それでもわたしは山に登る (文春文庫 た 97-1)

著者 :
  • 文藝春秋
4.15
  • (16)
  • (16)
  • (8)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 140
感想 : 17
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167905996

作品紹介・あらすじ

がんになんて負けられない! 勇気と希望をくれる一冊――2012年春、突然のがん告知。抗がん剤治療後、手術。そして点滴の合間に副作用でしびれる足で山に登り、講演や執筆をこなした。生きているかぎり前進あるのみ!世界初の女性エベレスト登頂から40年を迎えた登山家が、つぶさに振り返る「山とともに歩んだ人生」。文庫化にあたり、病気後の日々を綴った書き下ろし原稿を特別収録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 女性登山家、田部井淳子さんのエッセイ。第一部は山での経験、第二部はがんが発見されてからの闘病生活が中心となっている。

    「女性初の」という冠がつくことの多い田部井さん。「鉄の女」のようなタフなイメージを持っていたが、文章を読む限り、きわめて冷静で合理的、かつしなやかな考え方を持つ方だったのだろうな、と思える。
    この本では詳しくは書かれていないが、女性だけでエベレストを目指したのも、同じ体力の者同士でパーティを組んだ方が双方に負担が少ないし、テントの振り分けなども気を遣わずにすむ、といった合理的な理由が大きかったのではないかと思う。

    第一部は、これまでほとんど情報のない中国の山で雪崩に襲われるエピソードから始まり、死と紙一重である登山の厳しさをいきなりつきつけられる。また、登山歴が浅いころに目の前で起きた滑落事故の話は、読んでいるだけで恐怖に身がすくむ。こういった経験が、時には非情に思えても、安全に登山することを最優先に考える田部井さんの冷静な判断力を培ったのだろうと感じる。
    また、過酷な登山の中でパーティ内の連携を強固にするために、一人一人に気を配り、言いたいことがあれば決して否定せず聞く姿勢などは、組織のマネジメントを考えるうえでも非常に参考になる。

    第二部では、お腹に違和感を覚え、腹膜がんのステージⅢ、余命三か月と宣告されてから、抗がん剤治療により寛解するまでのエピソード。
    福島県出身の田部井さんは、東日本大震災の後、避難者をハイキングと温泉に連れて行く企画や、被災者の高校生たちを富士山に連れていくプロジェクトなど、登山を通じた被災者支援を行ってきた。その中でのがん宣告、闘病生活だったが、病気のことは家族や限られた人にしか伝えず、週に一度の抗がん剤投与の合間を縫って精力的に活動する。
    余命三か月、なんて宣告されたら、私だったら何もかもやる気をなくして落ち込んでしまう。田部井さんは当時すでに70歳を過ぎており、以前に乳がんも経験していることからある程度は覚悟ができたのかもしれない。しかしそれを差し引いても、宣告後「余命三か月はないだろう」と、まず専門の病院で検査を受けて治療方針を確認し、自分のやりたいことをどのような形で行えるか、しっかり計画して実行する様子は、いつ何が起きるかわからない経験をしている登山家ならではの強さと覚悟を感じる。

    死ぬまでに身辺整理をする時間がもったいない、そんな時間があったら少しでも山に登りたい、という田部井さん。その潔さ、そこまで熱意をかけられるものがある人生をかっこよく、うらやましく思う。

  • 田部井さんのガンとの闘い。というより生きることは山に登り続けることなのだ。癌になろうが、抗がん剤の副作用がでようが前しか向かない。膝痛ぐらいで嘆いている自分が情けなくなる。
    大震災で傷ついた若者たちを登山で元気にする。登った若者たちの笑顔が田部井さんを元気にする。
    力をいただいた。
    ありがとうございます。

  • 山好きなら読んで損なしの1冊。山が好きでなくとも、前に進む力を分けてもらえる本。

  • 強くしなやかに生きた美しい女性の人生の記録。ただ、ストレートに、憧れる。

  • 【いちぶん】
    皆の一歩は四、五〇センチしかないかもしれないが、その一歩、一歩を続けることで頂上に立てる。

  • 田部井さんの前向きさに脱帽しました。闘病中の人、特に抗がん剤治療中の方には非常にオススメです。余命3ヶ月と宣告されても、とにかくいかに楽しく生きるかを大事にされています。見習いたいなと思いました。そして山への情熱を非常に感じさせられました。

  • 厳しい環境下で身体機能が落ちてきたときは、判断力も鈍る。そのとき、集団で討議することは間違えやすい。

    必ず朝は来る。辛い時、そこから抜け出せるために嘘の自白をする可能性がある。

    疲労の極みでは、正しい判断ができなくなり人の意見に惑わわされやすくなる。疲労したとき、下山時のルートには神経質になる。

    山に近道はない。

    大判のスカーフ、ショール、マフラーがあると便利。

    寝る前に、手で頭をもみほぐすとすっきりする。耳のマッサージをする。
    のどが渇いたら両手をほっぺたにあてて1分間じっとしていると唾液が出てくる。

    情は判断を鈍らせる。隊長ならば決断をしたらそれを曲げない。

  • 「不可能は自分が作り出したもの、心にあった壁が崩れた…」一度だけお会いしたことがある。お話をして、その時も立派なおばちゃんだと思った。この本を読んであらためてすごい人だと思った。前に進む力。気持ちの持ち方。もっと長生きして日本を元気づけて欲しかった。お亡くなりになられたことが残念でならない。三春の滝桜もあと2週間もすると見頃になるでしょう。

  • 世界初の女性エベレスト登頂を成し遂げた登山家が綴るエッセイ。
    2章に分かれていて、第1章は「山から学んだこと」として山登りのエピソードを、第2章は「それでもわたしは山に登る」としてがんに罹患され、それを克服されるまでのエピソードでした。

    個人的に山登りはそこまで経験はないのですが(最高峰は燧ケ岳か。小学5年頃です)、集団で行っていようが心理的には孤独なところがあって、肉体的にもだいぶ根性が試されるモノで、これをこなす人っていうのは相当自分と向き合ってて、誇りがあって、色々話を聞いたら面白いだろうなぁ、という先入観?めいた感覚があります。
    第1章はまさにそれを裏付けてくれるもので、ゾッとする話や集団をうまく統率した話、山の神秘まで、なんだか憧れを抱くようなものでした。
    第2章はがんの診断を受け、それでもメゲずに色々な活動をして、ハードなスケジュールの中で手術を受け、快癒後に海外の山に登るというもの。

    何が人生を楽しくするかについて、若輩者の自分に語れることはあまりないものの、この本から学べることは、入れ込める、大好きな何かを持つこと。
    あとは、旦那さんと一緒に山に登っているシーンも特に後半に多く出てきますが、共通の喜び・趣味を持つ伴侶と出会うことは大事なんだろうなと思いました。
    負けずに、積極的に楽しんでいきたいものです。

  • 2016/4/17 アミーゴ書店HAT神戸店にて購入。
    2017/9/25〜9/27

    今年、残念ながら逝去された田部井淳子さんのエッセイ。2013年の出版であるが、既にガンと闘っておられる様子が綴られている。しかし、とにかく前向きな人であったことが良くうかがわれる。震災後に力を入れておられた被災地の高校生の富士登山もそういう裏側があったんだなぁ。次回、登山の際には、田部井さんのように山に感謝して登ることにしよう。

全17件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

登山家。1939年生まれ。1975年、エベレスト日本女子登山隊副隊長兼登攀隊長として女性として初めて世界最高峰エベレストに登頂。1992年には女性初の7大陸最高峰登頂者となった。登山に関する著書多数。2016年逝去。

「2021年 『田部井淳子 山の単語帳』 で使われていた紹介文から引用しています。」

田部井淳子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×