とにかく散歩いたしましょう (文春文庫 お 17-4)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167904128

作品紹介・あらすじ

本と散歩ですべてのりきれる。珠玉の随筆集ハダカデバネズミとの心躍る対面。同郷のスケーターの演技を見る感動。永眠した愛犬ラブと暮らした日々。創作の源泉を伝える46篇。

感想・レビュー・書評

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  • 小川洋子さんの綴る日常は、小川さんの描く静謐な小説の世界と地つづきになっているようだ。
    物語という世界の片隅で、慎ましくひっそりと呼吸する住人たち。小川さんは、彼らの小さな声を一生懸命聞き取りながら、一生懸命物語として記している。同じように、現実の世界でも遠慮がちな小さな声を小川さんはちゃんとキャッチし、その存在をそっと丁寧につまみ上げる。
    「る」と友だちの姪っこちゃんも、愛犬ラブとの散歩道も、コインみがきのバットライナーさんとフィッシュ・カウンターのブッカーさんも、みんな物語の世界へと導かれていく。
    優しく、楽しく、時には切なく。
    愛することを祈るように心に響く。

  • 小川洋子さんの「博士の愛した数式」は名作だったが、エッセイを読むのは初めて。
    何気ない日常を、どこか作家らしく鋭く捉えている気がする。

    サッカーがお好きなようなのが意外。
    老犬と散歩をしている時に、転がってきたサッカーボールを男の子に返した後、サッカーのワールドカップの空想。

    【引用】
    そうか、私はゴールキーパーなのか。あのカメルーンの猛攻を防いだ、吼える川島か。あるいは金色の優勝カップを頭上に掲げる、スペインのカシージャスか。いずれにしても私は、一個のサッカーボールを救ったヒーローなのだ。
    【引用終わり】

    スペインが優勝した大会なので、南アの大会だ。
    たしかに日本代表は、本田のゴールを守り切ってカメルーンに勝ち、低い下馬評を覆し決勝トーナメントにも進んだ。
    小川さんが、この大会の日本代表を猛烈に応援していたことが伝わってきて、微笑ましい。

  • おいしいウィスキーのように、シンプルでいて、深み、豊かな香りが溢れる。そんなエッセイ集。

    常人にはない視点で、日常のなんでもないことを繊細に掬い上げ、想像力の海へ解き放つ。
    小川さん自体が世界に対して、自分に対して、周りに対して好奇心があるからこそ、世界、自分、周りを信じているからこそここまで熱い想いをもち、世界を切り取れるのだと思う。

    文章はさすがにうまく、これだけ比喩や例え話を駆使して、陳腐にならないことがすごい。(これは村上春樹と通じる部分)

    ハダカデバネズミに対する愛。子供へ対する愛。ブンちゃん(桜文鳥)、ラブ(犬)への愛がにじみ出る。
    小川さんの優しさに包まれ、ほんわか幸せになる。

    小川さんの経験談。昔読んだ小説が自分が思っていたストーリーと違ったというのは、自分は経験がない(というよりストーリーをすぐ忘れている)ので、さすが小説家は、ほっといても自分自身の物語が湧いてきてしまい、読んだ文章も自然に動き出してしまうのではないだろうかと思った。

    そして色々な本の紹介がちりばめられているのも嬉しい。
    ポールオースターの本の内容の紹介、ノルウェイの森のひたすら歩き続けることに対する記述など、もともとすごい作品なのだと思うが、小川洋子に語られることで、なるほど、そういう面があったのかと新たな発見を得られる。
    「ふしぎなポケット」の詩が持つ多様性、無限の可能性に、少し恐ろしささえ感じた。

  • ひとつひとつの話が短く、テーマも異なるのでちょっとした隙間時間で読むのにピッタリ。
    ハダカデバネズミの女王社会や肉布団の話は面白く、ロバのイーヨーは一緒にため息をついて傍にいてくれるというのにはとても共感した。一緒にいて疲れない友達が1番だ。
    ちらほら、チェスや、槍投げ、アンネの日記に縁の人、など、過去の著作を彷彿とさせるところもあった。

    「題名同士の思わぬ出会いを演出するためには、本棚は系統立てて整頓しない方が、かえっていいのではないかと思ってしまう。」p103
    という、"背表紙たちの物語"が印象的だった。

  • やっぱり安定のクオリティ。お散歩がしたくなるかと思ったら、あれこれまた本を読みたくなってしまった(笑)とくに星野道夫氏のお話が興味深くて、著書をメモ!『旅をする木』と『赤い絶壁の入り江』

  • 小川洋子さんの小説のファンだ。ファンタジックな世界観と、登場人物が自然に物語の中を生きていていて「押しつけがましくない」感じがとても好き。
    このエッセイに書いてあるのは、あくまで作品の執筆と共にある日常の話だが、魅力的な小説が生み出される源を垣間見れた気がする。

    日常のささいなことに対して感動できる感性、自分の知らなかった世界に対して興味を持てる好奇心、物事の裏側に思いを巡らせる想像力、そうして蒔かれた物語の種を謙虚な気持ちで育てる。
    あの生き生きとした登場人物たちはこういった過程から生まれたんだなと分かる。

  • とにかく散歩いたしましょう(文春文庫)
    著作者:小川洋子
    発行者:文藝春秋
    タイムライン
    http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
    第104回芥川賞受賞作品

  • 2020年5月28日読了。小川洋子のエッセイ集、結果的にタイトルにあるように「散歩」や飼い犬に関する話が多くなっているようだがそればかりでなく、特にテーマを決めて書いているものではないようだ。エッセイというものも切り口の鋭さで見せたり自分の業種の特殊性をネタにしたり権威に反発してみたりといろんなやり方があるとは思うが、「面白いことを書いてやろう」と気負われると読む気も失せるし、「自然な文章がいい」と言われても単なる日記や感想文を読まされてもつまらんし…難しいものだと思うが、この人の場合は特に気負いもなく目の付け所の鋭さとか題材の面白さにこだわらず、ハダカデバネズミの話などは面白いがあまり肩肘張らずにテーマを選んでいるように感じられ、すっと読めた。それだけに読み終わってゴリッと心に残るようなものは特に無いのだが、まあエッセイなんてそんなもの・読む側の暇つぶしになればそれでいい、というもんかな…。

  • 読んでいるうちにどんどん肩の力が抜けていく一冊。正直なところ面白さは期待していなかったのだけど…久しぶりに会う友人から聞く少しとぼけた近況報告のようだったり、我が身にも起こりそうな出来事だったり、日常にはこんなにも話題で溢れているのだと楽しくなってしまった。
    老いていく愛犬との日々にはほろりとしたり、さり気なく差し込まれる書籍のタイトルに読んてみたいと思ったり…一番共感したのは編み物の話。あれは文で書かれると難しいのよねと思いながら読んでいるとオチで大笑い。
    日常の出来事から色々連想したり、ニュースから子どもの頃を思い出したり、感性のアンテナを張っていれば日々の暮らしの中に楽しさや思い出、もしかしたらちょっとした知性も転がっているのかもしれないのに、最近はそれをずいぶん拾い損ねてるかもと反省。
    難しいことは抜きにして、とにかく読んでみて!と友人に渡したくなる本かな。

  • 『私が不安を愛犬・ラブに打ち明けると、彼はグイとリードを引っ張った。“ひとまず心配事は脇に置いて、とにかく散歩いたしましょう。散歩が一番です”』

    本と散歩ですべてのりきれる。珠玉の随筆集


    著者の普段の生活から垣間見る人生観や、物事の感じ方を覗かせていただいた。
    愛犬ラブが多々登場し、犬好きとしては嬉しい。

    “繊細さん”な著者の心配事を綴ったエピソード【巨大化する心配事】はわかる気がするなぁと興味深く読んだ。

    読了後は散歩がしたくなる1冊だ。


    こんな人におすすめ.ᐟ.ᐟ
    ・繊細さんのひと
    ・動物、犬好きなひと
    ・梨木香歩さんが好きなひと

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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