近世快人伝 頭山満から父杉山茂丸まで (文春学藝ライブラリー 雑英 16)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784168130465

作品紹介・あらすじ

生命知らずの大バカ者、国士からテロリストまで玄洋社の破天荒な男たち。 「頭山が遣るというなら俺も遣ろう。奈良原が死ぬというなら俺も死のう。要らぬ生命ならイクラでも在る」といった気持ち一つで、「ただ何となしに気が合うて、死生を共にしようというだけでそこに生命しらずの連中」が、黙って集まってできた玄洋社の頭山満、杉山茂丸、奈良原到、そして博多の魚屋の大将、篠崎仁三郎といった「若い人達のお手本になりそうにない、処世の参考になんか絶対になりっこない奇人快人」ばかりを集め、その破天荒な人生を、夢野久作ならではのユーモア溢れる筆致で面白おかしく描き上げた痛快な人物評伝。 旅の道中、死にそうな仲間の肝臓の手付金で酒を飲む逸話など、全編、むちゃくちゃな話ばかり。こんなに面白い人物評伝はめったにない!

感想・レビュー・書評

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  • すこぶる面白い。維新に少しく遅れた武士どものやるせなくも爆発的なエネルギーが、講談のようなリズミカルな文体によって縦横無尽に駆け巡る。土の臭い、手に取るようだ。玄洋社周辺に勃々たる興味。傑物の話は爽快だ。
    一例。奈良原至の言葉。
    「キリストは豪い奴じゃのう。あの腐敗、堕落したユダヤ人の中で、あれだけの思い切った事をズバリズバリ云いよったところが豪い。日本の基督教は皆間違うとる。どんな宗教でも日本の国体に捲込まれると去勢されるらしい。愛とか何とか云うて睾丸の無いような奴が大勢寄集まって、涙をボロボロこぼしおるが、本家の耶蘇はチャンと睾丸を持っておった。猶太でも羅馬でも屁とも思わぬ爆弾演説を平気で遣つづけて来たのじゃから恐らく世界一、喧嘩腰の強い男じゃろう。日本の耶蘇教信者は殴られても泣笑いをしてペコペコしている。まるで宿引きか男めかけのような奴ばっかりじゃ。耶蘇教は日本まで渡って来るうちに印度洋かどこかで睾丸を落いて来たらしいな」
    言葉の中身はもちろん、言葉の勢いにやられる。
    また、カタカナを多用した弾むようなリズム感は、安吾に通じる。お手本にしたい一つの文章。

  • 『ドグラ・マグラ』をはじめ、夢野久作の小説はいろいろと読んだ。作品は
    概ね怪奇的で幻想的で、摩訶不思議な世界に誘ってくれた。

    『ドグラ・マグラ』なんて初めて読んだ時はさっぱり分からず、何度目か
    の挑戦でやっと作品の面白さが理解出来た。

    そんな夢野久作の手になる人物評伝が本書である。評伝と言っても
    取り上げられているのは維新後に頭角を現して来た福岡県出身の
    豪傑たちだ。

    そう、福岡県は夢野久作自身の故郷である。西日本の雄でありながら
    も、薩長土肥のように活躍の場がなかった福岡県(黒田藩)。

    しかし、その土地からは個人としてはトンデモナイ人物を輩出した。
    代表は玄洋社総帥であった頭山満だろう。

    本書では玄洋社で頭山満に連なった人々を取り上げてるのだが、
    その中には夢野久作の父親である杉山茂丸もいた。

    父である杉山茂丸は勿論のこと、頭山満にも面識があり直接話を
    聞いている夢野久作ならではの評伝だ。

    小説の文章とは異なり、講談か落語の語り口のような文章なので、
    これは文字で読むより落語家とか弁士のような人に朗読してもらった
    ら面白いかも。

    それにしても頭山満である。高知に自由民権を唱える板垣退助という
    男がいる。この男は国の為になるのか。ちょっとそのツラを拝んで来よう
    と出かけるのはいいが、高知の場所も知らずに出かけるって…。

    この人は本当に逸話に事欠かない人だわ。本書にはびろうな話も収め
    られているけどね。

    故郷・福岡県の豪傑を書きたかったというより、父・杉山茂丸への尊敬と
    愛情を込めた作品のように思う。

    ただ、私が頭山満と杉山茂丸のふたりは知っているけれど、残りの
    ふたり奈良原到と魚屋の大将・篠崎仁三郎を知らないばっかりに
    半分しか楽しめなかったのが残念。

    篠崎はともかく、奈良原は玄洋社関連の人物なのでこの人も規格外
    の人物なのだけれど。

  • 夢野久作は、平岡正明と鶴見俊輔の影響で高校生のときに全集(全7巻 三一書房 1969~70年刊行)を読んで以来、その他に目についた文庫本も入手してことあるごとに読んできましたが、小説以外のこんなものも単著化されるほど読まれるようになってきたのかと驚きます。

    あっそうか、いま気がつきました、平岡正明の油井正一・大山倍達・瓜生良介・赤塚不二男・神彰などを論じた『スラップスティック怪人伝』(白川書院 1976年)は、この本からのアナロジーだったんですね。

    それはともかく、アジア主義者に関する評伝・研究書は数々あれど、この本はいわば身内にしか書けない本であり、またそれだけではなく、その呪縛と葛藤の中で苦悶苦闘して独自の文学世界を構築した者にしか見えない現実と幻想を暴露した刺激的な本です。

  • 2015/7/17

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著者プロフィール

1889年福岡県に生まれ。1926年、雑誌『新青年』の懸賞小説に入選。九州を根拠に作品を発表する。「押絵の奇跡」が江戸川乱歩に激賞される。代表作「ドグラ・マグラ」「溢死体」「少女地獄」

「2018年 『あの極限の文学作品を美麗漫画で読む。―谷崎潤一郎『刺青』、夢野久作『溢死体』、太宰治『人間失格』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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