ぼくは勉強ができない (文春文庫 や 23-10)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167903619

作品紹介・あらすじ

不朽の青春小説が今再び!勉強はできないが女にはモテる――高校生・時田秀美に女は皆ときめき、男は皆あこがれた。著者書き下ろしメッセージも収録。

感想・レビュー・書評

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  • しぶとく続く(笑)
    「10代の頃に読んだ作家を再読しよう」企画の第四弾。

    山田詠美は村上春樹や村上龍と並んで
    学生時代からよく読んでた作家だけど、
    中でもいちばん好きで
    思春期に自分っていうものを作る上で最も影響を受けた作品が
    「ぼくは勉強ができない」でした。

    新装文庫本の綿矢りさの秀逸な解説の言葉、
    「私にとって本作は美学という科目の教科書で、ただ勉強するだけでは得られない、個人がどう世の中を粋に生きてゆくか決めるスタンスを教えてくれた。血肉となって現在でも身体の中で息づいている」
    がこれ以上ないほど僕の思いを言い得ていて
    「ああ~、僕だけやなく、みんなコレを読んで大人になったんやなぁ~」と分かって感慨深かった(笑)

    今回再読してあらためて思ったけど、
    僕に学校では決して教えてくれない「生き方」を教えてくれた17歳の時田秀美くんはフィリップ・マーロウ同様に
    今でも自分にとってのヒーローだった。

    しかし、なぜ四半世紀も前の作品が
    これほどの影響力と支持を集めてきたのか。
    まぁ読めば分かると思うんやけど、なんと言っても17歳の主人公・時田秀美くんの凛としたカッコ良さに尽きる。
    カッコ良いと言っても喧嘩が強いワケでも、スポーツ万能なワケでも、飛び抜けてイケメンなワケでもなくて(笑)、
    (秀美くんは人気者ではあるが、性格はむしろ穏やかでヘラヘラして、威厳がないし貧乏人であります笑)

    偏見に支えられた大人たちや
    媚びへつらったり、間違った美意識で動いてるクラスメートたちとの戦い方、向き合い方、苦悩する姿が、とにかく男前なのです(笑)
    (僕が学生時代に初読みした秀美くんの感想は、なんと色気のある男だろ~だった)


    母子家庭は不幸なのか。
    避妊具を持つことは不純なのか。
    優しそうに見える子がクラス委員になってはいけないのか。
    (そこにあるのは勉強ができなきゃ委員長の資格がないという大人たちが決めた暗黙の了解だ)

    大人たちが植え付ける偏った価値観に一人立ち向かい、
    大人たちが作った暗黙の了解や常識に異議を申し立てる
    詩人のようにロマンチックな少年。

    父親の顔すら知らない秀美くんを
    「一度言ったことは簡単に引き下がらないカッコいい男になるのよ」と言って育て上げてきたのは母親であり、おじいちゃんの愛である。

    クラスのみんなに向かって「僕は勉強ができない」と平然と言ってのけ、
    「恋は勉強より楽しいのだ」と先生やガリベンくんに
    この世の真理を提示してみせる心意気と気概。
    自分を過大評価することなく、
    人生で大切なのは決して学校の勉強ではないのだと言い切る颯爽とした姿は、
    本当のカッコ良さや男らしさを求め真実を模索していた青臭い学生の僕には本当に衝撃的だった。

    そして年上の女性である桃子さんとの恋愛の中で
    人は恋人とでなくても寝てしまうことがあると知ったり、
    人生を構成しているのは殆どが無駄と呼ばれる領域で
    恋愛には不健全で淫らな精神が必要だということ、
    事実は事実で定義とは違うということ、
    自分の中にある嫉妬の感情や憎しみの感情の存在に気づいたり、
    書物が人間にもたらす効用や喪失感を初めて知ったり、
    秀美くんが物語の中で人生の勉強をこなしていくと同時に
    読む側の僕らも見過ごしていた大事なことにふと気付かされていく。
    (この小説が凄いのは、今読んでもストンと腑に落ちたり、目から鱗の瞬間が沢山得られること)

    「大学を出ないとろくな人間になれない」という大人はいても
    「いい顔の人間になりなさい」と諭す大人の少ない事実。
    (秀美くんはまさにそう言われて育ったのだ)

    カッコいい生き方とはなんぞや
    など
    この小説には本当にいろんなことを教えてもらった。

    彼氏と自由恋愛する秀美くんの母親。
    近所のおばあちゃんに恋をしては秀美くんのムースで髪を整え、秀美くんのお気に入りの服を勝手に拝借するお茶目なおじいちゃん。
    バーで働く秀美くんの恋人の桃子さん。
    可愛く見えるための努力を惜しまない幼なじみの真理。
    美しく病弱な副委員長の黒川礼子。
    すべてを計算し尽くす、媚びた美少女の山野舞子。
    先生と生徒ではなく、男同士として接してくれるサッカー部の顧問の桜井先生。
    魅力的な登場人物がひしめき、
    難しいことは抜きにして
    純粋に青春ストーリーとして楽しめるのがまた素晴らしい。

    歯切れのいいリズミカルな文体。
    メッセージ性とユーモアの絶妙なバランス。
    懐かしいホームコメディの香り。
    青春と呼ばれる季節に生きる者の苦悩と喜びを瑞々しい感性で描いた
    今でもまったく色褪せない名作です。


    是非とも若いうちに読んで欲しいなぁ~

  • ぼくは勉強ができない…、暗いお話?って思ったんだけど、端的に言うと自分の偏見を他人に押し付けるな!みたいなね、お話だった。
    ズキューンってきたよ、こういうの好き…(*☻-☻*)
    確かに、そういう傾向が度々あると思うんだよね。例えばさ…、思いつきませんでした。

  • めちゃくちゃ素敵な作品に出会えました。
    時田秀美くんの考え方、とても好きです。
    大人にこそ読んで欲しい作品。
    好きな言葉がありすぎてメモとってしまったくらい。あざとい女子山野さんとの話が結構印象に残ってる。
    最後の三角定規と分度器の話、こうくるか、、と思って好き

  • 懐かしい。まだ本なんてあまり読まなかった高校生のときに影響を受けた本(歳がばれるな)。大人になった今読んでもやっぱりいい。

    高校生の頃は割とまじめな方だった私は、秀美くんみたいな男の子が周りにいたら友達になれなかったかもしれない。でもきっとほんとは憧れて、羨ましいとさえ思っていたはず。自分のことを「ぼく」って言える高校生なんてなかなかいない。人に迷惑をかけたりルールから外れることを「かっこいい」と勘違いしてしまう思春期の男の子たちに交じって、秀美くんはとてもまっすぐ素直に生きてるだけなんだ。本当のかっこよさっていうのはここなんだ。
    片親だとか貧乏だとか、興味本位で勝手にレッテルを貼る大人たち。「可哀想」なのかどうかは、周りが決めることじゃない。学校で学ぶことは「勉強」だけであって欲しくない。「眠れる分度器」の角のたとえ、泣けました。

    お母さんもおじいちゃんも本当にすてき。そしてこんなすてきな本を生み出してくれた山田詠美にも感服です。

  • 読んだことがなくとも、タイトルを知っている人は多くいるのではないかと思う有名な作品。

    この時期に改めて文庫化されたのは、何故だろう。

    書き下ろしもあり、綿矢りさの解説も入っているので、好きな方は再読に適していると思う。

    ところで、私はいわゆる型に嵌った人間だと自分では思っているので(まあ否定されることも多いが)、秀美くんのような人物はただただ不安を呼び起こす。

    もちろん彼が飄々と人生を楽しみ、女性を愛し、時に憂う毎日に水をさそうとは思わない。
    その点で奥村先生は、職業上、面倒な試練にぶちあたってしまったなあ、と可哀想にも思う。
    けれど、秀美くんに関わることで、何かふいに自分の気持ちがバーンと傷付いてしまうんじゃないか、ただそれが不安なのである。

    そういう意味で、彼に一矢報いた山野舞子は上手だとも思うし、心から祝福を送りたい。
    まあ、実際、山野舞子のようなキャラクターと関わりになることも私は遠慮するだろうけれど。

    学生時代に読んでいたとしたら、もしかしたら秀美くんにほんの少しの憧れは抱いたのだろうか。
    三角形の角が六つ揃う瞬間を、目の当たりにしたいとも思えたんだろうか。(この例えは、数学的に本当に美しい視点だと思う。秀逸!)

    ともあれ、大人になった私は秀美くんに関わらずにいられることを願っているのであった(笑)

  • 10代の頃ひとに勧められて読んだ数少ない本の中の一冊。ゲームのセーブポイントみたいな存在で、時々読み返したくなる。先日、身の丈に合わない本を読んでオーバーヒートしてしまった頭をちょっとリセット。ページの向こうのリア充な世界が、残念な現実の自分と向き合う勇気をくれる。

  • 普段全く読書をしない、してこなかった私だけど
    あるとても魅力的なポッドキャスターがこの本について話していたのをきっかけに読書を始めた。

    「あなたの高尚な悩み」の植草くんのお話は笑えたし
    「番外編・眠れる分度器」の三角定規の話はとても良い言葉だった。

    これから色々な本を読んで、またもう一度読み直してみたいな。

  • 時田仁子の「後で苦労したっていいじゃない。痛い目に合わなきゃ学べないこと、沢山あるわ。」にすごく共感しました。
    人生って本当にそうだなーと、逆に痛い目にあって苦労したことのほうが、自分を後から守ってくれる教養につながるし、自分の軸になるものになると思うから。

  • 学生時代に読まなくてよかったと思った。
    学生がテーマの話があまり好きじゃないからさらさら読んじゃったけど、さすが山田詠美さんだ〜という陳腐ですがストレートな感想を持ちました。
    賢者の愛より先にこちらを読みたかった…

  • 高校生の時に初めて読み、挫折。
    当時は女にモテることをひけらかし、先生たちに歯向かう生意気な主人公をバカにしていた。
    同世代だが、先生の側に立って読んでいたように思う。

    しかし三十路を超えて再読すると、あら不思議。
    主人公の言い分がとても分かるのだ。
    世の中のおかしな部分を容赦なく糾弾し、なぜ?のマシンガンを撃ちまくる主人公。時に過激な言動でも、いまは鼻白むことなくむしろ狼狽える先生たちの姿を見るのが痛快だった。
    おまけに勉強ができないと言っているのに、最後のタイトルは 勉強ができる、って・・・。
    結局できるんかい!と言いたくなった。
    異性にモテるということは秀でている箇所があることを示唆しているし、モテの才能は頭の良さにも通ずると思っている。
    ある意味教科書になりうる本だなと。

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著者プロフィール

1959年東京生まれ。85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。87年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞、89年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、91年『トラッシュ』で女流文学賞、96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、05年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞、12年『ジェントルマン』で野間文芸賞、16年「生鮮てるてる坊主」で川端康成文学賞を受賞。他の著書『ぼくは勉強ができない』『姫君』『学問』『つみびと』『ファースト クラッシュ』『血も涙もある』他多数。



「2022年 『私のことだま漂流記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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