私と黒澤明 複眼の映像 (文春文庫 は 38-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167773540

作品紹介・あらすじ

傷痍軍人療養所のベッドに横たわる著者が偶然手にした一篇のシナリオ。伊丹万作に師事、黒澤明との共作『羅生門』で脚本家デビューした著者が、初めて明かす『生きる』や『七人の侍』の創作秘話、菊島隆三、小國英雄の役回りなど黒澤映画の貴重な一次資料にして、日本映画界を支えた名脚本家の感動の自伝。

感想・レビュー・書評

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  • トップレベルの脚本家や映画監督の視点を垣間見れる作品だ。本書は黒澤明監督と共同で多くの名作を世に送り出した脚本家の橋本忍氏が書いた本だ。
    「複眼」というキーワードに惹かれて本書を手に取った。複眼についての説明が現れるのは以下の部分。
    「黒沢組の共同脚本とは、同一シーンを複数の人間がそれぞれの眼(複眼)で書き、それらを編集し、混声合唱の脚本を作り上げるーそれが黒沢作品の最大の特質なのである」
    想像していた「複眼の映像」ではなかったが、たしかに素晴らしい作品をつくるためには有効な手法だと思った。プロフェッショナルが集まって、分担して作品を作るのではなく、一つの箇所を同時にかつ別々に書いてみて、もっともよく書けているものを採用する。この方法は作品が完成するまでにかかる時間は増えるが、作品の品質は段違いに高くなりそうだ。また、同じ部分について他の脚本家が同時に書いた文章を見ることができ、お互いの文章を比較して、次回の執筆に活かすことができる。この比較による技術の向上効果が大きいように感じた。
    この手法は日々の仕事や小中学校での作文に活かすことができるように感じた。仕事で同じことに関する報告書を数人で書かせて、お互いの文章を読みあうことで、他人との違い、自分の欠点、もしくは優位性を把握することができそうだ。

  • まず黒澤作品を見ること。
    脚本を書くということは才能だ。けれど他の才能もある。あがいてあがいて、その末に、その、才能の無意識が成せる業。
    もし私が人を書きたいのであれば、カメラを据えて意味のある顔を探し、観察し尽くす。形に拘らず書き出すこと。しかし、私には続け、終わらせることこそが次に進むための鍵なのだ。

    橋本さんは共同脚本を念願にしている。同時競作。それこそがストーリーを複眼でとらえる画期的な手段だと。
    映画のために。

  • 半世紀も前、パリのシネマテークで何の予備知識もなく蜘蛛の巣城を観た時、二十歳の自分は初めて日本人であることの誇りや嬉しさを感じた。
    橋本忍さんは黒澤明の影に隠れているが世界の映画史上最高の仕事を残した人だとこの本を読んで初めて知った。感謝。

  • 菊島隆三、小國英雄と並んで黒澤明の全盛期を支えた脚本家、橋本忍の自伝。
    伊丹万作に師事した後、黒澤明と出会い、『羅生門』が生まれるまで。またその後『七人の侍』の地獄のような脚本製作の話、また天才監督の野村芳太郎との出会いなど、日本映画の黄金時代を支えた人たちの驚くような話の数々に舌を巻く。

    国立フィルムアーカイブから出ている『脚本家 黒澤明』展、『羅生門』展の図録なんかと合わせて読むと、より黒澤明、橋本忍、そしてその周りの人たちのスゴさが理解できるかな、と。

  • 傷痍軍人療養所のベットに横たわる著者が偶然手にした一篇のシナリオ。伊丹万作に師事、黒澤明との共作「羅生門」で脚本家デビューした著者が、初めて明かす創作秘話。黒澤映画の貴重な一次資料にして、日本映画界を支えた名脚本家の感動の自伝。(親本は2006年刊、2010年文庫化)
    ・プロローグ
    ・第一章 「羅生門」の生誕
    ・第二章 黒澤明という男
    ・第三章 共同脚本の光と影
    ・第四章 橋本プロと黒澤さん
    ・第五章 黒澤さんのその後
    ・エピローグ

    副題に私と黒澤明とあるとおり、その話がメインである。数々の名作がどの様に作られたのか、読んでいてとても面白い。読了後に、本当にノンフィクションだろうかと疑ってしまうくらい面白い。
    黒澤映画は、脚本が「共同脚本」から「いきなり決定稿」へと変わることにより、迷走を続ける。日本映画界も斜陽を迎える。天才ゆえの悲劇が感じられた。

  • (01)
    日本の著名な映画監督である黒澤明について(*02)の本である.特異な点としては,黒澤が手掛けた映画の頂点をなすとされる「羅生門」や「七人の侍」など1950年代の作品の脚本を共同執筆した著者が,自らの半生を回想した自伝とともに黒澤の方法を証言し,批評している点にある.
    脚本の方法論としては,共同脚本という方法に焦点が絞られている.数人で缶詰になり,脚本を推敲しつつ仕上げていく困難な方法が映画の設計図として有効であることを著者は主張する.なかでも,「いきなり決定稿」に取りかかるのではなく,推敲や手戻りも多い「ライター先行形」が最上の方法であり,50年代の名作もこの方法に拠っていたと後知恵として語る.
    脚本の方法論としても,興味深く読むことができるが,映画監督の黒澤がもっていた脚本家としての一面を窺い知るとともに,黒澤という不気味な存在も本書には浮かび上がっている.

    (02)
    とはいえ,本書に登場する映画人はもちろん黒澤明だけではない.
    著者が師と仰ぐ伊丹万作をはじめ,ともに共同脚本をなした小國英雄や菊島隆三,黒澤の助監督で経験を積み,のちに監督となっていった野村芳太郎,森谷司郎のほか,東宝の面々などが登場し,映画という共同作業や,映画界というワークがどのようなものであるかを把握する手がかりにもなっている.

  • 「生きる」「七人の侍」「八甲田山」砂の器」。予備知識なく見て面白かった映画はみな橋本忍さんの脚本だったのだな。

  • 脚本という企画。

    それは、監督という相手あってのもの。

    この共同関係と対立関係が、作品に緊張を生む。

  • 黒沢映画のウラガ〇ンダーランドがここに! この一冊があれば、黒沢映画の見え方が変わってくる!かも。

  • 文 庫 778.21||H

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著者プロフィール

(はしもと しのぶ 1918年生)
脚本家、映画監督。1949年、黒澤明との共同脚本『羅生門』で脚本家デビュー。その他の代表作として、『ゼロの焦点』『白い巨塔』などがあり、また自ら手がけた脚本『私は貝になりたい』を監督し好評を得る。映画製作者としても『砂の器』『八甲田山』など大ヒットを飛ばし、精力的に活動した。

「2012年 『黒澤明脚本集『七人の侍』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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