ヒカルの卵 (徳間文庫 も 18-2)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (455ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198940492

作品紹介・あらすじ

「俺、店を出すぞ」ある日、自称・ツイてる養鶏農家の村田二郎が、村おこしに立ち上がった。その店とは、世界初の卵かけご飯専門店。しかも、食事代はタダ、立地は限界集落の森の中、とあまりに無謀。もちろん村の仲間は大反対だ。それでも二郎は養鶏場を担保に、人生を賭けた大勝負に出てしまう。はたして、過疎の村に奇跡は起きるのか? 食べる喜び、生きる素晴らしさに溢れたハートフルコメディ。

感想・レビュー・書評

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  • 2023.12.6 読了 ☆9.7/10.0



    森沢明夫さん7作目の本作
    蛍原川の流れる田舎の限界集落が舞台で、毎日、父から継いだ養鶏場のニワトリを”姫”と呼びながら世話をして暮らすムーミンのような男、ムーさんこと村田二郎が、村おこしのためにその集落の山奥の森の中に、卵かけご飯専門店を出すという、一見無謀で夢を叶えようとする話です。


    アユやヤマメなどが住む透き通ったきれいな沢が流れてる。
    初夏にあたり一面の蛍が飛び交う。
    いまにも降ってきそうな星で埋め尽くされた夜空がある。
    田舎ゆえに時に窮屈な、だけど支え合う心の通った人々の繋がりがある。

    …などなど、物語ではそんなたくさんの小さな幸福が、美しい自然の数々が、ともすれば当たり前すぎて忘れがちな幸せが、随所にちりばめられています。



    また、日本が抱える地方の過疎化の問題や、中山間地の農業の現状を、負のスパイラルを深刻なのに深刻になりすぎずにユーモラスにあぶり出していることも魅力の一つです。


    ”無名は、無力と等しい。
    たとえそこがどんなにいい場所であっても、無名では人は来ないし、人が来なければ寂れていく。そして、寂れた集落からは若者が消え、若者が消えれば、過疎が一気に進んでしまうのだ。過疎が進めば、資金不足で宣伝力がいっそう弱まり、さらに加速度的に過疎が進んでいく”



    ひたすら無欲で無垢な主人公と、彼を助ける幼馴染たち。さらに、そんな彼らを温かく見守る村の人たち。
    ど田舎の過疎が進む限界集落で、そんな村を活性化させようと卵かけご飯の専門店を開業し、奮闘するこの物語は、地域活性化小説とでも、分類できそうです。



    主人公のムーさんや愉快な登場人物たちが知恵を出し合い、力を合わせる姿に心があたたかくなります。作品を包み込む雰囲気がなんともいえずよいです。




    作中あちこちに、心に書き留めておきたい言葉が語られるのも、森沢明夫作品の魅力のひとつです。
    本作も、”珠玉の森沢語録”で溢れていました。




    〜〜〜〜〜心に響いた言葉〜〜〜〜〜





    ”「いつだって雄鶏みてえに胸張って、頭を今より五度上に向けて歩けえ。たったそんだけで、未来はきっといい方向に変わっからよぉ」

    言われた通り、顔を五度上げて歩いてみると、不思議なことに、凹んでいたはずの気分が少しずつ明るくなっていく気がするのだった。
    もしかすると、人間という生き物の脳は、ただ少し顔を上向けるだけで「落ち込めないような仕組み」になっているのではないか”



    ”転がした卵とおんなじで、 自分のやったことは、いつかくるりと回って自分に返ってくるんだって。それが自然の摂理。 だから人に優しくすれば、いつか誰かに優しくされる し、暴力を振るえば、いつか痛い目にあうんだぁ”




    ”人間の心ってな、絶対に傷つかねんだってさ。
    自分では傷ついたと思っても、それはただ磨かれてるだけなんだって。人生いろいろって言ったけどもよ、そのいろいろってのは全部ヤスリなんだ。ヤスリってよ、ザラザラしてっ から、心をこすられれば痛てえべ?でもよ、それをぐっと我慢して、痛みを乗り越えれば、ヤスリで磨かれた心は、前よりもピッカピカになって、珠みてえに光り輝くんだって”




    ”何気なく道端に視線を落とすと、タンポポやホトケノザなどの雑草たちが花を咲かせていた。人々が当たり前に踏みつけている雑草たちも、よく見てやれば、一つひとつの形はとても神秘的で美しい。そもそも動物も植物も、それぞれが個性的かつ深淵な美をまとっているものだ。この世の全ての生き物は「命の器」として最適な形をしているのだから、美しくないわけがない。そして田舎は、そんな「美」の宝庫なのだ”




    ”財産を失うのは小さな痛手だけれど、勇気を失うのは人生を失うのと同じだってよ”



    ”失敗ってのは、道半ばで諦めた瞬間に、本当の失敗になっちまうもんだべ。成功するまで諦めなかったら、失敗は失敗でなくて、成功への階段なんだから”




    ”商売とは、お客様から大切なお金を頂く代わりに、その代金以上のサービスをして喜んで頂くことです。お客様に、ありがとうございました、と言うのは、お金をくれたことと、 サービスを喜んでくれたことの両方に対して言うのです。売る方も、買う方も、互いに幸せになる。それが商売の神髄です。神髄を無視した店では、私は働けません”




    ”仕事の内容などは瑣末なことであって、大切なのは、その仕事でどれだけ人に喜んでもらえるか、だということだ。そして常にそう考えてさえいれば、たとえ卵かけご飯の料理人であっても、お客さんからの「ごちそうさま」という言葉が沁みるし、自分の口から自然に出る「ありがとうございました」の本当の意味するところも噛み締められる。「ありがとうございました」という感謝の言葉は、「喜んでくれて、私も嬉しいです。ありがとうございます」なのだ。お客さんと自分は、喜びのキャッチボールを楽しむ間柄なのである”




    ”人間ってのはね、過去も未来も生きらんねえの。生きられんのは、一瞬のいまだけ。だから、いまこの瞬間を感謝の 気持ちで生きて、それを、ひたすらずっと続けていくだけ。 だって、それが幸せな人生を送るってことなんだから。
    それとね、いまこの瞬間にできることを精一杯やること。未来をよくする方法なんて、それしかねえんだからね。生きているうちに、やれることはぜーんぶやっておくんだよ。人間ってのはね、やって失敗したことよりも、やらなかったことに後悔するんだから”




    ”努力をした結果、それが実る人と実らない人がいるんではなくて、実るまで努力を続けた人と、実る前に努力を止めた人がいるだけなんだって”



    ”裕福と幸福ってのは、別もんだべ”




    ”都会と比べると、田舎は「なにもない」なんて言われるけど、でも、都会にないものならいくらでもあるのだ。都会と田舎、どちらがよくて、どちらが悪いのではなくて、どちらにあるものが、自分にとって心地いいか − 人は、その感覚を素直な心で感じ取って、あとは自由に選択して生きればいいのだ”



    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




    お仕事小説、地方再生小説、起業物語、田舎純情物語…

    本作には、そんな、ひとつのフレーズだけでは形容しきれない、さまざまな要素がふんだんに盛り込まれた、ハラハラドキドキとさせられながらも自然や人々の美しさ、たくましさ、愛おしさに心がとても温まります。

    大切な命をいただいているという実感。それを、「いただきます」という言葉が思い出させてくれる。毎日の食事は当たり前ではない。命の結晶をいただいているということを胸に大切に抱いて、今日も生きていこうと思える、そんな温かい物語でした。これからも何度も読み返したい一冊です。

  • 蛍原川の流れる田舎の集落で毎日鶏を姫と呼びながら世話をして暮らすムーミンのような男、ムーさんこと村田二郎35歳が、卵かけご飯の店を出すという夢を叶えようとする話です。
    幼なじみの臼山大吉とは、そのことで、ムーさんは「俺は昔っからツイてっから、絶対に大丈夫だって」といいますが、大吉は「お人好しで馬鹿で阿保のクソったれが」という喧嘩をしてしまい、絶交。
    大吉はムーさんの夢にはノータッチになります。
    もうひとりの同級生で母の冨美子と居酒屋を営む出戻りの直子が一番の協力者です。

    ムーさんの夢は大きく「卵かけご飯の店」を皮切りに、人を呼び込み、土地で作っている米の品種『夢気分』と自分の卵を売り出すこと、そして第三の夢も計画しています。

    この小説には数名の登場人物しか知らないとある秘密が隠されていてちょっとミステリータッチな部分もあります。
    ムーさんの第三の夢が明らかになったときには、ムーさんの人のよさにも程があると思いました。

    そしてまた、この作品を読むと、あつあつの卵かけご飯、食べたくなってしまいます。

    森沢語録
    「顔をいまより五度上に向けて歩く。たったそれだけで未来はいい方に変わる」
    「自分のやったことはくるりと回って自分に返ってくる」
    「人間の心は絶対に傷つかない。自分では傷ついたと思っても、それはただ磨かれているだけ」
    「裕福と幸福は別のもの」他。

  • 過疎の村に「卵かけご飯専門店」をつくり、村おこしをめざす二郎たちの物語。
    「裕福と幸福ってのは、別もんだべ」
    きれいな沢が流れてる。蛍が飛び交う。降ってきそうな星空がある。人々の繋がりがある。物語ではそんなたくさんの小さな幸福が随所にちりばめられています。
    二郎や愉快な登場人物たちが力を合わせる姿に心があたたかくなります。作品を包み込む雰囲気がなんともいえずよいです。
    自分の職場が物語の舞台そのものみたいなところにあります。登場人物一人ひとりがもはや知人にしか見えない(笑)ものすごく美味しい卵があるし、卵の自販機まであります。物語の住民の一人になって一気に読み進めてしまいました。
    ほっこりした時間を過ごしたい方にオススメの一冊です。

  • 森沢明夫さんの作品。
    今回もとても良かったです。
    人の捉え方、優しさを見つけるのがとても上手いなと他の作品を読んでも思います。
    後は人の弱さ、許す事も、学ばせてもらいます。
    その本の世界で生きてみたいと思える作品ばかりです。
    モデルとなった場所も行った事があり卵を使った美味しいプリンを購入しました。また行きたいと思っていたお店がモデルとは!確かに美味しかったから納得です。

  • モノの考え方が人とちょっとズレてて、しかも、それがいつもハッピーな方にズレてる愛すべき主人公。そして、まわりのこれまた愛すべき人々の視点で、次々と話が進んでいくこ気味良さ。
    裕福と幸福は違う。あったかくなる作品。

  • 森沢明夫さんの小説は4冊目。限界集落と言われる場所で卵かけご飯屋の開店に向け奮闘する男性を中心とした集落の物語。先日森沢さんのエッセイを立て続けに3冊読んだが、このような豊かな自然の描写ができる背景が少し分かった気がした。限界集落が舞台で、集落の人たちの人間模様が濃く温かく描かれている点で三浦しをんさんの『神去なあなあ物語』に少し似ていると思った。あとがきで森沢さんは具体的な登場人物のモデルはいないとしながらも、兵庫の限界集落の中に実在する卵かけご飯専門店、東京の青梅の養鶏場から着想を得たとしていた。フィクションとは言え、周囲からは無謀と思われる夢を貫く様子は清々しかった。自分自身が勝手に視野を狭めている可能性があること、人生を前向きに生きることの大切さを改めて実感した。登場人物は皆方言を話しているが、これがどこの方言を想定しているのかも個人的には気になった。

  • ずーっと気になっていて積読本が何冊もある初読み作家さん!
    とても良かった!面白かった!
    自称ツイてる養鶏農家のムーさんが周りの反対を押し切り村に世界初の卵かけご飯専門店をオープン!
    村の皆を笑顔にする為に、過疎の村を元気にする為に動き出したムーさんの計画は当初反対していた村民達の協力のもと飛躍、奇跡を起こす!

    なによりムーさんの人柄が良い!
    これがこの本の最大の魅力と勝手に思っている。
    何か手を貸さずにはいられないムーさんの人間力が成功の元であろう。
    どこか少し鈍感にも思えるムーさんだけど計画に抜かりはなく(大吉と直ちゃんに乗せられた感はあるが…笑)しっかりと軌道に乗せられたのはムーさんの卵と計画の力も大きい!
    「裕福」と「幸福」は違う!…も、印象に残る言葉だった!
    「誰かを笑顔に」…誰かを幸せにする為に自分も笑顔で生きる!
    ムーさんはまさに幸せの象徴だなぁ

    心が温かくなりながら元気のエネルギーに満ちた森沢さんの小説、読んで良かった!
    これからもっとたくさん読んでいこう!

    最近、好きだなぁと思う作家さんと次々出逢えてツイてるなぁー笑

  • 読んでいるだけで、幸せな気分に浸れる本。
    そして、卵かけご飯の何と美味しそうなことか。思わず生唾が出て、たまらなく食べたくなる。
    ひたすら無欲で無垢な主人公と、彼を陰に陽に助ける幼馴染たち。さらに、そんな彼らを温かく見守る村の人たち。
    ど田舎の過疎が進む限界集落で、そんな村を活性化させようと卵かけご飯の専門店を開業し、奮闘する物語。
    地域活性化小説とでも、分類できるだろうか。
    黒野伸一著『限界集落株式会社』や、有川浩著『県庁おもてなし課』とか、垣矢美雨著『農ガール、農ライフ』、あるいは三浦しをん著『神去なあなあ日常』も、その分野に入れていいかも。
    作中あちこちに、心に書き留めておきたい言葉が語られるのも、魅力のひとつ。
    「・・・いつだって雄鶏みてえに胸張って、頭を今より五度上に向けて歩けえ。たったそんだけで、未来はきっといい方向に変わっからよ」
    「財産を失うのは小さな痛手だけれど、勇気を失うのは人生を失うのと同じだってよ」
    「失敗てのはね、道半ばで諦めた瞬間に、本当の失敗になっちまうもんだべ。成功するまで諦めなかったら、失敗は失敗でなく、成功への階段なんだから」
    「まだ起きてもねえ未来のことを不安がって、せっかくのいまを暗い気分で過ごしてもしょうがねっぺ」

    • しのさん
      わぁっ(#^^#)
      読まれたのですね( *´艸`)
      本当にほっこり温かい気持ちになりました。
      そして、文中に散りばめられた素敵な言葉の...
      わぁっ(#^^#)
      読まれたのですね( *´艸`)
      本当にほっこり温かい気持ちになりました。
      そして、文中に散りばめられた素敵な言葉の数々がとっても素晴らしかったですよね(*'▽')
      くるっと回って戻って来る…ブーメランのお話も印象的でした。
      本当に大好きな作品です。
      2017/03/21
  • 森沢さんの作品はどれも心温まるストーリーで優しい気持ちになりますね。
    田舎を舞台に繰り広げられる人情味溢れるストーリーに、「田舎っていいな」、と思える一作でした。

  • ポジティブが1番という事かな。
    全ての歯車が上手く回っていい方に流れて行く。
    悪い人はいない。
    現実だったらいいのにね。

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著者プロフィール

1969年千葉県生まれ、早稲田大学卒業。2007年『海を抱いたビー玉』で小説家デビュー。『虹の岬の喫茶店』『夏美のホタル』『癒し屋キリコの約束』『きらきら眼鏡』『大事なことほど小声でささやく』等、映像化された作品多数。他の著書に『ヒカルの卵』『エミリの小さな包丁』『おいしくて泣くとき』『ぷくぷく』『本が紡いだ五つの奇跡』等がある。

「2023年 『ロールキャベツ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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