、端くれとして、働きつづけるために私はこの選択をしています。ちょっと道からは逸れてしまっていると思います。

    ただ、無駄に気を使わなくなったので、私の場合は他の部分に気が配れるようになりました。ケアに迷いがなくなる、それによってフィジカル面の観察やチームのエンパワーメントについて。自己についてなら、メンタルの観察であったり、休養の必要性を早く察知する。何より今はやりの「自己肯定感」が低くなることが、格段になくなりました。

    あくまでケアをする人としての観点なので、チームでのやりとりであるとか、まあある程度のキャパシティの空き要領をつくると、また何かを入れて悩んでしまいがちではありますが、せっかくなら人の事に神経使うより、自分の為に使って人生楽しみたい、看護で働きながら、という自分には良い本に出会えたなと感じています。

    当時、残業してまで対応していたマンモス級の患者さんのケアを見るに見かねた上司が貸してくれました。とても疲れていてしっかり読めなくて、退院されてから読んだのですが、その上司の気持ちもなんだか伝わってくるようで、表紙を見るたび情景が浮かび、感謝の気持ちが湧いてくるんですよね。そんな一冊です。

  • これを使って、看護学校の今年の教え子にメッセージを送りました。
    看護と書いてはありましたが、我がことのように思えることもありました。家庭医はやはり近いものがありますね。

  • 看護とはなにかと聞かれて、明確に答えることは実は難しい。しかし、看護師に対するステレオタイプだけはもっている。これが現状か。

    その偏見を打ち破り、看護の感情的な困難さを様々な角度からあぶり出して見せた論考である。参考文献も充実しているので、看護だけでなく、対人援助職、ケアについて研究するための基礎文献にもなりうる。

    ・感情労働には自己欺瞞やうつ、バーンアウト、アイデンティティの危機といった危険がとなり合わせ。
    ・医師の思いやりのない言葉や態度に傷ついた患者を慰める看護師。これはチームワークではありません。看護師から考える力を奪い、医師から気づかいをする力を奪っている。
    ・共感的理解は、感じることとわからないことを分けること。
    ・相手の話を聴かない演習。両方ともうつになる。
    ・ケアすると言うことは、患者の甘えを理解し、それを受け入れる。つまり、患者があまえられないことを理解すること。
    ・共感疲労。二次的外傷ストレス障害。
    ・看護師もまた、自分の感情を吟味することの出来る場が必要なのではないか。カウンセラーと同じように。
    ・看護師もまた患者に支えられている。
    ・看護師になるのと患者になるのは紙一重。
    ・看護における人間関係への関心の低下は、看護師自身の人間的側面への無視をもたらす。
    ・キーツの詩の「負の能力」=「不確かさ、不思議さ、疑いのなかにあって、早く事実や理由を掴もうとせず、そこに居続けられる能力」

  • 看護研究のために読み始めましたが、看護師自身の感情にもきちんと向き合い、表出していくことの大切さを知り、否定的感情を抱く自分を認めることができるようになる一冊です。

  • 中井久夫を読んでいて、コールセンターの職場の問題点と病院で看護師に生ずるアクシデントが近いのではないかと感じ、読んだ。
    特に問題意識において膝を打つ気づきが多かったので、以下に。

    ・看護にはいくつかの神話がある。「共感」「傾聴」「受容」がその例で、意味があいまいなまま看護-患者関係を扱った文に必ずと言って良いほど登場する。対して同情、感情的、が悪い事として扱われる。そのため、学生は相手の気持ちに近づけば近づくほど、その気持ちが分かる気がすればするほど、「巻き込まれている」「同化している」という否定的な評価がされるという深刻なジレンマに陥る。
    大学の精神保健看護学実習の自己評価表に「援助的人間関係を築く」という項目があるが、教員から見て共感能力が高く、よく患者の感情に寄り添えたと思える学生ほどこの項目が低い。
    では、鈍感なら良いのかというと特に看護においては、非言語的サインへの気付きに大きな価値がある。感情は相互的なものであり、「感情には感情を以て対応するほかはない」

    →会社で特に研修時習った理想と現場の雰囲気が全く違い、戸惑うという声を良く聞く。コールセンターで共感、傾聴を教えない所は無いだろう。礼と心の持ち方を理想的に教えるのは良いのだが、相手が礼を以て接してくれるとは限らない時に相互的な感情が生じる。それへどのような対処をすべきなのか、も研修に含んでいなければジレンマを大きくするだけなのだろうね。

    ・看護は女性の職場で24時間の交代制なので部品的で脱人格化される。研修と学校が一体となっている所で、4年の内に3~5割離職があって普通。ほかの職種のように勤務年数に応じて複雑な仕事が与えられるようなシステムになっておらず、長年勤めた甲斐が得にくい。

    →全く同じ。対処方法がこの本に書かれている訳では無いので、他も当たってみたい。まだ看護は手に職が付くイメージがあるが、コールセンターにはそれも無い…かな。

  • まだ若い時、主任さんご紹介してくれて読んだ。目からウロコが落ちた果てに、心から納得した
    それから20年、悲しい別れが続いて、読み返した
    この仕事は、自分の感情を労りつつ、管理して、人に向き合い、寄り添い続けていくんだー

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著者プロフィール

武井麻子(たけい・あさこ)

1976年東京大学医学系研究科修士課程2年のときから12年間、治療共同体をめざす千葉の民間精神科病院である海上寮療養所に看護師およびソーシャルワーカーとして勤務。その間、英国ケンブリッジのフルボーン病院にて半年間研修。1988年千葉県立衛生短期大学を経て、1990年日本赤十字看護大学に。以来、25年にわたり看護教育に携わる。その後はOffice-Asakoを立ち上げ、援助職向けに個人とグループのコンサルテーションを行うかたわら、東京都立大学特任教授を兼任した。日本赤十字看護大学名誉教授。主な著書に『レトリートとしての精神病院』(編著・ゆみる出版)、『精神看護学ノート』『感情と看護』『「グループ」という方法』(いずれも医学書院)、『グループと精神科看護』(金剛出版)など。

「2021年 『思いやる心は傷つきやすい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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