銀の猫 (文春文庫 あ 81-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (355ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167914554

作品紹介・あらすじ

嫁ぎ先を離縁され、母親と暮らすお咲は、年寄りの介護を助けるプロの介抱人。誠心誠意、年寄りに尽くすお咲のもとにはさまざまな依頼が集まる。多くの病人に出会いながら、逝く人に教えられたことがお咲の胸に重なってゆく――長寿の町・江戸では七十,八十の年寄りはざら。憧れの隠居暮らしを満喫する者がいる一方、病や怪我をきっかけに長年寝付いたままの者も多く、介護に疲れ果てて嫁ももらえずに朽ち果てていく独り者もまた多い。誰もが楽になれる知恵を詰め込んだ「介抱指南」を作りたいと思い立った貸し本屋から協力ををもとめられたお咲。だがお咲の胸には、妾奉公を繰り返してきた母親への絶望感が居座っている。自分は、あの母親の面倒を見続けることができるのだろうか。いったい、老いて死に向う者の心にはなにが芽生えるのだろうか――?江戸に暮らす家族の悲喜こもごもを、介護という仕事を通して軽やかに深く描く、傑作長編小説。解説・秋山香乃

感想・レビュー・書評

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  • 標題の「銀の猫」は別れた夫の義父から貰った銀細工の小さな御守り。別れた理由は、妾奉公ばかりしていた実母が、この義父から大金を借りたことから。この借金を返すために給料が高い「介抱人」となったのも、この義父の介抱があったからでもあった。何も出来ない実母と関わり合いになるのが嫌で、大変な仕事の介抱人をどんどん入れて行く。
    現代でも家族の介護は大変だが、江戸時代は息子や後継者が介護をすると決められていたとか。他人が入ることで良い方に向かうという事で、色々な問題を抱えた家に入って、介護される側との交流が小気味良い。元気な意地悪婆さん、大身の旗本の隠居、大奥勤めを引退した老婆など、意外な交流とその後が面白い。最後には嫌っていた実母との邂逅もあり、心が暖かくなる。

  • 江戸時代の介抱人、お咲の物語。
    人々の寿命が延び、江戸の人々も介護の問題に苦しんでいた。そこに目をつけたのが、口入屋。女中賃金に色を付け、介抱人としてあちこちに派遣していた。いま、こういうフリーの一流介護士さんとかいたら流行りそう…。

    お咲は介護のプロとして、あちこちの隠居さんから引く手あまた。一人の介護が短編として描かれ、お咲と母親との確執についての問題が全体を通して描かれる。

    お咲と自分の立場が何となく似ていて、途中つらくなって読みすすめるのに時間がかかっていまった。お咲が、介抱人としてはプロでも、人間としては、いたって普通(解説ではまだ未熟とかかれていたが)なとこが、いいんだよなあ。

    すごく今っぽい時代小説でした。

  • 隠居の老人のために働く『介抱人』…今で言うなら訪問介護士を生業としているお咲が出会う、さまざまな老いの姿と、その背後の人々の姿を描く連作短編集。


    ふつうのOLの等身大の物語が、江戸時代につながったような。
    野心も持たず一生懸命にがんばっていて、ままならない事も思いがけない喜びもある。
    毒親の作った借金のことで悩みながら突き放せず、縁あった他人の優しさに力をもらい涙する不思議。

    朝井まかてさんの作品は『眩』が初読だったので、ドラマティックな熱い女性を描く作風かと思っていたのが、この作品を勧められて読んで、がらっと変わった。

    平均寿命の短かかった江戸時代、病で早逝する者が多かった一方、隠居するまで息災だった人はその先が長かったという。そして、老親の世話をするのは跡取り息子と決まっていたという。
    よろず手のかかることは、大昔から女のすることとされていたと思っていたので、意外だった。

    経済的な余裕が無く、介護で心身をすり減らす子世代という現代的なテーマと、他人だからこそ頼りあえる関係、死に向かう人と向かい合う心…と、色々感じるところがあった。
    そして、実の母娘なのにどうにも相性の悪いお咲と佐和が、ひとたび近づいてぶつかり合った後に、距離をとりあうことで許し合える、そんなところも現代に通じるところがあったかと思う。

    いやまったく、他人事とは思えません。


    ちなみに、単行本で読んだけれど、検索しても文庫本しかなかったのでこちらで登録。
    『銀の猫』というタイトルは…
    何かもっとあったんじゃないかなぁ。

  • 江戸時代の介護士、介抱人を描いた物語。
    主人公のお咲は金持ちの家に嫁いだだが、妾奉公をしていた母親が婚家に金を借りたため、離縁。その金を返すために普通の女中奉公より金が良い介抱人をしている。

    介護はしたことがない人はわからないくらい過酷だ。身内でさえそうなのに、他人のそれは心を擦り減らすようだろう。

    借金を返すまでと、大嫌いな母親のために働くお咲の姿が、哀しい。

    読みながら、5年間、寝たきりの祖母を介護していた母の姿が目に浮かんだ。

    介護をした者は介護されることを望まない、と作中にあるが、まさにその通りに逝ってしまった。

    誰もが歳を取る。最後がどうなるかなんて、わからない。
    私にはまだ父がいるが、介護できる自信はない。

    多くを思い出させ、多くを考えさせられた一冊である。

    解説の秋山香乃氏の言葉に多く共感させられた。

  • 久々の五つ星。
    人生の道しるべの様な作品、朝井さんの引き出しの深さに驚きました。
    介護の道しるべにもなるんだとうと思ってます。

    巻末解説の秋山さんの言葉も感慨深いものです。

  • 介護士。当時はいなかったのだろう。人間は必ず死ぬ、それは今も同じこと、現代の病院では心臓が止まるまで死んだと認められないから、延命措置されて、死んだらみんながどうして死んだんだと嘆く。頑張って最後まで行きたねと言う人はいない。この主人公は最後の日々をどう過ごすのか分かる人だよ

  •  心のこもった介護をするお咲と、男と浮名を流す母との関係が、痛々しい。でもこんなことあるよな…と身につまされる。介護は育児と違い、成長ではなく、看取り。先が見えない毎日。そのなかでもふとした瞬間に希望があるのだと、気付かされる作品。

  • 今で言うなら訪問介護者、「介抱人」として稼ぐお咲を主人公とした8篇の連作短編集。
    平均寿命から見れば、昔は短命と思えるが、それは多産多死の影響で、江戸時代は意外と長寿の人が多かったようだ。
    身内に変わって、年寄を介護するという介抱人の仕事は、江戸時代が舞台とはいえ、現代の状況にそっくりで、グッと身近に感じる。
    各編に様々な年寄りやその家族を登場させ、現代に通じる介護小説となっている。
    同時に、介抱人を通してのお咲の成長物語でもある。
    第2話で登場し、それ以降おしかけ介抱をする女隠居おぶんさんが、魅力的なキャラとなっている。
    『養生訓』をもじった『養生訓』は、楽しく学べる介抱指南として、現代にも必要だろう。

  • 派遣されてお年寄りの介抱をする介抱人。
    そんなお仕事が本当にあったかどうか分かりませんが、とても心温まる一冊でした。

    介護についても考えさせられるし、
    悩みながらもプロとしてプライドを持って仕事をしているお咲は素敵。

    おぶんさん、大好きだなぁ。

  • 江戸時代の介護事情とは? 家の中に病人がいると家族も病んでいく様や介護する側、される側の心情を丁寧に描いた良作。
    戦前まではこのように普通に家で看取っていたんだろう。これから病床数も減り、病院で死ねなくなる時代がやってくる日本。死に抗うことなく受け入れる...。もう覚悟はできている。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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