うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間 (文春文庫 せ 6-2)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (179ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167915339

作品紹介・あらすじ

「ふざけんな、ふざけんな、みんないい思いをしやがって」藤井フィーバーに沸く将棋界で、突然、羽生世代の有名棋士の休場が発表されました。様々な憶測が流れましたが、その人、先崎九段は「うつ病」と闘っていたのです。孤独の苦しみ、将棋が指せなくなるという恐怖、そして復帰への焦り……。体験した者でなければなかなか理解されにくいこの病について、エッセイの名手でもある先崎さんが、発症から回復までを細やかに、淡々と綴ります。心揺さぶられること、必至!

感想・レビュー・書評

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  • プロ棋士の先崎学九段がご自分のうつ病体験を克明に書き記したエッセー。闘病記とも言えるだろうか。

    先崎九段は人気将棋マンガ『3月のライオン』で監修もされており、僕も『3月のライオン』ファンとして身近に感じていた棋士の一人だ。
    その先崎九段がうつ病の発症時から克服までの約1年間を本書で時にはユーモアを交えながら、ひたすら詳細に記載、記録している。

    実際、本書を読むまで「うつ病」という病気を自分は相当誤解していた。

    「うつ病」というと、心の病、メンタルの病気と思っていたのだが、実際に本書を読むと「うつ病」は「脳」の病気であるということがよく分かる。
    このことは先崎九段の実のお兄様が精神科の医師なのだが、彼の医師としての言葉にも強調されている。

    先崎九段の病状でもっとも衝撃を受けたのは、超一級のプロ棋士である先崎九段が「詰将棋の7手詰めの問題」が解けなくなってしまったというところだ。
    これは例えて言うならば、
      大学で数学の教授をしいている人が九九が解らなくなってしまった
    というような感じだろうか。
    それもやる気が起きなくて解けないとか、文字が読めなくて解けないというものではなく、実際に頭で理解できなくなってしまうのだという。まさに恐ろしい病気だ。

    そしてうつ病患者にとって『死』と『生』の境界線があいまいに、そして身近になり、ふとしたことから自殺を図ってしまうというのも怖い症状だ。

    このような恐ろしい病である「うつ病」だが、先崎九段のお兄さんも言うように「うつ病」は必ず治る病気だ。
    しっかしと治療すれば必ず治るし、『脳』の機能も回復する。

    今の日本社会は非常にストレスも多く、うつ病を発症する人も増加している。自分の職場にもうつ病を患っているいる人もいる。
    しかし、まだまだ「うつ病」に対する理解が完全にされているという状況ではないだろう。
    本書は、誰でもなりうる「うつ病」という病気の本質を学ぶという意味においても非常に役に立つテキストであるともいえる。
    ぜひ、多くの人に読んでもらいたい一冊だ。

  • プロ棋士・先崎氏の一年にわたる『うつ病』闘病記。「うつ病は誰でも発症する」と言われているが、発症するにはそれなりの理由があり、著者の場合も過剰労働や大きな精神的負担など、いくつもの理由が重なっていると分かる。
    うつ病に罹患した当事者が記した書籍は皆無に等しい、と言われているようなので、身内や知り合いなどにこの本の存在を教えたい、と思った。

  • うつ病
    誰でもかかりうる「心の風邪」とか
    いえ、違うんですよね
    「脳」なんです!
    将棋に全く興味がなかったけれど
    大好きな
    「三月のライオン」」で著者の名前を知った
    分かりやすくユーモアのある解説でいいなあと。

    身近にうつの人がいるけれど、本当の苦しみは当人しか
    わからないのでしょう

    パニックの只中を冷静にえがいているのがすごいと思う

    とても興味深く読みました。

    これからもご活躍を

    ≪ 脳に蓋 絶望と焦り 死がとなり ≫

  • 読んでいて、すごく分かりやすくて、うつ病の教科書みたいな本だなと思った。

    もちろん症状や期間は人それぞれだろうし、慶応病院というスペシャルな環境もあるのだけど。
    将棋盤を前にした時の感覚で、悪い時期からどんどん良くなっていくのが、読んでいて分かる。
    脳の病気と、思考をフル稼働させる将棋だからこそ、なのだと思う。

    自分の思っている落ち込みや不安定さとは、全然違っていて、脳が肉体を消そうとするというくだりにゾッとした。

    朝起きてリビングに向かうまでに30分、その後も一日を始められるまでの時間が長く、動けるようになったと思えば就寝時刻が来て、リセットされる。

    そんな中で、落語を見に行こうとか、図書館行こうとか。徐々に詰将棋に手をつけて、後輩と対局にも進んでいく所にこの人のすごさがあると思う。

    ドラマ見なかったんだけど、安田顕上手いんだろーな。

  • やっと読み終えました。

    鬱になった体験談は
    本の中に書いてたけれど
    確かに生々しい体験談ってないなと。

    鬱になる前から回復のリハビリを兼ねて
    描き始めた鬱の体験談の回復期にかけての
    歴史は、私達が想像を絶する想いが文書に
    滲み出ていた。

    鬱病と言われて、よく聞くようになってきたけれど
    鬱=精神病の偏見は、決して消えないのは確か。

    心の病気ではあるかなと思うが
    確かに、脳の病気なのである。

    偏見がまたその人を追い込み悩ませる。

    沢山の回復する為の時間と、周りの支えに助けられ
    本の中に出てきた、本の主人公の兄(精神科医)が
    言ったように『必ず治ります』の言葉を信じて
    必ず鬱は治るのである。

  • 将棋棋士・先崎学九段がうつ病になった日々を綴ったエッセイ。ぼくは単行本で当時買っていて、今回は再読になる。その時はうつ病とはこんなにつらいものなのかとページをめくるたびに驚かされていた。まさかその後に、自分もうつ病と不安障害になるとは知らずに…。

    うつ病を体験した一人から言わせてもらうと、あの言葉にならない地獄のような日々をここまで細やかに言語化してあることに感動した。作中にもあるように、うつ病は当事者しかつらさが理解できないものではあると、自分がなってみて思う。でも、ここには当事者のつらさがただただ誠実に描かれているのは確か。うつ病の当事者でも、興味がある方でもぜひ一度は目を通してほしい内容になっている。

    「健康な人間は生きるために最善を選ぶが、うつ病の人間は時として、死ぬために瞬間的に最善を選ぶ。」
    これは身に沁みた言葉だった。うつ病で動けなかった時は、当たり前のことも楽しいと思っていたこともできなくなり、不眠で眠ることもできず、頭では不安ばかり膨らんで24時間つらかった。生きていることが地獄なので、死ぬことが最善に思えてくるんだよね。それをずばり言い当てた文章に驚いた。

    「本物のうつ病の症状を当事者としてひと言でいうと無反応だ。喜びにも悲しみにも反応がなくなってしまう。」
    「だがうつの時は、まず軽く眠るということができない。頭の中に靄がかかっているくせに、悪いことだけ考えられるのだ。」
    「私の前には膨大な時間があったが、ヒマだとはまったく考えられなかった。」

    こういうこともあるある!って思いながら読んでた。時間はあるけど、そのすべてに不安が紛れ込むのでヒマにならないんだよね。あと、好きなものや趣味も一切できず、笑うこともできなかった。すべて焼け野原になってしまったけど、その先で自分が本当にやりたいことだけが残って気づけたのは、うつ病になってよかったと思えた瞬間かもしれない。先崎先生はそれが将棋で、ぼくは読書だった。

    先崎先生のお兄さんが言われているように、「医者や薬は助けてくれるだけなんだ。自分自身がうつを治すんだ。」という気持ちはとても大切だなと思った。医者も薬も自分の生活を変えてくれるわけじゃないからね。動けない内はカーテンを開けて、朝日を浴びながら寝るだけでもいいと思う。

    あと、人恋しくなる気持ちもすごくよくわかった。ぼくは学生時代の後輩たちに電話かけまくって話をしてもらったりした。本当にいろんな人に助けられた。作中でも「必ず治ります」とメッセージを送り続けるお兄さんや、高浜先生の「光栄です」など、先崎先生を繋ぎ止める人々の話も素敵だった。

  • うつの症状の善し悪しというのはなかなかアナログなものでしか表現しにくいのだが、先崎先生の場合は寛解していく様子が詰将棋の手数で数値化されて目に見える、というのが新しいと思った。
    現在もご活躍されているようでなによりです。

  • 重度のうつ病を患った人の症状や気持ちの一端を知ることが出来て良かった。
    お兄さんの言葉も良かった。

  • 2021年3月
    うつ病の体験談を書くためには、病気の性質的に、まずうつ病を克服しないといけない。癌などと違って闘病中は書けない。だからこの体験談は非常に貴重なものだ。
    一流の棋士で、詰将棋の本も出している著者が、病気の間、簡単な詰将棋を解けなくなったという記述はうつ病が心云々ではなくまさに脳の病気なのだと教えてくれる。

  •  昨年(2020)の暮れ、ドラマの番宣スポットを視て、誰の体験だろうと思ったら、先崎学九段。私でも名前は知っている。
     親友がうつ病に苦しんでいたこともあり、原作に手を出す。
     エッセイストとして一家をなした著者だけに読みやすく、一気に読んでしまう。
     全世界でも30人程度しかいないプロ九段に、七手詰が解けなくなる……。うつ病の深刻さ。高山病に冒された写真家がカメラを谷底に棄てたくなった、という逸話を思わせる。
     いや、もっと身近な実例があった。他ならぬこの私が、統合失調症を患った一時期、まるで本が読めなくなった(マンガも頭に入らない)。
     「横になってました。散歩しました。将棋のリハビリを頑張りました、気がついたらほとんど治りました。それだけなのである」と自嘲気味に書いているが、それだけ、のことをメリハリたっぷりに読ませてくれる。
     巻末解説は本文からの引用ばかりで「こたつ記事か?」と思わざるを得なかった。将棋に例えれば疑問手。
     

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著者プロフィール

先崎 学(せんざき まなぶ)
1970年、青森県生まれの将棋棋士。九段。
エッセイストの側面もあり、多くの雑誌でエッセイ・コラムを持つ。羽海野チカの将棋マンガ『3月のライオン』の監修を務め、単行本にコラムを寄せている。
著書多数。代表作に『フフフの歩』、『先崎学の浮いたり沈んだり』、『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』など。

先崎学の作品

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