犬 (文芸書)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198649302

作品紹介・あらすじ

初長編『鯖』が第32回山本周五郎賞候補
ブレイク必至!
今、最もキテル鬼才が放つ、狂乱の疾走劇

大阪でニューハーフ店「さくら」を営む桜は63歳のトランスジェンダーだ。
23歳で同じくトランスジェンダーの沙希を店員として雇い、慎ましくも豊かな日々を送っていた。
そんなある日、桜の昔の男・安藤勝が現れる。
今さらと思いながらも、女の幸せを忘れられない桜は、安藤の儲け話に乗ることを決意。
老後のためにコツコツと貯めた、なけなしの1千万円を用意するが……。

大阪発。愛と暴力の旅が、今、始まった。
嬲り、嬲られ、愛に死ね!

感想・レビュー・書評

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  • トランスジェンダーの桜(63歳)。ニューハーフのお店を経営し、店員に同じくトランスジェンダーの子、沙希。そこに桜の昔の男・安藤が現れる。沙希の忠告を無視し、身も心も支配されながらも安藤に金を出そうとする桜。愛と暴力の先に待ち受けるものは。
    『アウターライズ』に続き2作目ですが、こちらは、かなり色が濃い、ぶっ飛んでいたな。桜の安藤への想い、安藤の桜への容赦ない暴力、ニューハーフ、少数派の孤独、老い、不安、書き上げましたなあ。そういった面は読み応えありますが、男性同士の絡みとか、暴力はかなりハードな内容。桜の老いへの恐れ、不安が描かれていましたが、人間誰しも少なくとも考えること、それは同じかもね。それでも桜は愛して耐えて家族を守って力強かったなあ。知らない世界、知らない感情を知れたとこもあり、その面でもかなり刺激的な本でもありました。

  • 先日読み終えた「救い難き人」と同じ匂いを纏った本。本作の主人公は大阪でニューハーフ店を営む63歳の桜。同店で働く美少女の沙希は23歳。2人ともトランスジェンダー。ある日その店に桜の昔の男、安藤が現れる。桜は動揺を隠せなくなり、そんな桜を見ていられない沙希。随分と認識が変わってきているLGBTQ。どう考えても沙希が正しいのだが、桜はどうして安藤を信用したのか。いや、信用していたわけではなく賭けたのだ。家族がいなくて老後が不安な桜には安藤を信じることに賭けるしかなかったのだ。最後はモヤっとするが壮絶だった。

  • 序盤は初老トランスジェンダーさくらが老後を心配した愚痴をこぼしつつ切なく生きて男に惑わされぼちぼちと過ごすんだけど、100ページくらいから急激に加速する。最初はカタカタとしずかに景色を眺められるジェットコースターみたいだった。スマホやSNSを使って沙希を追うところはらはらして最高だった。暴力あり人情あり、おいしそうな佐世保バーガー!なにもかも最後の最後まですごかった。血液や体液や土や臭いや痛みの描写でもうドロドロになりながら、さいごは「ひとの幸せって大事なひととの繋がりなのかな」としみじみ考えさせられてしまった!すごい。大傑作。

  •  LGBTと、それに対する言葉が与えられて、そういう人もいるんだよねとさも分かったように納得する。
     それが一番傷つくと。

     デビューしてから全作読んできて、作品の根底には貧困があって、テーマがグロい。
     本作はLGBTのバーのママを主人公にしている。


     新大阪の座裏にプレミアム泡盛のバーを構える、還暦前のゲイ、さくら。
     この数年ほど一緒に働く沙希もゲイ、二人は母と娘のようだった。
     そこに、かつて付き合っていた男、安藤が店に現れたことから二人の関係がおかしくなりはじめる。

     老後に不安を抱えるさくらに、安藤はFXで金を増やしてやるから金を預けろと言う。
     かつてのよりを取り戻そうとするさくらは、新宿二丁目時代に蓄えた一千万を安藤に渡そうとする。
     しかし、踏ん切りがつかずに沙希に言って彼女に反対されたことで、さくらは怒り、沙希と決別した。

     一千万円を安藤に渡す。
     そう思っていたのに、沙希に一千万円を盗まれてしまう。
     安藤とさくら、一千万円を持って行方をくらませた沙希を追いかけるゲイカップル・ロードムービー。

  • 赤松利市の小説を読むのはこれで5冊目(既刊で唯一読みそこねている『鯖』も読まないといけない)。

    これまた傑作である。
    赤松が今年刊行した3作――『ボダ子』『純子』、そして本作――はいずれも傑作なのだからスゴイ。
    そして、3作とも読者を選ぶ作品で、人にすすめにくいキワドイ路線を攻めているという共通項がある。

    本作も、かなりキワドイ。

    《大阪でニューハーフ店「さくら」を営む桜は63歳のトランスジェンダーだ。
    23歳で同じくトランスジェンダーの沙希を店員として雇い、慎ましくも豊かな日々を送っていた。
    そんなある日、桜の昔の男・安藤勝が現れる。
    今さらと思いながらも、女の幸せを忘れられない桜は、安藤の儲け話に乗ることを決意。
    老後のためにコツコツと貯めた、なけなしの1千万円を用意するが……。》

    という内容紹介を引用するだけで、そのキワドさが伝わるだろう。
    ねちっこい性描写もくり返し登場するし、安藤という男の狂気と暴力性の描写がすさまじい。

    また、著者と同年齢に設定されている主人公・桜が感じる「老い」と「老後の不安」の描写も、リアルで重苦しい迫力に満ちている。

    ……というふうに紹介すると、読むのがつらいヘヴィーな小説を想像されてしまうかもしれない。が、そうではない。
    失踪した沙希を桜と安藤が追いかける追跡行はスリルに満ちているし、エンタメとして十分楽しめるのだ。

    何より、これは哀切なラブストーリーでもある。
    花村萬月の傑作『ブルース』を彷彿とさせる部分もある。
    『ブルース』の初刊行時の惹句は「歪(いびつ)な愛と過剰な暴力」というものだったが、本作もまた「歪な愛と過剰な暴力」の物語なのだ。

    本作は他の赤松作品と比してあまり話題になっていないようだが、もっと売れてしかるべき作品だ。

    そっけなさすぎるタイトルも、ちょっとどうかと思う。最後まで読めばタイトルに込めた深い思いもわかるのだが、アイキャッチとしてはちょっとね。

  • 若い頃、男であることを捨てたトランスジェンダー、桜。同じく男性を捨てた青年、沙希と小さな飲み屋を営み、還暦を過ぎ、老後の不安を感じることが多くなる。そんな桜の前に現れたのは昔の「男」安藤。かつての惚れた弱みと見せつけられる彼の財力で、桜は安藤と暮らす豊かな老後を夢見る。

    今の世の中、桜がカミングアウトした頃と比べてトランスジェンダーにずいぶんと寛容になった。性を変えることは当然の権利であり、恥ずべきことじゃない。むしろ、自分に正直であり、それは尊いことだと評価される。

    しかし、それは所詮、きれい事。容姿は男で中身は女、容姿は女で中身は男。そんな人物に世間は奇異の目を向けるし、まともな職に就くことを許さない。結果、貯金も少ない、扶養してもらう家族もいない。トランスジェンダーの老後というのは将来の深刻な社会問題になるのかもしれない。

    本作品はそんな社会問題を提起する一方、男同士のありとあらゆる肛門プレー、レイプシーンを詳細に描く。穴友達ならぬ肛門友達との見たいような見たくないような描写の連発。そして、後半からは舞台を地方へ移して大冒険活劇。

    ラストは強引でやや消化不良。が、刺激的なアンダーグラウンド世界観を体験でき、ストーリーにメリハリがある他にないエンターテイメント作品だ。

  • 62ちょっと敬遠気味だったけど圧倒的に面白い。ストーリーテラーとか言われておんなじような話を書く作家が増えてる中で、筆圧と言うか重さが違う。つぎは沙希のお話で続編頼みます。

  • トランスジェンダー、老い、恋愛、お金、家族。世の悩みのほとんどが網羅された一冊。

  • ニューハーフである63歳の・桜は
    同類である23歳の沙希と店を切り盛りしていたが、
    ある日20年以上も前に自分を捨てた安藤が店にやってきた。
    FXで生計を立てる安藤は度々店を訪れる。
    今さらと思いつつも、
    もう一度やり直したいとの思いが募り桜は
    老後の資金として貯めた1000万円をFX投資を勧める安藤に――?!
    暴力の描写・痛い描写がリアル。
    かなり痛い目にあって悲惨な事にもなったけど
    誰が自分を支えてくれるのか?
    生きる拠り所を見つけた桜と
    自業自得な安藤。

    寂しさや孤独、老いってのは
    分かってても判断を間違えてしまう

  • 「ジョジョリオン」冒頭の「呪いを解く物語」、この形容がふさわしいストーリー。

    読者を選ぶ内容だが、スルスル読めるリーダビリティのスキルは健在で、ずば抜けて面白いことは間違いない。

    でも読む本に困っても再読はしたくないな。
    絶対に内容は忘れられないし。あまり思い出したくもない。

    著者初のバッドエンド以外のラスト…なのかな?

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著者プロフィール

赤松利市
一九五六年、香川県生まれ。二〇一八年、「藻屑蟹」で第一回大藪春彦新人賞を受賞しデビュー。二〇年、『犬』で第二十二回大藪春彦賞を受賞。他の著書に『鯖』『らんちう』『ボダ子』『饗宴』『エレジー』『東京棄民』など、エッセイに『下級国民A』がある。

「2023年 『アウターライズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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