帳簿の世界史 (文春文庫 S 22-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167910600

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  • 著者のジェイコブ・ソール(1968年~)は、歴史学と会計学を専門とする南カリフォルニア大学教授。
    本書は、2015年に単行本で邦訳が発刊され、2018年に文庫化。
    本書は、「帳簿(会計)」という斬新的な視点を軸に歴史の裏側を明らかにしたものであるが、一般に経済に大きな影響を与えると考えられている「帳簿(会計)」が、実は政治や文化に影響を与え、更には歴史までも動かしてきたことを示す、興味深い内容となっている。
    大まかな内容は以下の通りである。
    ◆会計の初歩的な技術は古代メソポタミア、ギリシャなどに見られ、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスは、会計の数値を自らが建造した記念碑にも刻み、透明性の高い精密な会計を自身の政治的正当性と功績に結び付けた。
    ◆12世紀、フィレンツェ、ジェノヴァ、ヴェネツィアなどの商業都市国家が並立し、当時欧州で最も豊かだった北イタリアにおいて、“複式簿記”が発明された。その要因は、それまでとは異なるアラビア数字が使われていたこと、貿易が発展して多くの資本が必要となり共同出資方式が考案されたため、帳簿が単に所有しているものの記録ではなく、出資者への利益配分を計算するための記録となったことというのが定説である。
    ◆14世紀にトスカーナ商人のダティーニが、15世紀にフィレンツェのメディチ家が、会計技術を支えに富豪となったが、ルネサンス期の思想に強い影響を与えた、人間の栄光は芸術・文化・政治的業績に基づくのであり、現実的・現世的な商業は重視しないとする“新プラトン主義”により、会計と責任の文化は根付かなかった。
    ◆16世紀以降、“太陽の沈まぬ帝国”スペイン、欧州最大の王国・仏ブルボン朝などの君主国で会計が注目されたこともあったが、複式簿記による国家の会計システムを安定的に確立した君主はいなかった。それは、君主にとって会計の透明性は危険ですらあったためである。例外は、共和制を維持し続けた黄金時代のオランダ(とスイス)だけであった。事実、ルイ16世期の国家財政が民衆に開示されたことが、フランス革命の要因のひとつとも言われる。
    ◆18~19世紀、アメリカの建国の父たちは、会計の力を信じ、それを駆使した。鉄道の登場による会計の複雑化は公認会計士を生み、更には、多くの専門家を抱えた大手会計事務所が作られることになった。しかし、大手会計事務所が、独立性を必要とする“監査”と企業の立場に立つ“コンサルティング”の双方を手がけるという構造的矛盾を起こすに至り、エンロン事件やリーマンショックが発生した。
    そして最後に、「本書がたどってきた数々の例から何か学べることがあるとすれば、会計が文化の中に組み込まれていた社会は繁栄する、ということである。・・・これらの社会では、会計が教育に取り入れられ、宗教や倫理思想に根付き、芸術や哲学や政治思想にも反映されていた。」、「いつか必ず来る清算の日を恐れずに迎えるためには、こうした文化的な高い意識と意志こそ取り戻すべきである。」と結んでいる。
    数百年に亘る会計の歴史を辿りつつ、現代の複雑化した金融システムを維持するために、我々にはどのような心構えが求められるのかを示唆する、奥深い一冊と思う。
    (2018年5月了)

  • 会計から世界史を紐解く。金の計算ができるかできないかで一国の富と繁栄は決まるという単純な事実を豊富な史料で解き明かした良書。会計の影響を経済だけでなく政治や文化に広げ、特にキリスト教と会計の関わりまで目を配っている。読み物としても面白い。

  • 時代背景は古代から始まり、歴史的な出来事も絡みます。フランスの負債について、そしてリーマンショックなんかはふむふむと思いますよ。

  • あの陶器で有名なウェッジウッドは、最終監査役は自分であり、リアルタイムで監査を行う「毎週月曜日に帳簿を見られるように、これを永久運動のように継続して欲しい」と私設会計士に依頼した話。経営者にとって会計とこれを永久運動のようにする事が期待されてるって、自分も外資系企業の営業一員として動いてると今も同じかと…

    この本は、なんで会計なんてやらないと行けないんだ?と素朴に疑問に思っている人に、歴史的な事象をストーリー仕立てで必要性を感じることが出来るんじゃないかな。そして、ウェッジウッドの言葉にある、リアルタイムで監査ができ、「永久運動」と言うという言葉に愕然としたりして…

    本書では、帳簿が発生したのは、古代メソポタミア、ギリシャ、中国などなどと紹介され、政治と帳簿、商人と帳簿、公認会計士の誕生、リーマンショックと近代の帳簿へとストーリーが続く。本書の中で、政治に利用したのは、ローマ帝国初代皇帝のアウグストゥスとの記載があり、自分が出資した話として政治アピールに使ったとあるが、塩野七生のローマ人の物語だと、カエサルの借金の多きさが語られていて、こっちも借金王として帳簿に残ってたはずだが、エピソード的にあまり広がらない?

    最近、コンサルティングファームの方たちと仕事が増えてきているんだが、企業としては、会計系コンサルティングなんだが、完全にITの世界の話。で、その語源が、「会計改革の道筋を作ったフランス革命」1780年代、ネッケルの章にあって、妙に納得してしまった。「フランス語で、会計や決算、報告を意味するcompte、古くはacomptであり、こらが英語に入ってきたとされる。accountantは、accomptantだった。大元のラテン語は、computareで、これはcomputerの語源。」

    この本は、挿絵も素晴らしい。カネに翻弄される人々の風刺。

    解説の山田真哉氏の「ブロックチェーンを帳簿が乗っかっている貨幣」という言葉は、「帳簿の歴史」と将来を考えるうえで、なかなか面白いポイントだなと。

  • 会計オタクのための歴史。拾い読み。

  • 帳簿から見る歴史という切り口に興味を持って読み始めた。帳簿とはお金の流れであり、即ちあらゆる活動の記録であることから、帳簿がきちんと付けられていない=対象の全体像が把握できていないということだというのが学び。
    プロジェクト管理のように、帳簿による管理ができる組織とできない組織にどのような違いが発生するのか、それ以上に、その違いが生まれる理由の読み解きが一層興味深い。

  • 面白かった。特にフランス革命。
    会計ってなかなか定着しないのが興味深かった。

  • 複式簿記に至る歴史をまとめているが会計の本ではない

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