技を伝え、人を育てる 棟梁 (文春文庫 お 55-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167801205

作品紹介・あらすじ

時代に逆行する「徒弟制度」「共同生活」が、技の継承に必要なのはなぜか?法隆寺最後の宮大工・故西岡常一の内弟子を務めた後、「鵤工舎」を設立、数々の寺社建設を手がけ、後進を育てた著者が、引退を機に語る金言。「技を身につけるのに、早道も近道も裏道もない」「任せる時期が遅かったら人は腐るで」。心に染みる言葉の数々。

感想・レビュー・書評

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  • 今、「木の家」を普請してもらっている。
    先日に「竹木舞」がようやく終わって、
    今週から、「壁塗り」が始まっている。

    棟梁もまだ50代という若さだけれど
    そこに集まってくださっている頭領たちも
    40代の若い人たちである

    普請の合間に
    鑿、掛矢、玄翁、鉋、鋸…
    「木組み」の話、「道具」の話をさせてもらうのが
    なによりの楽しみでもある

    今も「手業」を持ち続け
    精進し続けておられる職人さんたちが
    ちゃんとおられることが
    ほんとうに うれしい

    見学に来てくれる人たちと
    話していると
    必ず塩野米松さんの本の話が
    当然のことながら 出てくる
    それも またうれしい

  • 法隆寺最後の宮大工・故西岡常一の唯一の内弟子である小川三夫が、いかにして技を伝え、いかにして人を育てるかを、飾らずに語っている。
    小川氏は、21歳で西岡氏に入門し、その後、法隆寺三重塔、薬師寺西塔、薬師寺金堂の再建で副棟梁を務め、30歳で徒弟制度による寺社建築会社を作り、以後30年間共同生活によって弟子を育て、2007年に60歳で引退した。この聞き書きは、その引退直後に行われたものである。
    「重しを外さないと下は伸びない」
    「やれるかどうかなんて考えることは必要ねえんだ。どうやったらできるかを考え、やりながら次を見通すんだ」
    「一つのことに打ち込んでおれば、人間は磨かれる」
    「ほんとうを覚えるのには時間がかかる。時間はかかるが一旦身についたら、体が今度は嘘を嫌う。嘘を嫌う体を作ることや。それは刃物研ぎが一番よくわかる」
    「単純は強いわ。人も建物も図面も、単純できれいに無駄のないものじゃなくちゃだめだな」
    「その人が完成してから任せたらだめなんだよ。未熟なうちに任せなくちゃだめなんだ。できないということをわかっていて親方は任せて・・・そして任せたら余計なことを聞いたらあかん。・・・黙って、機を見て「できたか」って聞けばいい」
    「法隆寺なんかは、不揃いの部材でできているということや。それでも千三百年持ってるんだ。もしかしたら、それだから千三百年持ってるのかもしれん」
    「棟梁は人の癖を見抜き、木組みをするように人にも働いてもらわねばならんということやな。大きな建物になれば、一人ではできない。大勢の力がいる。大勢集まれば癖のあるやつが大勢いる。それを上手に使ってやらねばならんぞというんやな」等
    小川氏が「言葉では教えられない」というものを伝えるために、心に留めてきた思いの数々が心に響く。
    (2012年4月了)

  • 宮大工で有名な鵤工舎の棟梁のお話しです。
    人を育てる方法は自分なりに経験を積めるように、上が身を引きながら下を育てることに気を使っているな、と感じました。
    寺社の修復はそうそう数がないので、下手すると数年待ちになったりするとか。その上で気をつけていることも幾つか。

    ・新人に食事や掃除をさせるのには理由がある。
    「掃除をさせたらその人の仕事に向かう姿勢、性格がわかる」
    「飯を作らせたらその人の段取りの良さ、思いやりがわかる」からや。

    ・こっち側から一生懸命相手を見てるけども、逆に弟子から見られるようになったらだめだ。弟子に「親方はこういう人だ」なんて言われるようになったらだめだ。何考えてるかわかんねえ、なんていうぐれえでねえとあかんのやわ。

    ・どんな仕事でもそうや。自分が惨めになるような考えに持って行ったらあかん。苦しい中にも楽しいことを、見つけ出すことや。

  • 単純馬鹿

  • 修業はただただ浸りきることが大事。今からでも遅くないはず。

  • 大工の技術を時代に受け継ぎたい、弟子に芸をしっかり磨いてもらいたい。その思いから宮大工・小川三夫は拠点「鵤工舎」で、師匠として弟子とともに共同生活を行い、技を磨いている。
    手取り足取り教えるわけでも、放任主義でもない。古寺の改修工事の現場に赴き、実際に仕事をする中で学びを深めていく。「人に任せ、人に譲ることで、伝統の技を生きたものとして伝えていけ」の精神だ。
    本書前半〜中盤では、小川三夫の弟子見習いから独立、 「鵤工舎」内での人づくりの足取りを追っていく。
    最終盤で紹介されるのが、師匠から受け継がれ弟子へと受け継いでいく斑鳩大工の口伝だ。一つ挙げれば「 木は方位のままに使え」。これは、一本一本異なる木の癖を見抜き、それをそのまま活かして工作すべき、との戒め。この言葉から、本書全体を通し描かれる「人づくりの心構え」へと立ち戻っていく。

  • 教育関係者や経営者は、ぜひ一度読むべき本。

    “ 学校では先生が教科書を使い、黒板を駆使して教えてくれます。
     子供達は教わることが当たり前だと思っています。
     教わればわかると思っています。
     教わらないことは知らなくて当然だと思っています。
     学校は一年が経てば進級し、三年経てば卒業します。学校には期限があります。
     (中略)
     進級するには最低、決められた点数を取ればいいのです。
     その点数を取るためには近道があり、早道があり、要領があります。
     学校ばかりでなく、塾も予備校も、家庭教師も、それを教えてくれます。
     このすべてが技や感覚を師匠から受け継ぐための障害になるのです。”

    実は並行して『人生は勉強より「世渡り力」だ!』(岡野雅行:著)を読んでいたのだが、岡野さんと小川さんの言うことはかなり違う。

    一口に「ものづくり」と言っても、建物と機械では、受注体制、相手先、生産体制など違う面がずいぶんあると思うが、それにもましてこの二人の性格の違いによるのではないかと思った。もちろんどっちが正解だとかいうことではなくて。

    そして、さらに興味深いのは、これだけ性格の違う二人が期せずして同じことを言っている部分もあったことだ。


    以下、感銘を受けた文の抜き書き。ただし一部のみ。本当は、この本全体を書き写したいぐらい。

    “「育てる」と「育つ」は違う。
    「育てる」というのは大変な仕事や。
     導き方によっては、どこへ行ってしまうかわからんぞ。人の人生がかかってるんや。無責任にはできないわ。(中略)
     しかし、「育つ」となれば話は別や。
     育つための環境と機会を用意してやればいいわけだ。学びたい者は来て、その中で自分でやっていけばいい。時間はかかるし、近道も早道もないけども、自然に育っていくやろ。”

    “ 職人の修行は学校じゃねえから、八十点取れば合格ということはないんだ。人のお金で仕事をするんだから、自分の力を出し切って百点でなければならんのだよ。”

    “ 今のような複雑な道具を使う人は、その道具ができる範囲でしかものを考えねえと思うんだ。
     そんだから、道具は複雑じゃなくて単純な方がいいんだ。”

    “ できる最高のことをする。それが基本や。
     自分で枠を決めてしまったら、そこまでのことで満足してしまうやろ。それじゃあ、修行にならん。一歩でも前に行かなあ。”

  • ◆時間との闘い◆
    法隆寺が建立されたのは1300年前。日本が誇る数々の木造建築は宮大工という特別な技術をもつ人たちで造られ補修されてきた。徒弟制度という独特の環境の中で、技を伝え、人を育てる。木は同じものがなく、それぞれの癖を活かして建物を造る。
    現代は学校でも職場でも効率の良さを求め同じ型にはめようとするが、「千年の」という時間と闘うには、じっくり確実に取り組む必要がある。人間を作るのも同様ではないかと著者は言う。

  • 棟梁である著者の口伝を纏めたもの。そもそもの『現場』数が少ない宮大工。『育てる』よりも『育つ』環境をまず揃える。 『叱られる』事で気付く。『あの時は』と思い出して褒める。『任せる』とは立場で人を育てる為に、責任を追う事。 ほか、特異な職種ではあるが、普遍的気付きが多い。著者の親方、西岡さんの本も読んでみよう。

  • 法隆寺最後の宮大工故西岡常一氏に師事した著者が、若手職人を育てながら全国の寺社仏閣の補修や新築との両立をいかに成し遂げて来たかを語ります。著者の育て方はいわゆる徒弟制度。昭和世代の私には心に響く言葉が満載でした。いくつか抜粋します。
    「新人に食事や掃除をさせるのには理由がある。
    『掃除をさせたらその人の仕事に向かう姿勢、性格がわかる。飯を作らせたらその人の段取りの良さ、思いやりがわかる』」、「任せるのが早いと人は潰れるが、遅いと人は腐る」、「何も言わない叱り方もある。叱られたかどうかは本人が感じること」、「刃物を研ぐのはセンスを磨くこと」など他にも本書の全編にわたって共感できる言葉が満載です。
    しかし最も驚いたのは、文化財の維持に際して最も深刻な問題は技術伝承ではなく、日本の森林資源の枯渇だという事です。大規模な寺社仏閣の「心柱」に使えるような幹の太い良質のヒノキがもはや国内ではほとんど存在せず、カナダのヒバなどを使わざるを得ない状況で、木の種類が変われば、そこに用いられる技術も変化せざるを得ず、日本の文化材維持のためにも森林資源の保全が必要との著者の発言は、長らく文化財の再建に携わってきた著者ならではの視点だと感じます。

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