エヴリシング・フロウズ (文春文庫 つ 21-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167908485

感想・レビュー・書評

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  • 前作「ウエストウイング」に続いての一冊。

    中3になったヒロシがクラス替えで出会った新しい仲間と得ていく世界を描いた物語。

    相変わらず淡々とした描写なんだけれど、津村さんはその瞬間をものすごく細かく丁寧に描いている。

    自然とその瞬間が脳裏に、でもしっかりと入ってくる感じが好きだ。

    仲間と過ごした一年間は確実にヒロシのこれからに繋がる貴重な経験。

    大人の世界の汚さ、ずるささえも…。

    この仲間達、その時々で誰かが誰かの支えになっていたことがオトナ心に沁みたな。

    ふわっと明日への爽やかな風が吹いたようなラストがまた良かった。

  • 始めはなかなか読み進められなかったけど、半分くらいから一気に読んでしまいました。津村記久子さんの作品を読むと何故かいつもそんな感じになってしまいます。やっぱり津村さんの作品が好きだなぁと改めて思いました。
    解説もわかりやすくてとても良かったです。

  • うわ~これまたむちゃくちゃ好きなやつ。

    特別な人間が出てこない、みんな等身大でその辺にいそうな感じがたまらなく愛おしいんよな、津村さんの小説って。
    ヒロシもヤザワもフジワラもフルノも野末も大土居も増田もみんな好き。
    野末はこんなん絶対好きになる。なにより、ヒロシと大土居の感じが恋の1000歩手前みたいでたまらない。安易に恋愛路線に持っていかないあたりが津村さんの凄さであり、良さ。

  • この文庫本ではなく、単行本を読んだ時に書いたレビューです。ご容赦ください。<(_ _)>

    冒頭───
    クラス替えの表は、下駄箱と玄関ホールの間に設置されている掲示板に貼り出されてあった。こっちの脳みそがスライスされてしまいそうなほどのキーキー声を上げて手を取り合ったりしている女たちと、新しいクラスなどどうでもよいという態で余裕ぶって、まったく関係のない話をしながら、しかし掲示板の前から離れようとしない体育会系の男たちの後ろで、背の低いヒロシは根気強く表の確認を待っていた。
    自分の名前を見つけたい、というよりはむしろ、名前がないほうが良いかもしれない、とヒロシは思う。名前がないんで帰りました! と誰だか知らないけど担任から電話がかかってきたら言えるし。
    もう面倒なのだった。誰と中学三年の一年をつるめるかについて、意外と出たとこ勝負のくせして、この場ではどちらが派手に喜べるかを競っているような女たちや、興味のなさそうな顔つきで名前の表をずるずると眺めながら、こいつにならおれは勝ってるとか、腕力では敵わないけど顔では上とか、想像力をたくましくしている男たちが周りにうろうろしていると、ヒロシはときどき窒息しそうになる。
    ───

    中学の時、ぼくはごく普通の中学生だった。
    ごく普通のというのは、周りにいじめたり、いじめられたりする生徒もいなかったし、児童虐待で悩んでいる知り合いもいなかったし、自転車で全国レベルのスピードを持つ友人もいなかったということだ。
    サラリーマンの家庭で、両親とも仲が良く、姉も優しく、友達も特に問題を抱えているという人間などいなくて、平凡で毎日のんびりとした中学生活を送っていた。
    さすがに、三年生になった時には(それでも夏休み以降だが)受験勉強に追い込まれ、多少は悪戦苦闘したけれど。
    薔薇色の未来が待ち構えていると信じていた。
    それは、まさかの受験失敗で一気に崩壊することになるのだが。
    それでも、この作品の主人公ヒロシのように、小説のネタになるような色々な事件や出来事は殆ど何もなかった。
    そのことが今の凡庸な自分を形成するにあたって、良かったのか悪かったのかは、今でも分からないけれど。

    ヒロシの周りには多くの個性的な人間が集まる。
    私立の女子中学に進学しながら、女友達と馴染めず、学校がつまらなくて辞めたいと思っているフルノ。
    背が高く、大人びた感じなのに、反応が鈍く、周りから疎んじられているヤザワ。
    女子にしては、細かいことを気にせず、真っ直ぐな性格で、ヒロシが密かに憧れているソフトボール部のキャプテン野末。
    その野末と同じソフトボール部で、試合になるといつもホームランを打つ大土居。
    ヒロシ以上に絵がうまく、目立たない存在ながらも一目置いている増田。
    小学校の時は一緒の塾に通っていたが、今は別の中学に通うフジワラ。
    ヒロシは、これら多くの知人友人との距離感を漠然と意識しながら、付き合いを続けていく。
    常に何が正しいのか分からず悩んでいる、自意識過剰で優柔不断なヒロシ。
    それでも、いざという時は他人のために何とかしようと行動を起こす。
    淡々としたさりげない描き方ながら、ヒロシの周りには次から次へと問題が発生してくる。
    どんなに考えても、どれが正解なのか分からない。
    葛藤するヒロシだが、悩みながらも事件に向き合うことで、少しずつ成長していく。
    この細部に至るまでの描写や心象風景の描き方が見事だ。
    全てのキャラもしっかりと明確化され、魅力的だ。
    現代の中学生は、いつもこんなに問題を抱えて悩んでいるのかと思うと、可哀想に思えてくる。

    みんなが新しい高校生活に向かって、それぞれの想いを抱きながら見ためがね橋の上からの景色は、どのように映ったことだろう。
    離れ離れになる切なさか、新しい生活への希望か?

    P346
    “ヤザワの自転車が海に落とされたように、出会った連中は好き勝手に、ヒロシの中にいろんなものを投げ込んで離れていった。ヒロシ自身も、彼らにそうした。”
    “たぶんまた誰かが自分を見つけて、自分も誰かを見つける。すべては漂っている。”
    他人との関係に、自分がどう関わっていけば良いのか悩み続けてきたヒロシの答えがこの文章にある。
    それは、高校時代のみならず、これからの人生の中で永遠に続いていくものであり、ヒロシはこの中学生活の中で初めてそれに出会って学んだのだ。

    この作品は、文章に一点の曇りもなく、大阪弁ならではの味わいもあり、余分な表現も一切ない。久々に非の打ちどころのない完璧な小説を読んだ気がする。

    津村記久子さん、初めて読んだが只者ではない。
    すでに芥川賞を受賞しているようだが、自らも“自信作”と呼ぶこの作品は何かの賞を取るのではないか?
    他の作品も是非読まねばと思った。
    また、好きな作家が増えた。
    是非是非皆さんもお読みください。
    心の奥底に響く、優しくて素晴らしい作品です。

  • 作中では言及されていませんが、あのTeenage Fanclubの名曲(またはVelvet Crushによるカヴァー曲)"Everything Flows"にちなむ書名。

    大人でも子どもでもない存在が抱える不安や焦燥を描いた本作は、言うなれば『キャッチャー・イン・ザ・ライ』に近いかもしれません。

    しかし、物語の中心人物(あるいは中心人物の一人)であるヒロシは、ホールデンほど性急でも饒舌でもなく、もっともっと鈍臭い。そして、それこそが彼の魅力の源泉でもあります。自分のことで精一杯で、ときには自分のこともままならないのに、周囲にふりかかる問題に不器用に対処しようとする様子は、どこか心を打たれます。

    また解説にあるように、ヒロシはやたらと悩む純文的な人間でもなく、胸がすくような行動をするエンタメ的な人間でもない。この中間的な人間を肯定的に描く津村さんの力量は、さすがというほかないです。

    個人的には、傑作『八番筋カウンシル』にも似た読了感を味わえました。

  • ヒロシが、明確な意志がもてず、迷いながらも、自分にも他人にも誠実に生きようとしている姿が好もしい。決め付けない在り方に希望を感じる。

  • ウエストウイングの小学生だったヒロシやんかいさー!!
    中学時代のことなんてほとんど記憶に残っていないが、
    ヒロシたちみたいに真剣に(あるいはいろんなことに巻き込まれて)
    毎日生きてなんかいなかったので追体験した気分
    それにしても津村さんの作品は、カラッとして落ちはあるものの、
    どうしようも救いのない人が絡んできたり、不幸な人が登場する。
    でも集団生活しているうちはそんな人に巻き込まれるのは必然なので、予行演習しておくのも良いか。
    未成年のうちはいろいろ難しいかもわからないが、
    安心できる人(祖父母、親戚など)に生活を任せて、我慢しないで逃げてと言いたい。

  • 面白かった。長いけど無駄がなく、ちゃんと繋がっているから最後まで飽きない。その分一気に読むにはひとつひとつのボリュームが多いのである程度の量を数日かけて読むのがちょうどいい。津村さん十八番のお仕事小説でもそうだけど、実際体験していなくてもこういうことってあるよなあ、と、説得力のある話。主人公の「このコミュニティでは波風たたないように空気を読みつつやっていこう、できれば楽しくやろう」というスタンスに共感できる。中学生が主人公ながら、文化祭なども行われながら、学園小説感(恋と友情のスクールライフ!!という熱量)がなくてよかった。いまさら青春を求めてはいないので…。

  • 大土居がよかった。大土居が聞く音楽もカッケェ

  •  新学期、掲示板で何組かを確認するシーンから始まる。とても読みやすい。中3男子の内面がよくわかる。ヒロシから見た母の姿をみていると、思春期男児をもつ母には大変参考になる一冊。家庭の事情、離婚、受験、塾、SNSの時代っ子、いじめ、様々な事情が盛り込まれ、コンビニもよく登場する。現代の物語。運動会や文化祭などイベント事も経て卒業するまでの1年間が語られている。学力こそそこそこだが、ヒロシはとてもしっかりした考えの少年だと思う。『たぶんまた誰かが自分を見つけて、自分も誰かを見つける。すべては漂っている。』と言う言葉がすっと入ってきた。こうやって、人との関係を作り学生時代には大切な友達をもつ、誰もが通ってきた、または通る道が自然に語られている。

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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