- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167556068
作品紹介・あらすじ
毎朝新聞政治部記者、弓成亮太。政治家・官僚に食い込む力は天下一品、自他共に認める特ダネ記者だ。昭和46年春、大詰めを迎えた沖縄返還交渉の取材中、弓成はある密約が結ばれようとしていることに気づいた。熾烈のスクープ合戦の中、確証を求める弓成に、蠱惑的な女性の影が…。戦後史を問いつづける著者・渾身の巨篇。
感想・レビュー・書評
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「西山事件」をもとに書かれた作品です。山崎さんの作品はどれを手にとっても非常に勉強になります。日本のこと、日本人のことを知らなさ過ぎる自分には刺激的なものばかりです。この「運命の人」もそんな感じを受けました。
新聞記者の主人公が公文書、とくに極秘文書を手に入れながら記事を書き、世の中に伝えていく・・・ペンと紙を武器とする人たちの強さが伝わってきました。一方で今も昔も変わらない国民へ明らかにしないお金の使い方や取引など、政治家の裏側にイライラする気持ちが起こりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
やっと山崎豊子の(おそらく最後の)長編小説を読み始めた。「不毛地帯」からずっと読んできた読者としていつも思うのは、山崎豊子の長編は小説という名の告発小説だということだ。
「この作品は、事実を取材し、小説的に構築したフィクションである」
この一文がわざわざ巻頭に載ることの意味は大きい。固有名詞だけを替えて限りなく事実に近い世界を描いているのが山崎豊子の長編である。しかも、その取材は徹底していて、おそらく事実無根の話はないだろうと私は見ている。その証拠に、明らかに個人・団体が特定できる問題山積みの歴史的事実が満載なのにも係わらず、今まで一回も訴えられていないことから、それは明らかだ。
今回は、沖縄機密漏えい事件にまつわる、所謂西山記者の裁判をテーマに扱う。
今まで、商社の政治癒着、日本人二世問題、中国残留孤児問題、日航問題、等々日本の政治の「周辺」を扱ってきたが、今回はほとんどその本丸、国会周辺を記者の目を通して描いている。
今回の主人公は、毎朝新聞の弓成。日米機密を暴いた記者を裁判にかけて不倫問題に貶めて潰したのであるが、正義の人物というふうには描いていなくて、小平(大平のこと)番の特ダネ記者として、特ダネのためなら何でもするような人物として描写している。実際そうだったのだろう。たとえば、こういう描写がある。
政治家は、新聞記事の書かれ方一つで、生かされも殺されもするから、保険の意味で、盆、暮に、番記者はもとより各社編集局長に30万、政治部長に10万、有能な若手には銀座の一流テーラーのお仕立て券つきワイシャツといった通り相場の挨拶が届く。それ以外に昇進祝、海外出張の折の餞別にも気が配られる。むろんそれを受け取るか、返送するかは、各社各人の判断で、毅然としてはねつける記者たちも多い。
弓成の自宅に届いた"越前もなか"は、30万円が菓子折りに添えられていた。時節柄明らかにポスト佐橋を見据えた実弾攻撃で、"二角小福"戦では、お手柔らかにとも、田淵・小平連合ができた際には宜しくともとれる。弓成はバナナ王である北九州の父に、輸入ものであるパパイヤを空輸してもらい、その中に"越前もなか"を添えて、目黒の田淵邸へスマートに返したのだ。
田淵は言うまでもなく田中角栄だろう。いやに具体的なので、おそらくこれと同じことがあったに違いない。噂には聞いていたが、政治家のマスコミへの金の使いようは、昭和46年当時でこれなので、ものすごいものがある。しかし、たぶん大げさではないだろう。国会機密費というものがあって、これと同じことが行われていたということがつい最近明らかになったばかりだ。こういうことが堂々と行われていたということは、受け取る記者や編集局長そしてテレビ関係者が少なからずいたし、今も居るということだ。今ならば、10万が20万、30万が50万円だろうか。いや、五万円であれにせよ、我々庶民の「常識」とはかけ離れている。こういう人たちが、マスコミと称して現在も、橋下フィーバーを作り上げたり、原発批判を3-5ヶ月も遅らせたり、しなかったりしているのだ。ああ、書けば書くほど頭にくるので、これについてはもう書かない。
この物語の中心的な「事実」、沖縄機密については、一巻目であっさりその真相が書かれる。沖縄返還名協定の際に、沖縄の土地などの復原補償費は米側の支払いとなっているが、事実は日本側の肩代わりのだという「密約」なのである。このとこについては、二巻目でも問題になるだろうし、私もいろいろと書きたいことがあるのであとに譲る。 -
後藤田正晴氏を尊敬していて、西山事件をその縁で知り、興味を持って読んでみた。なので、登場人物の中では十時推しです。
描かれた時代は自分が生まれるよりもさらに昔のことで、当時の雰囲気は分からないが、同じ日本であるのに沖縄に対して多くの人がどこか他人事だったんじゃないか。だから知る権利が男女の痴情のもつれに矮小化された時に世間の見方の潮目が変わってしまったんじゃないかと感じた。
時代が変わっても大衆の本質はそれほど変わらないのかもしれず、自戒を込めつつ読んだ。
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< 筆> ひょんなことから手に入れた本書。文庫版で全4巻。もしかしたら昔読んだ事があるかも知れないけど・・・とか思いながら読み始める。 僕の中で山崎豊子と云えば どうしたって20年ほど前に読んだ『沈まぬ太陽』であろう。不惑の四十代を迎えたその頃 今後の主なる趣味は読書,と定めつつあった僕は,浅田の次郎キチ親分,そして椎名誠兄ぃ や 夢枕の獏さん,加えて北方謙三大御所,大沢在昌兄貴と どんどん贔屓作家を増やして行った。
その中で崎豊子はいわば別格で贔屓筋にはならないかもしれないけれど外せない作家さん という位置付けだったと思い出す。 先日僕の大好きな沖縄の詩人 山之口貘さんの人と柄を紹介する小説作品 『南風に乗る』著:柳広司で,沖縄返還時のエピソードの数々を読んだ僕にとってこの『運命の人』はかなり取っ付きやすい作品だった。もちろんその本と本書は人物の立ち位置と視点が全く違っていて共通点はほんの少しの部分だが。本書の主題は沖縄返還自体とは違った部分にあって,それはこの先まだあと3巻続く。いやはや やはり読書は面白い趣味だ。 -
昭和46年、大詰めを迎えた沖縄返還交渉。
毎朝新聞政治部・弓成亮太はある密約があることに気づく…
熾烈なスクープ合戦が繰り広げられるなか、外務省の機密文書を手に入れた弓成はある一手を打つ…
弓成はどうなるのか… -
初めて読む、山崎豊子さんの作品。
文体に良い意味で女性らしさがなく、作品の内容に合っています。
沖縄返還協定を巡る政治家の交渉、それに纏わる疑惑を追う新聞記者・弓成を主人公に現代に通じる政治の裏側、巧みながらも誉められるべきではない政治家の手法が描かれています。
1巻は、外務省から漏れた機密文書の存在が明るみに出たところで終了。
続きが楽しみです。 -
(一巻から四巻まで合わせたレビューです。)
大好きな山崎さんの(もしかすると最後になるかもしれない)長編小説。
沖縄返還時の機密文書漏洩事件(西山事件)をテーマに、
相変わらずの取材力&構成力で読者をぐいぐい引っ張っていきます。
この分野は完全に無知でしたが、小説を通じて、
昔の自民党の政治のやり方を目にすることができました。
主人公の機密文書を入手した手段は、
倫理的によい方法だとは言えませんが、
それ以上に、臭いものに蓋をする昔の自民党の政治家や官僚にも、
沖縄の人たちだけでなく、日本人全員が
もっと憤りを感じるべきなんでしょう。
現在も普天間基地移設問題で民主党が揺れていますが、
少しばかり当事者意識を持って
この問題を受け止めれるようになった気がします。
山崎さん、もう一冊書いて欲しいなぁ。。 -
読みごたえは抜群
戦後の自民党の歴史を勉強できる
(本のテーマとは違うが)
どちらかというと わたしはマスコミより政治家のほうが好きで、
マスコミの狂気じみたスクープ合戦やデリカシーの無さ、神経の図太さには嫌悪感しかない
情報過多の現代を生きているからか、スピードより正確性を重視してほしいとか、つい筋違いな思いにとらわれたりした
若き弓成のプロポーズには、不覚にもドキッとした
由里子さんもとんでもない男に目をつけられたもんだ
それにしてもなんの責任もない三流野党に極秘電信を渡すなんて信じられない
この売名議員の軽率さも頭にくるが、あまりにも弓成が浅薄すぎて開いた口が塞がらない -
力を持った期待と憤懣が空高く飛び上がり、急襲する。
(以下抜粋)
○日々、国政を国民に伝達するーー、それは新聞社にしか出来ない事であり、それ故に新聞記者は常に勉強し、政治家、官僚と対等にわたり合える優秀な人材であらねばならないというのが、弓成の信条であった。(P.19)