弱法師 (文春文庫 な 53-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167726010

感想・レビュー・書評

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  • 恋とは死に至る病である――

    難病を患う少年と、彼を助けようとする医師であり継父である男との、その関係を越えた純愛の物語《弱法師》
    かつて優秀な編集者だったホームレスの女が振り返る、若き作家との身を滅ぼすほどの恋の物語《卒塔婆小町》
    父と母、そして大好きな叔母との許されない愛の形を描いた物語《浮舟》

    古典"能"を材にとり、繊細なまでに張りつめた愛の悲しみをとらえる中篇3篇。

    うわ〜、これすごかった、、←語彙力なし笑
    叶わぬ恋ほど美しいと言うけれど、まさにそういう恋を描いた3篇でした。
    中山さんの描く文章がとても美しくて、それが故に鋭さや脆さをも感じさせる作品でした。
    「弱法師」から引き込まれましたが、「卒塔婆小町」はもうその世界に引きずりこまれて没頭。。
    身を削るほどの狂おしい恋に心持ってかれました。

    能を題材に描かれたそうで、こういう恋の形ってどこか古典的と言うか、純文学っぽさを感じるんですが、それはそこからきてるのかな〜。
    とても印象に残る作品でした。
    これは手元におきたいな〜♡♡

  • 能の演目『弱法師』『卒塔婆小町』『浮舟』を現代風にアレンジした短編集。
    それぞれ独特の雰囲気に圧倒され、厳かで静かに進む文章に引き込まれる。

    特に『卒塔婆小町』は破滅の道へ追い込まれていく二人の様子に目が離せなくなる。
    一昔前の文豪の多くが自らの命を断つ理由が少し分かった気がする。
    他人からは決して理解してもらうことのない愛だったけれど、二人の愛は叶えられたのだと思う。

    そして源氏物語をモチーフにした『浮舟』。
    あの話をこの設定にするとは驚いた。
    「男が本気で女に惚れたら、奪うもんだ」
    「女が本気で女に惚れたら、引くもんだ」
    姉弟のセリフは実に奥が深い。

    死をも辞さない究極の愛に圧倒された。

  • じゃがいもかさつまいもかの話めちゃ好き!

  • 三篇とも胸にズンッとくる話、言葉、雰囲気だった。正に狂おしいという表現がぴったり合う。
    特に好きなのは二作目の「卒塔婆小町」。形はどうあれ、あの二人は間違いなく愛し合っていたのだと思う。

  • 「報われない恋」というテーマの中編を三編収めた作品集、今回はレズビアン的要素を抑えているのが特徴というか。

    表題作(弱法師と書いて「よろぼし」と読む)も悪くないが何と言っても白眉は「卒塔婆小町」。

    自暴自棄になった主人公が捨てた原稿をホームレスの老婆が拾うシーンから始まり人の業というものを凝縮したような終わりを迎える編集者と作家の壮絶な物語は圧巻としか言いようがないのだった。

    ラストの鎌倉を舞台にした「浮船」がまた良いんだ。

    財布の一番奥にしまわれていたぼろぼろになった写真――……切ないよなあ。

    それはそれとして結局最後まで明かされなかったけど、薫子おばさんの職業はいったい何だったんだろかね。

    ほんとにスパイだったらそう簡単にやめられないだろうし……気になるやのう。

  • 文章が美しすぎます。
    こんなに研ぎ澄まされて、一滴一滴絞り出すように紡がれた文章と出逢えたことが幸せです。
    この文量でこの濃度、必要な描写がすべてなされていて、しかも美しいのです。

    『卒塔婆小町』と『浮舟』がとくに好きです。
    恋をすること。想い続けること。心が引き裂かれること。

    愛について考えることは作家にとって一生の宿題だ。
    『卒塔婆小町』

    にある通り、著者の中山可穂さんも、その一生の宿題に取り組んでいるところなのだと思います。

    以前から強く、ほとんど憤りのように、中山可穂さんは日本文学史上であまりにも過小評価されている小説家だ、と感じています。
    2022年河出文庫からの復刊はほんとうにうれしいです。

  • 「弱法師」「卒塔婆小町」「浮舟」という、能楽をモチーフにした3編からなる作品。
    私にとって初の中山作品で、彼女が主に女性同士の恋愛を描く作品を書いている作家さんだと知らずに読んだ。
    標題作はふ~んという感じで終わったが、卒塔婆小町を読み始めてからは周りの音が耳に入らないくらい完全に作品に引き込まれた。
    今は墓地に住むホームレスとなったある敏腕編集者と、ある夭逝した天才作家との激しい関係を描いた作品。
    女性にしか恋愛感情を持たない女性編集者を愛し、彼女に愛を受け入れてもらうためだけに自らの命を削り100冊の作品を書き上げていく作家。
    その狂気ともいえる創作活動をたどるうち、作家の編集者への狂おしいまでの思いが重く、重く、のしかかってくる。
    二人が破滅的な結末を迎えることを知りながら、最後のその時に向かって読み進めざるを得ない。
    彼の墓に寄り添い、雪に埋もれて絶命した彼女の最期はあまりに美しく、読後はしばし放心。
    すごい作品だった。

  • 中山可穂と言えば同性愛を扱うことが多く、本書も僅かだが関連する。
    でもそれ以上に表現されているのは、それぞれの登場人物が辿る切ない人生だ。
    その根底には、様々な形の"愛"が垣間見れる。中でも「卒塔婆小町」は印象深い。
    バリバリの女性編集者が辿った数奇な人生が描かれている。
    「浮舟」もなかなかイイです。

  • 中山先生の文体はとても綺麗で読みやすい。
    いつもなら、絶対濡れ場が入っていたところを、この短篇集は、そういった描写は一切ない。それでも、心くすぐられるえろさは何なんだろう。

    以下の短篇3つが収録されています。
    「弱法師」
    「卒塔婆小町」
    「浮舟」

    「浮舟」はとにかく泣いた。
    愛する人を譲らなければならなくなった薫子おばさんのやるせなさ。
    愛する人との板ばさみの中、自分は幸せだ、という姿勢を、絶対に崩さなかった文音さん。
    愛する人を奪ったことで得た幸せに、微かな罪悪感を抱きながらも、愛する人を守るため、健気に生きてきた香丞。
    自分の恋心にも似た独占欲を抑えられずに、母と交わした最期のやり取りが、とても悲しいものになってしまった碧生。
    切ない、もあるけど、本当に、やりきれない。
    それでも、前に進んでいく人間の強さがしっかり描かれている。
    この作品、大好きだ。

  • すごーーーーくよかった!!中山さんは「猫背の王子」がだんとつだ!と思ってるのと同じくらいよかった。どの話も登場人物がせいいっぱい毎日暮らしてて寂しくてもの悲しくてきれいな世界でした。引き込まれた。
    「弱法師」が一番好きです。噛み合わないようでいて噛み合っていて、交錯して、消失してしまうかなしさ。最後のほうの愛してる、がつらい……
    二番目の話も好き。

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著者プロフィール

1960年生まれ。早稲田大学卒。93年『猫背の王子』でデビュー。95年『天使の骨』で朝日新人文学賞、2001年『白い薔薇の淵まで』で山本周五郎賞を受賞。著書多数。

「2022年 『感情教育』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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