無敵のハンディキャップ: 障害者がプロレスラーになった日 (文春文庫 き 20-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167628017

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  • 「どうじょうの、はくしゅは、いらないのですね」
    安易な思考停止を排すべく、障害者対健常者のマッチメイクをも試みるプロレス団体「ドッグレッグス」。酒乱、女装癖、ソープランド通い…。情けなくてだらしなくて自分勝手で、けれど愛すべき等身大の障害者群像を描いた第20回講談社ノンフィクション賞受賞作。
    著者は障害者のボランティア活動をしているが、活動を続けるうちにこれまでのボランティア活動に疑問を持ち、自分たちで新たな活動を始めた。試行錯誤のうち辿り着いたのが、プロレスだった。
    障害者同士の試合や、障害者と健常者の試合は息をのむ。身体と身体のぶつかり合いは、ボランティアをする・されるという関係を超えて、障害者と健常者をつなぐものとなった。
    私たちは、障害のある人もない人も「同じ」だと言います。同じでない、という人を非常識だとも思います。
    しかし、著者は、それは「同じと言うことで、障害者について考えることをやめている」ことだと言います。
    ですから、著者は、健常者のそういった「常識」にゆさぶりをかけます。障害者同士が、障害者と健常者がぶつかりあう「障害者プロレス」を企画し運営する著者は、その過程で「障害者と健常者は違う。
    それを表現するために闘い抜き、最後に得た物は、障害者も健常者もないという一瞬だった。」と述べます。
    「障害」とは何だろうか、と考えさせられました。
    皆さんは、ドッグレッグスをご存じだろうか? 従来のボランティアに違和感を感じて、障害者と本音で関わりたいという気持ちで、障害者プロレスを作った若者と障害者レスラーの熱いドラマ。
    この本に出てくる障害者は、「身体は不自由でも心は綺麗で一生懸命生きる人たち」というメディアが作ったイメージとは程遠い人たち。女性のボランティアに優しくされてかんちがいしたり、女性のボランティアを奪いあって喧嘩したり、厳しい現実に嫌気がさして大酒飲んで大暴れしたり、母親から育児放棄されたために基本的な身の回りのことが一人で出来ない、盗癖や偏った食生活の障害者、手持ちのお金を菓子パンに浪費する障害者など、そんな障害者がドッグレッグスの中で、居場所や生き甲斐を見つけたり、「自分は健常者と変わらない」と思っていても仕事でミスを連発したり、過保護な親の愛に甘えてしまい大人になりきれなかったり、テレビでは分からない障害者の赤裸々な人生が満載です。
    酒と女と金のトラブルにまみれた浪貝や仕事と親との関係が上手くいかない矢野慎太郎や女装癖のある大賀や母親に捨てられ知的障害者の規定ぎりぎりのために社会の荒波に揉まれる菓子パン好きの菓子パンマンという渾名の障害者など個性的な障害者とドッグレッグス代表の北島たちの、波乱万丈のドラマ。
    この本を読んで、本当の福祉の有り様を考えてください。

  • 人が人として真剣に生きること!
    自分が自分に正直に生きること!

    読み進めているときに
    じゃあ あなた(自分)は どうなんだ
    と 何度も 問い返される

    各章の頭に挿入されている「写真」を
    途中何度も振り返ってしまいました

    いゃあ ガツンと来る
    素適なノンフィクションの一冊です

  •  障害者の美談なんてうんざりだ、と思ったら本書を手に取ってほしい。かくいう私がそうだったのであり、以下に書くのも、書評ではなく私の読書体験の過程をそのまま書いたものである。

     美談にうんざりしている方のなかには、「障害者を見せ物にすること」に抵抗を覚えるという方が多いと思う。ところが本書で描かれる人びとは、障害者が自ら「見せ物」となってプロレスをする。けしからん。まずはそんな不満を抱えながら読んでみてほしい。

     読み進めると、彼らをあえて「見せ物」にしようとした筆者の思いや、自ら進んでリングに上がる障害者の姿は、それまでの「見せ物」とはまったく異なることが分かってくる。障害者プロレスを見た人は、見てはいけないものを見てしまったという拒絶感と同時に、障害者の彼らが爆発させるエネルギーに興奮を覚え、打ちのめされる。

     それまで健常者の世界(ここにはボランティアも含まれるのだ!)から一方的に「清く正しく、懸命に生きる障害者」として語られてきた障害者が、自らプロレスという表現手段を手にしたとき、彼らはそのエネルギーを爆発させる。そこには、障害者と健常者のあいだにある、どうしようもない社会的な壁に対する恨みが込められている。それに気がついてしまった健常者は、障害者プロレスに「後味の悪い面白さ」を覚えるのだ。

     もちろんそれに気がつかない人もいる。そういう人は、障害者が闘う姿を見ても「障害者でも頑張れば出来るんだ」というありきたりなメッセージを読み取ることしかできない。けれど、障害者の美談なんてうんざりだ、と思うことのできる人ならば、本書を読んで膝を打つと思う。これこそが、わたしの知りたかった清濁併せ持つ障害者の姿だ、と。

  • お、おもい…。
    軽く書いてあるが、重い。

  • これを読んで希望を持った。自分の狭い価値観の中でしか幸せか不幸か決められないでいた。幸せかどうかなんて結局相対的なものにすぎなかったのだ。歩けることを夢見続けている人もいる。ただ自由に話せることを夢見ている人もいる。私は?私は何を夢見ているんだ?その可能性の中で何を生かせているんだろう?この人たちと一緒に生きたいと思った。居場所がほしい。ただそれだけだと思う。心の居場所が。そして、誰かを助けることじゃなく、一緒に生きたいと思った。彼らに学ぶところはきっとたくさんある。中島らもさん推薦の本。

  • 第20回講談社ノンフィクション賞。
    障害者によるプロレスの興行を行なう「ドッグレッグス」についてのノンフィクション。
    従来の障害者ボランティア団体の存在意義に疑問を抱いた作者は、障害者プロレスを主催する。中心レスラー、慎太郎と浪貝をはじめ、個性豊かな障害者レスラーが登場。プロレス興行を通して、障害者の結婚や就職などについて、障害者自身が考え行動する様を描いている。

  • 「障害者がプロレス」。普通ではちょっと考えにくい、この組み合わせ。
    しかも「障害者VS障害者」だけでなく、「障害者VS健常者」のマッチ(しかも本気でやりあってる)までしてしまう、過激なプロレス団体「ドッグレッグス」の創設者、北島行徳が書いたノンフィクション。

    一歩間違えればかなりアブナイ(安全上という意味でも)、この企画を実現させてしまったその勇気にまず感心した。

    鼻つまみ者、酒乱、女装マニア等々、様々な障害者達が自己表現の場としてプロレス興業を行う。そ
    の姿の滑稽さ、グロテスクさ、哀しさ、そしてなんといってもひたむきさが読者の心をとらえる。

    世間一般が障害者に接する態度に疑問を感じ、彼らに対して正直にそして不器用に向き合う北島氏。ドッグレッグスに関わることによって自らのトラウマが少しづつ癒されていく姿にも感動してしまった。

    楽しく読めて、何か考えさせてくれる、心に残る良い本だと思う。

  •  副題は“障害者が「プロレスラー」になった日”。表紙に掲載されている写真を見るとわかるが本物である。正真正銘の障害者の面々だ。小ぶりの写真に何とも言えぬ笑顔の数々が眩しい。

     <a href="http://d.hatena.ne.jp/sessendo/19991001/p1" target="_blank">http://d.hatena.ne.jp/sessendo/19991001/p1</a>

  • この作品は「Don't think ! just feel ! 」です!健常だとか障害だとか、そんな言葉の意味が、ど〜でもよくなる一品!バリアフリーって何だ?自分に何が出来る?とか難しく考えている暇すら与えてくれない!まさに「無敵」!

  • 古い本なので、図書館で借りて読みました。
    とても読みやすく、時代は30年くらい経ってるけど、健常者と障害者の関係を考えるのには何ら色あせてることはなく、昔よりは今の方が少しオープンになったかな…と思うくらいかな。生きやすさが増しているとこと、本質は変わらないとことあるのだと思う。映像で見てみたい。

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著者プロフィール

1965年、東京生まれ。91年、障害者のプロレス団体「ドッグレッグス」を旗揚げし、代表に就任。毎日新聞社学生新聞部「毎日中学生新聞」の契約記者を4年間務め、97年2月よりフリーランスになる。98年、処女作『無敵のハンディキャップ』で講談社ノンフィクション賞を受賞。小説、ノンフィクション、漫画原作と幅広く活動する中、ゲームシナリオも手がける。主な著書にノンフィクションの『ラブ&フリーク』『弾むリング』、小説の『バケツ』『サークル』、漫画原作に『ハマトラ THE COMIC』など。

「2018年 『無敵のハンディキャップ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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