実録! あるこーる白書

制作 : 月乃光司 
  • 徳間書店
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感想 : 58
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198635862

作品紹介・あらすじ

自殺未遂・失踪・アルコール依存といった困難を乗りこえて「失踪日記」を描いた吾妻ひでお(断酒歴一四年目)と、依存症だった夫との生活と別れを『毎日かあさん』に描いて感動をよんだ「日本一のアル中家族」を自認する西原理恵子。マンガ界の異才ふたりが、お酒にまつわるそれぞれの経験を赤裸々に語る。

感想・レビュー・書評

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  •  「日本で一番有名な生きているアル中マンガ家」(赤塚不二夫の死去以後は、という意味)吾妻ひでおと、「日本で一番有名なアル中家族」西原理恵子が、アル中についてとことん語り合った対談集。

     カバーに「協力:月乃光司」とあるように、実質的には月乃をまじえた鼎談集である。
     月乃は20代でアル中になり、精神病棟に3回入院するなどしたあと、27歳からずっと断酒をつづけているという詩人。
     アルコール依存の専門家兼当事者として、月乃は本書全体の司会進行的役割も果たしている。

     タイトルとカバーイラストの印象から、軽いお笑い対談だと思い込む人も多いだろう。
     まあ、この2人の組み合わせだから笑える箇所も多いのだが、基本的にはごくマジメな“アルコール依存からの正しい脱出法”についての啓蒙書だ。

     随所に的確な「注」が付され、アルコール依存症についての基礎知識が身につく入門書としても優れた内容になっている。

     本書では「アル中」という言葉があえて多用されているが、いまでは「アル中」は差別表現の一つなのだそうだ。その意味で、吾妻の最新作『失踪日記2 アル中病棟』はずいぶん思いきったタイトルなのだな。

     本書は『アル中病棟』に先駆けて今年3月に刊行されたものだが、これを読むと『アル中病棟』という作品がいっそう深く理解できる。

     たとえば、『アル中病棟』は「不安だなー 大丈夫なのか? 俺……」という退院後の作者のつぶやきで幕が閉じられたが、あのように退院後に不安に襲われるのは普通だということが、本書を読むとわかる。「病気の大変さとかを理解できてるのであれば、将来に不安を感じて鬱っぽくなるくらいのほうが正常」(月乃の発言)なのだそうだ。

     『アル中病棟』同様、アルコール依存症の恐ろしさが身にしみる本である。2冊を併読するとよいと思う。

     印象に残った発言をメモ。

    《一◯年アル中だった人は、その後一◯年は二日酔いだっていいますからね。いわば、壮大な二日酔いに苛まれているわけですよ。》

    《「お酒の一滴くらい良いでしょ」って言うのは、覚醒剤中毒者に「覚醒剤一滴くらいなら良いでしょ」って言うのと同じなんですよ。それで火がついてダメになっちゃうんでね。》

    《せっかくやめたって家族が誰も待っていない。自分が断酒しても喜んでくれる人間がひとりもいなかったら、絶対にまた飲むよね。》

     以上、すべて西原の発言。本書では総じて西原のほうが雄弁で、その言葉は重い。
     元夫の故・鴨志田穣のみならず、彼女の実父もアルコール依存症であったという。

  • アルコール依存症は家庭内でどうにかできるものではないことがよくわかった。それなのに200万人も患者がいるって、家族も勘定に入れたらなんと膨大な苦しみを生み出していることか。

    鴨ちゃんとの生活が地獄だった件、西原のプロ意識がすごい。

  • アルコール依存症だった過去をもつ漫画家の吾妻ひでおさんと同じく漫画家でダンナさんがアルコール依存症だった西原理恵子さんが自身の体験を語り合う本・・・と思いきや、その座談会にもう一人、月乃光司という方が加わり、赤裸々に自身の体験、アルコール依存症とはどんなものなのか語り合っています。

    いや~。
    内容はかなり過激ですごいものだった。
    でも、全然悲惨だとか、暗さとかを感じない。
    語り合っている三者が飄々と語ってるからだと思う。
    ただ、ここまでこの内容をさらっと客観的に語れるというのは、それだけ壮絶な経験をして、それを血を吐く思いで乗り越えたからだろうとも想像できました。

    これを見ると、アルコール依存症とは本当に恐い病気だと思う。
    でも、それを説教くさくなく、ただただ、自分たちの体験とか知識を生くさく語っている。
    それがむしろ心に響く。

    何年も断酒していても奈良漬一枚で元通りに戻るって、そんな文章があって、それがすごく印象的でした。
    洋酒が入ったお菓子とかでも危ないとか。
    そんな何気ない文からアルコール依存症がどんなものかひしと伝わってきます。

    お酒はどこでも売ってるものだから薬物依存症と違い、どうも危機感が薄くなりがちに思う。
    それに手に入りやすいからたちが悪い。
    依存症の人にとっての誘惑は至る所にある。
    そんな中、依存症を克服できた吾妻ひでおさん、そんなダンナさんを支えた西原さんの精神力はすごい。

    アルコール依存症は恐いものだと分かる、そして、依存症についての正しい知識が分かりやすく分かる本です。

  • アルコール依存と依存症の違い
    依存症は、一滴入ると連続飲酒に至ってしまう。依存状態を脱した潜在的な依存者。
    断酒すると甘いものが欲しくなる。
    ノンアルコールビールを飲むと本物が欲しくなる。
    アルコール入りのケーキも同じ。

  • お酒・ビール・ワイン・ウイスキー・焼酎…みんな好き。
    夏の暑いときにビール(発泡酒)がおいしくなくなってから5か月ほど減酒した。まったく飲まない週がいくつもあったし、飲んでも缶ビール1日1本まで。こんな調子で死ぬまで行ければいいな、と思ったけれど、鍋のおいしい季節を迎えてお酒飲みに戻ってしまった。
     飲むことがそんなに悪いことと思わなかったけれど、この本を読んで暗くなってしまった。どうしよう?

  • 軽い対談のように、非常に重い内容を明るく、真面目に語り合っているところが素晴らしい。

    アルコール中毒に陥ると二度と戻れない病気であることが、体験者(吾妻)と家族(西原)の経験から、痛いほどリアルに伝わってくる。

    アルコールに強く、知らず知らずの内に酒量が増えている人は要注意。この本を読んだ方が良いと思います。

    最後の吾妻ひでおの西原評が的確。

  • アルコール依存症の当事者吾妻ひでおと、夫がアルコール依存症だった西原理恵子の対談。+月乃光司さんという元漫画家でアルコール依存症だった方。うちの母もイネーブラーだったことになるんかなぁ。
    どれもこれも病気の症状なのなら私は病気中の父親しか見ていないことになるな。残念なことに。

  • 前に「おサケについてのまじめな話」(西原理恵子・月乃光司)を読んだ時に、サイバラがギャグにしてた鴨ちゃんとの生活が実際には地獄のような壮絶なものだったことを知り、本当に驚いた。本書を読むと、まだまだ語られていないことがあるのだとわかる。サイバラは、それを吾妻ひでおさんに「いっぱいネタ持ってんなあ」と言われて、一緒に笑っている。まったく彼女のプロ意識には恐れ入る。

    とにかく「日本一有名なアル中の家族」として、この病気への理解を広めたいというサイバラの迫力に満ちている。吾妻師匠のとぼけた味わいと、月乃さんの身につまされる話とのバランスも良く、笑いながらアルコール依存症への理解が深まる内容になっている。

    本当は今苦しんでいる当事者に届くのが一番いいんだろうが、なかなか難しいだろう。サイバラが言うように、相談された親戚のオバチャンが少しはましなことが言えるように、多くの人が正しい知識を持つことが大事なんだな。

    大層心に残ったのは、やはりアル中だった高田渡さんの葬儀の時に息子さんが言ったという言葉。「これから父親は伝説になってみんなに語り継がれていくでしょう。みんなに愛された男でした。でも息子からひとつだけ言わせてください。あいつは最低の人間でした」

    月乃さんが「中島らもさんとか赤塚不二夫さんが、魅力的に描かれるのは、じつはこの病気にとってはマイナスなんですよね」と言っているのにも、うーんと考えさせられた。まったく難しい問題だ。

  • 私はアルコール依存症であり、アルコール依存の父がいるので、加害者と被害者両方の視点から読むことが出来ました。しかし、多くの場合、西原さんのお話に共感しました。多分、鴨志田さんの症状が父と似ているせいでしょう。

    カルネアデスの板の話は少し思う所がありました。私もずっと父と離婚して欲しいと母に望んでいましたが、それは叶いませんでした。私は一緒に溺れてしまい、両親が嫌いな人間になりました。

    ちなみに私は断酒10段になります。

  • 高田渡さんの話が印象的。

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著者プロフィール

高知生まれ。漫画家。’88年『ちくろ幼稚園』で本格デビュー。’97年『ぼくんち』で文藝春秋漫画賞を受賞。’05年『上京ものがたり』『毎日かあさん』で手塚治虫文化賞短編賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

「2021年 『猫組長と西原理恵子のネコノミクス宣言 コロナ後の幸福論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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