資本主義以後の世界: 日本は「文明の転換」を主導できるか

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198633134

作品紹介・あらすじ

崩壊に向かう世界経済、500年に一度の大変動に我々は何をなすべきか?ユーロ危機、財政破綻、貧困の蔓延、原発事故…「西洋からアジアへ」。迫り来る大転換に向けて日本の進むべき道を示す。

感想・レビュー・書評

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  • 資本主義の発展の歴史をスペイン、オランダ、英国、アメリカの盛隆とともに解説しつつ、バックボーンとしての一神教との関連を解りやすく解き明かす前半部分はとても参考になる。また、欧米の資本主義が日本に進出する結果として必然的に起きた摩擦(戦争)や、戦後の米国の経済力の低下とともに日本に対する米国からの経済的圧力が高まったという歴史的な流れについての解説もわかりやすい。
    著者は新自由主義経済ではなく、いまいちど日本の古来の和に基づき自然と共生する社会を取り戻すことを提唱する。特に震災後、いろいろな人からよく聞く主張であるが、本当に具体的に政策、施策として落とし込むことを考えると、どこまで現実感のある提言なのか、この点については若干の疑問はある。
    大きな流れの中で資本主義や歴史を捉える教養書としては、優れた1冊だと思いました。

  • ここ何年か読んだ中で、自分にとって最も意味があった本のひとつ。そこには、「グローバル資本主義は世界の人々を幸せにするのか」という自分の問題意識が、きれいに表されていた。しかし、この著者の書いていた処方箋は、自分にとって十分納得できるものではなかった。その代わり、他の本からヒントを得られた。

  • 考えさせられる事の多い一冊です。
    そして数々のヒントも得られました。
    過去の歴史からとらえる中国に対しての考え方。
    今回の場合はこれが一番自分にとっての収穫となりました。

  •  全体的な感想は、今後の日本の在り方を考えるスタートポイントとして使える本、という風でした。

     初めの資本主義の限界と中国の歴史および文化の可能性については非常にまとまっている印象ですが、最後のパートの今後の日本の在り方についてはややぼんやりとした印象・生煮えの印象があります。


     一章から三章では、大航海時代より欧米では外の世界を志向していた事を述べています。アメリカ大陸の発見、アフリカ大陸の植民地化、中国やインドへの進出などがそれである。これらはすべて外の世界から収奪し、その収奪物を自国で資本として消費・利用することを意図している。第二次世界大戦と冷戦を経て今や超大国となり征服するフロンティアがなくなった現代、金融空間を開拓し、世界マネーを米国に還流させようとしたがリーマンショックをはじめとしてこれもストップがかかった。発売時の2012年、資本主義がこれからどこへ向かうのか分からず、方向転換なり新たな潮流が求められると主張。

     また失われた20年の反省とそのトリックについても書かれています。戦後の占領時にマッカーサーの洗脳により自虐史観が構築され、以降日本を陰に陽にコントロールしようとし、官僚潰しや市場開放策などを米国が押し付けてきた(ないしは自虐的に日本自らが米国のいう事を守ろうとしてきた)点を指摘しています。このあたりは非常に啓蒙的であり、江藤淳が『閉ざされた言語空間』で述べている日本人観と似ていると思います。

     中国の分析も面白く読みました。資本主義の正反対に位置する共産国の中国ですが、日本としては隣国。こことどう付き合っていくか。実は中国のこれまでのやり方は、端的に言うと欧米の制服・収奪モデルとは対照的であり、いわば朝貢・連帯モデルとでも言いましょうか、緩い紐帯のようなモデルであったとします。欧米のようにインディアン皆殺しではなく、歯向かわなければその地域は任せる、という弱い支配であった歴史を述べます。中国は、現在市場主義を導入しつつ、他方で国としての規制は強く、この点に欧米へ対抗していくための可能性を見出しているのだと思います。問題がないとは言えない国ですが、そのポテンシャルを買っているように思えます。ちなみに個人的には、その国の支配者層が自国をどう導くかをしっかり考えていることは重要だと思います。日本はこの点ではかなり危機感を覚えますよね。

     日本を食い物にしようとする欧米、方や大国への階段を駆け上る中国、挟まれた日本はどうするか。6章~8章では今後の日本企業と日本のあり方を述べていますが、私はいまいち読み取れませんでした。「贈与」の文化の振興や脱原発などが述べられています。一つ一つのアイディアは面白いのですが、突然考えがホーリスティックになり、古き良き日本を礼賛するような書きぶりであると感じてしまいました。
     とは言え国の将来ですから、答えが見えていれば簡単です。答えは見えませんし、その答えを考えるのは筆者のみならず、個々の日本人の責務だと思います。その意味でこの本は「俺たちの日本をどうするんだよ」という問題提起として捉えても良いと思いました。


     以上纏めますと、この本は日本の将来や政治、国際関係などに興味がある方にはおすすめしたい本です。筆者の述べていることを信じるとして、じゃあ日本は将来どうすればいいのか、という焦燥感や危機感を持ちました。
     加えて、資本主義の限界や欧米諸国の目論見を暴く部分は説得力がありますし、中国を対抗馬として持ってきてこれを歴史と自らの体験等を取り混ぜて説明する部分は私には新たな探求分野を教えてもらった気分です。参考文献も巻末に掲載されており、今後の読書に役立てられます。

  • 今現在もっとも素晴らしいとされている資本主義が行き詰まり、今後は転換が必要ではないかと問う本。

    漠然と資本主義は社会主義よりも素晴らしいのだと思っていましたが、この本を読んでそうは言い切れないと思うようになりました。

    確かに今後日本を始め欧米の国々も発展し尽くしてしまっており、成長は期待できない。ならばもっと違った価値観があるのではないかと。

    あと10年で日本の2倍の経済規模になる中国。そして日本は今後どうなって行くのだろうと思うと、不安ながらも世界の変化を楽しみながら受け入れて生きていくしかないな、と開き直るしかないのでした。

  • 資本主義の発展、グローバリゼーションには、西洋による非西洋の収奪の側面があり、その第一段階は1945年の日本敗戦で幕を閉じた、という世界史を俯瞰した視座は興味深い。それらいわゆる欧米列強の提唱する資本主義は、一神教が支配宗教であるという社会的背景にも要因を求めている。
    CSRの考え方は経営そのものであり、専門組織を作っているようでは、まだお飾りに過ぎないということ。経営をとおしてCSRを実現するという、近江商人の三方よしの考え方に立ち返りたい。
    後段のグローバル人材とドメスティック人材の区別には賛成。自らは前者でありたいが、求められる人材要件・期待される成果は極めて高い。日本発のグローバル企業として、何を強みとするか、さらにはそれを誰がマネジメントするか、は常に問い続けたい問いである。
    東日本大震災以降、日本の社会・経済を見直し、世界的に交換思想から贈与思想にシフトしていくべき、というのは、日本の知識層における潮流なのだろうか。

  • 1.この本をひと言でまとめると
      資本主義の転換点が来ますよ。いつか分からないけど。

    2.お気に入りコンテンツとその理由を3から5個程度
    ・中国共産党のように、長期のテストを経てトップが選ばれるような現実的な制度の開発が必要ではないか(p189)
     →衆愚政治に陥る点がないところは一考の余地があるのかもしれない。日本、ギリシャがよい例。
    ・ 経済的価値と社会的価値に共通の価値を創造することこそ、企業のあるべき姿(p242)
     →ポーター教授の転向は知らなかった。社会のことを考えない企業が生き残れないのは当然のことと思う。
    ・脱原発という理想論一本やりではサバイバルできないという現実がある以上、私のような折衷案も存在意義がないとは言えない(p298)
     →現実をみない脱原発には反対なので、とても現実的な案として受け入れられた。原発を2〜3基残すのではなく、原発なくして原子力潜水艦を持つという案もある。

    3.突っ込みどころ
    ・日本は「文明の転換」を主導できるか について、どのようにすれば転換できるか具体策が少しでもほしかった。
    ・「99%対1%」の対立(p56)を批判的に書いておきながら、「真のグローバル人材」は、・・・5〜10%いれば十分であろう。いや、現実には1%でも十分かもしれない。」(p258)というのは矛盾しないか?
    ・中国における投機資本の取引規制が、実物取引のための資本流入を阻害しているという証拠はない。(p330) →これは中国が巨大なマーケットを抱えているから、取引規制に文句を言えないだけではないか?日本が同じことをすれば報復処置をとられ、実物取引に影響与えるはずである。
    ・日本の食糧自給率40%(p336) →これはおそらくカロリーベース。カロリーベースの自給率で比較する国はほとんどない。金額ベースなら70%程度。

    4.自分語り
    ・反グローバリゼーションの偏った本かと思いましたが、現実的で受け入れられる考え方もあったのでこれまでと違う視点を学べたという点ではよい本でした。

    5.類書
    ・反書として
    「グローバリゼーションを擁護する」ジャグディシュ・バグワティ (著), 日本経済新聞社 (2005/4/21)

  • 資本主義の歴史、特徴、影響等を確認し、経済体制のあり方について述べられた本。欧米社会に根付いている資本主義一辺倒の体制を批判し、日本的経営の良さについて強調している。中国経済も評価している点が印象的。
    「現在、競争力の残っている日本企業の多くは、取引者間の信頼関係や長期的取引関係を重視し、日本企業ならではの競争力の源泉を崩さずに維持している企業が多い」p128
    「失われた20年と言うが、この20年の期間に本当に失われたものは、「長期的な信頼関係に基づく日本の経済システム」「優秀な官僚機構」「大銀行のパワー」なのではなかっただろうか」p138
    「エリート・マネージャーがとてつもなく高い給料を取り、現場にもろくに出ていかないという欧米型企業組織に比較すれば、「勤勉革命」によって支えられた日本や中国の場合は、比較的階層性が少なく、現場が強い平等な組織になっている」p178
    「(中国の不動産について)住宅ローンも普及しておらず、高額物件になればなるほど、現金決済が多くなるという」p183
    「たまたま浮動票によって人気を集めて当選した民主主義国家の政治家に比べて、長期にわたる厳しい選抜を受けてトップに上り詰めた中国共産党幹部の方が、政治家としてはるかに優秀である可能性は高い」p187
    「はっきりしているのは、中国経済が言われているほどに脆弱ではないことだ」p189
    「現代の日本経済における最大の病気は、地方の疲弊である」p245
    「日本の企業人は真面目だし、能力の高い人が多い。しかし、世界を見る目がない、世界に通用する見識が不足している。まずもって、日本のことを知らない」p263

  • 【由来】
    ・「はじめてのマルクス」で佐藤優により言及されていた「資本主義はなぜ自壊したのか」をMediaMarkerで登録しようとしたら関連本(?)で出てきた。

    【期待したもの】
    ・「なぜ自壊」よりこちらの方が面白そう。ブックオフで妙に安いので、これは買って書き込んでいいかも知れない。興味のスコープは、「アメリカ以後」のパワーバランスというのをあちこちで目にするようになった昨今、「資本主義」すら「ポスト」が語られるようになっているのか、しかもそれを近経の大御所が、どんなことを言ってるのか知りたい、ということ。

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】

  • これからの日本の方向性について。和魂洋才。
    日本のアイデンティティについて、もっと教育されるべきというのは、激しく同感。
    読みやすく、示唆に富んでいた。

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著者プロフィール

株式会社不識庵代表取締役

「2021年 『入門マクロ経済学 第6版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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