闇を裂く道 (文春文庫 よ 1-53)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (515ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167905507

作品紹介・あらすじ

あの「高熱隧道」に匹敵する力作長篇!大正七年着工、予想外の障害に阻まれて完成まで十六年を要し、世紀の難工事といわれた丹那トンネル。人間と土の熱く長い闘いを描く。

感想・レビュー・書評

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  • 少し冗漫な感じもする。同じ作者の「高熱隧道」の方がまとまりよく一気に読ませる力があったように思う。

    工事としては、旧丹那トンネルの方が期間も長くかかっているので当然大変だったのでしょうが、それを克明に記すのはある意味マンネリにもなる。
    また、渇水による函南村の村民の苦難や怒りにも筆を向けているので、単なるプロジェクトX的な工事が大変でしたねだけではない、社会的な読み物になっている。

    今の日本にこれだけ、住民の事を真剣に考えてくれるお役所・官僚はいるのでしょうか。

  • 高熱隧道が熱さとの戦いなら,こちらは水との戦い。
    どちらも大変な工事だったことが分かる良い小説である。

    ゆいの森あらかわの令和4年度企画展吉村昭「高熱隧道」 で知って図書館から借用

  • 丹那トンネルの工事の様子を描いた,ほぼノンフィクション.ほとんどプロジェクトX.主人公のいない,いわゆる「群像劇」である.なぜなら工事には16年間もの長い時間を要したから,さらには鉄道省の人々が役人であって,数年で配置換えになるからである.では事実が淡々とかかれているだけであるかというと,そうではなく,極めて困難な工事に挑んだ熱い記録である.最初に水抜き坑が貫通するくだりは,何度も繰り返し読んでしまった.

  • 東海道線の三島~熱海間を結ぶ丹那トンネルは、全長7.8㎞。大正7年に着工され、当初の工期を大幅に超過し16年をかけて67名もの犠牲者を出しながら昭和8年に開通しました。本書は丹那トンネルの掘削工事にまつわる数々の事故や災害の実情を詳細に描いたノンフィクションです。
    今では様々な重機と工法の発達で安全かつスピーディーにトンネルは掘削されるようになりましたが、丹那トンネルは着工時は何と工夫による手掘りでした。工期途中からようやく電気による掘削機を使用されましたが、掘削した後の坑道を支える支保工は丸太などが多用され、掘削したズリ(掘り出した土砂)を坑道から搬出するトロッコも、着工当時は馬や牛が曳いているような状況で工事は進められました。大きな崩落事故が発生した際、手掘りで地道に坑道に取り残された工夫を救出する様子がリアルに描かれており、息が詰まるような臨場感を感じました。
    丹那トンネル工事が「世紀の難工事」と呼ばれる主因は、トンネルを断層帯が横切っており、夥しい量の出水があったことが挙げられます。丹那トンネルは丹那盆地の真下を掘り進められました。丹那盆地は豊かな湧水と地下水に恵まれた地域で、水田だけではなくワサビ栽培なども盛んにおこなわれていました。しかしトンネル工事が進むにつれてトンネルへの出水の影響で地下水位が低下し、水田への引水もままならず、工期後半では飲料水にも事欠くほどの状況に陥ります。丹那盆地に位置する自治体の農業被害の実情や、それに対する鉄道省の補償などについても詳しく述べられています。
    そして、他のトンネルとの違いがより顕著なのは、トンネルを大きな断層が横切っていて、その断層が動いた「北伊豆地震」がまさに工事の真っ最中に発生した事です。工事は断層面で中断していたため、トンネル切端(きりは:掘削の最前面のこと)と断層面が一致し、約2.5mずれた断層面がトンネル内に出現しました。もしも地震の発生がもっと工事が進んだ状態であったなら、坑道が完全にずれていたでしょうし、トンネルが開通した後で列車が通過中であれば、大きな事故になっていた可能性もあります。
    このような数々の障害を克服し、16年にわたる工期を要してトンネルは開通しました。文庫本500ページ超にその詳細が述べられています。著者はノンフィクション作家として有名な吉村昭氏。余計な脚色は一切なく、吉村氏の代表作の中の1冊と言われるのも納得できました。

  • 東京から新大阪への2時間半の旅。首都圏には三島から通う人もいる。そのとき潜る隧道がある…両端から掘り始めて行き会うのに16年。それぞれの堀口での崩落事故。奪われた坑夫の尊い命。作業を妨げる湧水の一方、下流の町での水枯れ。陳情から抗議に変わる。一触即発を避け、何とか得られた補償。…世紀の難工事、丹那トンネル。67名の殉職者。二度と戻らない水田とわさび田。多大な犠牲を払って得た教訓。地質調査や掘削技術の発展。反対を押し切っても成せば成るの成功体験。…リニア、万博、原子力発電。変な風には活かされて欲しくない。

  • ただのトンネル工事だけの話ではなく、7年の予定だった工期が16年にもなった原因、崩落事故や旦那盆地の渇水問題、その時の時代にあった出来事も詳しく書かれており、その頃のトンネル工事の大変さがよく書かれていた。

  • 「戦艦武蔵」を読んで吉村昭にハマったのだが、あとがきにある通り「戦艦武蔵」の書き方に似た群像劇であった。
    当時の世相、大正、昭和、そして戦争をあっさり描く所など、あくまで主軸はトンネルである事が分かる。傑作と感じる小説。

  • それまで箱根線経由だった東海道線を熱海三島間のトンネルを掘って1時間以上短縮する物語。
    地震や崩壊事故など数々の困難を超えてトンネル掘りに挑む男たちの姿に泣ける。
    トンネルに閉じ込められ、絶望の淵に必死にもがく情景に胸が熱くなった。

  • 小説を手に沼津駅から御殿場線に乗り、該当の記述を読みながら車窓の景色を眺め国府津まで贅沢な時間を過ごした。

  • 大正七年四月一日起工。
    昭和九年三月十日完成。
    十五年十一ヵ月、延べ二百五十万人の作業員によって完成した丹那トンネル。
    当初の甘い予測を遥かに上回る難工事。
    付近の住民の非難。
    自然災害。
    それらを乗り越えて作り上げた大傑作”丹那トンネル”
    著者の『高熱隧道』と共に読むと熱いトンネル屋の魂が感じられる。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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