- Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
- / ISBN・EAN: 9784198638887
作品紹介・あらすじ
江戸中期、松茸は幕府への貴重な献上品であり、松茸狩は尾張藩主が好む一大行事であった。算術が得意な江戸育ちの尾張藩士・小四郎はそれを生かして藩財政の立て直しを夢見ていたが、なぜか「御松茸同心」を拝命。尾張の山守に助けられながらも松茸不作の原因を探る日々が始まった。やがて小四郎は、山に魅せられ、自分の生きる道を切り開いていく――。数式でははかれない世界がそこにはあった! 直木賞作家が描く、傑作時代小説!
感想・レビュー・書評
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尾張藩松茸同心に左遷させられた武士のお仕事小説。
題材が面白い。上昇志向が強く周りがみんなアホに見える自意識の強い若侍が尾張の弩田舎に左遷させられる。郷土の松茸管理を任されるが只の中間管理職。
松茸に関する知識は全くなく、山歩きは苦手。しかも時代は江戸時代中期であるから茸に関する学問も無いに等しい。
そこから手探りで松茸の育て方を調べていくのだが、余計なプライドが邪魔して中々村人の協力を得られない。
同輩が出世していくなか、ズタズタになったプライドは捨てて地道に山中を歩き徐々に知識を深めていく。そしてなんと9年もの歳月が流れ遂に村人に信頼された若侍は山を改革して松茸の大豊作をもたらす。
いいねぇ~、こういう成功話は。軽妙な語り口も面白い。まるっきり現代語でみんな喋っているので話に入りやすいし登場人物も親しみやすい。
最後に加増も断り、我が道を進むことを決心しながらちょっぴり後悔する、人間臭いのもgood!なかなかいいです。 -
楽しい時代小説です。
江戸時代中期が舞台であると思いますが、
明らかに現代社会への風刺が効いていま
す。
尾張藩から江戸詰めで働いている主人公
小四郎は、若くて仕事への取り組みも熱
心です。
しかし、あまり働かず業務後の飲み会ば
かりに熱心な上役に我慢ならず、時には
正論をぶつけてしまいます。
「俺がいなければ、この働き場は一日も
機能しないだろう」と思っていたところ
へ、尾張藩の転勤を命じられます。
しかも役職は松茸見廻同心という、足軽
同然の扱い。
松茸をしっかり育成して、江戸への貢物と
するのが仕事なのですが、当然松茸は必ず
しも狙った数量は手に入らないです。
そうなると貢物は無くなるので、なんと他
の地方藩から松茸を高価買取をし、それを
貢物として充てているのが例年の習いとか。
結果、尾張藩の財政も火の車状態です。
そんな事実を皆知っていても「どうしょう
もない」と諦めたり、「あの頃は良かった」
と豊作の「泡のような(バブルですね)」
時代を懐かしむだけ。
現代でも松茸の育成方法は解明されていな
いのに、小四郎はどうするのか。
時代は違えど、働く目的を持つ意味を考え
させられる一冊です。 -
御三家筆頭 尾張は八代藩主宗勝公の御代、江戸詰めの家に生まれた榊原小四郎は、ゆくゆくは藩政の重臣となって財政再建/藩の発展に腕をふるうことを夢見て、勉学に精進する毎日。
ところが、亡父の友達の爺さんたちの不始末に連座させられて国元の御松茸同心のお役目を賜ることとなる。
早い話がすごい左遷。
かくして木曽の山の中で毎年松茸奉納のためにかけずりまわることとなる。
が、年々ほそる松茸の取れ高をなんとか好転させたいと持ち前の才覚を発揮、奮闘するうちに、先代宗春公の大胆な施策の本質に向き合うこととなる。
まかてさん、初めて読みましたが、テンポが良い上に、なかなかシャープで皮肉が効いている。
中間官僚が都合の悪いことは支配者がぼんくらなのをいいことに彼らの耳にはいれず、目先の利益を優先して、つじつまの合わない部分は下級のものに負担させちまう。
ああ、これってつまり...?
と、いささかブラック(笑)しながら さくさくと楽しく読む。
読んで、巻末の資料の多さに おや?とひっかかる。
作品中、尾張藩 七代藩主“大殿”徳川宗春は、その規制緩和政策が 幕藩体制を揺るがすものと危惧されたが故に、吉宗公側近の画策によって蟄居謹慎となったことが語られていた。
その宗春の残した「温知政要」も作中に登場して小四郎の指南書となっていたのだ。
尾張藩主にかような人物がいたとは....
そんな史実も学ばせてくれた作品でした。 -
才気走った所が鼻に付き、おもねる所の無い主人公・小四郎は案の定、江戸務めから国元尾張の松茸同心に左遷される。思い通りに行かない左遷の日々でも暗くならない話運びなので救われますが、それでもやはりなんとか小四郎が出世してくれないものかと気を揉みます。なのでラストの身の振り方には悶々としてしまいました。小四郎が主人公でしたが、大殿・宗春の“松茸狩り”が際立っていて宗春に掻っ攫われた印象も(笑)…。
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御松茸同心。要は藩外交に使うための土地の名産品を確保、采配する立場の役人。こんな立場のお侍がほんとにいたんだろうか。でも江戸中期、藩の体面を保つために各地で似たり寄ったりの上っ面工作はあったんだろうから、いたかもしれないと思える、面白い切り口だった。この方の描く物語は、登場人物がキャラ立ってていいんだよねー。3べえも、脳裏に描きやすかった、特徴が想像しやすくて笑。軽さとばかばかしさをちりばめつつも、人の弱さや傲慢さをちくりちくりと突く真理もきっちり用意してあるかんじ。大殿は、名君だったのかもしれないね。今の時代の、なんか未来に希望をもてない若者たちは、きっと小四郎に同調できるんじゃないかな。この世に生まれてきてよかったと思わせてくれる華や高揚を体感できる世の中をめざした大殿は、守りに入りつつある江戸中期の幕府という巨大権力には脅威だったのかもなあ。
こどもたちの未来のために、負担をすくなく、不安をすくなく、お金を使わずにいこう、みたいなのより、これから老人になるひとたちが、つらいことも危ないこともあるけど生きるって楽しい って、それぞれの背中で教えてあげられるような世の中になっていくといいな。ちいさなことから、ちゃんと御恩を感じて、恩返ししながら生きていきたいな、なんて、襟を正すきもちで読み終えられた1冊。ラストは爽快というわけではなかったから、3べえと小四郎のその後、もう1作くらい出てほしいぞ。 -
主人公小四郎は生まれたときから不景気しか知らず、往時のにぎわいなど聞かされても「ふん」てなもの。なんか今と似ています。自意識過剰なのに小心者で、いかにも若いところがなぜか憎めない。最後の小四郎の選択は大人になったということでしょうか。
義母の稲さんがいいですね。かろやかな生き方だなぁ。 -
良妻賢母が一転,「翔んでる女」(古!)になった義母の稲さんにもう一度会いたかったなあ。
それにしても小四郎のマザコンいつ治るんでしょうか。 -
算術が得意な若き藩士の成長物語。読む前に想像していたより、騒動していなかったけど、コメディタッチな話で楽しく読めた。登場人物も魅力的。徳川宗春について、もう少し知りたくなった。
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尾張藩士・小四郎が不本意ながら「御松茸同心」を拝命し、松茸の不作を何とかすべく、奮闘する話。
堅物で愛想がない為、“きゃた郎”と呼ばれる小四郎ですが、徐々に真剣に山と向き合うようになり、その成長する姿が好ましいです。
“三べえ”のオジサン三人は、実は何か特別な役割でもあるのかと思っていたのですが、結局最後まで、ただの“三べえ”でした。