摘便とお花見: 看護の語りの現象学 (シリーズケアをひらく)

著者 :
  • 医学書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (406ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784260018616

作品紹介・あらすじ

とるにたらない日常を、看護師はなぜ目に焼き付けようとするのか――看護という「人間の可能性の限界」を拡張する営みに吸い寄せられた気鋭の現象学者は、共感あふれるインタビューと冷徹な分析によって、不思議な時間構造に満ちたその姿をあぶり出した。巻末には圧倒的なインタビュー論「ノイズを読む、見えない流れに乗る」を付す。パトリシア・ベナーとはまた別の形で、看護行為の言語化に資する驚愕の一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 感情から距離を置いて、行為を組み立てる、か。看護だけに必要なスキルじゃないよなぁ。保育、介護、教育、接客業や窓口業務もきっと同じだと思う。そう考えると、働くことにとって感情って一体何なんだろうという疑問が湧いてくる。いや、感情を遠ざけて働かなければならない仕事を生み出してしまったのは何故なんだろう、と問うた方がしっくりくるかも。感情……面倒なんだけど自分の中でこれが作動しないときっと生きてる気がしないし、相手を生きてる人間だはと感じにくいだろうしなぁ。演技。そうか。職業は演技なのかも。特に、対人の職業においては。感情があると仮定された人間が、隙のない演技をする。それを職業的スキルと考えれば良い、ということなのかな。よく分からん。けど、この本を読むと色々考えさせられる。

  • (看護師たちの語りが私個人的に凄く苦手なんだなと再確認できた)

  • ◎こころ:質的研究を選んで、現象学的分析アプローチを選んで、語りを採録して、読み込んで解釈するために。
    ○ツボ:語りの現象学的分析について、理論も実例も実感できる最短距離。
    ☆問い:あなたの研究領域で、現象学的分析に適したテーマは何?

  • 大変励まされた。時間をおいてまた読もう。

  • ★ 広国大の電子ブック ★
    KinoDen から利用

    【リンク先】
    https://kinoden.kinokuniya.co.jp/hirokoku/bookdetail/p/KP00043280

  • 面白かったーーー! 最初の透析→訪問看護師さんの自分の存在観の変化と責任感の変化 がん専門看護師さんのケア観。 自分のしていることがどんなことかって、言語化するのはとっても難しい。 現象学は面白い。

  • 知識人に、哲学に欠けていたのは、こういう地べたからの態度、人への信頼や敬意の態度、他者の測り難さに素直に首を垂れる態度ではないだろうか。それがつまるところ、哲学自身に返ってくる。延命となる。
    哲学的な“タグ付け”としての註の付け方もすぐれている。決して「哲学という高踏に引き上げる」のではない、あくまで語りが主体で、個を開くための手続きとしてタグがつけられる。

  • 看護師に対するデプスインタビューという珍しいアプローチの本。
    自分を冷静に分析する淡々とした語りの中に、自分自身の悲しみを再自覚して時々ふっと涙。

    [more]<blockquote>P42 困難な現実を引き受けていくプロセスは、人の一生のプロセスそのものであり、短期間に人為的に操作できるものではない。「受け入れなさい」と受容を迫られることそのものが暴力であるかのように感じられている。
    【中略】現実を背負い込むということは、感情の水準で生じるものではないのである。共感とは異なるものなのである。

    P55 感情移入に基づいて看護することと、所有しようとすることは同じ。経済という装置を用いたことが感情から離脱することを可能にする。経済関係の中でむしろ人は阻害されることなく出会うことができる。

    P82 ケアって言えないものがいっぱいあるのかなって思ってて。でもそれは看護だろうって思うものはいっぱいあるんですね。

    P87 ケアされ続けて何一つ果たせない自分という苦しさを反転するのは、この患者さんにとっては実は写真を撮るという趣味の回復ではなく奥さんにお土産を買うという贈り物だったのである。何かを果たすことが、妻のために何かをすることで達成されたのだ。意図を超えて、患者さんの意図が実現した時に「ケアの彼方」が実現している。

    P89 この人のスイッチっていうのが見つかるときがあるんですよ。それがこう、看護かなって思ってます。

    P122 (透析患者にたいして)逆に干渉しすぎるんじゃないですかねきっと。見えるから全部。

    P134 言いたいことをしゃべるのは悪い看護だが、「人として素直に感情が伝えられている人」は良い看護師である。前者の悪い看護では「規範意識」から言いたいことを発せられているのに対し、後者のよい看護の時には規範意識を捨て去ったところで「看護師っていう役割を背負わずに人として素直に感情が」語られているからである。

    P165 一つの状況の中で複数の関係者たちが別々の方向に行動することが、複雑化なのである。

    P202 抗がん剤は「命の綱」として生死に直結するように患者に思える【中略】普通の薬とは「全く別で」「ドキドキ感」があるのだ。「ドキドキ感」は死という終着点が見えることに由来する。

    P238 死生観を持っておられない方もいらっしゃるんですよね。死んだら終わりとか死に関して否定的なことをおっしゃる患者さんに対しては、悲しいだけじゃやっぱつらすぎるなっていうのがあって。それだったら幸せな時間をつくり出すことを演出してもいいのかなって思ったんですね。

    P262 「何もできない」その時に行なわれる看護実践とは「生きている瞬間」への「立ち会い」である。

    P299 人の死に生かされているって思うのは、その人はそのために生きてるわけじゃないからちょっと失礼だなとか思ったりもするんですけど。
    (死にゆく)子供は贈り物をしたとは思っていない。客観的にも看護者のために子供が存在したり苦しんだりしているわけではない。看護者が勝手に贈り物として受け取っている。この時の贈り物は交換になることのない絶対的な贈与である。

    P334 立ち会いと関係するのが沈黙である。沈黙の中で看護師が患者や家族に立ち会っていると思われる箇所がある。

    P342 哲学において方法は、研究を実際にやってみてから後で決まるということだ。

    P348 即興的な語りは、既に語られた内容を消すことができない。訂正しても訂正された内容は録音に残り、この訂正したということそのものが、背景の構造を暗示する手がかりとなる。その意味でインタビューに「否定」はない。語られたすべてが蓄積し、構造を成す。</blockquote>

  • この本を読んで、本当に驚いた。Gさんという小児がん病棟に勤めておられる看護師さんの幼少期〜大学までの経験や行動、物事に対する感性があまりにも共通しているのだ。人間を構成するのは、その人間自身ではなく、環境だと言うが改めてそれを感じた。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程満期退学。基礎精神病理学・精神分析学博士(パリ第7大学)。現在は、大阪大学人間科学研究科教授。専門は現象学、精神医学。著書に『治癒の現象学』(講談社メチエ)『レヴィナス』(河出ブックス)『摘便とお花見-看護の語りの現象学』『在宅無限大』(医学書院)『仙人と妄想デートする 看護の現象学と自由の哲学』(人文書院)などがある。

「2023年 『客観性の落とし穴』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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