本当の戦争の話をしよう: 世界の「対立」を仕切る

著者 :
  • 朝日出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784255008165

作品紹介・あらすじ

プレハブ校舎にて、「紛争屋」が高校生に本気で語った、日本人と戦争のこれから。

「もしもビンラディンが、新宿歌舞伎町で殺されたとしたら?」
「9条で、日本人が変わる?」
「アメリカ大好き、と言いながら、戦争を止めることは可能か?」

平和を訴えても、「悪」を排除しても、戦争はなくならない。

「全ての問題には必ず何らかの政治的決着――戦争や武力闘争も含めて――があるとして、それをできるだけ早期に、そして、なるべく人が血を流さないものに軟着陸させる」

   *

僕は、人をたくさん殺した人や、殺された側の人々の恨みが充満する現場に、まったく好き好んでじゃないけれど身を置き、人生の成り行きで仕事をしてきました。
正直言って、楽しい想い出はありません。だって、今、目の前の人間が大量殺人の責任者で、自身も実際に手をかけているのがわかっているのに、笑顔で話し合わなければならないんですから。
こういう話は、日本の日常生活とかけ離れていて、別世界で起こっていることのように聞こえるかもしれない。でも、所詮、人間がすること。同じ人間がすることなのです。
なるべく、日本人が直面している問題、過去から現在に引きずっている構造的なものに関連させて、僕が現場で経験し、考えたことを君たちにぶつけてみたいと思います。
扱う国と時代を行ったり来たりすることになると思うけど、ついてきてくださいね。(「講義の前に」より)

感想・レビュー・書評

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  • インド、東ティモール、シエラレオネ、アフガニスタンなどで起こった紛争や戦争による対立を仕切ってきた著者による、福島高校の高校生への講義と議論の記録。武装解除の話や子供兵の話はとくに、ごくっと唾を飲みこむ緊張感に包まれながら読むことになりました。

    戦争がらみの国際問題の本で400ページを超えるボリュームです。手こずるかな、とちょっと気構えをして手に取りましたが、それでも話し言葉で進んでいくので、意外とわかりやすく読めました。それに、高校生にもわかる論理と言葉づかいですから、なおのことでした。

    本書の性格がどういうものなのか、「講義の前に」と題された著者と高校生がはじめて対面する場面の様子の章にある文言を引用するとわかりやすいので、以下に記します。
    __________

    僕は、人をたくさん殺した人や、殺された側の人々の恨みが充満する現場に、まったく好き好んでじゃないけれど身を置き、人生の成り行きで仕事をしてきました。正直言って、楽しい思い出はありません。だって、今、目の前にいる人間が大量殺人の責任者で、自身も実際に手をかけているのがわかっているのに、笑顔で話し合わなければならないのですから。
    こういう話は、日本の日常生活とかけ離れていて、別世界で起こっていることのように聞こえるかもしれない。でも、所詮、人間がすること。同じ人間がすることなのです。
    なるべく、日本人が直面している問題、過去から現在に引きずっている構造的なものに関連させて、僕が現場で経験し、考えたことを君たちにぶつけてみたいと思います。(p47-48)
    __________

    第一章ではまず「構造的暴力」という言葉ががでてきます。わかりやすいところですと格差や貧困、差別、そういったものを「構造的暴力」と呼びます。そして、「主権意識」。米軍が駐留している日本に、たとえばテロリストが潜伏していて、それを米軍が日本政府に知らせずに捕獲作戦・殺害作戦をやったとします。そのときに、日本政府は強く抗議などできるのかどうか、そして日本人はその作戦にどれくらい嫌悪を持ったり批判したり抗議したりできるのか。そういったところに関わってくるのが「主権意識」です。後半部では、「原則主義」と「ご都合主義」のバランスの取り合いの話があります。たとえば「人権は守らねばならない」というのは原則ですが、現実としてどうしても守れない場合もあります。守れないことを容認するのが「ご都合主義」ですが、社会の風潮として、この「ご都合主義」が強すぎるように著者は考えている、ともありました。「原則主義」も大切だから、ほんとうならパワーバランスをとりたいわけです。

    もはやこの第一章のみでもおなかいっぱいになってしまうくらい、現実的な生々しい問題がいくつも取り扱われています。正解のない、割り切れない問題なのですが、状況や内情を鑑みながら、最善手を見つけだして打っていかないといけない。それも、相手の細かい心理や信条、立場を想像し考慮して、ときに厳しくしたり、ときに相手に利したりしながら、交渉を遂行していく。でもって、めちゃくちゃ緊張感と重責があります。そういった現場を経験してこられた著者からの高校生への解説や問いかけを、読者も頭をひねりながら聞く(読む)ことになるのでした

    第二章以降は、セキュリタイゼーション、脱セキュリタイゼーション、子供兵、憲法9条、核兵器、原発などにいたっていきます。そのなかであらためて感じたのですが、日本人は原爆を投下された恨みを、アメリカに対してではなく、概念としての戦争に向けました。これってほんとうにすごいことではないでしょうかねえ。僕には日本人の素晴らしいところに思えました。憎しみの連鎖を回避していますから(これはp291あたりの話でした)。

    国際支援・援助のところも考えさせられました。他国への援助をする大国、アメリカにしろ中国にしろロシアにしろ、援助先の国からの利益を考えていて、「地政学的に重要だから密接になっておこう」「この国で採れる鉱物が重要だから親しくなっておこう」などの打算が強く働いているものだそうです。かたや日本のやる国際援助は、あまり国益を考えずその国の発展や平和のためを思ってやっている意味合いが強い正直な国際援助なのだとあります。これをおひとよしととうかどうかなんですが、著者も言っているのですが「だからこその強み」ってあるような気がします。日本の外交って、こういう正直さ、つまりあたりのやわらかさを基本として信頼を築いたり、向こうの警戒心を緩めたりできるかもしれなくないでしょうか。

    また、援助先の国の治安が悪くならないようにとか、賄賂などの汚職がはびこらないようにとか、援助した金品が中抜きされないようにとかを考えに入れて援助するには、その国の内情をよく知らないといけません。内情を知らずに援助をしたがために、その国のバランスがもっと崩れて激しい内紛に繋がることもあるみたいです。そういうふうに考慮して援助・支援をすることを「予防開発」と呼ぶそうですが、著者の考えは、「予防開発」のための(もっと言うと戦争を回避するための)諜報活動って必要なんじゃないか、ということでした。諜報活動はいわゆるスパイを放って、他国の情勢を探り自国への脅威はないかを知り、相手国をくじく弱点をつかみ、といったように、自国が勝つためのものといった性質が強いのかもしれませんが、うまく戦争を回避するための外交交渉のエンパワメントのための諜報活動があってもいいんじゃないか、と。よく言われるように、「戦争」は「外交の失敗」にあるのならば、その外交能力がどれほどのものだったのかが知りたくなります。その外交能力を支える活動がどれだけなされていたのかが気になってくるものです。相手国をよく知れば、切れるカードは増えそうだし、効果的なカードが手に入ったりもしそう。そのための諜報活動は、現実的に考えて、あってもいいのかもしれないですね。

    というところですが、恥ずかしながら、想定外の話がたくさんありました。国際問題や国際政治の裏側で、現実にその状況の都合にあわせて駆け引きや妥協をしながら、鎮静に向かわせたりしている。きれいごとだけじゃ無理というか、一枚めくると、きれいごとなんかはさっぱり通用しない状況だったりするみたいです。それは、それぞれがサバイブするために真剣だからそうなるのかもしれません。サバイブするためには、様式よりも実益なんです。そういう意味では、こういう本を読むことは、「人間を、よりもっとよく知る」ことにもなるんだと思います。僕の場合は、それゆえに自分の生ちょろさがわかるような読書体験でした。

  • すごくおもしろかった。
    自分の知らない仕事、世界の話。
    平和がいかに困難な問題かよくわかった。
    たくさんの人に読んでほしい。

    この方も早稲田出身。早稲田出身の方って、サラリーマンじゃないとこで超すごい活躍してる人多いなあ、と思う今日この頃。

  • 紛争屋として戦争や内戦の現場に行き、対立する武装勢力と交渉して武装解除させる仕事をしてきた。原子力の被害者である高校生相手に、現場の実際、国連の措置や活動、戦うことや軍隊、9条について語り合う。

    9条は世界にはあまり知られていないこと、でも日本は、紛争の交渉に際して利害のなさそうな介入者としての立ち位置がとれることを知りました。不利ではなく意外な利点でした。

  • ①われわれは戦争をしたくはない
    ②しかし敵側が一方的に戦争を望んだ
    ③敵の指導者は悪魔のような人間だ
    ④われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う
    ⑤われわれも誤って犠牲をたすことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる
    ⑥敵は卑劣な兵器や戦略を用いている
    ⑦われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大
    ⑧芸術家や知識人も正義の戦いを支持している
    ⑨われわれの大義は神聖なものである
    ⑩この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である
    『戦争プロパガンダ10の法則』

  • 有り 319/イ/14 棚:閉

  • シエラレオネ、東ティモール、アフガニスタンと紛争地に出向いて渦中で働いた伊勢崎賢治と福島高校生徒のセッションのような授業の記録。
    ーー僕の経験談のなかに、新たな発見をする場面がいくつも出てきた(結局、僕自身も、人殺しを厭わない正義の民意をつくる「仕掛け人」を演っていた……とか)。ーーあとがきより

    氏の経験は高度な政治的な介入の力をふるうことであり、現地の武装勢力や人々や権力者にに直接働きかけることだった。結果として彼らを騙すことになったり狂暴化させてしまったり放り出す形になったり……とても肯定する気にはなれない。しかし、否定もできない。役割として目覚ましい活躍をされたとも思う。

    読んでいる間中モヤモヤした。国連や西側の大国が人道的介入や支援をして、後々までとても良かったと言い切れるケースはどのくらいあるのかと。人道人道と言いつつ自国の利益が絡むものであるし、そうでないのも胡散臭いというか無責任にもなるだろう。

    氏の言うことはなるほどと思うことが多いのだけれど、御本人が過去の立場から大きく離れて議論が深められていないように感じた。
    一方、高校生のひとりひとりは明確にかかれてなく合いの手ほどの発言だけだが、とても冷静な感じがした。彼らの考えを改めて聞いてみたい。

    個人的には連合国軍ベースの国連、アメリカに頼ること大の西側諸国イコール国際社会という枠組みがもうポンコツなんだと思っている。

  • 世の中単純でないこと、短絡的な正義の悪影響と、国際平和がよく分かる。

  • 大変いまさらながら読んだ。さすがに面白い(けど、これだけ現場感のある話が面白くないはずはない)。

  • これからの世界において、日本のとりうる立場、できることってなんだろう。

    紛争地で武装解除や戦後の整地などを請け負う伊勢崎賢治さんが福島の高校で高校生とディスカッションしながら進めた講義を収録。

    国連の多国籍軍が紛争地で何をしているのか、現代の紛争や戦争のシステムや他国の関与について、こんなに具体的な話なかなか聞く機会がない。すごく刺激的で、ものすごく面白い。

    平和ボケと言われて久しい日本人には耳が痛かったり、目からウロコだったりする話がどんどん飛び出すけれど、世界を見る目が明らかに変わる。

    そして、日本を見る目も間違いなく変わるので(その発想はなかった!と思わさせる。現場を知っている人にしかもてない目線)、これ、多くの人に読んでほしいなあ。とくに若い人たちに。

  • こんな話にちゃんとついてきている高校生、すごい。感心した。えらすぎる。
    しかし、よく考えると、著者は、積極的平和のためなら、殺人も辞さない立場で物事を進めてきた人。かたや福島の高校生は、国家の政策の犠牲となって、大切なものを全て奪われた。よくも、まあ、そんな子ら相手にこんな話ができたもんだ。
    人の命は、はかなく、世の中には、人殺しなんて、なんとも思わずためらわずできちゃう人ら、ごまんと居る。そんなの、日本の大多数の人にとっては、テレビの向こうの非日常にしか存在しない。私は、暴力装置が、目に見える形で存在するところには住みたくないから日本に住むことを選んだし。
    こんなに平和な日本で育った人を自衛隊として、送っちゃっていいわけ?といつも思う。
    直視しなくて良いなら、9条❤️で終わらせときたいが、それではすまないところへ日本は引き摺り出されつつある。
    個人的には、アフガンが鎮静化して、戦犯だらけの傀儡政権作っちゃって、どうよ、その人選ってインドでの報道を見て思ってたわけだけど、なるほど、そういうことだったのね、って長年の謎が解けた。しかも、この人が、一端噛んでたのね。たんなる自慢話ではなく、自戒と反省を語っては、いるけど…。

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著者プロフィール

1957年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。2000年3月より、国連東ティモール暫定行政機構上級民政官として、現地コバリマ県の知事を務める。2001年6月より、国連シエラレオネ派遺団の武装解除部長。2003年2月からは、日本政府特別顧問として、アフガニスタンでの武装解除を担当。東京外国語大学教授。プロのジャズトランペッターとしても活動中。著書に『武装解除 紛争屋が見た世界』、『本当の戦争の話をしよう』『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』(共著)などがある。

「2019年 『リベラルと元レンジャーの真「護憲」論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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