- Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167912543
作品紹介・あらすじ
先輩の結婚式で見かけた新婦友人の女性のことが気になっていた雄太。しかしその後、偶然再会した彼女は、まったく別のプロフィールを名乗っていた。不可解に思い、問い詰める雄太に彼女は、結婚式には「レンタル友達」として出席していたことを明かす。 「レンタル世界」成長するに従って、無駄なことを次々と切り捨ててく薫。無駄なものにこそ、人のあたたかみが宿ると考える雪子。幼いときから仲良しだった二人の価値観は、徐々に離れていき、そして決定的に対立する瞬間が訪れる。単行本に、さらに一章分を加筆。少女たちの友情と人生はどうなるのか。「ままならないから私とあなた」正しいと思われていることは、本当に正しいのか。読者の価値観を心地よく揺さぶる二篇。解説は、Base Ball Bearの小出祐介氏。
感想・レビュー・書評
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「ままならない」という言葉を、改めて辞書、いや、Google先生で調べてみました。
思いどおりにならない、という意味でしたが、そう言われると、なんだかわたしは勘違いして理解していたような、そんな気がしています。
相手と自分は違うということ。
これって、家でも家庭でも教えてもらえないことで、きっと、自分が社会に触れて自分で気づいていくものなんだと思う。でも、自分で気づくものにしては、ものすーごくレベルの高いもののような気がしていて。
わたしは30数年生きてきて、最近やっと気づけた。そして、わたしの母親は、まだそれに気づいていない。母はわたしを、自分の所有物だと思っている。自分の力で、わたしを、コントロールしようとしている。
わたしは今の、人と関わる専門家の仕事をしていなければ、きっとまだ気づけていなかっただろう。親の思いどおりに育たない、そんな自分が悪いと、今でも自分を責め続けていたかもしれない。
雪子は、小学校の頃から薫ちゃんとの違いに気付いていて、関わりの中で違和感を感じているのに、友人関係を継続していく。成長していくにつれ、「あの時、~したのはどうして?~しなかったのはどうして?」と、薫ちゃんを理解しようと、きちんとぶつかっていく。
わたしなら、違和感を感じた時点で薫ちゃんとは距離を置いて、「小学校の頃の友達」「中学校の頃の友達」と、過ぎ去った人間関係にしてしまうだろう。
今はそれなりに、どんなに近い人間関係でも、自分と他人は違う、と思えるようになったけれど、それでも、親や好きな人、親友となると、どうしても「わかってほしい」という期待が働いてしまって、わかってもらえなかった時に悲しくなったりする。それは、まだまだ違いを尊重できていないということだろう。
違いを尊重した上での人間関係、この関係性の継続は、どちらか一方ではなく、お互いに違いを尊重しあっていないと、破綻する。わたしは、雪子のように、相手にぶつかる勇気がない。かといって嫌われたくもないから、自分を守るために、さっと距離を置く。もう少し、自分が考えていることや、思っていることに自信を持てていたら、相手にぶつかっていけるんだろうか。いや、それでもきっと、面倒だから距離を置いてしまうんだろう。それは悪いことじゃない。だからせめて、相手にぶつかっていくことはできなくても、相手との「違い」に気づくこと、その違いを理解しつつも、自分の気持ちや意見には自信を持つこと。
今関わっている、とても難しい年齢の子どもたちには、まずはそれを伝えたい。
そしてわたしも、好きな人に対して、違いを尊重できる人間でありたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
相手のためを思い、相手のためになると信じてしたことが、結局は自分の価値観の押し付けでしかなく、相手を苦しめる結果になってしまう。それも、生活のほとんどをかけてきたと言えるものを壊してしまう。
無駄なこと、役に立たないことを徹底的に排除しようとする薫。子どもの頃は、体育の授業を休んだり、学習用のタブレットを手に入れてからは学校もいかなくなったりする。のち、天才的なプログラマーとして知られるようになる。一方、雪子は、時間がかかったりして無駄に思えることの中に価値を見出している。フリーの作曲家として活動するようになる。
自分が苦労して得てきたもの、まわり道しながら考えてきたこと、それらが機械に置き換えられるとは思いたくない。苦労した時間、考えている時間。とても大切な時間だ。雪子に共感しながら読み進める。
意味とかなくったって、単純に楽しい、楽しいだけ。それ以外何の意味もないみたいなことが、意味のあるすべてのものを一気に飛び越えていく瞬間ってあるんだよ。
意味がないとか無駄なこととか、あたたかみとか、新技術で簡単に省けちゃうことにこそ、人間性とか、あたたかみとか、そういう言葉にすらできないような、だけどかけがえのないものが宿るような気がするの。
そんな雪子に対する薫の言葉。
みんなそうなんだよ。自分に都合のいいことだけはちゃっかり受け入れてるんだよ。そのくせ自分を脅かしそうな新しい何かが出てくると、人間のあたたかみが、とか、人間として大切な何かを信じたいとか言って逃げる。
変化していく社会に理解がある顔して、自分だけは自分のままでいたいんだよ。ずるいよそんなの。
確かに合理性によって省かれる人間的なものはいっぱいあるかもしれないけれど、その代わりに、これまでになかった新しい人間的な何かが生まれる。そうやって巡ってきたんだよ、今までも。
薫に対してどう反論ができるだろう、と考えた。都合のいいことだけ受け入れて、自分の価値観にそぐわないものははじめから排除しようとしているだけなのか。
「自分の予想通りに動いてくれないものが怖いんじゃないの?」「ままならないことがあるから、皆別々の人間でいられるんだもん。」と雪子は薫に言うが、最後はその言葉が雪子にかえってくる。努力だけではどうにもならないこと。自分の力ではままならないこと。確固たる価値観の中で懸命に努力しながら、ままならないものにぶつかって、異なる価値観のなかを揺れ動きながら、折り合いをつけていく、ということなのかと思った。
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どうしようもなくままならなかった。
自分の価値観と他人の価値観が出会う時、その違いを尊重できるようにお互いの世界に寄り添えればいいのだけれど、大切に思う人程、その違いにゆがみを生じさせてしまう。
正論と正論のぶつかり合いほど疲れるものはない。
でもそれは不幸なことではないような気がした。
ままならないことに向き合う時、いろんな形の世界とぶつかりながら本当に譲れないものが見えてくる。
人はその信念を頼りに正しいとも間違っているとも言えないこの世界に折り合いをつけていくんだろうな。この世界はどうしたってままならないのだから。 -
テクノロジーとヒトのあり方についての思考ゲーム。
どちらが正しいと言いきれない二項対立。
「レンタル世界」
かりそめの人間関係vsさらけ出しあった人間関係
雄太が先輩の結婚式で見かけた新婦友人の女性(倉持曜子=芽衣)は、新婦の真の友達ではなく「レンタル友達」だった…。
芽衣に惚れてしまった雄太は、芽衣と「本物の人間関係」を築きたいと奮闘するが…。
「本物の人間関係」って何だろう?なかなか深い話だ。
僕はあまりさらけ出すことが得意ではないので、「レンタル友達」や「レンタル彼女」もそんなに悪いことではないと思った。自分が使うかどうかは別として。
「ままならないから私とあなた」
人間性と徹底した合理主義の格闘、せめぎあい。
合理性を追求して、無駄なものを削ぎ落としていく天才薫と、人間的なものを合理性によって省くべきでないと考える平凡な雪子。徐々にすれ違っていくふたり..を描いたSF小説。
自分が好きなように、人生をコントロールしたい。でも、ままならないことがあるから、私とあなたは別々の人間でいられる。
読み終わったあと、タイトルがことのほか強く心に響いた。
朝井リョウさんはやっぱりすごい!
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まさか自分の価値観や良かれと思った正義が、誰かの首を真綿で締めていたなんて…。
朝井作品2作目は喉が詰まったようなもどかしさを感じながらページをめくりました。
私が良かれと思っている正義や価値観や行動が、誰かを後戻りできないくらい深い所まで傷つけて落としているのかもしれない。
そう考えるとこの物語は非日常ではなく、私の日常の中に見え隠れする一部なのかも知れない。
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今この新しい価値観が取り上げられてるからこその本だった。小説の中に出てくる
「自分の人生なんて、成功例じゃなくて、ただの一例にすぎない。でもみんな自分の人生しか生きたことがないから、そのたった一例を否定されるのを嫌う。だから新技術って否定されがちで、とりあえず拒否する。」
なるほどな〜って思った。
たしかにリモートではできない対面だからこそのコミュニケーションの取り方とかあるし、そういう意見に同意していた部分もあったけど、この本を読んで変わった。
新しい技術、生活の中でこその出会いもあるし、それこそ人の運命的な出会いを信じるなら、車なんか乗らなくて歩いて移動すればという考えに貫かれた。 -
タイトルの通りだなぁ。最初は気が合うと思って好きで一緒にいたのに、だんだんあれ?変だなと思い始めたら崩れ始めることってあるよなー。生きていく中でその人にとってどんな経験をして、どんな考えを持ってっていうのは人それぞれだもんね。全て効率を重視して人間味をなくしてしまうことも寂しいと感じる。便利なもので溢れてる世の中だけど、ずっと忘れないでいたいものも経験として残ってるなと思った。思い通りにいかないから人間。私は人間だ。
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2人は親友だった。しかし、合理的を追求する薫と、非合理的な部分にこそ本当に重要なものがあると信じる雪子は、徐々にすれ違っていく。
この物語のキモは、どちらかを肯定するわけでも否定するわけでもなく、2人の心の中の2つの価値観が、ただそこに"存在している"、それ以上でもそれ以下でもないのだと伝えてくること。私はこれに、激しい共感を覚えた。
誰が間違ってるとか、そんなことはどうでも良く。結局自分は、自分の納得する価値観に沿って生きていき、そこに責任を持つ、ただそれだけなのだ。
しかし、ひとつの価値観に縛られる生き方を私は望まない。そのために、「価値観の異なる小さな世界」を大切にしていこうと思った。
「私は、自分はきっと目の前の男を採用するだろうと思った。そうすることで、価値観が異なる小さな世界が身の回りにまたひとつ増え、他ならぬ自分が、変わりゆく世界の一部に馴染んで行くのだろうと感じた。」 -
朝井さん2作目。
決していい話とか読後感がいいとかいう訳じゃないけど、なんか癖になる。1本目のレンタル人間が好きだった。
朝井さんの作品には、"カッコ悪い"とうか、不完全で歪な人間が多く描かれているけど、正に「ままならないことが人間」その通りだと思った。
私だってそうだし、一見完璧に見えるあの人だってきっとそうなのだろう。