ホームレス歌人のいた冬 (文春文庫 み 46-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167838966

作品紹介・あらすじ

表現することのできる人は、幸せだ――朝日歌壇に忽然と現われ、多くの共感を読者に残して消えた〈ホームレス〉の投稿歌人、公田耕一。その姿を求めさまよい歩いた記録。

感想・レビュー・書評

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  • 何かの拍子に単行本のレビューを読み返した。其処には私の琴線に触れた〈ホームレス歌人・公田耕一〉の歌9首と、〈歌壇の写楽〉の正体を追ったルポについての感想が述べられていた。

    ふと、文庫本が出ている、その後の経緯がわかるかもしれない。解説文があるならば、新たな発見もあるかもしれない、と思った。Amazonから届いた古本は、まるで昨日発行されたかのように艶やかに光っていた。

    文庫本発行からも既に10年近くが経っている。何の続報も聞いた事ないので、つまりは見事 に公田耕一は姿を消し去ったということだ。後書きや解説を読んでも、何の発見もなかった。

    投稿歌壇の最高峰(と、私が勝手に思っているだけだけど)、朝日歌壇に9ヶ月に28首採用され、その後朝日新聞に「選外」の7首と〈連絡求む〉記事が2回載った。リーマンショックに揺れ、派遣村が立ち上がった冬に、「(ホームレス)公田耕一」は一種有名人になった。〈今は連絡とる勇気ない〉というのが彼の返事で、やがて彼はフェイドアウトした。

    三村喬。東大経済学部卒、元朝日新聞の記者で退社して南米でジャーナリストとして動いたあと、07年に帰国。ライターとして生活できなくなるギリギリのところで、このルポの企画が通る。自分には公田耕一やホームレスの気持ちは分からないと何遍も書きながら、結果的に優れてホームレスに寄り添い当時横浜の「ホームレス事情全般」を描くルポルタージュになっていた。

    明らかに公田耕一はインテリだった。いつ自分が「そちら側」になるかわからない、という著者の気持ちは、多くの読者にも伝染してゆく。つまり私にも‥‥。結果的に本書はルポルタージュとして、何の賞も獲ること叶わなかった。発刊当時は東日本大震災の直後で、それどころではなかった。どころか、派遣村の話題もそれで立ち消えた感がある。それでも本書は世の読者に一定の話題を呼び起こし、ざっと調べてその後三村喬さんは4冊のルポ本をモノにしている。ただし、文庫化されたのは、本書一冊こっきりである。

  • 何年か前に新聞で注目されていたホームレス歌人、その実像を追うという体をとりながら、興味本位、暴露系では断じてなく、人が表現するとはどういうことなのかを問う内容になっている。

    [more]<blockquote>P152 (ホームレス支援は)経済的な支援や就職の斡旋といったサポート以前に、生きる気力を取り戻させる精神的なケアがまず必要ではないのか。これはある意味自殺対策に似た問題のように私には思えてきた。

    P157 その人は、ドヤ街で明るい人はそういう(小さい頃に母親を亡くしている)奴だっていうんだ。母親の思い出が強い人は、どうしても、自分は親不孝だという思いが湧いてくるらしい。

    P181 「郷隼人は識字そのものだ」=自らの内面と向き合う生き方をしてこなかった人間が、終身受刑者となり、短歌という表現と出会った。それによって以前とは異なる人生を「生き直す」道が生まれた。その意味で「識字」だというのである。</blockquote>

  • 希有なノンフィクションだった。当時の大反響ぶりを覚えているだけに。特に。

  • 歌を詠むほどの教養人がホームレスになる現実。彼を追うことで寿地区の様子もうかがえる。彼はいずこ?

  • ホームレス歌人を追うだけでは
    文中のとおりパパラッチである
    この本は著者も目論見どおりか
    貧困や福祉といった問題の現状を
    うまく描いて見せた

    4歳児のいる僕にとって
    最近読書で考えることは
    どんな育児をしどんな父になるかだ

    ひとつは表現(この本では短歌)の機能だ
    厳しい状況に追い込まれたとき
    心を守ろうとすると自分の感情を押し殺してしまうのが
    手っ取り早い
    でも表現手段をもっていると
    そんなとき自己嫌悪や絶望に落ち込んでしまうことなく
    自分の内面を見つめることができる
    この著者はホームレス歌人や識字教室をこう分析する
    また最近読んだ「奇蹟の画家」の孤独な画家も
    そうではなかったか

    画家や歌人になってほしいとかではなく
    生きていく最後の安全弁として
    何か表現、絵画とか短歌とかすぐにできるもの
    を子供にはそれとなく教えてやりたい

    もうひとつおもしろいと思ったのは
    著者の会った「仙人」の言葉
    母を早くに亡くしたひとは路上生活でも明るさを失わない
    母親からは世間一般の常識を子供は教わる
    その母が早世するといわゆる一般の尺度に自分をあてはめないから
    親不孝と思うこともなく明るさを失わないのだと

    この言葉から育児の父親の役割を考えてしまった
    母が常識であれば父は常識を打ち破ることを教えるべきではないか
    常識だけではあくまで常識人になっていく
    常識の観点、非常識の観点をともに教えることで
    バランスのとれた、ブレイクスルーのできる子供に育つのでは

  • ホームレス歌人として朝日新聞歌壇をわかせた公田耕一。作者は公田氏を探して取材を続けるが見つけることはできなかった。
    公田氏の正体に関してはあくまでも作者の推測で書かれており、内容に面白さを感じられなかった。

    取材の内容は細かく書かれており、ホームレスや寿町についてはとても勉強になった。ホームレスは自分とは別の世界の話と思っていたが、全くそんなことはなく自分もその環境で生きていくことを選ぶこともありうると思った。

  • 【展示用コメント】
     公田耕一を探して

    【北海道大学蔵書目録へのリンク先】
    https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_details.cgi?lang=0&amode=11&place=&bibid=2001597491&key=B154528565629531&start=1&srmode=0&srmode=0#

  • ホームレス歌人「公田耕一」を探すフリーライターの旅。

  • (柔かい時計)を持ちて炊き出しのカレーの列に二時間並ぶ

    2008年12月8日付、朝日新聞朝刊の歌壇欄に掲載された
    入選作の一首。投稿者は「公田耕一」、住所はホームレス。

    リーマンショックが世界中を不況のどん底に落とした年、
    派遣切りや雇い止めが連日、新聞を賑わせた。そんな
    時期に登場したホームレス歌人の歌は、歌壇欄に目を
    通す人、自作の歌を投稿する人たちのみならず、普段
    は短歌などに興味を持たぬ人たちの注目を集めた。

    入選が続くなか、朝日新聞は紙面で呼びかけた。
    「ホームレス歌人さん、連絡求ム」と。

    そして、初入選から9か月後、突然に投稿が途絶えた。

    我が家の購読紙は朝日新聞である。この呼びかけ記事の
    ことはぼんやりと覚えていた。そして、姿を現さない歌人が
    いたことも。

    本書は「公田耕一」と名乗るホームレス歌人の実像を追って、
    横浜のドヤ街・寿町界隈で手がかりを探し続けた探索の記録
    である。

    物書きとして崖っぷちだった著者が、最後の望みを掛けた
    企画。消えたホームレス歌人を追うことだったのだが、「公田
    耕一」の足跡を追ううちに、著者は歌人の実像よりも日雇い
    労働者の街が、高齢の生活保護受給者の街へと変貌した
    寿町の抱える様々な問題に絡めとられる。

    結論を言ってしまえば、ホームレス歌人の正体を突き止める
    ことは出来ていない。投稿された短歌を元に、こういう人では
    ないかと推論を重ねるだけで終わっている。

    著者の取材に先んじて、短歌を掲載した朝日新聞の横浜
    支局や、写真週刊誌が先行取材をしている。その時点でも
    「公田耕一」に会うことは叶わず、取材を断念している。

    きっと、正体を探れたくはなかったんじゃないかな。新聞の
    歌壇欄に投稿して、入選作が掲載される喜びと、その歌が
    注目され「ホームレス歌人」という存在が独り歩きし出して
    しまったことが不本意だったのかもしれない。

    ホームレス歌人・公田耕一。それは彼の歌を目にした人々
    のなかに様々な感情を呼び起こし、目にした人の数だけの
    「公田耕一」像を残した。今、彼はどうしているのだろう。

    親不孝通りと言へど親もなく親にもなれずただ立ち尽くす

    哀しきは寿町と言ふ地名長者町さへ隣りにはあり

    謎は謎のままでいいのかもしれない。尚、「公田耕一」以前
    に、やはり寿町で歌を詠んでいた良知満夫の話が興味
    深かった。

  • 朝日新聞の短歌投稿欄に現れた、住所「ホームレス」の歌人。フリーランスの作者が、この歌人を探すため横浜のホームレス社会、ドヤ街をさまよう。
    なじみの街が舞台であるが、横浜の社会福祉や施設の仕組みなど初めて知り興味深かった。出会ったホームレスの人々、読者、それぞれの背景、思いを多様に並べ、さらに、壮年、独り者であるフリーランスの自分の境遇をホームレスと重ね合わせ省みもする。結局たどり着けない結末を迎えるが、ホームレス歌人を巡っての思いが各人各様であり、そこにこそこの歌人がいた意義があるとする。

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著者プロフィール

1961年神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。朝日新聞記者を13年間勤めたのち退社し、南米ペルーを拠点にフリー記者として活動。2007年に帰国。著書に『日本から一番遠いニッポン』『ホームレス歌人のいた冬』(東海教育研究所)。

「2014年 『さまよえる町』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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