小林秀雄の流儀 (文春学藝ライブラリー 雑英 22)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784168130564

作品紹介・あらすじ

「日本および日本人とは何か」を問い続け、『「空気」の研究」など多くの名著を遺した山本七平。そして、その彼が最も畏れを抱いた小林秀雄。そもそも山本七平にとって、小林秀雄は、気軽に取り上げられる対象ではありませんでした。 1951年刊行の創元社版の小林秀雄全集を「徹底的に読み返し読み返し、暗記するまで読んだ」という山本七平は、生前、一度も本人に会ったことはなく、小林秀雄論を書いたこともなく、そればかりか、自らの原稿で言及したり引用したことは一度もなかったと言います。それほど畏れ多い存在だったのです。ところが訃報の直後に小林秀雄について書くよう不意に依頼を受けます。「お前はまさか、もう小林秀雄が絶対に読まないと思って、引き受けたのではあるまいな」との自問と畏れを伴いながら執筆されたのが本書です。 「自分に関心のあることにしか目を向けず、書きたいことだけ書いて現実に生活していけたら、それはもっとも贅沢な生活だ。そういう生活をした人間がいたら、それは、超一流の生活者であろう。もう四十年近い昔であろうか、私が小林秀雄の中に見たのはそれであった。そして私にとっての小林秀雄とは、耐えられぬほどの羨望の的であった。」 山本七平が小林秀雄から受けたのは、文字通り「衝撃」でした。そして「小林秀雄の言動はなぜ社会に衝撃を与えたか」と問い、「過去を語ることによって未来を創出している点」こそ「衝撃」だったと述べています。 単なる批評家ではなく「生活者」としての小林に着目する点において、数ある小林秀雄論と一線を画しています。「自分に関心のあるものにしか関心をもたず、書きたいことしか書かず、また出したい本しか出さないで、しかも破綻なき生活者であること。どう生きればそれが可能なのか」――その「秘伝」が、本書で描かれる「小林秀雄の流儀」です。(解説・小川榮太郎)

感想・レビュー・書評

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  • 「あらゆる思想は実生活から生まれる。併し生れて育つた思想が遂に実生活から訣別する時が来なかつたならば、凡そ思想といふものに何の力があるか。」これは「思想と実生活」論争で小林秀雄が正宗白鳥に向けて発した言葉である。白鳥の主張は単純明快で、実生活から遊離した思想など当てにならぬという。対する小林の主張は分かりにくい。思想は実生活に基礎を持たねばならぬと言いながら、実生活を否定しないような思想は本当の思想でないというのだ。素直に読めば前段と後段は矛盾しており、論争が小林の敗北に終わったとされるのも分からぬではない。

    しかし山本七平は小林のこの言葉にこだわり、本書のタイトルにもなっている最終章「小林秀雄の流儀」で繰り返し引用している。『「空気」の研究』を書いた山本は日本社会に巣食う得体の知れない「空気」を嫌悪し続けた。山本が小林の「流儀」に見出したのも、この「空気」への違和感であり、自然主義作家の描く「実生活」がともすれば「空気」に同化してしまうことへの「思想」による抵抗である。他方で小林は「思想」が往々にして「様々なる意匠」に過ぎないことも知り抜いていた。そこに小林の矛盾と不徹底を指摘するのはやさしい。だが人間とはそもそも矛盾した存在だ。その矛盾をどこまでも引き受けるのでなければ批評に一体何の意味があるか。山本が小林から学んだのはそういうことだ。

    古典に沈潜した小林の後半生は「思想」より「実生活」或いは「実感」に傾斜していったようにも見えるし、そうした理解がむしろ一般的であろう。ただ、もし山本の小林理解が正しいとすれば、「思想」について多くを語らなくなった小林も、「思想」と「実生活」との緊張関係、或いは両者のぎりぎりの接点を見据えていたはずだ。丸山眞男は『日本の思想』において、時々の実感を重んじる「実感信仰」と現実との対決なしに既製理論を無限抱擁する「理論信仰」との間で右往左往する日本思想の底の浅さを厳しく批判していた。およそ共通点などなさそうな小林と丸山だが、この点については正反対の方向から同じ問題を捉えていたのではないか。

  • 2023/6/29

  • 【小林秀雄】と【山本七平】←本屋で目にして、自動的に手が伸びて 自動的にレジに持って行ってる自分

  • 【超一流の生活者としての小林秀雄】小林秀雄はなぜこれほど社会に衝撃を与えたのか? 過去を語ることによって未来を創出したからだ。日本最高の批評家の秘密に迫る。

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著者プロフィール

1921年、東京都に生まれる。1942年、青山学院高等商業学部を卒業。野砲少尉としてマニラで戦い、捕虜となる。戦後、山本書店を創設し、聖書学関係の出版に携わる。1970年、イザヤ・ベンダサン名で出版した『日本人とユダヤ人』が300万部のベストセラーに。
著書には『「空気」の研究』(文藝春秋)、『帝王学』(日本経済新聞社)、『論語の読み方』(祥伝社)、『なぜ日本は変われないのか』『日本人には何が欠けているのか』『日本はなぜ外交で負けるのか』『戦争責任と靖国問題』(以上、さくら舎)などがある。

「2020年 『日本型組織 存続の条件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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