ロゴスの市 (文芸書)

著者 :
  • 徳間書店
4.04
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本棚登録 : 196
感想 : 36
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198640422

作品紹介・あらすじ

至福の読書時間を約束します。乙川文学の新しい姿がここに!
昭和55年、弘之と悠子は、大学のキャンバスで出会う。翻訳家と同時通訳として言葉の海に漂い、二人は闘い、愛し合い、そしてすれ違う。数十年の歳月をかけて、切なく通い会う男と女。運命は苛酷で、哀しくやさしい。異なる言語を日本語に翻訳するせめぎ合い、そして、男と女の意表をつく、”ある愛のかたち”とは!? 二人が辿る人生の行く末は! 傑作恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  •  初めて読む作家さん。静謐で無駄がなく、それでいて色香が漂う、美しい文章でした。

     学生時に出会い、共に英語を学び、女は同時通訳、男は翻訳の道へ進む。お互い研鑽を積み、違う分野で活躍しながらも闘い、励ましあい、愛し、仕事ではその道のプロになるが、男女としての二人の間には不如意な出来事が重なる。

     言語が主役のような内容なので、言葉について感覚的にも辞書的にも考えさせられることが多く、英語と日本語の違いや、訳者の苦悩や喜びなど、興味深く読みました。

     昭和色豊かで、台詞や筋がややクサく感じることもあるけれど、どっぷりとこのお話の世界に浸りました。心を揺さぶられるラブストーリーでもあり、年代が割と近いことも手伝って、自らの経験と重ねあわせ、胸が苦しくなることも…。それほど文章に湿度があり、一字も読み飛ばすことが出来ない圧倒的なものがありました。
     
     とても記憶の深いところに残る予感のする一冊でした。

  • 恋愛小説はあまり好きじゃないけど、この本は読めた。
    よくある恋愛のはなしっていうわけではないけど、だれかひとりの人間をこんなにも見守ることができるって素晴らしいことだと思った。

  • 「東大生の本棚」の中で紹介されていて、未読の作家さんだったが(知らなかったことで人生で少し損をしていた気分)読んでみた。とても貴重な読書体験をしたという気持ち。
    ドラマティックな展開でグイグイ読ませるのとは違った引き込まれ方。魅力的な文章がたくさんあって、読み返して文章の余韻?を味わって浸るのが心地よい。うまく表すことのできない自分の表現力のなさがもどかしく悲しい。
    自分の人生のどうしょうもない状態に落ち込んだが、かけ離れた人生に並走させてもらったというか、ただ楽しく読んだのとは異なる充実感があった。本や言語に携わる仕事ではないが、本を読むことが好きな一人としてこれからもこういう出会いがあることを楽しみに、本を読んでいきたい。

  • 翻訳家と同時通訳を通して、英語と日本語という言語の大海へ誘われる。そう訳すか、そこに悩むか、等興味が尽きなかった。大海原の航海に酔いしれているうちに、忘れていた話の筋書きに、全く以外な結末が。舟を編む、以来の大航海。

  •  起承転結の起承が長く、ラストに転結がドドッとくる作品。翻訳家でのんびり屋の成川弘之と通訳家でせっかちな戒能(かいの)悠子の数十年にわたるラブストーリー。言語軸と男女軸を織り交ぜながら。 乙川優三郎「ロゴスの市」、2015.11発行。二人がともに憩う話題は「言語」。ただ、完璧を追求できる翻訳に対して、通訳は使い捨て。悠子の独断に翻弄され続けた弘之だけど、悠子の交通事故死の後で、二人の子供(娘)がアメリカの教授夫妻の養子として生きていることを知らされる。この娘のデビュー作を弘之は翻訳することができるのか!

  • 男性が描く都合のいい女性が香るけど日本語が綺麗

  • S図書館 再読
    NHK 本の紹介番組でおすすめ

    言葉はきれい
    漢字が難しい、意味を調べて読んだ
    二人が結ばれない所で一瞬読む気が失せてしまった
    最後は詰め込んだなという感じ

  • 乙川優三郎さんという人は本当にすごいな。元々は時代劇ものの作者なんだろうけど、現代劇を書かせても右に出る人はそうはいないのではないかな。
    太陽は気を失うという本で知って、まだそれからも二冊くらいしか読んでないけれど、もっと書いて欲しい。

    にしても、この話、三十余年分を駆け足なんだけど、濃厚な文章で本当に濃密に描き切ってる。こういう主人公のような人生を送りたかったな。

  •  著者作品はお初。時代物の作者というイメージだけど、そんな著者の現代小説。
    時代設定、舞台設定がよくて、久しぶりに一気読み作品だった。

     5歳年長の著者。自身の体験とも被るのであろう、物語は1980年の大学キャンパスからスタート。自分の当時とも5年ほどの差しかなく、”あの頃”が蘇る。舞台も武蔵野市、三鷹駅が至近の大学、S大がモデルだろう。放課後、たびたび吉祥寺の町が出てくるのも地元民として嬉しいところ。

     そんな時代と背景以外にも、翻訳家と通訳という言語を扱う登場人物たちが、今の興味とも非常にマッチしていてあっという間に読み進んでしまった。
     翻訳家と通訳という言語を操る職業を、実に興味深く描いてる。

    「同時通訳が礼儀正しいストリートファイターなら、翻訳家は作家というチャンプのスパークリングパートナーであろう。負けは許されない女と、チャンプを痛めつけてはならない男に接点があるとしたら、言葉を操る技術でしかない。」

     格闘技に喩えるように、奮闘努力の迫力もよく伝わってくる。
     同時通訳と言えば、米原真理さんのことが真っ先に浮かぶ(本書の中でも、通訳の悠子が氏の名前を口にする)。彼女の自伝を読むと、本番に臨んでは心拍数が200bpmを超えるという話に驚愕した。人間の最大心拍数の一般的な方程式は「220-年齢」と言われる。自分でも運動中に180台の心拍数を記録したことがあるが相当のものだった。それを身体的な活動を伴わずして、脳の機能を最大限生かすべく座したままその域に己の心拍数を上げていく精神力の凄さに、ただただ驚いたもの。国際会議の同時通訳が10~15分で交代していのも、さもありなんだ。

     そんな通訳を目指す気風の良い悠子と、じっくりと言語に向き合う翻訳家となる弘之の30年にわたる人生を描く。ふたつの言語の間での葛藤を格闘技に喩えたように、テイストとしてはテニスがモチーフのひとつだった『青が散る』(宮本輝著)に似ている。
     主人公の弘之が過去を述懐して

    「歳月の仕業として片付けるには女は妖しく、男は未熟であった。」

     と言うように、生き急ぐ女と、大人になり切れない男の普遍的な恋愛も、もどかしく切ない。非常に良く出来た恋愛小説だ。
     表題を意味する、ドイツのフランクフルトで開催されるブックフェアの存在感も程よい。編集者の原田と共に初めてドイツの地を踏む弘之。ブックフェアの規模に驚きを隠せない。何万人もの出版関係者の存在を前に、原田がこう言う。

    「その一人一人が他言語の実りを持ち帰り、やがてそれぞれの言葉で理性の世界をつなぐ、言うなればロゴスの市だよ」

     そんな経験も経て翻訳家となった主人公が関わる英米の作者も、実際の人物が登場するなど仕掛けも面白い。ジュンパ・ラヒリの『停電の夜に』などは、数年前読もうと思ってリストした覚えのある作品だった。改めて読んでみよう。

     哀しく切なくサプライズを孕んだ結末を迎える本作だが、直前のつかの間の蜜月の期間は、やや蛇足だったか。男の願望として、あってくれると嬉しいエピソードではあるが、そこを無くして結末に向かってくれたほうがカタルシスは大きく、個人的には好みではある。この男の願望を書いちゃうところが、自分の世代から上、団塊あたりの男性作家っぽい気もするが、どうだろう。
     
     洋書っぽい装丁も、なんだか、らしくってGOOD。

  • 言葉に人生をかけて真剣に向き合う2人がかっこよかった。
    文章自体も丁寧で表現が美しく、1行1行じっくり味わいたくなる。

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著者プロフィール

1953年 東京都生れ。96年「藪燕」でオール讀物新人賞を受賞。97年「霧の橋」で時代小説大賞、2001年「五年の梅」で山本周五郎賞、02年「生きる」で直木三十五賞、04年「武家用心集」で中山義秀文学賞、13年「脊梁山脈」で大佛次郎賞、16年「太陽は気を失う」で芸術選奨文部科学大臣賞、17年「ロゴスの市」で島清恋愛文学賞を受賞。

「2022年 『地先』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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