転がる香港に苔は生えない (文春文庫 ほ 11-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (623ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167717070

作品紹介・あらすじ

1997年7月1日、香港返還。その日を自分の目で、肌で感じたくて、私はこの街にやってきた。故郷に妻子を残した密航者、夢破れてカナダから戻ってきたエリート。それでも人々は転がり続ける。「ここは最低だ。でも俺にはここが似合ってる」。ゆるぎない視線で香港を見据えた2年間の記録。大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 書物逍遙
     香港人の活力を信じたい(阿古智子)
    ミネルヴァ通信「究」9月号(通巻第一二六号) - ミネルヴァ書房 ―人文・法経・教育・心理・福祉などを刊行する出版社
    https://www.minervashobo.co.jp/book/b589876.html

    文春文庫『転がる香港に苔は生えない』星野博美 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167717070

  • 長らく積ん読になっていたのは600頁超という量におののいていたのと、1997年と四半世紀近くも前の返還前後のことをいまさら読むのもどうかなと思っていたから。ところが、読み始めると面白くて、どんどん読み進めていけた。四半世紀前の普通の(中の下くらい?)の生活感が何となく味わえる感じがする。騒がしくてバイタリティがあり、大陸人の生きにくさがあり、香港人の生きにくさがあり、隣の人の生活や人生を見聞きしているような近さを感じながら読んだ。
    そして、返還前後の香港の空気感を確認できたのもよかった。中国に返還されることによる楽観論も悲観論も右往左往していたあの頃。25年くらいがたって、いまの香港のことを思えば悲観論が勝ってしまったような気がする。ただ、それでもきょうも香港は生きて転がり続けているはず。
    この本に出てきた著者の友人・知人の人たち、いまはどうしているんだろう。特に子俊とか肖連といった若い人たちのその後を知りたい。

  • 返還期の香港にまさに入り、感じたことを赤裸々につづる筆者。変わり続ける香港がもしかすると止まるかもしれない返還。これまでの香港に「慣れる」ために、様々な人の話をきき勉強していく筆者。なれるためには今まで生きてきた自分の魂を変化させていくことだ。香港人に戸惑い、傷つき、慰められ、笑顔にさせられ、結局自分のルーツである日本人であることを「誇り」とし、閉じこもった世界で持つ誇りに意味はなく、広い意味で国際交流しての「誇り・矜持」ならば大切であることに気づく。

    僕(このレビューを書いている私)は香港中国返還の10年後、香港で半年間暮らした。悲壮感などなく、10年祭として大賑わいだった。観光で来る大陸人(中国人)たちは、相変わらず、ホテルを荒らしまわり、人民袋ぱんぱんに荷物を詰め込み、ブランド品を手当たり次第に買っていた。そんな大陸人を香港人は、同じ国だけど別の生物のように、少し引いた目で見ていた気がする。
    毎日変わり続ける香港。毎日を生きるために積極的な香港。ゲップをしまくる香港。香港で生まれたことを誇りに思う香港。カナダやオーストラリアに留学する香港。
    人は香港をハブ空港として世界を左から右に、狭い香港にそびえ立つ摩天楼を上から下に、縦横無尽に動いていく。
    イギリスの植民地であったことも利用してさらに進もうとする、一部の経済的自由をもった特殊なその力は、根無し草の集合体が、限られた土地で生きるために選んだ手段なのかも知れない。そして、同じくイギリスに統治されたインドとはまた違う活力を持つ。

    筆者は一度負けた(自分で期限を決めて離れることができず、次期とタイミングで離れた)と思った香港で卒業試験を自分で設け、ピリオドを一度打つ。この本は筆者の香港に恋をしていた話だ。なぜなら僕も同じ思いをしたから。いやなところも、わからないところもあったけど、そして自分は絶対に香港にずっと住むことはできないことがわかっても、好きといえる気持ち。プラトニックな関係は、心に引っかき傷をつくっていつまでも思い返す初恋のような感じで熟熟と膿んでいく。その膿は失ってしまった恋の大きさに比例するが、いつか大きな宝となる。
    また、香港に行きたくなった。

    • だいさん
      本の内容も分かり、
      libraさんの本への愛着も伝わり、
      すごく良く出来たレビューに感心しました。

      >根無し草の集合体が、限られた...
      本の内容も分かり、
      libraさんの本への愛着も伝わり、
      すごく良く出来たレビューに感心しました。

      >根無し草の集合体が、限られた土地で生きるために選んだ手段

      この表現から想いが伝わった。(私もそのように感じる。)

      しかし!
      >プラトニックな…思い返す初恋…熟熟と膿んでいく。
      この表現は!
      初恋に暗い記憶があるのかと考えてしまった。
      2012/12/08
    • libraさん
      >だいさん
      コメントありがとうございます!
      初恋は…普通に言えずに失恋しております(笑)
      >だいさん
      コメントありがとうございます!
      初恋は…普通に言えずに失恋しております(笑)
      2012/12/09
  • これまた、『地図のないところで眠りたい』で推薦されていた本。丸善の秋のブックフェアでも推薦されており、この度手にした本。

    自分が好きなものへの距離の取り方、そしてその表現の仕方が絶妙である。

    いくら香港のことが好きだからといって、人間だもの、時にイライラさせられることもあるし、もう嫌だと思わせられることもある。でもやっぱり好き、そんなもどかしい感じが全編に貫かれており、そのもぞもぞした感じを楽しみながら読み耽った。

    本棚において、何度でも楽しみたい一冊だ。

  • 勤める業界のOBが勧めていて手に取った。

    4ページ目で、筆者が香港の返還を北極星に例える描写がロマンティックで、それなのに華美ではなくて、この本は絶対に面白い、素晴らしい本を手に取った、と確信した。

    実際に、うんざりしつつもどうしようもなく香港に惹かれている筆者による香港の喧騒の描写が素晴らしかった。香港の様子がありありと思い浮かんだ。

    この本に出てくるエリートや密航者、街の飲食店に勤める人々はいまどうしているだろうかと思わずにはいられない。いまどこで過ごし、いまの香港の現状をどんな風に受け止めているんだろう。

  • 香港返還を跨いだ滞在記。
    女性特有のというのかどうかわからないけども感傷的すぎる感じはあるのでところどころ何だこの臭さは…と思いながら読んだ。ただ、ひとつの街に夢中になって先走る感情を抑えきれない感じなら経験があるのでまあまあ共感できる。
    大陸人と香港人ではお互いに違う人種と考えているようだけどどっちも同じぐらい猛々しいと思う。図々しさがなければ大陸でも香港でも生きていけない。「賭博をしない男にいい男はいない」という言葉の説得力は後にも先にもこの読書でだけ自分に響くのだと思う。
    さまざまな背景を持つ人間が状況の変化に対応しながら常にどう立ち振る舞えば生き延びられるかを考え、いつまでも気が休むことはない。カオスの街で誰もが終わりのないサバイバルゲームをやっている。流れに身を任せる生き方でなんとかなる街ではない。終章で著者は苔の生すまで巌となる日本は安全であり苔のつく暇もなく転がり続ける香港は安全ではないと書く。600頁を超えるいくつものエピソードはそれぞれ気ままに書かれたようでもここでタイトルと係ってすべてきっちり収まってしまうあたりなかなか秀逸。それにして現地で就労するわけでもなくこんなにたくさんの人としっかり繋がってしまえる著者はすごい。

  • 香港返還前後に住んだ筆者のフィールドワークである。500ページを超える大著なので、文庫本も厚いと思われる。香港に行く前にこの本を読むと、観光でない香港が味わえるであろう。ガイドブックにもこの本をお勧めで掲載した方がいい。
     フィールドワークでの推薦本やテキストでは紹介されていないのは大著であることと関係するのかもしれないが、沢木耕太郎の一瞬の夏も大著であるがフィールドワークとして詳細している。一瞬の夏というボクシングというスポーツを扱うよりも、この転がる香港の方がフィールドワークとして適していると思われる。

  • 眼の前に香港があるように感じた。あのガヤガヤした感じは今も変わらず残っているんだろうか。

  • あらゆる出来事や物に対する、星野さんの繊細で暖かく、時にハッとさせられる洞察力に感嘆。
    星野さんがその目を通じて見たもの、感じたことが、丁寧に丁寧に書かれています。

    正直、読んでいると香港の街はなんて生きづらく、香港人と接するのはとても苦労するな…なんて思うことはたくさん!笑
    でもそれと同じくらい、魅力に溢れる場所であり、力みなぎる人々なんだと思わせてくれる。それはひとえに、星野さんの力でもあります。

    面白かった!他の作品も読みたい!

  • 香港返還時期に立ち会った生き証人。生々しく生きる人々から学んだ香港の光と陰。著者は「日本はいい国だ」という言葉の意味は、自分たちが無防備でいられることだという。単一のほうが楽だから、楽な方向に向かおうとし、異物を排除しようとする。


    「今我々に必要なのは誇りではなく、多様性だと私は思う」

    今から16年以上前に著者が感じたことだ。そして現在、我々はその時から変わっているのであろうか。世界を震撼させ続けている疫病を理由に再び楽な単一を選ぼうとしているのではないだろうか。 

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著者プロフィール

1966年、戸越銀座生まれ。ノンフィクション作家、写真家。著書に『転がる香港に苔は生えない』(2000年、第32回大宅壮一ノンフィクション賞)、『コンニャク屋漂流記』(2011年、第2回いける本大賞、第63回読売文学賞随筆・紀行賞)、『戸越銀座でつかまえて』(2013年)、『みんな彗星を見ていた』(2015年)、『今日はヒョウ柄を着る日』(2017年)、『旅ごころはリュートに乗って』(2020年)など多数。

「2022年 『世界は五反田から始まった』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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