シンクロと自由 (シリーズ ケアをひらく)

著者 :
  • 医学書院
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感想 : 36
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784260050517

作品紹介・あらすじ

「こんな老人ホームなら入りたい!」と熱い反響を呼んだNHK番組「よりあいの森 老いに沿う」。その施設長が綴る、自由と不自由の織りなす不思議な物語。万策尽きて、途方に暮れているのに、希望が勝手にやってくる。誰も介護はされたくないし、誰も介護はしたくないのに、笑いがにじみ出てくる。しなやかなエピソードに浸っているだけなのに、気づくと温かい涙が流れている。

感想・レビュー・書評

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  • 「宅老所 よりあい」所長 村瀬孝生さん。村瀬さんの本を読むと、こんなふうに自分も老いることを尊重されたいな。 こんなふうにケアしてもらえるなら、老いることが怖くなくなる気がします。老いた体のなかで20代の意識が目覚めるタイムスリップの記述はスリリング!
    著者の印象的な文章を以下に抜粋します。

    はじめに

    時の流れが速すぎてついていけません。(中略)そんなぼくが、これまで生きてこられたのは、老人介護のおかげです。決して大げさではなく本当にそう思います。

    お年寄り一人ひとりの実感に、ぼくの実感をシンクロさせることが面白く感じられました。(中略)しかしその一方で、意図的にシンクロすることを目指すほど、お年寄りを支配しようとしているのではないか、という疑念が生じはじめてきました。シンクロすることで生活行為における不自由は免れるのですが、何かに拘束されてしまい、自由を失ってしまうようにも感じられたのです。
    むしろ、お年寄りとうまくシンクロできなかったとき、万策が尽きて手段を失ったときにこそ、解放される。そんな感覚を得るようになりました。
    (中略)
    「する、される」を超えてお互いにケアしあう状況が生まれるのかもしれません。
    本書は個人の実感と主観に満ちており、そこから生じた考えで成り立っています。よって、明日からの介護にすぐ役立つことはありません。エビデンス重視の地代に逆行する本だと思います。けれど、よく分からないことに、分からぬまま付き合い続ける実践があってもよいと思うのです。(抜粋おわり)

    ほんとにそんな実践があってもよい!村瀬さんたちスタッフの方たちの仕事が多くの方に知っていただけますように!!
    ブクログに書くことで『宅老所よりあい』の応援になるといいな。そして、老人介護に光があたるといいな。

  • 福岡県で「宅老所よりあい」の代表を務める、老人介護職に長年携わってきた57歳の著者の介護経験を断片的に綴ったエッセイ集。全8章、約280ページで、各章で介護の現場で起きた印象的な出来事と著者の考察を伝える。改ページ・改行が多めで、全体にゆったりした構成となっている。

    まえがきで著者が「エビデンス重視の時代と逆行する本だ」と紹介する本書は、介護について何かしら明確な正解やデータを提示しようというではなく、あくまで著者の個人的な体験の数々を読者と共有することで老いについて考える機会を与えてくれる。介護をするお年寄りにはぼけを抱えた人たちが多く、お年寄りと介護者のあいだでは日常的にすれ違いが起こる。しかし、そんなお互いに思いどおりにはならない関係はむしろ本来は当たり前のことであり、同時に介護を通してお年寄りと介護者の感覚が「シンクロ」する状態が立ち現れるのだという。

    また、著者は長年の介護の経験から、ネガティブに捉えられることが一般的な「老い」にある別の側面にも着目する。老いには機能低下の文脈にはおさまらない躍動があり、「それは、これまでの社会生活で得た概念から解放されることで発揮され」るのだという。お年寄りは身体的にはどんどんと不自由になっていくのだが、そのことで結果として「時間と空間の概念からはますます自由になっていく」。それらを目にしてきた著者があとがきで記す「長生きしたいと思うようになりました」という思いは、もちろん死への恐怖からではなく、「老いて衰えることを実感したい」という主観的に体感する老いへの前向きな好奇心にある。

    著者による介護の方針としては、本書内ではそれほど積極的にアピールされてはいないものの、お年寄りを束縛したり閉じ込めたりといった措置を避けることを大事にしていることが伝わる。この点は第5章にある、「語弊を恐れずに言えば、当事者にとっての悲劇は運悪く死んでしまうことよりも、他者から縛られたり、閉じ込められても抵抗できないまま生きていくことではないか」という著者の思いにはっきりと表れている。そして、個人的には自分自身が終末期を迎えた際のことを考えれば、このようなスタンスで運営されている介護施設が健全に成り立っているという事実に、暗いニュースが伝えられることも少なくない介護の現場への希望として映る。

    「明日からの介護にすぐ役立つことはありません」と断りながらも、介護の現場の難しい場面や介護者の精神的なきつさについても隠さず伝える本書は、介護職を志す読者はもちろんのこと、全ての人はいずれ介護する・される可能性をもつことを考えれば、誰にとっても無縁ではない。身近な人が本書に登場するお年寄りと同じことが起きたり、もしくは自分自身がいずれはそのような立場に立つことを想像しつつ本書を読むことで、先取りして疑似的に体験する機会を与えてくれる有意義な著作だと思えた。

  • 老人ホームの施設長が語る、介護にまつわるふしぎな話たち。家族も、自分も、みんないつかいく道なんだなあ。

    • workmaさん
      伊奈さん
      こんばんは。
      いいね、をありがとうございます。
      「みんないつか行く道」って言葉、いいですねぇ…( *´艸`)
      自然に老...
      伊奈さん
      こんばんは。
      いいね、をありがとうございます。
      「みんないつか行く道」って言葉、いいですねぇ…( *´艸`)
      自然に老いていき、ボケてもいいんだよ~って感じな環境だといいな、って思います。 介護する方も一人で抱えることなく、いろんな助けがあるといいなぁ…とおもいます。
      2023/03/06
  • 特別養護老人ホーム「よりあいの森」や「宅老所よりあい」の所長をされている村瀬孝生さんの著書。高齢者にはもちろん、共に働くスタッフに対しても人間性を蔑ろにしない、暖かい眼差しを終始感じられる文章だった。

    村瀬さんは老いることは不自由になることとイコールではない、老衰には生き生きとした営みがあるという。
    本書にはお年寄りと村瀬さんのさまざまなエピソードが詰まっているが、そこには理屈や効率化を寄せ付けない人間同士の営みが語られている。
    お年寄りと介助者が互いの実感を交わして「シンクロ」する面白さにとどまらず、「シンクロ」がうまくできず、万策尽きて途方に暮れたときにこそ解放されるという気づきが深い。それは介護を数値化や効率化で捉えようとしたら、決してたどり着かない境地だと思う。

    経済成長を目指してきた社会において、「できなくなること」はネガティブで、介護はきつい仕事で人気がないという現実がある。だけど客観的でコントロールしやすくて、エビデンスが重視される社会に逆行する介護の面白さ、老衰の豊かさをこの本は教えてくれた。実際はなかなか難しいことだろうけど、その面白さや豊かさに多くの人が気づけたら、殺伐とした高齢化社会の未来像も変わるかもしれない。

  • 一つ一つのお話は現実としてみると大変なんだけど、こんなふうに考えることで愛おしくなるんだ。

    なかなかすべての介護人がこの境地にならないだろうけれど、こんな温かな介護施設や人がいることに救われる。

    タイトルの「シンクロする」、この行為は難しいがどんな局面でも救われると。

    また著者の本を読んでみたい。

  • 後半にいくにつれどんどん面白くなっていった。
    (実は半分くらい読んで、しばらく放置していた)
    途中から、作者のお年寄りたちとの関わりの誠実さに、読者の私がまさしく「シンクロ」していった感じだ。

    最初は警戒モード(笑)だった。
    介護や福祉の本を書く人(しかも男性)なんて、どこかウソがあるだろ。身を晒してないに違いない。
    そう思って読む。
    でも、だんだん、おや?この人本気かも。
    いやいや、なかなかいいじゃん。
    このサラシっぷり。
    男の人にありがちな「マンスプレイニング」がない。
    実体験の話がこの人の汗を感じる。

    そんな感じで、この著書が信じられる人だと思ってからが、楽しい!
    半径200メートルの範囲の住民にミツコさんが一人で歩いていたら連絡くださいとお願いした話。
    みんな「たまたま」見つけてくれる。
    そして「たまたま」ヒマだから送り届けてくれる。
    この「たまたま」がミソ。
    こういう協力者の気持ちの感触は、現場にいる人だからこその感覚なんだろうなと思う。

    朝の申し送り。
    職業倫理上、口に出すわけにはいかない言葉がある。「○回目で叩きたくなった」とか。その言葉を成仏させずに闇に葬ることはとても危険だと村瀬さんは言う。

    それからなんと言っても、お年寄りたちの「おはなし」の面白さ!
    「ありもしないことに付き合っても一銭の利益も生まれない。けれど、人間の面白さに出会うことができる。」
    こうやって、介助者たちが、面白いなあと思って空気を抜きながら接してくれるといいなあ。
    ここにいるお年寄りはいいなあ。

    レイヤーを変えることで、介護の仕事はこんなにも人間らしくなるのだということがわかる。

    この本が売れてるのは納得だし、うれしいことだ。

  • 老いてボケた人は社会から疎外され施設へ。これは個人が住み良い社会を目指してきた自由主義の軋みの一つだ

    仕方ない、そう思うしかない
    僕も仕事柄何人も施設に入れてきた

    その軋みの中にある、愛すべきナラティブな物語
    老いとは「あるべき自分」からの解放なんだ

  • ご近所さんと連れ立って「よりあい」に帰ってきたミツコさんの「どういたしまして」には思わず吹き出してしまった。そう言えば、私自身も特養で実習中「家に帰らなくちゃ」と繰り返し訴える利用者さんに対してどうすれば良いのか分からず、ただ一緒に施設内をぐるぐる歩き続けた経験がある。終了時間の関係で途中で切り上げなければいけなくて、最後に「帰りますね。お気をつけて」と声をかけたら顔をあげて「どうもね」と言われ驚くやら嬉しいやら…。介護の現場ではこちらがお世話しているつもりが、逆に助けられていたことが何度もあった。絶対的な正解がないことをその都度ひとりひとりが考え続ける営みこそが生きるということなのかもしれない。迷ったり困ったりしてもいいんだ。どのエピソードも本当に心に沁みる。

    • workmaさん
      tokosanさん

      『介護の現場では……(中略)絶対的な正解がないことをその都度ひとりひとりが考え続ける営みこそが生きる考え続ける営みとい...
      tokosanさん

      『介護の現場では……(中略)絶対的な正解がないことをその都度ひとりひとりが考え続ける営みこそが生きる考え続ける営みということなのかもしれない。迷ったり困ったりしてもいいんだ』の文章を読んで、「そうか!」膝を打ちました。自分も、考え続ける営みをゆるりゆるりとやっていけばよいのだ、と思いました。生きるヒントに気づかせていただき、ありがとうございました。
      2022/10/23
  • 生きるとは何か。深い。
    それよりなにより、エピソードのひとつひとつが面白すぎる。
    そしてやさしい。

  • なぜか暖かい気持ちになる!本当に優しい介護している現場の声。素晴らしい!

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著者プロフィール

宅老所よりあい(福岡県)代表。1964年生まれ。福岡県飯塚市出身。1996年2月から、「第2宅老所よりあい」所長を務める。著書に『ぼけてもいいよ 「第2宅老所よりあい」から』(西日本新聞社)、『おばあちゃんが、ぼけた』(よりみちパン!セ 25)など。

「2016年 『認知症をつくっているのは誰なのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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