評価と贈与の経済学 (徳間文庫カレッジ う 1-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784199070266

作品紹介・あらすじ

本書で示されるのは、新しい「交易」と「共同体」のありかた。貨幣も、情報も、評価も、動いているところに集まってくる。ならば、私たちはどのような動きをする集団を形成すればいいのか。そのために個々ができる第一歩とは。キーワードは「情けは人のためならず」。若者と年長者の生態を読み解き、ポストグローバル社会での経済活動の本義にせまる変幻自在の対談。笑って、うなって、ひざを打つこと間違いなし!

感想・レビュー・書評

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  • 二人とも好きな論客で、特に岡田斗司夫は考え方が面白くて良く動画で見るのだが、本著で文字を追うと、何だか斬新さを通り越して暴論。一般化不可能なテーゼが目立つように感じ、ややいい加減だなと思い、そのいい加減さも自覚しながら人を食ったような態度も含めて岡田斗司夫なんだな、と一人納得。

    何がというと。フリックスという、ファンから金を巻き上げる投げ銭機構。家族の株式会社化、最短距離の異性との結婚のススメ、大学不要論、などなど。論拠も立脚点も明解だが、そこには選民思想があって、優秀な個体が為の発言を厭わぬ前提があるわけで、奇抜さや逆張り的なアイデアの面白さはあれど大衆受けせず、教祖様だな、と。

    義務教育こそがプラットフォームなんじゃないか。で、同時代的なサブカルの完パケがあって均質化された世代間格差が生まれる。ロスジェネ論はある面では正しく、団塊世代やゆとり世代が馬鹿なのではなく、その中間に位置する世代。キャプテン翼やスラムダンクでスポーツをして、ドラゴンボールでタフさを学び、不良漫画でスクールカーストを生き抜いた世代が、人格形成に必要な若者文化における文化弱者世代を嘲っている。精神論が通じるのは、精神論に溢れた漫画やドラマに育てられたからだ。子供たちへのサブカルの影響は大きい。内田樹がマスメディアの必要性を述べていたが、サブカルの蛸壺化こそ、共通言語と文化の喪失を齎す一因のような気がする。

  •  よく高校の現代文に出てくる思想家の内田樹と、一昔前にオタクで流行った岡田斗司夫の対談。今の日本社会の様相、人間関係について話している。
     冒頭に岡田斗司夫が「『内田樹ファンの岡田斗司夫が、内田さんに直に話を聞く機会を得て大はしゃぎでいろんなことを聞く』という内容」(p.11)と述べているので、そういう姿を想像しながら読んだ。なるほど、と思うところも多いし、「贈与」が大切なのだろうけど、ある程度贈与したとしても、そこまでの域におれは達することができるのかなあ?という感じ。対談当時(2012年)、内田樹は62歳、岡田斗司夫は54歳だそうだから、自分がそれくらいの年齢になった時に、どれくらい共感できるんだろう?と思った。
     基本的には、これじゃあ今の日本、今の若者はダメだよね、というような感じになっていて、なんでダメなのか、どうすればいいのか、という話だから、あんまり楽しく読める本ではないけど、分析の鋭さを鑑賞する楽しみ、みたいなものはあった。
     あとはメモ。若者の話で、「元ネタがあると言われると不機嫌になる」(p.26)なんて、へえ、そうなの、と思った。あんまり実感湧かないかなあ。こういう場面がないからなあ。「心が折れる」という表現が昔は無かった(p.30)というのは意外。あまりに普通の表現すぎて。これは「閾値が超えて壊れるんじゃなくて、閾値が下がってもたなくなる」(p.31)ということだから、どうやったら閾値を上げるような過ごし方ができるのか、あるいは働きかけができるのか、教員や親は考えないといけないなあと思う。内田先生は「かつては安定したキャリアのコースがあったという話を聞くと、いったいいつの話してんだよと思う」(p.52)ということで、「明治以来だいたいいつも若者たちの前に拡がる未来はどうなるかわからなくて、いつも不安定」(同)ということだそうだ。視野を広げるということは、こういうことなのか、という感じ。あと、嘘の言説、という点では、「昭和の家族のイメージ」(p.114)かな。みんなで楽しくやっているというよりは、基本的に無言、という。ただ、これは内田先生の場合はそうで、わいわいやっている家庭ってなかったのかな、とちょっと思った。まあ、どっちでもいいけど。それから、今の若者は「我慢はしたかもしれないけど、努力はしてない。」(p.57)という、もう我慢=努力と思っている人も多いだろうしな、と思う。「『早く、早く』って言うやつは努力の効用をほんとうは信じていない」(同)というのは、確かにその通りだろうと思う。努力の話は、この1つ前に読んだ『モチベーションの心理学』にもあったけど、フランクルの「自分個人より重要な何ものかへの献身の果てに生じる予期しない副産物のように生じるもの」っていう話に通じる気がする。日本社会は「もう成長戦略というのはありえない。社会全体がゆっくりと勢いを失ってゆく。この趨勢はもう回避できない」(p.85)というのも、そうだよなあ、と思う。株とか日本株はもう上がらない、とかどっかで読んだような。あとは人と話している時にケータイをいじるのが「礼儀作法」っていう話(p.121)は共感できないなあ。やっぱり失礼だしなあ。そこまで理由を付けなくてもいいんじゃないかなあ。単純に飽きっぽい(注意散漫)とか、衝動を抑えられないとか、そういう傾向を表しているだけなんじゃないか、と思う。「養老孟司先生がとにかく子どもたちをみんな田舎連れていけって言ってる」(p.123)という話で、うちのクラスでこの養老メソッドを実践した結果、ものすごくよい子というのがいるので、「身体性」があるというのはそういう子のことを言うのか、と思った。おれは教員なので、教室の話とかになると興味を持って読んでしまうが、「敬意って、感染力がすごく強いから。一人でも先生を尊敬している子どもがいれば、クラスの中にじわじわとその尊敬の念はしみ込んでゆく。」(p.130)というのがあるらしい。けど、思春期の中学生はどうかなあ?あんまり実感としてはないかなあ。あとはこの本のタイトルにもなっている贈与、について。とにかく贈与する、「人のお世話をするというのは、かつて自分が贈与された贈りものを時間差をもってお返しすること」(p.144)という話は分かりやすい。さらに、「『資源を持ってる人』がパスの流れのなかにいて、すごい勢いでパスを通していて、『資源を持たない人』は最初に来たパスをそのまま抱き込んで、それを次の人に出さないので、そこで流れが切れてしまっている」(p.145)、「貨幣も情報も評価も、動いているところに集まって来る。貨幣の本質は運動だから、貨幣は運動に惹きつけられるんです。だから、どんどんパスを出していると、『あそこはパスがよく通るところだ』って貨幣のほうから進んでやってくる」(pp.145-6)ということらしい。これは納得。おれもケチケチ溜めこむの止めよう、とか思った。基本おれは貧乏性だし。あとは最近はもうめんどくさいと思って、動く、というのがなかなかできなくなってきているのを感じる。「外部に多くの友人を持っている人間が、集団内部でいつの間にか高い地位に達する」(p.172)というのもこれに関係あると思う。それから若者が強くなるためには、という話で、「彼らはまず他人に与えないと、生きている手ごたえを感じるのは無理なんですよね。彼らが供給側に立たないと。」(p.152)というのは納得。けどおれは中高生を相手にしてるから、しかも受け取る絶頂にいるような人たちなので、これも難しいかなあ、とか。「贈与する側に立ってはじめて贈与の意味がわかる」(p.155)というのはそうだろうと思うけど。あと自分が実践したいのは「親切にすればするおほど、親切の総量は増えてゆく。親切にされた人は他の人に親切にするから。これは資本主義に雄ける貨幣のやり取りとはまったく違うモデル」(p.160)というのは、納得した。あとはネットや何かの悪口というのが、「読むと、こちらの生きる力が損なわれるテクスト」(p.178)という、なるほど、と思った。「読んでいるうちに、こっちの生命力がだんだん衰えてきて、こちらの感受性がだんだん汚れてくる」(同)という。こういうのあるよなあと思った。最後に、「『若さには価値がある』と若者が自分で言明するのは自殺行為なんです。それは『老人は無価値だ』という言明と裏表ですから。よほど手際よく若死にしない限り、誰でもいつかは老人になる。未来の自分に向けて吐きかけた呪詛はいずれ自分に返ってくる。そういう危険な言葉は口にするものじゃない」(p.215)というのも納得した。
     面白いけど、37歳の自分が読むと、3分の2は一緒になって今の若者は、と思い、3分の1は自分が説教されているような気も、という感じだった。(22/03)

  • 内田樹と岡田斗司夫が対談してるなんて!と、衝動買いしてしまった!!
    そんなにうまくいくかなぁ〜と思いつつも明るい気分になれる、そんな対談でした。
    私も人に与えられる人になろう。

  • 困った人に贈与したいし、お金にならないことも評価したい。

  • タイトルは堅いですが、対談形式の会話体ですし、マンガ、アニメ、映画、ロックなどのポップカルチャーなどの例が数多く引かれ、現代日本の身近な現実が語られていて、非常にわかりやすい、納得度の高い内容でした。
    お金で価値が計られ、効率性が追求され、競争で勝敗が決して格差が拡大していく現代の資本主義のあり方には、そろそろ限界が来ているのではないか、金銭の交換以外の価値を見いだし、新しい共同体の形を見いだすしか未来はないのではないかという問題意識は非常に共感できますし、対談者の2人が示すその解決策として実践中のモデルもなるほど、と思えるものでした。
    その思想を広め、それを実現するための多様なソリューションを見つけていくのは正直大変だと思いますが、僕自身もこの動きを意識して、これからの人生を考えていきたいと思いました。

  • 内田樹氏のファンなので、読みました。
    対談相手の岡田斗司夫氏も内田氏のファンとのこと。
    岡田氏の「相手の前で携帯を使うのは、彼らの礼儀」という話しは面白かった。
    内田氏の「教育の問題は、いかにエンドレスの成熟プロセスに自分を放りこむようになるか」という言葉が印象に残った。

  • 【新書版 2013年 有り】

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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